米国の軍事問題専門家のチャルマーズ・ジョンソンは、再び現代の米帝国の姿を語り、ペンタゴン主導の軍事優先主義の暴走にともない、議会制民主主義と資本主義経済とが共に空洞化し、やがて「アメリカ合州国」そのものが衰退に向かうと予測、米国の「破産」すらありうると警告している。米ネット評論誌トム・デスパッチのジョンソン氏へのインタビューの詳報を紹介する。(TUP速報)
■チャルマーズ・ジョンソン、アメリカ共和政体の黄昏〈たそがれ〉を語る
このインタビューのパート1《*》で、チャルマーズ・ジョンソンは、ベルリンの壁が崩れ、冷戦が終結した瞬間が、彼にとって、どんな意味をもっていたのかを語り、帝国と軍国主義とが、いかに深くアメリカの血流に浸透しているのかを追究し、さらに、地球規模に軍を展開し、おそらく1兆ドルの4分の3に達すると思われる帝国費予算―ペンタゴンの実質年間歳出―を計上する、認知されない軍事ケインズ主義経済で覆われた国に生きることの意味を考察している。(トム・エンゲルハート)
【トム・エンゲルハート】あなたは2007年度ペンタゴン予算の精神病理を論じておられました……
【チャルマーズ・ジョンソン】私に理解できないのは、現在の国防予算と最近の「4年ごとの国防計画見直し」《1.Quadrennial Defense Review=これ自体はなんの戦略もない代物》とが、あらゆる点で、わが国の従来の方式を踏襲していることです。世界中200か所におよんで供用される米軍ゴルフ・コースはよく手入れされていますし、バイエルン・アルプス、ガーミッシュ《2》の全軍共用スキー・リゾートや、東京かソウルの中心街《3》の高級ホテルに行きたい提督たちや将軍たちのために、リア・ジェット[*]を飛ばす用意ができていることを忘れてはなりません。 1 http://www.commondreams.org/views06/0319-28.htm 2 http://www.edelweisslodgeandresort.com/home.html 3 http://www.edelweisslodgeandresort.com/afrc_worldwide.html [高級乗用小型ジェット機。豪華な内外装の写真+内部レイアウトをどうぞ──
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私に説明できないのは、議会はどうなったのか、ということです。議員たちが腐敗したというだけのことでしょうか? 確かにそれもあるでしょう。私は、ここカリフォルニアの第50区に居を構えています。昨年12月、この選挙区の下院議員、ランディ・カニンガムが、下院歳出委員会・軍事小委員会の一員として、予算にあれこれ内密に潜りこませる才覚のおかげで、240万ドル相当のガラクタ──ロールスロイスや何点かのフランス骨董品──を受け取ったとする、米国議会史上で最悪の収賄を白状しました。彼は、ささやかな会社を経営する友人たちのために一肌脱いでいました。国防総省でさえ、要らないと言っていた品目を追加していたのです。
これは汚職であり、この前、だれかがおっしゃっていたように、連邦議会は極めつけのお買い得になっています。240万ドル支払っただけで、この連中はざっと1億7500万ドルばかりの契約にありつけました。お手軽な商売でした。
▼軍は統制外れ、政府はまっとうに機能していない
軍は統制を外れています。行政府の一部門として、国家安全保障情勢を口実に軍部の拡大が図られました。私が子どもだったころ、ペンタゴンは陸軍省[the Department of War(1789-1947)=直訳では「戦争省」]の名称で呼ばれていました。現在は国防総省[the Department of Defense=同「防衛省」]になっていますが、防衛と言っても名ばかり、関係ないのは歴然としています。ずっと前からです。今では、「国土安全保障省」という名の、もうひとつの政府部門《*》を私たちは抱えています。いったいぜんたい、なんのためのお役所か不思議ですし──国防総省も右に同じ!
政府はまっとうに動いていません。まともな監督が欠けているのです。建国の祖父たち、すなわち憲法の起草者たちは、議会を国権の最高機関と定めました。私にとって──ネオコンとジョージ・W・ブッシュとが権力の座について以来、私たちが目撃してきた行政権限の拡大よりも大きな──謎は、こうです。なぜ議会は私たちの期待を裏切ったのだろうか? それによって国民は恩恵にあずかるのだろうか? 雇用が増えるのだろうか?
カニンガムが自白したときよりもずっと前に、私は“The Military-Industrial Man”《*》という標題の記事をものにしましたが、このような無風選挙区にあって、どうすればこの男を排除できるのか、遺憾ながら、私には分からないと書いています。
これがロサンジェルス・タイムズ紙の論説面に掲載されると、同紙編集者あてにロサンジェルス中心街の第34区で投函された手紙が2通届き、それには、カニンガムがおいしい仕事を持ってきてくれるのなら、自分の選挙区の議員だったらよかったのにと思うだけであり、アラスカのミサイル防衛兵器みたいに爆発したり地面に突っこんだりするような代物を造っても一向にかまわないと書かれていました。
▼不気味な「全領域制覇」計画
つまり、結局は大掛かりなハイテク案山子〈かかし〉になる代物に、わが国はすでに1億ドルを注ぎこんでしまったというわけです。それは命中しませんでした。照準装置がなかったのです。発射試験は失敗。役に立ちません。 もっと不気味な計画──空軍の宇宙空間進出、または空軍が好んで言う「全領域制覇」──の口実であるのは確かです。 *TUP速報374号「軍産複合体の権化」04年9月20日──
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/397?expand=1
私たちはこれに注意を向ける必要がありますが、党派的な視点に立つのも、やはりいただけません。民主党だったら、もっとましな仕事をするだろうと信じる理由はありません。彼らがうまくやった例〈ためし〉がないのです。彼らは共和党と同じく性急に軍備を拡大しました。
私たちがつぶさに調べ、理解しようとしている相手は、獣〈けだもの〉であり、目下のところ制止できないように私には思えます。こう言ってみましょう。わが国の憲法の制定者、ジェームス・マディソン[第4代大統領(1809-17)、憲法制定会議を主宰]は、すべての権利を制する権利は、情報を得る権利である、と述べました。この権利がなければ、他のものは無意味です。 なにが起こっているのか知ることができないなら、権利の章典は役に立ちません。この国では、秘密主義が常軌を逸したものになって久しいですが、現政権のもとで、桁外れにひどいことになっています。ジョン・アシュクロフトが司法長官に就任したとき、情報公開法にもとづく開示請求は、可能なかぎり困難にすべしと命令しました。
■チャラビへの金
ペンタゴンの闇予算は、現政権が成立してから、ますます大きく膨れあがりました。こうしたお金は、だれの目にも触れることのない事業に使われています。私にとって、私たちの社会における最高におもしろい座興のひとつは、国家安全保障局(NSA)の前長官、マイケル・ヘイドンみたいな軍の制服組高官が議員たちの前に座って証言しているのを眺めることです。先日にもありました。ヒラリー・クリントンがヘイドンにこういう質問をしました──あなたは隠密行動(NSAの令状なしスパイ行為)を何回しましたか? おおよそのところでいいから、私たちに答えてください。「あなたにお答えしません」というのが、彼の返答でした。1年ほど前、国防情報局長官、ヤコビ提督は、こういう質問を面と向かって受けました──わが国は今でもアーメド・チャラビ《*》に月額34万ドルを支給しているのですか? 彼の返事は、「私は言いたくありません」というものでした。
http://www.csd.net/~panta/peace_page/uso_book_htm/report_white_house/wh_reports004.html
こうなっては、上院議員は立ち上がって、こう言うべきです──「私は連邦保安官にあの男の逮捕を要求する」。と言うのも、これは議会侮辱罪にあたるからです。
【トム】もちろん、あなたは議会を侮辱してもいいだけの理由があるともおっしゃっていますね。
【ジョンソン】確かに理由があります。連中がどうしてこんなことをするのか、理解できます。かつての1977年、当時のCIA長官、リチャード・ヘルムズが議会における虚偽の陳述により重罪を宣告されました。(チリの大統領)サルバドール・アジェンデが倒されたとき、わが国はあらゆる面で関与していたにもかかわらず、彼は、いいえ、われわれにはなんのかかわりもなかったと言いました。彼は執行猶予つきの判決を受け、小額の罰金を払って、バージニア州ラングリーのCIAビルに帰任し、群衆の歓呼で迎えられました。われらがヒーロー! 秘密諜報機関は大統領の私的軍隊であり、それを使って、大統領がなにをやっているのか、私たちには窺〈うかが〉い知れないのですが、長官は隠密主義の原則を誇らしげに貫いたのです。彼らの行動はすべて秘密です。彼らの予算のすべての項目が秘密です。
▼ベトナムと同じ道をたどっている
【トム】それに軍もまた、ちょっとした私兵軍団になっています……
【ジョンソン】まさしく。徴兵制はとてもたやすく操れますので、私は嫌いですが、危機にさいして、国民は国防義務を担うという原則をほんとうに信じています。さて、どのようにそうするかは、いまだに論議を呼んでいる問題ですが、少なくとも、国民の軍隊は軍国主義を抑制する機能を果たしていました。軍隊にいる人びとは、自分たちが不本意ながらに入隊していることを知っていました。上官たちは適任であるか、戦略は理に適っているか、戦闘任務につかざるをえないかもしれない戦争は正当なものか、こういったことに彼らはきわめて大きな関心を抱いていましたし、ヴェトナム戦争のときのように、自分たちはとんでもなく騙〈だま〉されていると疑いはじめると、アメリカ軍はバラバラになりはじめたものです。当時の兵士たちは上官に向かって本気で手榴弾を投げていましたので、クレイトン・エイブラムス司令官が、彼らを撤退させなければならないと発言するほどになりました。
この撤退をヴェトナム化とかなんとか言い換えても、これこそが彼らのやったことなのです。
わが国はイラクで同じ道をたどっているのでは、と私は恐れています。朝刊を開くと、新兵応募資格の範囲を、第4水準にまで、つまり重度の知的障害を負った人たちにまで広げようとしているのを見つけたりします。恐ろしいことに、こういう人たちを大砲の餌食[兵士の暗喩表現]に仕立てようとしているのです。
▼たった1年で赤字25%増
国内雇用の悲劇を話題にするのに、むつかしい知識は無用です。アメリカ人はそれほど裕福ではありません。2005年の貿易赤字は7258億ドルになっています。新記録です。たった1年の間に25パーセント近くも膨れあがりました。物作りをしないで、こういう類の戦争をし、役に立たない兵器を造っていては、やっていけません。ハーブ・ステインは、共和党政権の経済諮問委員会の委員長だったとき、とてもご立派なことに、「やっていけないことは、永遠に続けられない」と言いました。
【トム】だから、私たちの問題を矮小化しようとします。
【ジョンソン】ジョージ・ブッシュの観点から見て、彼の政権は、彼が達成したかったことをイデオロギー的にすべて達成しました。非常に多くの人びとの意識のなかで、軍隊は今ではただひとつ機能しているアメリカの制度なのです。彼は支配階級の富を増やしました。彼は可能なかぎり徹底的に三権分立を破壊しました。こういうことが、たった今、私たちが直面している問題なのです。 三権分立を回復するための唯一の方策は、議会の活力を再生することにつきますが、その方向にアメリカ国民を向かわせるために、何をもって震撼〈しんかん〉させたらいいのか、私には分かりません。ただ国民だけが、これをすることができるのです。裁判所はだめです。大統領はやる気がぜんぜんありません
▼米国破産のシナリオ
私が思いつくかぎりで、ただひとつ可能性があるものは、破産ということになるでしょう。2001年にアルゼンチンを見舞った事態と同じです。ラテンアメリカ随一の金持ち国が最貧諸国に仲間入りしました。国が倒産したのです。対外借入能力を失い、国政掌握能力を失いましたが、実に多くのアルゼンチン国民が、1990年代をとおして、なんとも腐敗した歴代大統領が、なんとも間違いだらけの助言に耳を傾け、なんとも愚かなことをしてきたものか、と考えました。そして目下、この国は再建途上にあります。
【トム】しかし、スーパーパワー[超強大国]の破産とは? これは、まだだれも現実味をもって研究していない概念です。大英帝国が最終的に退場したとき、私たちがその背後にいました。わが国の後ろに、だれかいるのでしょうか?
【ジョンソン】いいえ。
【TD】では、私たちにとって、破産は、なにを意味するのでしょうか? なにしろ、わが国はアルゼンチンではないのです。
【ジョンソン】それは、状況に対する支配権を失うことを意味するでしょう。急転直下、わが国は他国の「思いやり」に頼り、施しを求めるようになります。わが国はすでに7250億ドルの貿易赤字を抱えています。財政赤字はわが国史上最大になっていて、GDP[国内総生産]の6パーセントを優に超えています。国防予算は天井知らずであり、正気の沙汰ではありませんし、すでにイラク戦争で使った、あの5000億ドルも忘れてはいけません──その最後のビタ一文まで、アメリカ市場に参入したいために、貯蓄し、投資した中国と日本の人びとからの借り入れ金です。彼らが私たちに金を貸したくないと決めるとき、金利はメチャクチャに急騰し、株式市場は崩壊するでしょう。
私たちは約20億ドルの日銭を負債の利払いのためだけに注ぎこんでいます。人びとがそのお金を私たちに貸すのを止めたとたん、私たちはそれを国内貯蓄から捻出しなければならず、しかも、たった今、この国の貯蓄率はゼロ水準以下になっています。
アメリカ国民に所得の20パーセントを貯蓄させるためには、少なくとも2割の利子を払わなければならず、その結果は、まことに途方もない不況です。私たちは1930年代の世情に逆戻りするでしょうが、それについては私の母がよく私に言って聞かせていたものです──あのころ、私たちはアリゾナの田舎に住んでいました──だれかが裏口のドアを叩いて、「なにか仕事はありませんか? 駄賃はいいですから、食べるものがほしいのです」と言います。すると母は「分かったわ、あなたにやっていただくことをなにか見つけて、卵とジャガイモをあげましょう」と言います。
これと同じような恐慌が、かなりの長期間、この国に居座るでしょう。他の国ぐにも、やはり深刻な不況に悩むでしょうが、おそらくずっと早く克服するでしょう。
▼自己欺瞞に陥っている米国
【トム】すると、中国、日本、そしてヨーロッパの経済は、わが国に連動して下向くのではなく、わが国を置き去りにして、上向くと想定できるのですね。
【ジョンソン】間違いありません。そうした国ぐにや地域には可能だと考えます。
【トム】例えば、中国のバブル経済、つまり対米輸出に頼る産業部門が崩壊し、同国でも混乱を招くとは、お考えになりませんか?
【ジョンソン】それもありえますが、中国人はその責任を政府に押しつけないでしょう。それに、いつまでたっても中国経済は国内消費を育てないだろうと考える理由はありません。あの大勢の人びとの関心を生活改善に向けることができれば、中国人は、セーターやパジャマの北米市場における売り上げに依存する必要が永久になくなります。アメリカ経済は規模がでっかいですが、他の国ぐにがわが国なしにやっていけないほど大きいと信じるだけの理由はありません。おまけに──兵器だけは別ですが──わが国はすでにほんのわずかのものしか製造していませんので、私たちは自己欺瞞に陥っているのです。
もっと思慮深く振る舞わなかったために、私たちは厳しい代償を払ったようです。あまりにも愚かだったので、なんにも命中しそうにない8発のミサイルを、アラスカ州フォート・グリーリーの地面に突っこませるために、社会基盤、医療、教育を見捨てたのです。
実を言えば、試験のとき、サイロから飛びださないミサイルもいくつかありました。
▼ドルでなくユーロになる時代へ
【トム】あなたは、いつまでドルが国際通貨としての地位にとどまると見ますか? 私は、先ほど、イランがユーロに乗り換える兆しを見せていたと気づきました。
【ジョンソン】そうです。彼らはユーロを基軸通貨にした石油市場を創設しようとしています。これと同様のことをする国がどれほどの数になるか、見当がつきません。アメリカのどの大学でも教えられている経済学1部A課程は、世界システムが平衡を取り戻すとき、経済史上最大の貿易赤字を生みだす国はペナルティを払わなければならないと告げるでしょう。これはなにを意味するかと言えば、通貨価値があまりにも下落して、レクサス[トヨタの高級車]を買えるアメリカ人がいなくなるということです。アメリカ人がイタリアのリゾートで過ごすためには、手押し車いっぱいにドル札を積んでいかなければならないでしょう。
【トム】少なくとも、CIAが、だんだん慣れっこになった手口で、イタリアの路上から人びとを誘拐するのを、この状況が止めさせるようになるかもしれません。
【ジョンソン】(笑う)CIAの誘拐担当は、もはやミラノのプリンチペ・ディ・サヴォイア(五つ星ホテル)には泊まれないですね。間違いなし。
今、東アジアの高度経済成長諸国は巨額の米国財務省証券を保有しています。ドルが価値を失えば、最後にドルから逃げる人が、すべてを失うことになるので、当然ながら、一番先に逃げたいと思うものです。だが、最初に動きを見せる人が、他の全員をパニックに追いこむ原因を作ります。だから、これは細心の注意を要する、それでいてイラつかせる状況です。
1年前、わが国のドルを2000億という規模で保有している韓国中央銀行の総裁が公の場に出て、わが国はいささか過ぎたドルを買っていると私は思う、と発言し、今となっては、ユーロは言うにおよばず、ドバイの通貨のほうがまだましだとほのめかしたのです。たちまちパニックです。人々は売りに走りました。社長たちは電話に飛びつき詰問しました。いったい貴国民はなにを企んでいるのだ? すると、韓国人たちは非を認めました──だから、相変わらずのままです。
今日のアメリカには、頭が切れる若手の経済学博士号の取得者たちがいて、この状況がいつまでも続く理由を説明する学説を考案しています。そのひとつは、世界預金過剰説です。お金がだぶついていて、使い道がなく、わが国に貸すしかないというものですね。それにしても、ネーション誌のとても注目に値する経済記者、ウィリアム・グレイダーが何回か書いていますが、世界一の債務国が融資銀行をやたらと侮辱するのは、きわめて浅はかなおこないです。 この夏、わが国は、4個の空母艦隊を太平洋に送りだし、沖合を哨戒させ、米軍機を飛ばし、巡航ミサイルを何発か発射して、中国人を威圧しようとしています。ドルを引き揚げよう、と中国人が言いださないとすれば、どうしてでしょうか? OK、彼らは自国内のパニックを回避したくて、真相としては、できるだけ巧妙にことを運び、騒ぎを可能なかぎり抑えようとするのでしょう。
▼むちゃくちゃなブッシュ政権の高官と古代ローマ
巨額の赤字を削減しなければならないときに、減税をするとは、この政権は自分たちの施策をどのように考えているのでしょうか? 私に分かる範囲で言えば、現政権の政策は、共和党や民主党のイデオロギーとは無関係ですが、私たちの税金を航空母艦やその他の非生産的なもののために使わないはずの財政責任の観点から、その正反対は、伝統的な古い共和党の保守主義であろうとだけは言っていいでしょう。
それにしても、この政権の高官たちは過激です。ムチャクチャです。私たちは皆、連中はどうしてこんなことをするのだろう、とあれこれ考えています。大統領が憲法を侵犯したり、軍部が文字どおりに統制不能なまま疾走するのを許したり、どんなこと──新手のカトリーナ災害、鳥インフルエンザ──に対処するにしても、軍隊を、大統領が頼りにする唯一の組織にしてしまったりしたのは、どうしてなのだろう?
なにもかも茶番めいていますが、思い起こさせてやまないのは、古代ローマの故事です。
私は、物書きとして、別の機会に書いたのが誇らしいですが、破産状況に揺さぶられて、私たちが目覚めなければ、「クーデターを切望する」ことになると恐れています。私たちはローマ共和政体と同じ末路を迎えかねません。 混乱や不安があまりにも拡大すると、ひとりの人間に対処を委ねるようになります。ローマ共和国は、わが国の共和制の歴史と同じほどの期間、存続したのち、不注意で浅はかにも、必要もなければ、統治もできない帝国を獲得したために、年がら年中、戦争に縛られることになって、あの落とし穴にはまりこむ羽目になりました。あげくの果て、帝国がローマ人たちに取りついたのです。ユリウス・カエサルに対し、人民政治家を演じる軍国主義者に対し、いかほどの免疫力を私たちが保持しているものやら、私には見当つきません。
【トム】全志願制の軍隊が、失敗した帝国の手先になるとお考えですか?
【ジョンソン】ありうることです。すでに私は、この無能な政府を我慢する軍隊の度量の大きさにあきれています。つまり、将官たちは、ヴェトナム戦争のあと、さんざん苦労して立て直した虎の子の軍が、ふたたびバラバラになったり、新兵補充がますます困難になったり、士官学校でさえもおかしくなったりしていると知っています。いつまで彼らが耐えられるのか、私には分かりません。バグダード攻略を指揮していた司令官、トミー・フランクスは、米国内で9・11攻撃に比肩しうる新たなテロ攻撃があれば、軍には権力を掌握するほかに選択肢がなくなると言ってのけました。翻訳すれば、こう言っているのですね──われわれが任務を遂行するとすれば、どうしてジョージ・ブッシュみたいな能無しに耳を傾けるのだ? どうしてロナルド・ラムズフェルドみたいな時代遅れの人物の命令を受けるのだ? ジョン・マケイン[*]は別にして、軍務経験のある共和党議員は実質的に皆無だというのに、どうして連邦議会の意向をくむのだ? [John Sydney MaCain III (1936-)=アナポリス海軍兵学校卒(58)、ヴェトナム戦争中、4年半にわたりハノイで捕虜生活(67-73)、のちに下院議 員をへて上院議員]
わが国の問題から抜け出るための明確な道は、私には見えていません。政治システムは破綻しています。野党を選ぶこともできますが、CIAを統制下におくのは無理です。軍産複合体を管理下におくのは無理です。議会に活力を呼びもどすのは無理です。状況はもっと悪化するのに、[政権交替は]もうひとつの現状維持策にすぎないでしょう。
さて、ことわっておきますが、私が間違っているかもしれません。間違っていれば、それはそれで嬉しいことですので、あなたは許してくれるでしょう。(笑う) 過去にも、公権力による明白な越権行為がありました。リンカーン[共和党、第16代大統領(1861-65)]がいて、人身保護令状請求権を停止しました。セオドア・ルーズベルト[共和、第26代(1901-09)]は行政命令を実質的に発明しました。それまで、たいがいの大統領は行政命令を出していません。ルーズベルトは1000件を優に超える行政命令を公布しました。これは、現在の大統領による[採択法案]署名 時声明に相当するものです。
お次にくるのは、血迷った長老教会信徒、ウッドロー・ウィルソン[民主、第28代(1913-21)]であり、今、ネオコンたちの熱愛の対象になっていますし、フランクリン・ルーズベルト[民主、第32代(1933-45)]もいて、彼は日系アメリカ人を敵視する政策を推進しました。だが事後になって、アメリカ国民が自分たちの名によっておこなわれたことに関心を向けるようになり、いつでも振り子が振りもどす傾向がありました。私が懸念していることはこうです──今度も、振り子が振りも どすと期待してもいいのでしょうか?
▼もはや法治国家でない
【トム】おそらく振り子は存在しないのでしょう。
【ジョンソン】今日、チェイニーは、私たちに向かって、(1973年の)戦争権限法や、議会による諜報機関の監視などのために、大統領権限が殺〈そ〉がれていると説いています。これらの穏当な改革は、ニクソン政権期における不快きわまる憲法侵犯に対処するためになされたものなので、私にとって、彼の説教は笑止千万の印象を与えます。しかも、たいがいの改革は死産に終わっているのです。戦争権限法を妥当なものと認めた大統領はひとりとしていません。これは議会が定めた法律であり、私たちの統治理論によれば、紛れもない違憲立法でないかぎり、最終決定であるにもかかわらず、歴代大統領はそれに縛られないものとして振る舞ってきました。これでも、法治国家でしょうか? 違います。この国は違います。もはや違います。
【トム】たいてい私たちは、ソ連の崩壊とともに、本質的に言って、わが国の勝利をもって冷戦が終結したと信じています。私の友人が別の解釈を唱えています。彼が言うには、米国はソ連よりもずっと強大だったので、わが国の負債を他の国ぐにに転嫁する能力に長けていたのです。ソ連はそれができずに破綻しました。
私の質問はこうです──今、私たちは遅れてやってくる冷戦終結を目撃しているのでしょうか? たぶん、ふたつの超大国の双方とも、かの名高い歴史の屑篭に向かっていたのですが、違いはその歩みの速さだけにあったのではないでしょうか?
【ジョンソン】ソ連はわが国よりも貧しかったので、先に破綻したのであり、私たちが導きだした、話にならない傲慢な結論──わが方の戦勝、勝利──は見当違いであると私はいつも信じてきました。同じ理由──帝国版図の過剰拡張、過度の軍事優先主義、バビロニアに始まる帝国の歴史を研究する学者たちが究明してきた状況──により、どちらの側も冷戦に敗北したのだ、と私はつねづね考えてきました。私たちはミハイル・ゴルバチョフの功績を認めたことがありません。たいがいの歴史家は、自発的に降参した帝国はないと言うでしょう。私の考えつくかぎり、それをやってみた唯一の例が、彼の指導下のソ連だったのです。
【トム】結びの一言をお願いできますか?
【ジョンソン】私はこうした課題にまだまだ取り組んでいます。私の最初の試みは“Blowback”[『アメリカ帝国への復讐』]の出版でした。これは、私が米国における大掛かりなテロ攻撃をいささかなりとも予測するよりもずっと以前のことでした。この本は、21世紀の初頭における、さまざまな対外政策問題は──私は今でもまさしく同じように捉えているのですが──前世紀から引き継いだもの、ラテンアメリカにおけるわが国の強欲な活動から、また私たちがヴェトナム戦争の教訓を正しく学び損ねたことから、繰越勘定になってしまったものであると表明しています。
▼復讐の女神ネメシスの出番
“The Sorrows ofEmpire”[『アメリカ帝国の悲劇』]は、わが国の軍事優先主義を正面から解明しようとする企てでした。今、私たちは裕福で賢明な同盟諸国を──事実上、すべて──どれほど遠ざけてしまったのか、私はじっくり考えています。どれほど深く私たちは憎まれるようになったことか。これは、タレーラン[フランスの外交官(1754-1838)]的な意味で、回復不可能な類の間違いなのです。だから、私は、『ブローバック三部作』と想定するシリーズの第3巻の標題を“Nemesis”とする予定でいるのです。
ネメシスはギリシャの復讐の女神でした。彼女は、あまりにも傲慢になった人びと、自分にとらわれすぎて、すっかり慎ましさを失ってしまった人びとを追っかけます。いつも、一方の手に天秤──審判の日の象徴──を、他方の手に鞭〈むち〉を持つ、険しい姿として表現されています……
【トム】それでは、彼女が私たちを追っかけてくるとお考えですか?
【ジョンソン】おお、彼女はすでに到着していると私は信じています。彼女は出番をじっと待っていて、私たちはすぐにでも迎えいれようとしていると信じています。
[原文] Tomdispatch Interview: Chalmers Johnson on Our Fading Republic posted March 22, 2006 at 2:55 pm
http://www.nationinstitute.org/tomdispatch/index.mhtml?emx=x&pid=70576 Copyright 2006 Tomdispatch
[トム・ディスパッチ・インタビューTUP版バックナンバー] 速報549号 ハワード・ジン「帝国の拡大限界」
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/595 速報556号 ジェームズ・キャロル「蚊とハンマー」
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/602 速報558号 シンディ・シーハン「ブッシュ大統領の自滅」
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/604 速報563号 ホアン・コール(パート1)「ブッシュの戦争」
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/609 速報566号 ホアン・コール(パート2)「米軍のイラク撤退」
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/612 速報598号 マーク・ダナー「ブッシュの戦争の虚実」
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/647
[翻訳] 井上利男 /TUP
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