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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2007年06月18日00時11分掲載
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時事英語一口メモ
【28】「ゴルディロックス経済」と3匹のクマ
<A href="http://jijieigo.at.webry.info/200804/article_26.html" target="_blank">ブログ版</A>
インフレ指標が落ち着き、雇用や景況感の改善で市場の米国経済に対する楽観的な見方が強まっている。Barron’s Online(6月3日)に “No Sign of the Three Bears”(3匹のクマが現れる兆候なし)という見出しの記事があった。「3匹のクマ」は、“Goldilocks and the Three Bears”という童話からきている。「クマ」は経済用語では弱気筋を意味する。つまり、“Goldilocks economy”(ゴルディロックス経済)の状態にあるというわけだ。(鳥居英晴)
Goldilocksは物語に出てくる少女の名前。小文字では「金髪の娘」という意味がある。もともとは英国の口承民話で、1837年に文章化されて以降、世界中で出版されてきたbedtime storyである。日本では「三匹のクマ」という題名で知られているが、ゴルディロックスという名前はなじみがない。
「ゴルディロックス経済」については、武者陵司著『新帝国主義論』に注釈があるので、それを拝借する。
「ゴールディロックスとは英語の童話に出てくる主人公の少女で、三匹のクマさんの留守宅に迷い込み、お父さんクマのスープをtoo hotと言い、お母さんクマのスープをtoo coldと言い、子グマのスープをjust rightと言って子グマのスープを全部平らげたキャラクターである。ここからゴールディロックスとは、ほどほど、適度の経済状態を表す慣用句となり、多くのエコノミストに頻繁に使われるようになっている」
これに付け加えれば、少女はさらにいすに座ろうとし、Papa bearのいすはtoo hard, Mama bearのイスはtoo softと言い、Baby bearのいすはjust rightと言って座るが、壊してしまう。その後、2階の寝室へ行き、Papa bearのベッドはtoo hard, Mama bearのベッドはtoo softと言い、Baby bearのベッドはjust rightと言ってベッドで寝込んでしまう、というストーリーである。
少女が食べたのがporridgeであったり、プディングであったり、Papa bearとMama bearのいすやベッドがtoo big、too small、too wide、too high、too lowであったり、細部はさまざまなバリエーションがあるが、基本パターンは同じである。
Investopediaは“Goldilocks economy”について、次のように説明している。
An economy that is not so hot that it causes inflation, and not so cold that it causes a recession. This term is used to describe the U.S. economy of the mid- to late-1990s - it was "not too hot, not too cold, but just right."
(インフレを起こすほどhotではなく、不況を起こすほどcoldではない経済。「熱すぎず、寒すぎず、ちょうどいい」という1990年代中ごろから末までの米国経済を表す言葉として使われる)
ゴルディロックス経済は“just-right” economyと表現されることもある。日本語では「適温経済」と訳される場合もある。辞書には載っていないが、Goldilocksは経済に限らず、両極端でなくちょうどいい適度な状態を表す意味で使われている。
“Goldilocks economy”という言葉が経済の慣用句として広まったのは、クマがキャラクターとして登場しているからであろう。経済記事では、bearは“An investor who believes a stock or the overall market will decline”(相場が下がると予想する投資家)。”bearish”(弱気)という表現も使われる。これと反対なのがbull(雄牛)で、”One who believes the market will rise”(相場が上がると予想する人)を言う。強気は”bullish”。下げ相場は”bear market”、上げ相場は”bull market”。
Investopediaには、bullとbearの語源についてふたつの説が記されている。
The use of "bull" and "bear" to describe markets comes from the way in which each animal attacks its opponents. That is, a bull thrusts its horns up into the air, and a bear swipes its paws down.
雄牛とクマが相手を攻撃する際の格好を相場の動きにたとえた。雄牛は、角を下から上へ突き上げるようにして攻撃することから、強気派をbullと呼ぶようになった。これに対し、クマは立ちあがって、前足を上から下へ振り下ろして攻撃することから、弱気派をbearと呼ぶ。
もうひとつの説では、クマの毛皮の仲買人は、毛皮を入手する前に、あらかじめ買い手を見つけ、売る契約を結ぶshort seller(空売りをする人)であった。仲買人は狩猟の季節になって、ハンターから買う価格が、その価格より下がれば儲けがでる。These middlemen became known as bears, short for "bearskin jobbers", and the term stuck for describing a person who expects or hopes for a decrease in the market. (こうした仲買人は"bearskin jobbers"を短くした、bearsとして知られるようになり、相場が下がることを期待した人たちを指すようになった)
“Goldilocks economy”という言葉を最初に使ったのはDavid Shulman(UCLA Anderson Forecastのsenior economist)で、ソロモン・ブラザーズにいた当時の1992年3月に "The Goldilocks Economy: Keeping the Bears at Bay"(ゴルディロックス経済。クマを寄せ付けない)と題した論文だとされている。
“Goldilocks economy”という言葉は、”New economy”(ニューエコノミー)という1990年代後半から流行った概念に似たところがある。IT技術の革新による生産性の上昇によって、米国経済からは、従来の過熱、後退という景気循環が消滅してしまい、インフレなき長期景気拡大が実現したとする考え方である。
マサチューセッツ大学アマースト校の経済学doctoral candidate、Max Fraad WolffはAsia Times(2006年10月3日)で、次のように述べている。
It is a mutant form of the new economy conception popularized in the late 1990s.The United States does not have to save; it can run huge external imbalances forever; the Fed can endlessly run expansionary monetary policy; there are no equity, bond, or real-estate bubbles; and we can have rapid growth without inflation. Goldilocks adherents believe this is being done as we thread the needle between various risks.
(ゴルディロックス説は、1990年代末に流行ったニューエコノミー概念の突然変異種である。米国は貯蓄する必要はない。永久に膨大な対外赤字を続けていられる。連邦準備制度理事会は拡張的通貨政策を際限なく続けることができる。株、債券、不動産のバブルはない。インフレがない急成長を続けることができる。ゴルディロックス説の信奉者は、さまざまなリスクの間に針の糸を通すように、これらが成し遂げられつつあると信じている)
“Goldilocks economy”という言葉は、最近になって再びよく使われるようになっている。今年1月8日付の英紙フィナンシャル・タイムズは、“Goldilocks still defies the bears”(ゴルディロックスはまだクマに挑んでいる)という見出しの Deborah Brewsterと John Authersの記事を載せている。
Investment managers do not generally believe in fairy tales, but there is one that dominated all discussion as 2007 began. Unless a lot of investors are wrong, Goldilocks is alive and well and impervious to the bears who believe the US and world economies are on their way down.
(投資マネージャーたちは一般的に、おとぎ話を信じはしないが、2007年が始まって、議論の中心を占めているおとぎ話がある。多くの投資家が間違っていない限り、ゴルディロックスは健在だし、米国と世界経済が下降傾向にあるとする悲観的な見方には動じていない)
A “Goldilocks” is the now almost universal tag for an economy that slows down without going into a recession, bringing a moderation of inflation with it.
(「ゴルディロックス」は今や、成長速度が下がっても不況に陥らず、適度なインフレをもたらす経済を指す決まり文句として広く行きわたった用語になっている)
What is the greatest cause for worry? There are many. While there is a plausible case for the Goldilocks scenario, it would be easy for the economy to miss it in either direction (particularly if world politics springs an ugly surprise).
(最大の懸念材料は何か。たくさんある。ゴルディロックスのシナリオの通りになる可能性もあるが、そうならないで経済が過熱したり、冷え込んでしまうかもしれない。特に、国際政治が予想外の急展開をすれば)
But perhaps the most worrying sign is that so many people are confident that Goldilocks will survive her encounter with the bears. Ken Leech, chief investment officer of Western Asset Management, believes there will be a soft landing in the US economy next year. But if everyone thinks that, as they seem to, “then that might be a bad sign”.
(しかし何よりも心配なのは、ゴルディロックスがクマとはちあわせしても無事だと、あまりに多くの人たちが確信していることだ。Western Asset ManagementのKen Leech最高投資責任者は、米国経済は軟着陸すると見ている。しかし誰でもがそう思っているというのは「悪い兆候かもしれない」と言う)
スイス・ダボスで1月に開かれた世界経済フォーラムでカリフォルニア大学バークレー校の経済学教授、ラウラ・タイソンは、"Even with a U.S. slowdown, it should be another Goldilocks year for the global economy thanks to encouraging growth from Europe and Japan."(米国経済が減速したとしても、欧州と日本の成長のおかげで、ことしも世界経済はゴルディロックスの年になるであろう、と述べた)。
ブルームバーグ・ニュースのコラムニスト、アンディー・ムカジーの5月31日のコラムでは次のように使われている。
The global economy is in robust health; the U.S. subprime mortgage crisis seems to have blown over. According to Stephen Jen, Morgan Stanley's global head of currency research, the U.S. may be re-entering a Goldilocks phase of good growth and stable inflation.
(世界経済は非常に健全で、米国の信用度の低い借り手向けサブプライム住宅ローン危機も収束したもようだ。モルガン・スタンレーの通貨調査部長のスティーブ・ジェンは、米国が好成長、安定インフレのゴルディロックス経済に再び入っているのかもしれないと言う)
冒頭のBarron’sの“No Sign of the Three Bears”は次のような書き出しで始まっている。
Will the downturn in housing bring the U.S. economy down with it, causing either a growth recession (growth, but with rising unemployment), or an outright contraction? Or is the housing downturn providing -- in the Federal Reserve's view, at least -- a welcome brake on an economy that was beginning to exceed its inflationary speed limits? So far, at least, the answer is the latter. Based on the economic data released last week, the Goldilocks economy should suffer no extended visit from those three bears this year.
(住宅市場の軟調で、米国経済は成長の減退、成長はあっても失業が増大、あるいは完全な景気後退になるのか。あるいは、住宅市場の軟調は、少なくとも連邦準備制度理事会からみて、インフレの制限スピードを超え始めた経済にとって歓迎すべきブレーキとなっているのか。これまでのところ、少なくとも、答えは後者である。先週発表された経済データから見て、ゴルディロックス経済は今年、これらの3匹のクマの長期の訪問に見舞われることはない)
気になるのが上昇を続けている米国の長期金利である。株価に悪影響を与えるのではないかという懸念がある。The Star.comは6月15日、”Rising interest rates spoil `Goldilocks' market”(金利の上昇はゴルディロックス市場を害する)というBill Carriganの記事を流している。
So far, it has been a perfect Goldilocks environment for the equity markets: just right. The U.S. dollar was falling -- but not too fast. Interest rates were rising -- but not too fast. Inflation was rising -- but not too quickly and the U.S. economy was slowing -- but not too much.
(これまでのところ、株式市場にとっては完全なゴルディロックス環境であった。適度であった。ドルは下落していたが、速すぎなかった。金利は上昇していたが、速すぎなかった。物価は上昇していたが、急ではなかった。米国経済は減速していたが、過度ではなかった)
And finally, commodity prices were rising, but not to the point of slowing consumer spending. But many market participants forgot the key ingredient for the Goldilocks bull market -- low interest rates.
(商品価格は上がっていたが、消費者支出が減じるほどではなかった。しかし、多くの市場参加者はゴルディロックス市場にとっての重要な要素を忘れていた。低金利である)
Over the past two weeks the yield on the U.S. 10-year note has roared to near 5.25 percent, exacerbating jitters that the Federal Reserve Board would hike interest rates.
(過去2週間で米国の10年物国債利回りは5.25%近くまで上がり、連邦準備制度理事会が金利を引き上げるのではないかとの懸念を深めた)
For the moment, investors are getting comfortable with yields of just beyond 5 percent, but if they break above 5.5 percent Goldilocks will wake up and see the bears and run away.
(当面、投資家たちは5%ちょっとの利回りなら安心しているが、5.5%を超えるとゴルディロックスは目を覚まして、クマを見て、逃げ出してしまうだろう)
武者は『新帝国主義論』で、将来展望の類型として、インフレ説、ドル危機深化説、ゴルディロックス説の3つを挙げ、どれも説得力を持っていないとする。楽観論のゴルディロックス説については、貯蓄率の低下、債務の拡大、ドルの垂れ流しなど不均衡は空前絶後の水準に達しているのに、その是正を迫られることなくゴルディロックス・シナリオでいけるのか論理的な説明がなく、将来予測としては破綻していると論じている。
Wolffもゴルディロックス論者に注意喚起している。
Remember the Goldilocks story? Cool days and warm porridge lure Goldi into the bears' house. There are two endings to the fairly tale. In the friendly version, she wakes and flees in terror. In the harsher version, she is eaten by the bears. Either way, advocates of the Goldilocks economy may have much to learn from the fable they have invoked. It might be just right now, but there is trouble lurking in the near future. After all, the bears return in all the versions of the story.
(ゴルディロックスの話を覚えているであろうか。ゴルディロックスは寒さとオートミールに誘われて、クマの家に入り込んだ。この童話の結末には二つのバージョンがある。ほのぼのするバージョンでは、彼女は目覚めて、慌てて逃げる。怖いバージョンでは、彼女はクマに食べられてしまう。いずれにしろ、ゴルディロックス経済派は、この童話から学ぶことがたくさんあるかもしれない。今はちょうどいいかもしれない。しかし、問題は近い将来に待ち構えている。ともかく、どのバージョンでもクマたちは戻ってくるのである)
参考サイト 英語版
http://www.dltk-teach.com/rhymes/goldilocks_story.htm
http://www.manicmedia.biz/kidsbook/bears.html 日本語版
http://hukumusume.com/douwa/pc/world/06/22.htm
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4323036035.html
http://www.ghibli-museum.jp/exhibition/003670.html#more
http://www.anderson.ucla.edu/x16894.xml
http://www.investopedia.com/articles/basics/03/100303.asp
http://www.ft.com/cms/s/80c02734-9f46-11db-9e2e-0000779e2340,dwp_uuid=d8e9ac2a-30dc-11da-ac1b-00000e2511c8.html
http://www.atimes.com/atimes/Global_Economy/HJ03Dj01.html
http://online.barrons.com/google_login.html?url=http%3A%2F%2Fonline.barrons.com%2Farticle%2FSB118015937500315744.html%3Fmod%3Dgooglenews_barrons
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3びきのくま 金の星社刊
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