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日本企業を買いたたく外資ファンドを描いたNHKドラマ「ハゲタカ」がヒットし、日本でもハゲタカ・ファンドがよく知られる言葉になった。これはvulture fundの翻訳語だが、locust fund(イナゴ・ファンド)という言葉はドイツ生まれだ。(鳥居英晴)
英エコノミスト誌(6月28日)の“In the locust position”(イナゴの立場で)という見出しの記事は。日本の企業が株主総会でactivist shareholders(物言う株主)からの要求に直面していることを伝えている。
「イナゴ」という表現については、文中に少しだけ説明がある。
“Elsewhere activist shareholders have got firms to jettison assets or cut managers' pay. A senior German politician famously called them “locusts” in 2005.”
(他では、物言う株主は企業に資産を放棄させたり、経営陣の報酬を減らさせたりした。よく知られているように、ドイツのある有力政治家は2005年に彼らを「イナゴ」と呼んだ)
ドイツの政治家とは、副首相のフランツ・ミュンテフェリンクのことである。社会民主党党首であった2005年4月、新聞のインタビューで「一部の金融投資家たちは、彼らによって職をなくした人々のことに何ら考えを及ぼさない。彼らは匿名のまま顔を出さず、イナゴの大群のように企業に襲いかかり、食い尽くし、移って行く。われわれは資本主義のこのようなかたちに対して戦う」と述べた。
ミュンテフェリンクはその後、KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)、ブラックストーン、ゴールドマン・サックスなどの米国の投資会社、外国系プライベート・エクイティ会社、ドイツ銀行など12の会社を名指しした「イナゴ・リスト」を党内に配布した。
ミュンテフェリンクの資本主義批判は翌月のノルトライン・ヴェストファーレン州での議会選を前に、左派懐柔の意図があった。この発言をきっかけに、ドイツでは「資本主義批判論争」が巻き起こった。
また、「イナゴ」をたとえにした発言は、ナチスのレトリックと変わらないという激しい非難を浴びた。ミュンテフェリンクが名指しした会社のいくつかは、名前からみてユダヤ系であると認識できた。
当時のエコノミスト誌(同年5月5日)もこの発言を非難している。“German capitalism Bogus backlash”(ドイツ資本主義 八百長の反発)と題する記事は、投資家に対する攻撃は、ヒステリックで見当違いであるとしている。
The metaphor of the swarm of locusts devouring all in its path is as old as the Bible. But when politicians, particularly German ones, use it today to attack groups whose behaviour they don't like, it is hard not to be reminded of Nazi propaganda against “social parasites” and “blowflies”. Such comparisons, even though they are by no means signs of anti-Semitic thinking, are especially regrettable when uttered so close to the anniversary of the end of the second world war.
(行く先々を食い尽くすイナゴの大群のたとえは、聖書にもあるように昔からある。しかし、政治家が、特にドイツの政治家が、彼らが嫌いなグループを攻撃するために今日使うことは、「社会の寄生虫」「ハエ」に対するナチスの宣伝を思い起こさせる。そのようなたとえは、反ユダヤ主義の考えがまったくなかったとしても、第2次世界大戦の終結記念日が近い時に発せられたのは特に遺憾である)
ファンドは、出資の募集の方法により2つに分けられる。不特定多数の一般投資家に募集するファンドは公募ファンド(public offering fund)。特定少数の投資家に募集をするのは私募ファンド(private equity fund)。
投資対象や投資目的によって、その名前の呼び方が異なる。
バイアウト・ファンド(buyout fund)は、複数の機関投資家や個人投資家から集めた資金を事業会社や金融機関に投資し、同時にその企業の経営に深く関与して「企業価値を高めた後に売却」することで高い利回りを獲得することを目的としたファンド。
KKRやブラックストーンのような大きなprivate equity firmは上場されている会社の株を取得して経営権を握る。投資家を相手に時間と費用のかかる資金調達活動を行わずに手早く資金を集められるなどの理由から、自身の新規株式公開(IPO)を目指している。
ヘッジファンド(hedge fund)は、私募によって機関投資家や富裕層等から私的に大規模な資金を集め、デリバティブ(金融派生商品)を駆使したさまざまな手法で運用するファンド。
ウィキペディアは、バイアウト・ファンドをMBOファンド、買収ファンド、プライベート・エクイティ・ファンド、企業再生ファンド、ターンアラウンド・ファンド(turnaround fund)などと呼ばれているものの総称としている。
一方、shareholder activist fund、activist hedge fundは、いわゆる「モノ言う株主」。標的の会社の株式を大量に取得し、株主の価値を上げるよう経営者に圧力をかける。日本では「村上ファンド」が有名であった。
ハゲタカ・ファンドはバイアウト・ファンドをネガティブに表現したもので、Wikipediaは次のように説明している。
A vulture fund is a financial organization that specializes in buying securities in distressed environments, such as high-yield bonds in or near default, or equities that are in or near bankruptcy. As the name suggests, these funds are metaphorically like circling vultures patiently waiting to pick over the remains of a rapidly weakening company or, in the case of sovereign debt, debtor.
(ハゲタカ・ファンドは、行き詰まった環境にあるの証券、債務不履行の状態に近い高利回り債券、倒産状態の株券などを買収することを専門にする金融組織。名前が示すように、これらのファンドは急速に弱っている会社、国債の場合には、債務国の残り物を吟味するために忍耐強く上空で旋回しているハゲタカにたとえられる)
英フィナンシャル・タイムズ紙(6月17日)にあるように、「イナゴ」はヘッジファンドに対しても使われている。
Left-wingers in the Berlin coalition government continue to press for stronger measures to control hedge funds, which were famously described in 2005 by Franz Muentefering, then Social Democratic leader, as "locusts".
(ドイツ連立政権の左派は、2005年に当時、社会民主党の党首であったフランツ・ミュンテフェリングに「イナゴ」と言われたヘッジファンドを規制するためのより強力な措置を引き続き要求している)
ヘッジファンドをめぐっては、5月にドイツ・ポツダムで開かれた主要国(G8)財務相会合で、ドイツがcode of conduct(行動規範)の策定を主張した。しかし、米英両国が反対したため、警戒の姿勢を強化していくことで一致しただけで、本格的な規制は見送られた。
時事通信(5月19日)は、ドイツがヘッジファンド規制を主張する理由を次のように報じている。
ドイツは今年、G8議長国として、ヘッジファンドの監視強化を一貫して主張してきた。背景には、資金力に物を言わせるファンドへのドイツ特有の価値観がある。2年前、ロンドン証券取引所の買収をドイツ取引所が提案した際、大株主の英ヘッジファンドは提案撤回を要求。逆に大幅な増配を求め、取引所首脳を辞任に追い込んだ。これを機にドイツではファンドに対する警戒感が一気に高まった。当時の政権与党首脳は「よそ者」のヘッジファンドの強欲ぶりを指して「イナゴ」と表現。その後、イナゴは同国でファンドの代名詞となった。
「イナゴ」は最近、国家資産基金(SWF)に対しても使われている。
“Berlin defends its 'crown jewels'”(ドイツ、重要資産を守る)という見出しの英デーリー・テレグラフ紙(7月6日)の記事は次のように述べている。
Germany is drawing up detailed plans to stop strategic assets falling into the hands of "giant locust funds" controlled by Russia, China and Middle East governments. Finance minister Peer Steinbrueck said "telecoms, banks, post, logistics and energy" were among the sectors that would be shielded from sovereign wealth funds, the new state trusts that are fast swamping global asset markets.
(ドイツは戦略的資産が、ロシアや中国、中東の政府が支配している「巨大なイナゴ・ファンド」の手に落ちないように詳細な計画を策定している。ペール・シュタインブリュック財務相は、通信、銀行、郵便、物流、エネルギーは世界の資産市場を席巻している、国家の新しい基金である国家資産ファンドから守られる部門であると語った)
参考サイト
http://www.economist.com/business/displaystory.cfm?story_id=9414552
http://www.economist.com/displayStory.cfm?Story_id=3941015
http://www.spiegel.de/international/0,1518,354733,00.html
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