2025年04月15日11時59分掲載  無料記事
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アジア

ミャンマー特殊詐欺拠点(2)大地震でも揺るがず中国人が新たな建設 宇崎真

 ミャンマー大地震が発生し、そしてトランプ関税が連日のニュースの中心となり、ミャンマー特殊詐欺の報道は深層が解明されないまま早くも忘れ去られようとしている。実は筆者はその地震が起きたときタイ・ミャンマー国境の街メソットにいた。メソットに潜むように暮らしているミャンマーの民主活動家にインタビューしている最中であった。 
 地面が揺れたかなと感じた瞬間その人物が抱きついてきた、そして「大丈夫、大丈夫ですよね」と、それはうわごとのような口調だった。驚愕しながらも年配者を庇おうとする咄嗟の行為でもあった。それからものの数分で周りはバンコクの高層ビル崩壊の映像をみた悲鳴の連鎖が続いた。バンコクより三百キロ以上震源に近いメソットは地層に岩盤が横たわり揺れは少なかったのだ。 
 だが予定していた取材予定は全てキャンセルとなり、バンコクに引き返すことにした。そのため中間レポートとしてミャンマー特殊詐欺拠点について西側メディア、特に日本のメディアの盲点を中心に書いてみる。 
 
▽「救出」日本人の多くは詐欺加担者 
 地震発生直後に詐欺拠点で働くミャンマー人に連絡をとった。その地における中国人ならびにミャンマー人の方が断然特殊詐欺のシステムと実態についてより具体的に知っている可能性が高かったからである。何故なら一般的に中国、ミャンマー両国の下部作業員(かけ子や勧誘員、施設警備員など)は終日監禁はされておらず比較的自由に拠点と周辺を移動して情報交換もできる環境にいるからである。 
 一方日本のメディアが注目し報道したのは「騙して連れ込まれ、武装兵や警備員の監視の下強制労働に就かされ、反抗したり成績の上がらないときは殴打、電気ショックの拷問がおこなわれた」という外国人の証言である。その多くは中国とタイ両政府、ミャンマー国軍の「圧力」で国軍と関係の深いカレン族仏教徒組織の一部BGF (国境警備隊)がおこなった「救出作戦」でタイ側に送り返された被害者である。 
 その「救出者数」は7千名とも言われるが、それは数地域に展開していた特殊詐欺拠点の全作業員の数パーセントでしかない。(国連機関による推定数は10万を超える)。またかれらは特殊詐欺システムの一端としての役割を負わされていたのであり、全体像を知る由もない。また救出後も詐欺犯罪に加担してきたとの認識があるために、「加害者」としての体験は多くを語らず「地獄のような生活」「強制労働」「拷問、懲罰」という「被害者」としての体験を語りそれをメディアは大々的に伝える経過をたどった。 
 結果として客観的には「救出作戦」の「正当性」と「成果」を報じることに終わった。日本人の関与は「見込み報道」よりずっと少なく、しかも「被害者」というよりもみずから詐欺行為に加担する「自覚犯」が大部分を占め、従って存在が公にされることを避け、拒んだケースが続いた。 
 
▽中国の「一帯一路」政策に連動 
「二十人以上」「三十人」の日本人の存在がある、と伝聞情報をそのまま伝えてきた日本のテレビ局の報道はあまりに日本人の関与だけに偏り、その実証が深まらず結局は竜頭蛇尾に終わりつつある。だがはっきりしてきた事実はそれらの日本人の大部分は程度の差こそあれ犯罪行為に加担することを認識していた、あるいは国内で既に犯罪歴があり海外逃亡を図った人物ということである。その点では、カンボジア、フィリピン、タイ等での日本人グループのコールセンター犯罪が新たな拠点をミャンマーに移したに過ぎないという見方も成り立つかもしれない。 
 だがそうだとすれば「何故ミャンマーなのか」は解明されず、日本人関与がはっきりしなければ取材意欲もなくなるいつものパターンを繰り返すことにならざるを得ない。筆者がみるところ上記のコールセンター犯罪基地とミャンマー特殊詐欺拠点とは決定的相違点がある。 
(1)まず桁違いの規模である。ミャンマーの拠点は秘密裏のコールセンターではなく市街地構造をもつ都市開発プロジェクトであった。それを可能にした条件はどこにあったのか、中国の「一帯一路」政策との関係を含めて解明する必要があるだろう。 
(2)日本の犯罪グループの関与の経過はどのようなものだったのか。東南アジア各国、とりわけフィリピンと違い、ミャンマーのケースは重層的中国の企業、犯罪組織が圧倒的支配力をもち日本の犯罪グループはその配下の雇用された部門でしかない。分析していけば興味深い事実が浮かび上がってくるにちがいない。 
(3)ミャンマー国軍のクーデターが引き起こした社会混乱、破壊とどう関係しているのかを見なければこの巨大な詐欺拠点の本質は解明できず表面的な「救出された被害者」 
に関する一過的な事件ニュースに終わってしまうだろう。 
 
 以上の三点に集約される問題意識をもって筆者はこれまでに三回取材に出かけ今後も続ける積りである。まず現状はどうなっているのか、「救出作戦」「拠点壊滅作戦」の実効はどれだけあったのかを現地関係者の証言を聞いてみた。 
「シュエコッコ(最大級の詐欺拠点)にはいまなお1万人のミャンマー人が働いている」 
「なるべく目立たないようにしろとの命令が出ている」 
「中国人の幹部たちは殆ど留まっていて新しい建設も行われている」 
「特に地下室建設が進んでいる」「表向きは繊維工場や製靴工場の外装が施されている」 
「ミャンマー人の作業員の一部はラオス、カンボジアに移っていった」 
「ミャンマー正月(ティンジャン 今年は4/13〜21)明けには大地震の被災者含めて大量の同胞がこの詐欺拠点に仕事求めてやってくるに違いない」 
 これがいまも継続する特殊詐欺拠点の現実の姿なのである。 
                        つづく 


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