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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2005年01月04日02時01分掲載
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内部告発
お粗末な対応露呈し国民との溝開く NHK再生で職員が緊急提言
NHKの不祥事に対する国民の不信が強まっている。経営陣の信頼回復のためのお粗末な対応は、国民とのギャップを一段と広げた。NHK内での権威主義や、経営権と編集権との混在で、社内的にも物言えぬ風潮が浸透している。自由なメディアは民主主義の根幹であり、国民との絆を失った公共放送は、その存在意義を失う。受信料不払いなど危機的状況にあるNHK。そのNHK職員が、国民との開かれた対話を基礎にNHK再生を目指すべきだ、と内部から緊急提言している。(ベリタ通信)
<漂流する公共放送 内部から見たNHK不祥事問題>
白河薫(仮名・NHK職員)
2004年7月の元芸能番組担当チーフ・プロデューサーによる不正支出の発覚から半年、NHKは、信頼回復への明確な道筋を見つけられないまま、年を越してしまった。
私は、この間、NHK職員のひとりとして、不祥事とその後の対応をめぐる社内外の動きを見つめてきた。それは、再生への希望が絶望の深みへと変わる160日あまりだったといってよい。不祥事が相次いで発覚したことから、最初は、不祥事を起こした個人や杜撰な経理の仕組みが問題視されたが、その後の経営のお粗末な対応は、現経営陣のもとで不祥事が生まれる土壌や、現経営陣の公共放送のトップとしての資質、あるいは会長の任免権を持つ経営委員会のあり方に目を向けさせた。
そして、今、問題はさらに普遍化し、公共放送はどうあるべきか、公共放送を支える財源はどうあるべきかという公共放送論そのものに議論のテーマが移り、ひいては日本のメディア全体に横たわる課題をあぶり出しているように思える。 現在進行形の問題を内部にいながら整理するのはかなりの難題ではあるが、この半年を振り返って、週刊誌や一般紙が取り上げない視点を中心に、「NHK不祥事問題」に触れてみたい。
▽露呈したNHK内部のきしみ
12月19日、一連の不祥事の検証と、視聴者のNHKに対する意見をすくい上げるため、特別番組「NHKに言いたい」が放送された。
とどまるところを知らない、不祥事に対する受信料不払い・留保の増加という流れを変える最後のチャンスであったが、せっかく数多く寄せていただいた視聴者・市民の声に真摯に答えているとは到底言えない番組の作りであった。しかも、NHKからただひとり出演した海老沢会長の発言が、不祥事発覚から約5カ月という期間と、2時間15分の長時間生番組という二重の意味で長い時間的猶予を与えられながら、公共放送のトップに立つ者がこの程度の見識と表現力しかないという限界を露呈した。番組を見た視聴者の多くが呆れ果て、公共放送を見限る動きが加速してしまった。
「放送はナマが第一」といつも豪語していた会長が、参考人招致の模様を生放送しないという判断ミスをおかし、さらに生放送の番組で、自身の限界を示して墓穴を掘ったのは、皮肉というほかない。
そもそも、この番組の視聴者の多くが、「NHKの企業内労働組合が組織の総意で会長の辞任要求をしている」ことを、民放や新聞等の報道で知悉している状況で、こうした番組をやるのであれば、番組の実質的な作り手が経営サイドなのか、それとも現場主導なのかという枠組みを明確にしておかなければ、番組自体の説得力は失せてしまうだろう。
危機感を持つ現場スタッフは、NHKに厳しい意見を集めたり、多少は辛口のゲストを選んだりしたが、番組のトーンは、「会長は辞任せず、反省の色を見せて乗り切る」という経営側の思惑がにじみ出るものとなった。
経営と現場の思いの乖離によるねじれ現象は、番組の端々に表出し、その結果、放送の翌日、NHKの視聴者コールセンターの電話は、朝から鳴りやまず、史上最高の着信件数となった。その多くは番組への失望と受信料の口座引き落としの解約、そして受信料支払い拒否の通告であった。
▽浮き彫りにされた二つの課題
この番組にいみじくも象徴されるように、ここ数年、NHKの制作現場では、経営の介入やそれを見越した自己規制により、自らの思いを押し殺して、番組制作にあたるケースが増え続けている。
さらに、この番組では、「NHKに言いたい」として、視聴者からの様々な意見を募ったにもかかわらず、その一件一件に対し、丁寧に向き合って答えようとする姿勢が、演出上も、会長の態度からもほとんど感じられなかった。そのことは、経営者の視線が受信料を払う視聴者には向いていないということも明らかにした。そして、公共放送と規定されながら、実は「公共」的な存在になりきれていないNHKの実態をも浮かび上がらせた。
不祥事を起こさないための厳しい規律も、会長の進退も、信頼回復への一歩には欠かせない論点であることは間違いない。しかし、私には、不祥事によってあぶり出された、今のNHKが持つ根源的な問題、つまり、ジャーナリスト個々人に立脚した健全な制作現場の確保、言い換えれば「内的自由の確保」と、「公共放送の要件と意義」の2点について、どう市民と問題を共有し、深い議論をしていくかのほうが、より重要な課題のように思えてならない。
▽内的自由を失わせているもの
民主主義社会におけるメディアの重要な役割のひとつは、様々な論点について、そこに住まう多様な人々の異なった意見をできる限り紹介し、他人の意見も尊重しながら、議論を深め、問題解決の方向性を見いだす「議論の広場」を提供することにあると、私は考えている。
とりわけ公共放送は、その多様な市民の拠出する受信料で運営されており、その役割が最も強く期待されるメディアであるはずである。ところが、その公共放送の中で、自由に議論を戦わせ合う民主主義が失われているとしたら、その役割を果たせないのは自明の理であろう。
こうした物言えぬ風土は、なぜ起きているのだろうか。ここ数年強まっているということでいえば、もちろん、現会長の独裁的な組織運営も大きな理由であることは間違いない。では、独裁者ではなく、調整型のタイプのリーダーが会長に抜擢されれば、問題は解決するのだろうか。ことはそう単純には思えない。
ひとつは、本来なら分離されてしかるべき権力の集中がこうした事態を招いているということは疑いをいれない。NHKでは、会長に、経営権のほかに、細かな人事権、そして編集権までが集中している実態がある。裏を返せば、人事部や編成部が本来の機能を果たしていないのだ。とりわけ、ジャーナリズムの企業体では、経営権と編集権の分離は根幹をなす原則であり、それが、内的自由を制度面で支える重要なファクターであろう。
「NHKに言いたい」の中で、会長は、9月9日のNHK経営陣への参考人招致の生中継をしなかったのは自分の決断だと、さも当然のように説明したが、そのこと自体、自分が編集権に介入していることを全国民の前で証明してしまったことに他ならない。
さらに、NHKだけではなく、日本の他のメディアにも広く共通する「内的自由を奪う状況」も、私には大きな問題に思えてならない。それは、自身の良心に基づいてのみ取材・制作をするというジャーナリストの基本的な資質が、長年一企業内で育成されたジャーナリストには、育っていないという構造的欠陥があるのではないかということである。
欧米に比べて、日本のジャーナリストは、一部のフリーの人を除けば、新聞にせよ、放送にせよ、ほとんどが企業の社員(NHKの場合は職員)かその関連会社、あるいは実質的な下請けの企業に所属し、しかもそこへは大学でのジャーナリズム教育もほとんど受けないまま、新卒で採用され、その後の雇用流動性もきわめて低い中で同一の会社で仕事をしているという特殊性がある。
そこでは、行動基準や価値基準が、企業内でどう認められるかが第一であり、波風を立ててまで自分の主張を貫くことはマイナスでしかないという風土が作り上げられてきたのではないか。しかも以前に比べ、メディアへの市民の視線が厳しくなり、それが内向きの管理強化につながって、ますます内輪の論理に閉ざされるようになってきている実感がある。
もちろん、NHKにおいては、会長をはじめとした経営陣のキャラクターもあるが、「まず会社ありき」という風土の中では、個々のジャーナリストは、プロフェッショナルとしての職業人的な意識よりも、名刺に刷られた会社や役職への忠誠が優先してしまうのだろう。ジャーナリストの職業意識の醸成は、組織ジャーナリズム内だけでは限界があると思われてならない。
こうした日本的な風土は一朝一夕では変えられないが、大学などとも連携して、高等教育でのジャーナリズム教育のあり方や、すでに企業内ジャーナリストとなったミッドキャリアの再教育といったことに目を向けていかない限り、企業内ジャーナリストに、良心のために時として経営と戦う意識は生み出されにくいのではないだろうか。
▽公共放送への厳しい問い
今回の不祥事に対する受信料不払いの激増で、受信料制度そのものへの疑念も、市民の間に高まっている。特に支払い者と未払い者の不公平の問題は、NHKの職員でさえ合理的な説明が難しい大きな矛盾点として浮かび上がっている。
視聴者の間にも、払わなくても罰則のない今の受信料制度はおかしい、民営化や税金による運営に切り替えたらどうか、という声も少なくない。
日本では、公共放送と受信料制度とは密接不可分な関係として続いてきているが、受信料制度は、「国営」的な側面を内包する一方で、別の視点から見ると、民放以上に民営的な、正反対な二面を持つ制度だと私は感じている。
放送法という法律によって、テレビ受像機を保有する世帯に、NHKの番組を見る見ないにかかわらず、契約の義務が発生するという点では、たしかに税金と変わらない一面があり、国営放送とよく混同されるのも、無理からぬところがある。
しかし、一方で、一人一人の市民が平等に支えているという面を見ると、市民による放送局、すなわち「(市)民営」の放送局とも言える。日本の多くの民放が、資本の面では新聞社の支配下にあり、電通などの巨大広告代理店の仲立ちで、自動車、電気、食品などの大企業のスポンサーの提供を受けることで成り立っていることを考えると、そこに市民レベルの「民間」が入り込む余地は小さいわけで、むしろ公共放送の方こそが「民」に近いともいえるのだ。
検証番組「NHKに言いたい」の中で、ゲストの一人、テレビマンユニオンの今野勉さんが、「受信料を支払うのは、義務ではなく、そのことで公共放送に参加する権利を得ていると考えてはどうか」という捉え方を提示されていたのが印象的だったが、このことは、受信料制度には、「市民による放送局」という側面があることを如実に示している。
しかし、こうした視点は、NHK自身、これまで視聴者にほとんど説明してこなかったし、経営者にもそういった視点はきわめて希薄だったことは間違いない。
一方で、NHK予算の審議が国会の場で行なわれること、NHKの最高意思決定機関である経営委員会の委員が内閣総理大臣によって任命されること、そして実際の会長人事は、経営委員会を飛び越えて、政権与党による政治的密室で決まってきたことなどが、「市民による放送局」という側面を打ち消してきた。今後受信料制度の議論をする際には、その両側面のどちらを市民に訴えていくか、明確にする必要があるだろう。
イギリスの公共放送BBCは、その存立を国王の特許状に依拠しているという面では、制度的にはNHK以上に国家との結びつきが強いが、その一方で伝統的に放送内容や経営姿勢は政府と緊張関係を保ち続けてきた。10年間有効の特許状の更新前には、BBCは今後の業務運営のビジョンを国民に示し、広く意見を募るなど、市民に開かれた姿勢を堅持しているし、96年に施行された現特許状では経営委員会の役割を明確化するなど、制度面での改革も進めている。
▽真の公共放送に生まれ変わるために
不祥事とその後に対する視聴者の厳しい声の中には、「もはやNHKは不要」というものもあるが、多くは、NHKのこれまでの番組の質の高さを認めた上で、そうした放送を出し続けるためにこそ、改革を進めてほしいという叱咤激励の声である。
「公共放送」は、きわめて理念的な制度に支えられているだけに、その理念をないがしろにするようであれば、たちどころに成り立たなくなる。であるならば、あらためて、権力から独立する仕組みを、予算審議の場や経営委員会の改革も含め、早急におこなう必要があろうし、仮に経営者が権力の介入を受けても、制作現場に影響を与えない内部的な仕組み、つまり内的自由を担保する制度を作り上げなければ、理念は現実に簡単に吹き飛ばされてしまいかねない。
しかも、今の日本では、公共放送を必要とする「公共(=public)空間」が狭まっているように感じられるし、進行する社会の二極分化は、所得や視聴時間に関わらず同額という平等性の高い受信料制度の存続を揺さぶろうとしている。
こうした中で、私たちNHK内部にいる者が、常に公共放送とは何か、なぜ受信料で運営されるのかを自問し、時代の趨勢に合わせて、常に市民と議論し続けなければ、今回のような危急の際に馬脚を現わしてしまうということを痛感した。この点は、単に会長の進退や、外からそう見えがちな労使の対立という図式を超えた、日本に住まう人たち皆で民主主義社会の言論を守るためにも、大きな課題でもあるのではないだろうか。
問われているのは、会長の決断だけではなく、市民との開かれた議論を躊躇しない私たち職員の意識と見識だと思う、年の初めである。
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