さて、前回に引き続き、ノンフィクションの書き出しについてである。小説家による文章読本の類には、必ず書き出しの手本がいくつかあげられているものだが、ノンフィクションのガイドブックには実例をあげているものが意外に少ない。「我が輩は猫である。名前はまだない」や「木曽路はすべて山の中である」のような人口に膾炙した短文の名文ではなく、事実が織りなすドキュメンタリーの世界に読者をいざなうための入口として、書き出しにもある程度の分量が必要だからかもしれない。そこで、私が「よい書き出し」と考える例を、まず短編ノンフィクションからいくつかあげてみることにしよう。
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