【openDemocracy特約】上海協力機構(SCO)は上海で6月15日、5周年記念の首脳会議を開いた。6ヶ国の加盟国(中国、ロシア、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、ウズベキスタン)と4ヶ国のオブザーバーのうち3ヶ国(イラン、パキスタン、モンゴル)の首脳が出席した。もう1ヶ国のオブザーバーであるインドは、ムルリ・デオラ石油・天然ガス相を派遣した。アフガニスタンのハミド・カルザイ大統領も特別ゲストとして参加した。
首脳会議終了後に出されたコミュニケは、SCO加盟国が「テロリズム、分裂主義、過激主義、違法な麻薬取引による脅威」と戦うという共有した責務を表明した。しかし、友好的な言葉と見せかけの団結は欺まん的である。
SCOは2005年7月、カザフスタンの新首都アスタナで開かれた首脳会議で、米国は中央アジアから兵力を引き揚げるべきであると宣言し、その時初めて、多くの人々にその存在を知られるようになった。数週間後、ウズベキスタンは米国に対し、米軍基地を2005年末までに閉鎖するよう求めた。キルギスタンは米国が支払っている米軍基地の賃貸料を100倍に引き上げるように要求した。
SCOの存在は、ロシアと中国が2005年8月、海上侵入阻止と上陸作戦の大規模な合同軍事演習を行ったことで一層目立った。加盟6ヶ国のうち、ロシアと中国しか海に面してはいないが、軍事演習はSCOの主催で行われた。
今年の首脳会議前にSCOの北京駐在の中国人の事務局長が、インド、パキスタン、モンゴルだけでなく、イランも今年の首脳会議で正式加盟国として認められるであろうと語ったことで、SCOの存在はさらに一般に知られるようになった。この発言は、事務局長が先にSCOは新しい加盟国を受け入れる法的な枠組みがないと言ったことと矛盾していた。
事務局長のこの発言に、イランのパルビズ・ダウーディ副大統領はモスクワで報道陣に対して、これはモスクワからテヘランまでの石油・ガス生産国の弧を形成することになるであろうと誇った。「核兵器を持ったOPEC」という話さえ出た。
今年の首脳会議では結局、SCOの加盟国は拡大しなかった。その代りに、加盟国拡大のための法的手続きの準備は整っていないという公式立場を確認した。胡錦濤主席とウラジミール・プーチン大統領は、イランの核問題についての2国間の共同声明で、加盟問題についてはとりあげなかった。ただこう述べている。「イランの核問題については、関係当事国は問題を外交交渉を通じて平和的に解決するために、好機を逃さないようにすべきである。当事国は接触と連係を維持するであろう」
そのゆえ、今年の首脳会議で起きなかったことのほうが、起きたことよりもっと重要なのである。特に、米帝国主義に対して、自国の利益を守ってくれるロシアと中国が率いる機構の加盟国になるというイランの夢は粉々に打ち砕かれた。
失望したのはイランだけではなかった。米国も加盟か、さもなければオブザーバーの申請をしたが、どちらも拒否された。
新しい地域バランス
SCOはとは何か、その起源は。
上海協力機構は2001年に6ヶ国における「分裂主義、原理主義、テロリズム」の害悪を撲滅するための組織として、設立された。それは、1996年にウズベキスタンを除いたSCOの加盟国によって設立された「上海ファイブ」にとって代わるものであった。その5ヶ国はソ連が崩壊し、中央アジアからロシア軍が撤退した時に残った国境問題を解決するために結集した。ウズベキスタンは中国と国境を接していない。
当初、上海ファイブと初期のSCOは基本的に中国の地域利益のイニシアチブと見なされていた。ロシアは余り関心がなかった。ふたつのことがあって、ロシアは関心を払うようになった。ひとつは、9・11テロとアフガニスタンにおけるタリバン政権の転覆の結果、米軍が中央アジアに駐留するようになり、熱心な米国の教化で同地域(特にウズベキスタン)の独裁者の間で西側に傾く動きが出たことである。
ふたつめは、ロシアは中国が石油・ガス部門の開発への巨額の投資など、ロシアの「失われた」ソ連時代の衛星国へ、大々的に進出していることに認識を高めたことである。人民解放軍部隊がカザフスタンの中国の油田を守っている。この油田から、ユーラシア大陸を西から東に初めて流れる。
遅くとも2002年まで、プーチンはSCOと中国のそれに対する野心を甘く見ていた。すべてが変わった。ロシア軍が中央アジアに戻ってきている。それは、中国の拡張主義の野望に対するプーチンの深い猜疑心の反映である。数万人の中国人の出稼ぎ労働者が中央アジアに入ってきている。多くの中国人がカザフスタンの国境を越えてロシアに入り込んでいる。カザフスタンとロシアの国境は穴だらけで、適切に守られていない。
プーチンは今やSCOを中央アジアをロシアの裏庭に再びするための一環として重要視している。SCOに加わっていない唯一の中央アジアの国であるトルクメニスタンが最近、2009年から中国にガスを供給する長期契約に調印した。プーチンは当局者に対し、数日のうちにウズベキスタンに行き、パイプラインが同国を通ることを認めないように説得するよう命令した。
2002年以来、プーチンはロシアが太平洋に面しているからアジアの国であると心に留めている。この「東への傾斜」はおかしな側面を持っている。国連におけるアジアの野心をロシアが支持すること、米国の国連改革の案、特に安保理の拡大、のペースを遅くするか阻止すること、次の国連事務総長はアジア出身であることを求めることなどである。
この最後の部分の目的は「SCO5周年宣言」に含まれている。これまでに擁立されているアジア出身の候補者はタイ、スリランカ、韓国出身で、インドが6月15日、国連事務次長を長年、務めてきたシャシ・タルールを擁立した。この関連で、プーチン自身が2008年に、世論と彼自身の政治的打算が許せば、3選を狙うであろうことを見過ごすべきではない。
真のパワーゲーム
SCOはどこへ行こうとしているのか。東のNATOになるのか。勢力関係における地殻変動を示しているのか。
加盟国を拡大しようとした中国の提案はロシアとインドに反対されたのではないか、とわたしは推測している。両国はそれぞれの理由があった。ロシアは、イランに関する交渉で、自国の影響力は米国、欧州連合、ロシア、中国の「カルテット」の枠組みの中で強く、独自のものになると思っている。中国が注目を浴びるようなロシア・中国チームの一部分とは思われたくないのである。インドとしては、米国との間でインドを核保有国として認めた核合意に調印したすぐ後で、米国の戦略的パートナーの加盟を拒否する機構に加わることによって、東に傾きすぎている見られたくないのである。
一方、ロシアは中国について広範な懸念を有している。中央アジアで米軍のプレゼンスを封じ込める合意を得たいま、また中央アジア諸国に独裁者のクラブに留まることを説得させたいま、SCOでのロシアの主な利益は中国の影響力の拡大を封じ込めることである。そうする能力には限界があるが、ロシアは、少なくともプーチンは、SCO内で積極的な役割を演じることで、より効果的にそうすることができると思っているのではないか。
この観点から、SCOの下でのロシアと中国の共同軍事演習は、新しい安全保障組織の始まりとしてではなく、それぞれの側にとって商業目的の役割を果たしていると見ることができる。ロシアにとっては中国への武器輸出を拡大する道具として、中国にとっては西側に、武器禁輸を続けていると穴を埋めるためにロシアと一緒にやっていくことになりますよとほのめかす機会を提供するものになる。この軍事協力は武器禁輸が解除されたら存続しないであろう。
SCOは大部分、中国が国境を安全にするために、中央アジアでの経済・政治的関与を改善する手段として続くであろう。ロシアはこれを止められない。旅回りのサーカス団よろしくプーチンと胡が世界を飛び回ってカメラの前で握手しまくっていることは、プーチンの中国の台頭に対する重大な憂慮と恐れと、中国の台頭を阻止しようとするロシアの取り組みに対する中国の懸念を覆い隠している。
上海協力機構は銀行取引や輸送の改善について、何十回の有益な会議を持つかもしれない。しかし、それらは「上海精神」につながることはない。政治的・戦略的意味においては、SCOはロシアと中国の間(他の加盟国、オブサーバーと西側の間)の力の均衡の要素としてよりも、両国間のパワーゲームにおける要素としてより重要になっている。
*デビッド・ウォール ケンブリッジ大学東洋学部アソシエイト・メンバー 英国王立国際問題研究所アソシエイト・フェロー
http://www.chathamhouse.org.uk/index.php?id=20&eid=19
本稿は独立オンライン雑誌www.opendemocracy.netに発表された。
原文
http://www.opendemocracy.net/globalization-institutions_government/shanghai_cooperation_3653.jsp
(翻訳 鳥居英晴)
|