米英軍側の戦死者は比較的少なかったし、たったの3週間で勝ってしまった。今ではイラクの人々が街路にくり出して、大喜びで踊っている。だから言わんこっちゃなかっただろう、平和ダイスキ族の諸君、君たちの負けだね。
ところで、戦争イケイケ族の諸君、「勝てば官軍!」それみたことかと喜んでいるんだろう?でも、ほんとうに戦争に勝ったのかな?
ほら先日、サダムが食べているって情報が入ったからって、米軍の戦闘機がそのレストランに「賢い爆弾」をバカスカぶち込んだだろう。でもあの爆弾、そんなに賢くはなかったようで、レストランには当たらないで近所の家々に着弾した。結局、家の中にいた一般市民ともども、こっぱみじんに爆破したそうだ。
その後、米国防省の報道官、トリー・クラーク女史は何て発表したか知ってるかい?彼女はこぎみよく、「あんなのたいしたことではありません。私はあんなの気にしないで、夜もぐっすり良く眠れます」って言ったんだ。
なんて残酷で軽薄な言葉なんだろう。もしイラク人の誰かさんのお母さんや兄弟や娘さんたちがあの誤爆で死んでいたら、「ああ、あんなのたいしたことじゃあないよ。サダムを殺そうとしたんだもん、それくらいの間違いは喜んで受け入れるよ」って言うと思うかい?
あまりにも旧式の銃を手に、歯が立たないのは分かっていたのに立ち向かって、皆殺しにあったイラク兵がたくさんいた。米兵はそれを、「七面鳥撃ちゲーム」だと言って、ひんしゅくをかったよね。
でも、殺された兵士たちの家族が感じる怒りや憎しみは、察するにあまりあるものだ。中にはアルカイダに入って米英人にリベンジを!なんて決心する人たちがいても不思議はない。
この戦争が始まったころ、どう進むのがベストなのかなって、こう考えてみた。
(a)あっというまに米英軍が勝って、犠牲者が数人ですむ。 でもこの場合、米タカ派たちは調子にのって、他のアラブの国々に攻め込む可能性も大。
(b)長い泥沼のような戦いが続いて、米英国民も耐えられなくて、先制攻撃なんて割に合わないとブッシュ政権が気づく。 でもこの場合、未曾有の兵士や市民が死ぬ。
..それで、結果はというと、(a)でもない(b)でもない、その中間でこの戦争が終わったということ。これを「大勝利」と呼ぶ人もいるし、「恥ずべき虐殺」をしたと思う人もいる。
バグダッドが陥落した今、ジャック・ストロー外相がお経のように繰り返し言っていた言葉を思い出すよ。「原爆・生物化学兵器」「原爆・生物化学兵器」・・だからイラクに攻めこむんだってね。
どこにあるんだろう、そんな物騒なもの?今となっては、「サダムは生物化学兵器をシリアに隠してる」って政府は言っている。それでシリアに攻め入って生物化学兵器が見つからなかったら、今度は「イランに搬送したらしいからイランもやっつけよう!」とでも言うのかなあ?
ブレア首相は、「この戦争の善し悪しは歴史が裁くだろう」と言っていたけど、学校の教科書に載るころまでボクは生きてはいないかも?それなら、今ここで判断を下した方がいいよね。
(1)戦争が始まるずいぶん前、国会で「イラクについてどう思うか?」という質問を受けたブレア首相は、満足げに、「サダムは檻の中に閉じこめているから大丈夫だ」と答えた。その当時首相は、檻の中の獣を撃ち殺そうなんてちっとも思っていなかったんだ。
(2)戦争が始まる直前、ブレア首相は、「イラク侵攻を容認する第二の安保理決議が得られない限りには、イギリスは絶対に戦争に参加しない」と繰り返し約束していたのを覚えているかな?
(3)何百万人が平和デモにくり出したにもかかわらず、結局、ブレア首相は国民との約束を破ってブッシュに従順なプードル犬に成り下がってしまった。ブッシュには石油とか戦後復興の利権とかの下心があるって見え見えだったのにね。
さあ、平和ダイスキ族の諸君、戦争が終わって平和がやってくるので、幸せだろう? えっ、そうでもないって? どんなに正当化されようと、この戦争はこれっぽっちの価値もない犯罪だって?
でも、少なくとも、サダムの圧政が終わったことには、諸君も喜んでいるだろう。あんなに戦争に反対していたのに、その結果にプラスの部分があるなんて、ちょっと矛盾しているけどね。
さあ、そこで戦争イケイケ族だった諸君、そんな君たちに質問がある。あのものすごい爆撃や血まみれの子供たちの映像がアルジャラーラを通してアラブ中に放映された後、イギリスやアメリカがテロから安全になったと、諸君は心の底から信じられるのかな?
もしそう信じているのなら、ブレア首相が真顔でこう言ったのを思い出すといいよ。「いったんサダムを排除したなら、次は北朝鮮をなんとかしなくてはならない」
独裁者に苦しんでいる人々を解放するために、平壌を攻撃しよう・・さあ、戦争イケイケ族の諸君、また興奮してきただろう。(イギリス・ガーディアン紙4月11日号/抄訳・パンタ笛吹)
*ジュリアン・バーンズ(男性) 1946年レスター生まれ。英国の作家。オックスフォード大卒。OEDの編集者を経て、作家となる。代表作が『フロベールの鸚鵡』『101/2章で書かれた世界の歴史 』『ここだけの話』など。サマセットモーム賞、フェミナ賞など数々の文学賞受賞。
オリジナル英文
http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,2763,934346,00.html
|