2025年04月13日20時58分掲載  無料記事
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核・原子力

「特定重大事故等対処施設」ができない(上) 柏崎刈羽原発、東電の甘すぎる工程管理で再稼働ストップの現実  山崎久隆

柏崎刈羽原発の再稼働をめぐり、新たな問題が浮上した。「特定重大事故等対処施設」(以下、「特重」)の建設に関して、次のような経緯と現状が確認できる。 
 
【1】経緯と現状 
 
 
(1)「特重」工事完了時期の延期 
 
 東電は柏崎刈羽原発7号機の「特重」工事完了を2025年3月と設定していたが、この期限までに工事を完了できない見込みであることを明らかにした。 
 具体的には、7号機の工事完了時期を2029年8月、6号機を2031年9月としている。 
 
(2)地元「柏崎市長の見解」とする文章の公表 
 
 柏崎市の櫻井雅浩市長は「特重」の工事完了時期の延期について、「資機材や人材の問題は理由にならない」と述べ、東電に対し他の電力会社よりも工事に時間がかかっている理由の説明を求めている。 
 
(3)東電の対応 
 
 東電は、「特重」に関する設計および工事計画の認可申請やその補正を、2023年から2024年にかけて原子力規制委員会(規制委)に提出し許可を得てきた。 
 これらの申請は、「特重」の建設に際して建屋や設備について分割して小出しに許可申請をしてきたもので、一部構築物の構造変更に伴う。この審査は引き続き続いていくものと考えられる。 
 
(4)原子力規制委の対応 
 
 規制委は「特重」の建設遅れについて把握はしているものの理由等を東電に問い合わせてはいないという。 
 出来ないならば規定通り運転停止を求めるだけとしているが、原発の安全上重要な施設の建設が出来ない事態に対し、原発を運転する資格があるのか、監督官庁としてあまりに無責任ではないかとの批判も出ている。 
 
(5)「特重」の概要 
 
 「故意による大型航空機の衝突その他」の「テロ攻撃」を含む過酷事故の際に、施設設備が大規模に損傷して使用不能になった際、原子炉格納容器の破損を防止することを目的として設置される。 
 原子炉圧力容器の減圧や注水、原子炉格納容器の減圧や冷却機能等を備え、原子炉から100m以上離して建設する。 
 法令上、工事認可から5年以内に作ることを義務づけており、期限を過ぎると原発の運転ができない。 
 
(6)「特重」の設置猶予期限の根拠 
 
 「5年」の猶予期間の根拠は、過去に何度も国会や記者会見の場で質されてきたが、納得できる回答はない。 
 今回も規制委の会見の場で質問されたが、中山伸介委員長は「特重」について「バックアップ施設でございまして、この施設ができるかできないかでリスクが大幅に何か変わるようなものではございません」などと回答している。 
 
(7)「特重」完工見通し延期の原因に関する規制側の見解 
 
 「特重」の完工遅れについて、原子力規制庁柏崎刈羽原子力規制事務所の伊藤信哉所長は3月25日の定例記者会見で、「私見」とした上で、同原発のテロ対策不備を踏まえた追加検査が影響したとの見方を示した。「作業員やお金が追加検査で取られた分、影響が出たのかなとは思っている」と述べた。(新潟日報3月26日)つまり「身から出た錆」というわけだ。 
 
【2】「特重」の目的と設置期限のアンマッチ 
 
 「特重」とは、何を目的に作られることになったのか。 
 国は東電福島第一原発事故の反省として、原子炉冷却を維持し炉心溶融を起こさない対策を強化することにしたが、それでも否定できないリスクが残ることから、既存の設備に追加して自立的に格納容器を冷却する能力を持たせることにした。 
 これを「テロ対策」と銘打って整備することにしたが、既存の原発に後から付け加えるため、莫大な費用と時間がかかる。事業者や原子力産業側から猛烈な反発を受け、その設置期限について緩和策をもうけた。 
 
 しかし猶予5年の根拠を説明することは難しい。 
 つまり原発が動いているのに法律で定めた設備がなくても良いというのは、いくらなんでも不当である。 
 なお、テロにより「大規模な損壊で広範囲に設備が使えない事態を想定」というが、このような事態は何もテロに限った話しではない。 
 福島第一原発事故はまさしくそのような状況であったし、地震や津波または火山の被害は同様の事態を招くことは容易に想像が付く。 
 「特重」は、その際も過酷事故を回避または緩和することが期待されるはずである。 
(下)に続く 
 
たんぽぽ舎共同代表 
 (初出:2025.4.11たんぽぽ舎「金曜ビラ」505号) 


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