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2007年02月25日17時57分掲載
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中東
「審理無効」は勝利である イラク戦争派遣拒否のワタダ中尉の軍法会議(1)
2月5日から7日、米陸軍の将校として初めてイラクへの派遣を拒否したワタダ中尉の軍法会議が、米ワシントン州フォートルイスで開かれました。結果は、多くの人が驚いたように「審理無効」が宣言され、閉廷されました。軍法会議でいったい何が起こったのでしょうか。またその意味は何でしょうか。以下はカリフォルニア州オークランドの反戦軍人を支援する団体「抵抗する勇気」(Courage to Resist)のジェフ・パターソンの報告です。パターソン自身、米海兵隊伍長だった1990年、イラク攻撃準備のためのサウジアラビア派遣を拒否し軍法会議にかけられた経験があります。(TUP速報)
長文の報告のため第1部、第2部と二つに分けてお届けします。第2部には問題となった「訴訟上の合意」抄訳を添付しました。(訳注を[ ] で付けています。)
原題:ワタダ中尉、軍法会議審理無効は明らかに勝利である ジェフ・パターソン
ワシントン州フォート・ルイス発
イラクでの戦闘に対し公然と拒否した最初の陸軍将校エレン・ワタダ中尉の裁判で、紆余曲折のはてに陸軍主席検事スッコト・ヴァン・スウェリンジェン大尉は、気が進まぬながら審理無効を要求し、それを受け入れられた。
要するに、検察側[軍の検察] は、ワタダ中尉のイラクへの「移動不履行」と「将校・紳士にふさわしくない行為」2件に対し、へたくそな弁論を終えた日の翌日、弁護側の激しい反対にもかかわらず、「やりなおし」を要求した。そこで判事であるジョン・ヘッド中佐は、この法的「マリガン」[ゴルフでの打ち直し]を認めたのだ。
その根拠、判事の意図については、今後しばらく議論が起こりそうである。
ワタダ中尉の弁護人(軍人でなく文民)エリック・サイツは後にこのように述べた。「審理無効は、裁判終了になる可能性が非常に高い。再審は、もし行われたら、軍法及び該当判例法にいう「二重の危険」になるからだ。」軍が、新たに審理を再開・進行しようとするなら、「棄却」を求め、再度訴えられないようにするつもりだとサイツは述べ、「再審が行われるとはまず考えられない」と言った。軍任命の弁護人マーク・キム大尉も、サイツの考えに同意すると述べた。
「シアトル・ポスト・インテリジェンサー」紙に意見を求められたワシントン大学法律学教授のジョン・ジュンカーは、「“このやり方じゃいやだから、やり直せ”なんて途中で言うことはできない。被告側が再審に反対するとしたら、二重危険の可能性がある。これは憲法に根拠がある原則だ」[二重危険とは、同一犯罪で被告を再度裁判にかけること。合衆国憲法で禁止されている。日本の「一事不再審理」と全く同じ内容ではない]
▽頓挫したワタダ中尉の軍法会議
ワシントン州フォートルイスにおけるワタダ中尉の一般軍法会議は、月曜朝(2月5日)波乱のスタートをきった。開廷早々、弁護側申請をことごとく退けるヘッド判事の姿勢がきわだち、特にイラク戦争の違法性に関する問題に関する問題についての申請に対してはそうだった。サイツは、これらの決定に繰り返し異議を唱え、時にはそれを、ほとんど「こっけいな」ほどの「司法による違法行為」と呼んだほどだった。ヘッド判事はワタダ中尉の弁護全体が意味がないとあらかじめ決めていかのようだった。
ヘッド判事はまた、弁護側証人は、ただ1人の性格証人[被告の人柄、評判などを証言する] をのぞき、すべてを認めると決定した。その中には、プリンストン大学国際法・慣行を専門とする名誉教授リチャード・フォーク、憲法上の権利センター所長マイケル・ラトナー、前国連事務総長補佐デニス・ハリデー、著名なイラク戦争批判者ニューボールド将軍、下院議員ジョン・コンヤーズなどがいた。
5日午後の陪審選任の間に事態は面白い展開を見せ始めた。ほとんどの陪審予定者(「パネルメンバー」という)[これも軍人]は、すべて上級軍人で、ワタダ中尉の考えについてはメディアからの報道にもとづいて理解していたので、予想どおり懐疑的意見を表明した。ところがニコール・ホワイト大尉は、ワタダ中尉の決断について知ったとき「強い印象を受けた」と述べた。「つまり、ワタダ中尉は自分の信じることに対し忠実であると思えたからです。」 ヘッド判事は、幾分ショックを受けてこういった。「“強い印象を受けた”とはつまり“驚いた”と言っていいですか?」「はい、そうです」とホワイトは答えた。驚いたことに、彼女は陪審に選任された。
サイツは後で、フォートルイスの上級軍人の中から公正なパネル[陪審団] を選任することが、ほとんど不可能な難題であることを考えると、最終的に選任された陪審団に満足していたと述べた。
▽士気ある陸軍将校の良心の危機
検察側の冒頭陳述において、政府は「ワタダ中尉は自分の問題を公表することによって陸軍を裏切った。(彼は)部下が戦地に配置されているのに、彼自身はのうのうとオフィスにいた」と断言した。まったく異なった説明をしてみせたのは、被告側ではなく、検察側証人であった。
開廷にあたって、サイツははっきり述べている。「ワタダ中尉の発言や行為をめぐる問題で、[検察と弁護側の]事実に関する不一致はまったくない。ただ一つ、争点は、「なぜ」だ。彼の意図は何だったのか。真に証言を聞くべき証人は、ワタダ中尉その人だ。」 そして、どういう経過をたどって中尉が、士気あふれる青年将校からイラク戦争に公然と反対する厭戦将校になっていったかを説明した。
サイツは、2006年1月以降ワタダ中尉が辞職しようとしていたことを明らかにした。公式・非公式の書簡を数多く提出し、上官と1対1の面談を重ね、そのいずれにおいてもワタダ中尉はイラク戦争を確かな理由に基づいて違法と考えるのだと明確に主張し、その根拠を明らかにした。
そのあとの検察側の証人、ブルース・アントニア中佐は、ワタダ中尉が辞職しようとしていたこと、「不法な戦争に行くより刑務所へ行くことを選ぶ」という信念をもっていたことを事実だと認めた。アントニア中佐は、ワタダ中尉に対し最高司令官[ブッシュ大統領]が国民を欺いているということを確実には知り得ないと繰り返し言った。二人は「マンツーマン」で議論したが、最後にワタダ中尉は「これは私の信念、私の立場です」といって議論は終わった。
アントニア中佐は続けて、ワタダ中尉は2006年1月までは「勤勉で優秀な将校」であったと述べ、信念を明らかにした後も「信頼できる」人物であったと述べた。アントニア中佐のワタダ中尉に対する批判の力点は、意見を公表したことにあった。
アントニア中佐が、ワタダ中尉は自分の信念に「誠実であった」と述べたとき、検事のヴァン・スウェリンジェン大尉は自分の側の証人の証言に割って入って、「誠実さは[争点と] 関連性がない」と言い渡した。
アントニア中佐は、ワタダ中尉が決心を変えて「若気の過ちはしない」だろうと言って、辞職に反対した。
アントニア中佐は、イラクに派遣され、「バグダード地域の(暴徒の疑いのある)地域の掃討」にたずさわった。ワタダ中尉はアントニア中佐のもとでその任務遂行のため、情報作戦将校として勤務することになっていた。
▽言論に関する罪状を上積み
「ワタダ中尉がイラク行き飛行機に搭乗することを拒否した後になってから、言論に関する罪状が上積みされました」とサイツは陪審に説明した。「異議あり!」異議は認められた。サイツは続ける。「これからもう1人の証人[ワタダ中尉のこと]の話をお聞きいただきたいと思います。なぜなら明らかにここで私たちがなしうることはそれしかないからです。」「異議あり!」異議は認められた。
途中、ヘッド判事が介入した。「憲法に根拠をもつ問題は、ここでは無関係です。これは言論ではなく行為を問題にしているのです。」 ここで検察側はワタダ中尉のスピーチのビデオを法廷のプラズマディスプレーで見せた。
検察側証人のアントニアは、ワタダ中尉に対してこれらの声明を行わないようはっきり命令したことはないとすでに認めていた。それどころか、彼はワタダ中尉に対し、軍規則に違反せずに意見を公表する方法を教示してさえいた。つまり、礼儀正しく、制服を着ずに、基地外で、勤務時間外に、行うようにと。アントニアはさらに、メディアに出るときは、フォートルイス広報室に連絡するようにと命じた。ワタダ中尉は無論アントニアの指示すべてに従った。
これらの事実にもかかわらず、ワタダ中尉は、2006年6月7日にビデオ録画により行った最初の声明と、8月のシアトルの「平和を求める復員軍人全米会議」におけるスピーチに対し、禁固2年を求刑されている。フォートルイス広報室担当将校たちは、この間の調べに対し、一貫してワタダ中尉の声明発表には何の違反もないと述べている。
▽明白かつ現在の危険?
[表現の自由を制約する理論の一つ。表現が実質的害悪を生じる「明白かつ現在の危険」をもつときに限り、言論の規制が許されるとする。これは1919年の法廷意見で、その後1969年に「明白かつ切迫した危険」という基準が示され、違法な行動を直ちにとるよう呼びかけ、またそのような行動を誘発する可能性がかなりある場合のみ規制が許されると、表現の自由が広く保障されるようになった]
審理冒頭、検察側は、ワタダ中尉がイラク戦争に反対の立場で意見を公表したことは、中尉指揮下の部隊の「士気、忠誠心、戦闘能力に対する明白かつ現在の危険」であると述べ、検察側の証人たちはその趣旨の証言をするだろうと述べた。サイツは、これらの陳述を否認するであろうイラクの部隊メンバーを弁護側が見つけるため、1カ月の審理停止を要求したが退けられた。しかし、これは結局不必要だった。
アントニアが次のように述べたからだ。「ほんとうのことを言うと、ワタダ中尉の主張は(部隊に対して)大きな影響力をもちませんでした」また「士気を低めることも戦闘能力を減ずることもありませんでした。部隊に対し、マイナスの影響はまったくありませんでした」
この時、ヘッド判事はアントニア証人に次のように質問して検察側を有利にしようとした。「誰かが言うのを聞きませんでしたか、ワタダ中尉が・・」 サイツが割って入り、これは伝聞証拠を誘導する以外のなにものでもないと指摘し、「それは判事の役割ではないでしょう」とたしなめた。ヘッド判事は、質問を取り下げた。
フォートルイス戦闘部隊訓練センター所長のウィリアム・ジェイムズ中佐は、証人台に立ち次のように述べた。自分の意見では、「ワタダ中尉は、モラルに反し宣誓に違反する行動をしました」。 しかし、「もしある人が良心という立場にめざめ、その立場に立って行動するとしたら、その人はモラルに反していますか?」とサイツが質問すると、ジェイムズは「いいえ」と答えた。
最後に、検察側は、退役将校リチャード・スウェインを証人として立てた。スウェイン氏は、ウェストポイント[米陸軍士官学校]で「将校の行動規範」を教えている。予想通りスウェイン氏は、「宣誓は、軍務に服するための重要な第1歩です」と述べたが、予想に反して、将校は違法とみなす命令に従う義務はなく、またモラルに反するとみなす命令にも従う義務はないと続けた。「どのような結果を招こうとも、自らの良心の命ずるところを行わなければなりません。」
スウェイン氏は、辞職は、解決できないモラルの問題に対して将校のとるべき最後の手段ですと述べた。この発言で、火曜午後、検察側は弁論を終えた。
▽審理無効の前兆
昨週ワタダ中尉は、起訴理由となっている発言をした事実を、法に従って正式に認める同意書を作成した。その時、サイツはこう説明した。「われわれが、ワタダ中尉のこの言明に進んで同意するのは、彼が確かにそういう発言をしたからであり、またそうする権利があったからである。」 弁護側はまた、ワタダ中尉がイラク派遣のため搭乗を命令された飛行機に乗らなかったという事実についても同意した。
検察側の立証責任をかなり軽減するために、起訴内容「将校にふさわしくない行為」4件のうち2件が取り下げられた。軍側がこの訴訟上の合意を提案した意図は、ジャーナリストを法廷に召喚することに対して高まっている議論を検察に回避させることにあった。禁固6カ月の脅しをかけられながらも、オークランドのフリーの記者でラジオ番組制作者のセーラ・オルソンは、この召喚に対しジャーナリストとしての誠実性の根源に関わる問題として、全国的な反対運動の先頭に立った。「ジャーナリストをニュースソースに対する政府の起訴に加担するよう強制することは、合衆国憲法修正第1条[議会が宗教・言論・集会・請願などの自由に干渉することを禁じた条項] に反するのではないか? それが特に個人の政治的意見に関する事件であればなおさらのこと」とオルソンは広く掲載された記事に書いた。
検察側が訴訟上の合意文書を書いた後、ヘッド判事自ら、明確を期すためにと言って提案と表現の修正を示した。ワタダ中尉とフォートルイス司令官のジェームズ・デュビク中将の両者はこの合意に署名し承認した。この合意には、弁護側は申し立てに含まれる問題について議論する権利を留保すると明確に述べている(最も重要なのは「ニュルンベルグ弁護」である)。[ニュルンベルグ弁護とは、ナチスの戦争犯罪を裁いたニュルンベルグ裁判で被告側の「命令に従って行った行為は戦争犯罪に問われない」という主張で、ニュルンベルグ原則では完全に否定されている] サイツは、ワタダ中尉の正式事実審理前審問の間、これは「単なる法の適正手続きの問題」であると主張していた。
▽「違法な戦争」に関する議論を禁止したためジレンマに
皮肉なことに、違法な戦争に抵抗する意図を説明することで自分の行為を弁明しようとするワタダ中尉の試みを一切禁止するというヘッド判事の極端なやり方が結局は審理無効の引き金になったようである。
判事の根本的な問題は、ワタダ中尉に対しては、イラク戦争は違法であるという信念に基づいて自分の行為を弁明することを明瞭に禁ずる決定を下しておきながら、検察側に対しては、イラク戦争の違法性を公に主張したことを理由にワタダ中尉を起訴することを認めた点にある。今週の審理の途中でヘッド判事が何度も休止を入れていたのも、このジレンマを知的なやり方で解きほぐすためだったようである。
実際、1月4日の正式事実審理前審問において、ヘッド判事は、当時の主席検事キューカー大尉に対しこのように質問しなければならなかったほどである。「検察がこの件を立件しようとしているやり方では、この問題(戦争の違法性)が争点となってしまうのではないですか? 正面論争を避けようとして、裏口を開けてしまっているのではないですか?」「検察は動機を犯罪として起訴した」と、ヘッド判事が検察に言い渡したのは先月のことだった。(つづく)
(TUP/池田真里)
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