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2007年02月05日17時10分掲載
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検証・メディア
「憲法改正」促進に狙い 国民投票法案の問題点を考える 池田龍夫(ジャーナリスト)
2007年は、「日本国憲法」節目の年だ。施行から60年―主権在民・基本的人権・平和主義を骨格に組み立てられた憲法理念のもと、“平和で豊かなニッポン”を築き上げてきた国家像を再評価し、次代へ引き継いでいかなければならない。
年が明けても、イラク情勢の混沌、北朝鮮の核問題など難題は山積している。この時代状況に悪乗りするように、憲法改正の動きが顕在化してきた。昨年末の「教育基本法改正案」強行採決→成立の暴挙は、改憲へのワンステップとみられる。安倍晋三首相は、元旦付新聞に年頭所感を発表したが、その中で「新しい時代にふさわしい憲法を今こそ私たちの手で書き上げていくべきだ」と憲法改正の必要性を強調した。「自民党総裁2期6年の間に、改憲の実現」が執念の安倍政権は、1月末召集された通常国会中に、改憲手続きを定める「国民投票法案」の成立を目指す意向を示している。
国会や政府与党、野党の憲法問題への取り組みが国民にきちんと伝達されていない段階で、拙速の改憲は極めて危険であり、後世に禍根を残す恐れがある。国民一人ひとりが関心を持つべき重要課題だが、新聞は一連の動きについて十分な素材を提供し、問題点を指摘しているであろうか。正月紙面を見て、問題意識の欠如を感じたので、憲法問題の動きを検証したい。
「現行憲法の改正条項(第96条)に基づき、投票手続きを定める国民投票法案に過ぎない」と一般に流布されているが、“手続き法”の裏には恐るべき“落とし穴”が隠されている。原発立地やダム建設などにつき地方自治体で実施されている「住民投票」のように軽く受け止めている人も多いが、とんでもない錯覚である。国会に提出されている法案を精査すれば数々の問題点が浮かび上がる。
2006年通常国会終盤の5月26日、自民・公明与党が「国民投票法案」を上程、民主党も同日、内容では“九割一致”ともいわれる同工異曲の法案を提出。安倍新政権の臨時国会では審議が持ち越されたものの、今年1月25日開会の通常国会の最重要法案に位置づけられている。ところが、日本弁護士連合会をはじめ法律専門家・学者から法案条文の一部に疑義が指摘され、強引な立法を危惧する声が高まってきた。問題点は多々指摘されているが、主要点を探ると……。
▽「憲法審査会」や「広報協議会」に疑義
(1)「国民投票法案」後半に記載された「憲法改正発議のための国会法の一部改正」に、改憲の扉を開く国会手続きが明記されている。この「国会法改正」に警鐘を鳴らした論稿(井口秀作氏=『世界』06・11号)を紹介し、参考に供したい。
「憲法96条の規定によれば、憲法改正の国民投票の前提は、国会による発議である。現在の国会法には、国会の発議に関する規定がないため、憲法改正のためには国会法の改正も必要となる。今回提出された法案は与党案も民主党案も、『国民投票法』の制定と『憲法改正手続法案』と呼ぶべきものである(与党案の正式名称は、『日本国憲法の改正手続に関する法律案』である)
このような法案を『国民投票法案』と呼ぶことは、その基本的性格を曖昧にさせるものである。与党案も民主党案もその施行期日を『公布の日から起算して2年を経過した日』としながらも、国会法改正の部分だけは、『公布の日以後始めて招集される国会の招集の日』としていることからしても、法案の重点は国会法改正にあるともいえる。その中核は、憲法調査会を、憲法審査会に改組することにある。
法案によれば、設置の予定されている憲法審査会は、『日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的な調査』を行う権限を有するだけでなく、憲法改正案の原案(法案では、『憲法改正原案』)及び憲法改正手続に関する法律案についての審議権、議案提出権も与えられている。憲法調査会やその暫定的な後継機関である日本国憲法調査特別委員会と比べても、格段に大きな権限を付与されていることがわかる」。
「憲法審査会」は、現在の憲法調査特別委の構成(▽衆院=自民31・民主12・公明4・共産1・社民1・国民1▽参院=自民21・民主16・公明4・共産2・社民1・国民1)に準じたものになると予想できるから、自・公・民三党が圧倒的勢力を持つことになる。この「憲法審査会」は国会閉会中も開会できるので、改憲発議原案を早急に審議し、両院に「憲法改正原案」を提出することが可能となる。従って、憲法96条(国民投票)への改憲発議原案を絶対多数で押し切り、改憲の道筋をつけるために編み出された「国会法一部改正」であって、国民を騙す立法ではないか。
(2)憲法改正のための広報事務を行うため、「憲法改正案広報協議会」を設置する条文も重大だ。先の「憲法審査会」と同様、「広報協議会」も各党議員数の比率で構成されるから、公正中立の広報など所詮期待できまい。改憲反対派の意見も載せるというが、「改憲PR広報」を国民に配布し、本番の国民投票での過半数を狙う魂胆が透けて見える。
(3)「国民投票」の実施が決まった場合、国費(税金)で「政党による放送及び新聞広告」が出せるよう規定している点も重大だ。総選挙の際の新聞広告や政見放送と同じ制度だが、ここでも「議席比」で広告スペースや放送時間を決めるという。現在の議席比で試算すると自・公・民改憲賛成派と共・社改憲反対派の“宣伝枠”の差は『9対1』になり、改憲派が圧倒的に優位に立つ仕組みである。
国民投票運動の規制(公務員や教育者の運動禁止など)に当初盛り込まれていた「メディア規制」の縛りを緩めた点も見逃せない。一般論としてメディア規制は望ましくないが、“自由化”すると、メディアを利用する側の自由も認めざるを得ない。そうなると、資金力がある政党の有料コマーシャルが罷り通るに違いなく、“国民投票での意思表明”が資金力に左右されかねない危険がある。
▽「九条改正を許さぬ」決意を
国民投票年齢・投票用紙の記入方法・国民投票の対象範囲…等々につき与党と民主党の修正協議が進んでいるようだが、憲法審査会・広報協議会・公共広告などの問題点を大多数の国民が知らないまま法案が“一人歩き”する危険を感じる。そんな思いを抱いて正月紙面を点検したが、憲法問題に関する本格的社論を展開している新聞が見当たらなかった。
唯一、沖縄タイムスが国民投票法案に触れ、「野党第一党の民主党も政治理念の基本的部分が似通う点が多い。地方議会を含め総与党体制と映るところに“翼賛”的な空気が漂っているのは間違いなく、その意味では、政治と向き合う一人一人の姿勢が問われていると言わざるを得ない。『戦後レジーム(体制)からの脱却』と改憲ムードの中で右側に大きく舵が切られるのであれば、私たちは全力でその動きを正さねばならない。第二項を含む憲法九条はその試金石であり、国民の憲法意識が試されていることを肝に銘じたい」(1・3社説)との指摘に共感を覚えた。
自民党が一昨年、結党50年を機にまとめた「新憲法草案」から改憲への潮流が加速されてきた。憲法学者、長谷部恭男東大教授は、「9条に限らず『新憲法草案』全体を見渡して感じるのは、憲法を変えることで何を実現しようというのか、不明確なことだ。例えば、『公共の福祉』を『公益及び公の秩序』と変えている。しかし、裁判の場面では、対立する利害を比較考量することで公共の福祉の中身が問われる。言葉を言い換えてもそこは変わらないのに、言い換えの意味が不明だ。かえって、公益を強調しすぎれば、多数者が考える公共に反してでも本来守られるべき自由や権利があるのに、それが守られなくなりかねない懸念がある。……全体的に憲法の文字面を変えることが自己目的化している。憲法とは憲法典だけを指すのではない。そのまわりに慣行や判例があり、解釈や運用で継続的に変わりながら次の世代へ受け継いでいく性質の法だ。日本国憲法にも、国民がそれぞれ選び取ってきた歴史がある。いま、急いで字面をいじる必要性はないと思う」(朝日2005・10・29朝刊)と警告している。
通常国会で審議が始まった国民投票法案は「憲法改正への道を進むか否かの分岐点」との認識を持つ必要があろう。これまで、新聞各紙の報道が適切だったか。改憲案の狙いを厳しく検証し、独自の主張を明確に示してこなかったと思う。国民投票法案の審議は始まったばかりで、今からでも遅くはない。性根を据えて、「憲法」をめぐる諸問題に肉薄し、読者へ懇切な分析と情報を提示するよう望みたい。
*本稿は、「新聞通信調査会報」2月号に掲載された「プレスウォッチング」の転載です)
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