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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2004年06月01日15時17分掲載
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直原涼子:ラテン世界への穴(4)スペイン映画『カルメン』と『carmen. カルメン』
その魅力によって男性を狂わす、魔性の女性の象徴として印象深い名「カルメン」。フランス文学者プロスペル・メリメの小説『カルメン』を、ジョルジュ・ビゼーらがオペラ化したことによって、広く世に知られた不朽の名作である。メリメが、スペイン旅行中に耳にした、実際に起きた事件をもとに、小説『カルメン』を執筆し、1845年に発表する。その後、アンリ・メイヤックとルドヴィク・アレヴィ両台本作家が手を加え、ビゼーが音楽を付けたのが、かの有名なオペラ『カルメン』となり、1875年パリにて初演を迎えた。
その『カルメン』の簡略なストーリーは以下である。1830年ごろのスペインの南部アンダルシアを旅していたフランス人考古学者は、山賊ホセと知り合いになる。偶然が重なり、三度目の再会で、死刑を待つホセから、考古学者は懺悔話を聞くことになる。それはかつて純粋な軍人であった青年ホセが、タバコ工場で働く情熱的な女性カルメンに心を奪われたことから、人を殺め、山賊となり、人生を大きく変えることを余儀なくされた彼の人生の顛末であった。そして、恋の嫉妬に駆られたホセは、自由奔放に生きるカルメンを、自らの手で殺めることで手に入れ、またカルメンは死をもって自由を得るという悲しい結末がそこにはあった。
スペインを舞台にした19世紀の名作『カルメン』は、その後、アメリカやフランスで何度も映画化された作品であるが、スペイン人の手によって映画化された作品が二つ挙げられる。ひとつは、映画『タンゴ』や『サロメ』で有名なカルロス・サウラ監督の1983年の作品である。サウラ監督は、フラメンコなどの舞踊を題材とした映画を撮ることで有名な監督であるが、そのサウラ監督の映画『カルメン』では、オペラ『カルメン』の舞台化を試みるフラメンコ舞踊家達のその舞台と現実を、オペラ『カルメン』のストーリーと織り交ぜて構成するといった、趣向をこらした作品である。もうひとつの作品は、スペインのアカデミー賞ことゴヤ賞で、2004年衣装デザイン賞を受賞したビゼンテ・アランダ監督の作品『carmen. カルメン』(2003年)である。メリメの原作に沿って忠実に描いたこの作品は、従来の「男を狂わす女」というだけの表面的な解釈でカルメンを捉えるのではなく、自分の意志を貫き自由を求めた真っ当な女性として描くことを試みている。
小気味好いカスタネットのリズムが印象的な『carmen. カルメン』は、19世紀のスペインをスクリーンいっぱいに再現することに成功した。アンダルシアで行ったロケによって、スペインの数々の歴史的建造物を、惜しみないほど舞台として使用している。カルメンが女工として働いていたタバコ工場は、当時国営タバコ工場であった現セビーリャ大学を使用。カルメンとプロスペルが出会うのは、世界遺産であるコルドバのメスキータ。その二人が腕を組んで渡るコルドバのローマ橋。カルメンが闘牛観戦に熱中する闘牛場。そしてホセがカルメンを殺めることとなるシーンで使用されたセビーリャの教会。当時の舞台の再現とスペインの長い歴史が画面全体に迫る。が、この作品が、昔から語り継がれている伝説の単なる映画化にとどまらず、アランダ監督のカルメンが、現代の女性の心を掴んで離さないのはなぜであろうか。それは、このカルメンの生き様が、現代の女性に非常に共感できるものとして描かれているからに他ならない。自由を愛し、自分の意志で自分の人生を決めていくカルメンの生き方は、19世紀スペインにおいて、「悪魔の手先」と称されても仕方がないものであったのかもしれない。が、服従を拒み、自分の意志を尊重する現代の女性にとって、カルメンの生き方は当然のものなのである。「悪魔の手先」と彼女を呼ぶのは、マチズモを強いたその時代であったこと他ならない。そのためアランダ監督は、単なる「男を狂わす女」という表面的なカルメン像から、自由を愛し、意志をもって生きた真っ当な女性カルメンとして表現することに挑んだのは当然であったといえる。
このカルメン役を見事射止めたのが、今やスペインを代表する女優パス・ヴェガである。セビーリャ生まれの彼女にとって、カルメンはうってつけの役柄であったといえよう。『ルシアとセックス』(2001年)では、存在感溢れる演技で、観客を魅了し、ゴヤ賞新人女優賞を受賞した。スペイン映画界を代表するペドロ・アルモドバル監督の『トーク・トゥ・ハー』では、劇中の無声映画のヒロイン役も演じている。また、フランス映画『NOVE/ノボ』にも出演するなど、精力的に活動しているスペインの人気女優である。彼女の美貌と官能性、黒い瞳と力強い眼差し、豊かで激しい感情表現は、カルメンに最もふさわしい若手女優であること間違いない。一方ホセ役を演じたレオナルド・スバラグリアは、母国アルゼンチンでは言うまでもなく、スペインでも活躍し人気を博している実力俳優である。『10億分の1の男』(2001年)ではゴヤ賞新人男優賞も受賞している。現在スペインで最も勢いのある役者ふたりを主役に揃えることで、『carmen. カルメン』は、荘厳な時代物の映画としてだけでなく、旬な映画として世界に迎え入れられたようだ。
もうひとつのスペイン映画『カルメン』は、フラメンコを題材とした映画である。とあるフラメンコ舞踊団が、次の公演として選んだのが、オペラ『カルメン』をフラメンコの世界で表現するというものだ。団長アントニオは、とあるスタジオ練習生カルメンを、主役カルメンの踊り手として抜擢する。舞台『カルメン』の練習が進むに連れて、次第にアントニオはカルメンに惹かれていく。オペラ『カルメン』のストーリーと同様に、アントニオは恋と嫉妬に苦しめられ、一方カルメンは束縛を嫌い、自由に生活することを望む。激しく情熱的なフラメンコ舞踊『カルメン』と、舞踊家たちの日常が交差し、そして舞台の虚である舞踊演技と、舞踊家たちの日常の現実の境界が次第に曖昧になり、一体化していくことで、映画『カルメン』は完成する。原作の『カルメン』が、単なる小説やオペラの世界にとどまらず、実際に生きている男女の間にこそ見られる、非常に日常的な感情であり出来事であることに、観客は改めて気づかされる映画である。原作『カルメン』が、19世紀にヨーロッパ世界の彼方で起きた歴史上極めて稀な事件にすぎないのではなく、どの男女関係や人間関係をとっても存在しうるものなのであるということを、私たちは再確認させられる、そんな映画だ。
“舞台”と“現実”という「虚」と「実」を織り交ぜる斬新な構成である映画『カルメン』は、そのカルロス・サウラ監督の発想のすばらしさに加えて、出演者も非常に豪華だ。スペイン・フラメンコ舞踊界で天才と称されたアントニオ・ガデスを主演に迎え、スペイン最高のギタリスト、パコ・デ・ルシアの演奏を交え、幾度となく来日し日本人観客をフラメンコの世界へと魅了したクリスティーナ・オヨスも出演している。スタッフが優れているのみならず、キャストも世界的に一流の人材を揃え、迫力溢れる音楽と舞踊を提供してくれる、二重にも三重にも観客を楽しませてくれる映画となっている。
片や原作の小説を忠実に描いたアランダ監督の『carmen. カルメン』があり、片や原作をモチーフとして捉えたサウラ監督の『カルメン』がある。前者は19世紀初頭を舞台としつつも、現代を生きる人たちの価値観をそこに投影させ、観る者の共感を誘う。一方後者は、実際映画が製作された1980年代すなわち現代に焦点を置くことで、19世紀の事件を小説化した『カルメン』の中の人間の持つ普遍性を露わにし、観客を魅了する。視点を異にする二つの映画であるが、名作といわれる物語がなぜ語り継がれていくのか、また、なぜ様々な解釈と多くの表現方法を生む泉となるのか、そんなことを明らかにしてくれる二作品映画であるといえるのではないか。(直原涼子)
直原涼子 東京生まれ、札幌育ち。高校時代にオーストラリアに留学。そこで出会ったラテンアメリカからの留学生らには大きな衝撃を受け、その後主に中米に関する研究を個人的に進める。アジア、アフリカ、ヨーロッパを歴訪。ラテンアメリカラテンアメリカ映画、文学、演劇、音楽に精通。本年3月より『マスコミ市民』に映画時評を連載。好きなもの:旅行、お茶、幕末。苦手なもの:お酒、勘定、スポ根。
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