喫煙者の7割がニコチン依存症に悩んでいる、という調査が明らかにされた。本人だけでなく周囲の人の健康まで損ねる喫煙の弊害をなくすためには、何が可能か。いのちの尊重と非暴力を説く「仏教経済塾」の安原和雄氏は、禁煙促進のための増税を提唱するが、読者のみなさんのご意見はどうだろうか。(ベリタ通信)
●禁煙促進のために増税を 安原和雄
大阪府立健康科学センターの調査によると、喫煙者の7割がニコチン依存症に悩んでいる(2005年11月7日付朝日新聞)。喫煙は単に本人の健康を害するだけではない。タバコを吸わない周囲の人までが、いわゆる受動喫煙(間接喫煙)によって健康を損ねるなどの弊害が少なくない。禁煙を促進するために仏教経済学の視点から何ができるだろうか。タバコの大幅増税など喫煙者への思い切った負担増を提案したい。
「安原和雄の仏教経済塾」に10月28日「説法・日本変革への道」を掲載、その中で「健康のすすめ」の医療改革案を提案した。その柱のひとつが生活習慣病の場合、医療費の本人負担を5割に引き上げるというものである。これに対し読者から次のコメントが寄せられた。
「喫煙者は、自分と他人のいのちを粗末にすることであり、仏教経済学のいのち尊重と非暴力の考えに反する。本気で禁煙を奨励するのであれば、生活習慣病と同じように喫煙者の保険の本人負担を引き上げるとか、タバコ税を増税して、福祉に回すことを検討してはどうか」と。適切な意見と評価したい。
時代の流れは禁煙へ、嫌煙へと向かっている。日本たばこ産業(JT)の「平成17年全国調査」によると、成人でタバコを吸う人の割合は男性45.8%、女性13.8%で、全体としては漸次低下の傾向にある。しかし20歳代、30歳代の若い女性の喫煙率が2割強と高い水準にあることは軽視できない。
新幹線では禁煙車両が増えている。関東の私鉄大手は全面禁煙になっている。受動喫煙の防止を法律上義務づける健康増進法が03年5月から施行されたのがきっかけである。同法は次のように定めている。強制ではないが、対象施設では全面禁煙を促進することをめざしている。
▽多数者が利用する施設を管理する者は、受動喫煙防止に必要な措置を講ずるよう努めること。怠っても罰則はないが、努力義務とされている。 ▽対象となる施設は、学校、体育館、病院、劇場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店など。「その他」としてバス、タクシー、航空機、駅、商店、旅館、金融機関、美術館などが明示されている。
なぜ禁煙は望ましいのか。 第一は他人の健康を害する権利はないこと。 もちろん本人の健康上、著しくマイナスという弊害は軽視できない。しかしそれ以上に受動喫煙による他人の健康被害を無視できない。「喫煙は嗜好の問題であり、自分の健康は自分の責任で対応する。私の勝手でしょ」という認識がまだ根強いが、これは間違っている。誰も他人の健康を害する権利は与えられていない。喫煙は嗜好の問題ではなく、いまや一種の犯罪であることを自覚したい。
第二に喫煙者には自己管理能力が欠如していること。 アメリカでは喫煙者は自己管理能力がないと判断され、特に企業経営者の場合、失格という認識が広がっていると伝えられる。自己管理能力が欠落した人物が多数の従業員を抱える企業の管理能力を発揮できるとは考えられないからである。それにアメリカではタバコによる健康被害を理由に賠償・補償を求める訴訟が起こっており、円に換算して「兆」単位の支払いを命じる判決も少なくないと伝えられる。 日本でもやがて企業が喫煙者を「自己管理能力=仕事力・競争力」の不足とみて、雇用に消極的になる時代がやってくるのではないか。「失業したくなかったら、禁煙を」がキャッチフレーズになるのもそう遠い先のことではないだろう。
第三に禁煙は商売上もむしろプラスであること。 例えば飲食店などでは喫煙者を迎え入れるために禁煙にしていないところがまだ少なくない。喫煙者に敬遠されては「商売不振」という懸念が根強いからである。しかし禁煙に消極的な店から逆に客足が遠のく時代はすぐそこまで来ているとみたい。 神奈川県のひとりの医師は新聞投書で次のように記している。 「あるイタリア料理店では迷った揚げ句、完全禁煙にしたら、売り上げが10%増えたと経営者は驚いている。別の日本料理店は従業員の健康に配慮して完全禁煙にしたら、心配していた客足は伸びたそうだ」と。投書氏は「おいしい料理は、空気の澄んだ店で食べたいものだ」と結んでいる。もう30年も前にタバコを捨てた私としては結びのことばに全面的に賛意を表したい。
大阪府立健康科学センターの調査では「禁煙したいですか」という質問に「はい」と答えたのは、ニコチン依存症と判定された人のうち6割強である。また7割強が「今までに禁煙を試みたことがある」と答えている。禁煙がなかなか簡単ではないことは、かつて喫煙者であった私としても承知しており、心情を理解できるが、支持することはできない。
ここでは禁煙に努力する人の背中を押す意味で少々過酷な手法かもしれないが、次のような新たな負担を提案する。 ▽喫煙は生活習慣病の一種だから、喫煙に伴う病気は本人負担を5割に引き上げる。 ▽タバコ税の大幅増税を実施する。日本のタバコの価格は他の先進国に比べ安すぎるので、少なくとも一挙に2倍に値上げし、値上げ分をそのまま増税分とする。この程度の増税は、他人の健康損害料、迷惑料として当然と考える。
私は小泉改革路線に大筋では賛成できないが、例の「抵抗勢力」という用語は、この際借用したい。禁煙という時代の流れに「抵抗勢力」として頑迷に踏みとどまるのは、時代感覚から大きくずれている。「無駄な抵抗は止めなさい」と。
*「仏教経済塾」のホームページは
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