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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2006年11月02日11時51分掲載
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安倍政権をどう見るか
揺らぐ「教育基本法」 安倍政権と東京地裁判決に注目 池田龍夫(ジャーナリスト)
安倍晋三氏が小泉純一郎氏からバトンを受けて自民党総裁に就いたのは、9月20日。翌21日に東京地裁は、「入学式などで日の丸に向かって起立し君が代斉唱を強要することは、思想・良心の自由を侵害する」として違憲・違法の判決を下した。この二つに特別な脈絡があるわけではないが、教育基本法改正に執念をみせる安倍新政権誕生(9・26)と重なった時点で「戦後教育」をめぐる諸テーマを検証し、問題点を提起したい。 「戦後レジーム(体制)からの脱却」を標榜する安倍政権は、真っ先に「教育基本法改正の成立」を狙っている。自公民改正案の“目玉”は、「愛国心」盛り込みのようだが、「教育の憲法」といわれる教育基本法改正を、国会の多数決で押し切られては“国家百年の計”を誤る。
▽「新しい歴史教科書をつくる会」の圧力
安倍内閣を支える閣僚・党人事を見ただけで、内閣の目指す方向が推察できる。新政策第一弾「教育再生」推進のため、「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」に名を連ねた人たちが登用されている。1997年に設立された「若手議員の会」の初代会長は中川昭一氏で、小泉内閣農水相から党政調会長に抜擢された。安倍晋三氏は同会事務局長として中川氏とコンビを組んだ同志だ。“従軍慰安婦放映”をめぐるNHKと朝日新聞の抗争が世上をにぎわせたが、その背景に中川、安倍両議員が介在していたことが指摘されている。 この「若手議員の会」は、敗戦前の植民地支配や侵略を認めることを「自虐史観」と決めつけ、「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書採択を支持するなど、「歴史認識論争」のブレーキ役を果たしてきた。同会メンバーでは、事務局次長だった下村博文氏が内閣官房副長官の要職に就き、高市早苗氏が沖縄・北方相として初入閣。過激発言が目立つ山谷えり子氏が教育再生担当・首相補佐官に起用されたことにも驚かされた。
このような布陣に加え、「教育再生会議」を新設して座長に野依良治・理化学研究所理事長(ノーベル化学賞受賞者)を指名し“安倍カラー”打ち出しを企図しているが、既存の文部科学省、中央教育審議会などとの意見調整が難航し、教育現場は却って混乱するのではなかろうか。さらに付け加えれば、保守系民間人で構成する“ブレーン政治”である。毎日(8・29朝刊)は「外交、教育政策を提言する有識者」として、「伊藤哲夫・日本政策研究センター所長、島田洋一・福井県立大教授、中西輝政・京大教授、西岡力・東京基督教大教授、八木秀次・高崎経済大教授」の5人を挙げ、新政権以前から何回も会合している事実を報じている。他の新聞・雑誌もほぼ同じ顔ぶれを紹介しており、岡崎久彦・元駐タイ大使、葛西敬之・JR東海会長らの名前も見受けられた。 中でも八木教授は「新しい歴史教科書をつくる会」の前会長、中西教授も有力メンバーであり、「改正案に『愛国心』明記」を要望する文書を政府与党に提出している(同会HPに記載)。また中川政調会長は伊吹派だが、文科相に派閥会長の伊吹文明氏が就任した。“教育基本法改正シフト”見え見えの布陣ではないか。
その伊吹大臣が初会見(9・26)で語った一部を紹介しておきたい。 「教育基本法自体は立派な法律だと思います。しかしこれはアメリカに持っていっても立派だし、ヨーロッパに持っていっても立派な法律なのです。やはり日本という国には日本の文化があり、伝統があり、総理の言葉の中にもあったように、祖先が試行錯誤の中で積み上げてきた社会の規範があります。……(武士は武士道、商人は商人道)こういうものが、現行の教育基本法の中には薄いのではないでしょうか。安倍総理の言っている『美しい国』は、美しい人間がなければできないわけですから、できるだけ早く教育基本法案を成立させる、ということです。しかしこれは、法案を通しても仏様を作っただけで、魂が入っていないわけだから、この法律を実効あるものにしていくために、教育の現場を含めた制度改革に手を付けていく、ということではないでしょうか」
欧米でも立派に通用する教育基本法を、拙速で改正しなければならない理由は一体何か?…まるで答えになっておらず、「とにかく改正して『愛国心』『家族の絆』『道徳心』を条文に盛り込もう」と画策しているとしか思えない。 現行基本法制定時(1947年3月)にも、「祖国思想(愛国心)」をめぐって論戦はあったが、答弁に立った高橋誠一郎文相は「『普遍的にしてしかも個性豊かな文化の創造を目指す』(前文)とありますのは、健全な国民、文化の創造、ひいては健全なる祖国愛の精神の涵養を含むものと考えます」と明快に答えている。全くその通りで、第一条(教育の目的)に明記された「教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたっとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない」との条文を忠実に実践すれば、自ずと「祖国愛の精神」は涵養できるのである。
▽「国旗・国歌強制の都教委通達は違憲」
「戦後レジームからの脱却」を掲げる安倍首相は、「日本丸」の舵を何処へ向けて切ろうとしているのだろうか。「戦前回帰」を目論んでいると言わないにしても、A級戦犯や靖国参拝などへの対応からみて、“右ウイング”が気懸かりである。 焦土から立ち上がり、60年築き上げてきた「戦後レジーム」にも、厳然と「文化と伝統」が存在する。戦後教育のどこに欠陥があったかを探ってみて、政府の教育介入と日教組の暗闘が「教育」を歪めてきた元凶との思いを深めた。学校現場混乱の被害者は児童・生徒なのに、権力側は反省どころか教師への監視を強化してきた。その象徴的な事例が、入学式などでの国旗掲揚、国歌斉唱を強要した東京都と都教委の争いだった。
都教委は2003年10月23日、都立学校の各校長に対し「卒業・入学式での国旗掲揚・国歌斉唱の実施」を強制する通達(『10・23通達』)を発令。これ以降、君が代斉唱時の不起立を理由に処分された教職員は、今春までに345人にのぼっている。全国でも突出した都教委の大量処分が教職員に与えた影響は大きく、暴走を食い止めるため04年1月末東京地裁に「予防訴訟」を起こした。9月21日の判決は、「『10・23通達』とそれに基づく職務命令は違憲・違法」と断じ、処分禁止を求めた。 判決理由の中で「我が国で日の丸、君が代は明治時代以降、第二次世界大戦終了までの間、皇国思想や軍国主義思想の精神的支柱として用いられてきたことは否定し難い歴史的事実で、国旗、国歌と規定された現在においても、なお国民の間で宗教的、政治的にみて価値中立的なものと認められるまでには至っていない」と述べ、「教育基本法第10条1項の『不当な支配』に当たり違法と解するのが正当」「(起立・斉唱を)拒否したとしても、それを制約することは憲法第19条(思想・良心の自由)に違反するものと解するのが相当だ」と述べている。
石原慎太郎知事は22日、「あの裁判官は学校現場を見ているのかね。規律を取り戻すには統一行動が必要。その一つが式典での国歌・国旗に対する敬意だ」と反論、都教委は29日控訴した。東京地裁は、現行法に照らして公正な判決を下したと言えるが、右傾化の時代状況からみて、教育現場の混乱を解消する道は険しい。
高橋哲哉東大教授が「現憲法と、教育の理念を定めた教育基本法の立法趣旨からすれば、ごくまっとうな判断であるように思える」と判決を評価したうえで、「判決を『異例』にせぬために」と題して朝日新聞(9・30朝刊)に寄稿した一文の意味を噛みしめたい。 「現憲法と教育基本法のもとでなら、強制を『不当な支配』として『違法』と断ずる審判がまだ可能だ。しかし、国民の自由と権利への制約を強める改憲や教育の主体を政府・行政に移す教育基本法改正案が通ってしまえば、そうした可能性そのものがなくなる。思想・良心の自由や教育の自由を大切に思う人たちに、今回の判決は『まだ希望はある』と感じさせた。だが、現在の政治の大きな流れが変わらなければ、この『画期的』な判決も過去の単なる一エピソードとなり、やがては忘れ去られてしまうだろう。民主主義が目指してきた姿が本当に『夢』になってしまわぬように、何ができるのか──。私たち一人ひとりが胸に問いかけてみたい」
(本稿は、「新聞通信調査会報」11月号に掲載された「プレスウォッチング」の転載です)
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