アメリカ国民の税金を湯水のように使ってイラク戦争を続行するブッシュ政権。世界一裕福なアメリカですが、先進国では世界で唯一国民健康保険制度がありません。6月下旬にマイケル・ムーアによるドキュメンタリー映画「Sicko(病人)」が初公開され、福祉制度の破綻に苦しむアメリカ庶民の実情が赤裸々に暴露されました。
またもや全米に大旋風を巻き起こしているマイケル・ムーアに「デモクラシー・ナウ!」のエイミー・グッドマンが6月18日(月)に一時間のインタビューを行いました。そのトランスクリプトの翻訳をお届けします。
このインタビューの映像の日本語版を、デモクラシー・ナウ!ジャパンのサイトで近日中に紹介する予定です。どうぞご覧下さい
http://democracynow.jp
また朝日ニュースターでは多分8月18日(土)にこの番組が字幕付きで放送が予定されていますので、ぜひご覧ください。
ちなみに「Sicko (病人)」は日本では8月25日に公開が予定されているそうです。公式サイトは http://sicko.gyao.jp/
翻訳:TUP・宮前 ゆかり
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エイミー・グッドマンによるマイケル・ムーアのインタビュー (2007年6月18日)
エイミー・グッドマン:マイケル・ムーアは多忙な毎日を過ごしています。アカデミー賞受賞映画監督の彼は、水曜日に米国連邦議会で証言を行い、その後国のヘルスケア システムについて民主・共和両党の大統領候補たちの関心を喚起するためにニューハンプシャー州に向かいます。
さらに、彼の最新ドキュメンタリー映画「Sicko(病人)」が来週何千もの映画館で初上映されることになっています。この映画は米国ヘルスケア システムを猛烈に告発するものです。この作品が焦点を当てているのは、健康保険を持たない4千万人以上の国民ではなく、実際に健康保険を持っているにも関わらず、何十年も支払いを続けてきた健康保険企業そのものに多くの人々が裏切られた2億5千万人以上の国民です。
昨日ここニューヨークのトリベカ・シネマ映画館でマイケル・ムーアにお話を聞きました。ここではグラウンドゼロ有毒汚染環境で作業した後に病気になった911作業者たちのための試写会がで開催され、その後不法行為改革推進グループ Center for Justice and Democracyの基金調達イベントを終えたばかりの彼に、まずこのフィルムに取り組むことになったきっかけについて質問しました。
マイケル・ムーア:実はね、僕は90年代に「TV Nation」というテレビ番 組をやってたんですけれど、レースをやったら面白いんじゃないかと考えたんです。それでフォート・ラウダデールの救急治療所、トロントの救急 治療所、ハバナの救急治療所にそれぞれカメラチームを送り込み、誰か骨折した人が担ぎこまれるのを待って、その人が受けた手当がどれだけ質の良い手当だったのか、どれだけ速かったか、どれだけ安かったのかを追跡 するというわけです。これをヘルスケア・オリンピックと名づけ、その実況放送をスポーツ・キャスター、ボブ・コスタとアフマッド・ラシャッド にやってもらうことにしました。つまり米国、カナダ、キューバのレースだったわけです。長い話をはしょると、結局キューバが勝ったのです。彼らは一番迅速で、質の高い手当を提供し、一銭もかからなかった。
その週にNBCに番組を送ったのですが、そしたら検閲から電話がかかってきました。その部署は「検閲」とは呼ばれてなくて「公認標準と実践慣例」と呼ばれています。で、そこの女の人から電話があった。彼女は「公認標準と実践慣例」部署のトップで、某博士という人でした。名前は忘れてしまいましたけど、とにかく「博士」が名前についていましたね。で彼女から電話で「キューバは勝てない」と言うんですよ。僕は「え?」と言った。 「キューバは勝てません」「でも、彼らが勝ったんですよ。勝てないってどういう意味ですか。彼らは勝ったんですから」「だめです。NBCではそういうことは言えないのです。うちではキューバが勝ったとは言えないのです」「だけど、彼らは勝ったんですよ。一番迅速な手当を提供し、一番安かった。しかも患者が喜んでました。骨折も直ったんです」「だめです。うちの規制に違反します」僕は「そう、でも僕は変更しませんから」と言いました。
それなのに、彼らはそれを変更したんです。彼らが変更したんですよ。2日後に放映されたときには、カナダが勝ったことになっていました。カナダは勝たなかったんです。もうちょっとで勝つところだったのですが、患者が帰る直前に松葉杖の分を15ドル請求しましたから。本当はキューバが勝ったのに、何が起きたか知らないけれどNBCでそれを言うことが禁止されているばかりに、今でもあの番組で「カナダがヘルスケア オリンピックに勝ちました」っていう部分を見た人たちがいると思うだけで、僕はすごくいらつくんだよね。
というわけで、僕はこの問題についてあの頃初めて考え始めたわけなんだけれど、その後「The Awful Truth」という次の番組で、健康保険を持っていたのに、その健康保険会社から命をとりとめるために必要な手術を承認してもらえない人物を追跡したんです。ケンタッキー州ルイスヴィルのHMO、Humanaの本社に彼を連れて行って、そこの重役に会いに行った。でも彼らは僕らを門前払いにしたのです。それでそこの芝生に出て、彼の前 で彼自身のお葬式を行いました。司祭、お棺、お棺を運ぶ人たちにも来てもらい、バグパイプで「Amazing Grace」を演奏して、正式のお葬式を始めたんです。それをビルの上から見ていた重役たちがびっくりして、これが全国のテレビで放映されることになったらとんでもないことになると思ったのですね。3日後に彼らはこの人に電話で「手術を承認します」と言ったのです。おかげで彼は今も生きています。
その時僕は「うわ〜、たった10分の番組で人の命を救えるんだったら、2時間の映画なら何ができるだろう」って考えた。と、まぁ、それがことの始りですね。この映画は一人一人の命を救う複数のお話という形にはならなかったけれど、でもこれをやり始めて、実際のシステムそのものについて考えるもっと大きなストーリーになっていったわけです。
エイミー・グッドマン:911作業員たちについて、そして病気になったこれらの人々と関わることになったいきさつについてお話してください。放映の映画の公開初日に先立ち、最初の試写会が病気になった911救急事態応答員たちを対象に開催されましたが、今私たちはそこから出てきたところです。
マイケル・ムーア:はい。そのとおりです。ここニューヨークにいる私たちは皆十分承知のとおり、911の救援作業のためにここにかけつけてくれた作業員の多くの人々は市の職員でもないし、州の職員でもなく、単にボランティアの人たちだったわけです。わざわざニュージャージーから救援に駆けつけてくれた人たちもいます。ニュージャージーのボランティア消防員の人たちもいれば、ボランティアの救急医療技術者の人たちもいましたが、皆救援のために来てくれたのです。その中には回復作業のために、現場に何ヶ月も滞在した人もいます。そして彼らは皆似たような病気になり、特に呼吸器官の病気で、それはここで呼吸した何かが原因なのですが、そんなときに、EPAとか、ジュリアーニとか、ここではすべて大丈夫だ、なんて宣言していたわけです。平気でどんどん吸いまくれば、ってな具合のことを言ってたわけ。実際には、今になって僕たちが知ったことですけど、ここは非常に有毒な環境だったのです。何百人、何千人もの人たちがあのときの有毒な空気を吸ったことが原因で病気になっているのです。
そんなときに、僕たちの政府自体がですよ、そして911基金が、彼らが市の職員じゃなかったからといって、これらのボランティアの人たちに何の手も差し伸べない、それって一体どういうことなんですか。彼らはあらゆる病気に悩まされ、中にはお医者にかかる費用や手術費用を払えない人たちもいる。必需品を買えない人たちがいる。クスリを買えない人たちがいる。健康保険を持っていないからです。で、彼らはもう仕事もできない、身体障害になっしまった。そうすると今度はメディケイドをもらうためにまた途方もない煩雑で無意味な手続きを繰り返さなければならない。これは何なんですか。彼らに何度も無理な試練を押し付けるなんて、こんなひどい話はないですよ。というわけで、彼らのうち何人かと知り合いになりました。
そんなこんながある同じ時期に、僕はC-SPANで見たんですけど、フリスト上院議員がグンタナモに出かけていたということで、わが国は拘禁者たちを非常に大切に扱っていて、そこでは最上級の囚人待遇が施されているっていうことを伝えたいからなんだそうです。そこでフリスト氏が特に強調したがっていたのは、ヘルスケアがどれだけ素晴らしいことかっていう点だったんです。
エイミー・グッドマン:フリスト医学博士。
マイケル・ムーア:はい。失礼しました。もちろんですとも。フリスト医学博士ね。で、そこにはもう一人別のお医者さんがいました。彼はそこでこれだけの結腸内視術が行われていますよというリストをずらーっと掲示したんですよ。それを聞いて僕がまず思いついたのは、「結腸内視だって?おいおい。あそこに収容されている拘禁者たちはほとんどが20歳代から30歳代の人たちじゃないか。結腸内視術なんて50歳を過ぎるまで必要じゃないわけだよ」これこそグンタナモで何かおかしなことが起こっていることを示唆する最初の手がかりになったはずです。でもね、エイミー、彼は拘禁者たちにどれだけの歯の掃除や根管治療をしたかというリストを持っていたのです。栄養カウンセリングもやってる。
エイミー・グッドマン:絶食中の囚人たちに強制的に食餌を施している事実については話がありましたか。
マイケル・ムーア:うん、そうだね、もちろんだ。それこそが彼らの言う「栄養カウンセリング」なんだよね。とにかく、彼はどんなに素晴らしい待遇があそこで施されているかって事を大々的に強調して、だから彼らのことを心配する必要はないと言っていた。もちろん、こういう皮肉は皮肉の上にさらに皮肉が重なる状況を生み出すわけです。それで僕は考えた。ここにはヘルスケアをまったく受けることのできない911の救援作業員たちがいるというのに、あそこでは無料の完全ヘルスケア、歯の治療から目の治療まで、そして栄養カウンセリングまで拘禁者たちに提供している。じゃあ、911の作業者たちをグアンタナモに連れて行って、そんなに自慢している無料ヘルスケアの一部でもやってもらえるかどうか試してみようじゃないかって考えたのです。というわけで、映画で観るように、ネタをここで全部明かすのはやめたいんだけど、とにかく僕たちはそれを実行することになる。
エイミー・グッドマン:どうやってそこへ行ったのですか。
マイケル・ムーア:う〜ん。話ができればしたいところだけどね。ご存知のように、僕がキューバに行ったということで、ブッシュ政権はこの旅行のことに関し現在僕を捜査しているわけだけど、僕はアメリカの領土であるとされるグアンタナモ湾に向かっていたわけで、実際にはアメリカから一歩も出ていないんだよね。僕たちは船に乗ってマイアミを出発し、アメリカの海域だとされているグアンタナモ湾に入ったわけです。もちろん、その、ご存知のとおり、結局は、僕たちは実際にはキューバの国にたどりつくわけですけれど。映画でご覧になるように、僕が連れ出した911救援作業員たちはキューバのお医者さんたちやキューバーの医療システムから素晴らしい治療を受けるんです。それなのに、僕は今や政府の捜査の対象になっちゃったんですよ。
ね、あなたも同じ目にあったでしょう。あなたも民事および刑事訴訟をつきつける手紙を受け取ったことがありますよね。
エイミー・グッドマン:ありません。
マイケル・ムーア:え〜っ。それはいくらなんでも不公平じゃないですか。あなたはエイミー・グッドマンでしょう。一番先に手紙をもらうべきじゃないですか。なんで僕のこといじめるわけ?というわけで、こういうことに巻き込まれている身の上なので、実際にどうやってあそこへ行ったかを公にしたくないんですけど。でも映画で僕は実際に船に乗って、実際にグアンタナモ湾に行きました。きっとグアンタナモ湾に乗り込んでいく人間 を実際に見たことのある人は誰もいないと思いますよ。だから、この映画で初めてそれを見ることができます。それに、僕が船長なんですよ。
エイミー・グッドマン:地雷とか地雷かもしれないと思われるようなものについて怖くはありませんでしたか。
マイケル・ムーア:はい。実際のところ、僕は湾内管轄線の米国側にある監視タワーから僕たちに銃口が向けられていることのほうがもっと怖かったですね。ここではっきり言えることは、キューバ政府はグアンタナモ湾に船で乗り込んでいくと言う僕のアイデアについてははた迷惑だと思っていたという点ですね。なぜなら、アメリカを挑発したり、アメリカがキューバを攻撃する口実を与えるような事故があっては困るからです。特に僕っていう人間をブッシュ氏があまり好きではないとキューバの人たちが感じているので、突如僕がグアンタナモ湾で彼らの鼻をつまむようなことをしたら、何が起きてもおかしくないですから。それで湾内のアメリカ海域に近づくためにキューバ側の海域を使わせてもらえるように、キューバの人たちによくよく説得をしました。
エイミー・グッドマン:その地域には地雷がしいてありますか?
マイケル・ムーア:ええ、そのように言われていますね。そうですね。彼らによればキューバ人がそこへ近寄れないように、アメリカがそこに地雷をしかけたと信じていますね。キューバの人たちについては知りませんが。
エイミー・グッドマン:キューバ人はグアンタナモの牢獄に侵入しようとしているのですか?
マイケル・ムーア:侵入ね。う〜ん。おいおい、米国軍隊の行動を僕に説明させるような質問はしないでくれよ。キューバのことはよく知らないので、こんなことを言いたくはないのですが、僕たちがあちらにいる間の経験では、アメリカが実際にまた彼らを侵略したとしても、最低限あのルートに関しては、キューバにそれほど巨大な防衛力があるようには思えませんでしたね。でももしアメリカがそんなことをしようとした場合に備えて、何か計画はあるだろうと思いますけれどね。
エイミー・グッドマン:あなたがキューバに連れて行った救援隊員の人たちですが、あちらでのヘルスケア システムについてお話ください。
マイケル・ムーア:彼らが「町のどの一角にも必ずお医者が一人いる」というのは単なる宣伝文句ではありません。いや〜、ホントに、キューバでは本当に僕たちよりもたくさんのお医者さんがいるんですよ。アメリカではもう長いことお医者さんが不足していますが、それはAMAが医学校の学生を増やしたくないからにすぎません。つまり、お医者さんの数を少なくしておけば、お医者さんがもっとお金儲けができるからで、もっとたくさんのお医者がいると分け前が減るからなんですね。
それに比べ、キューバのお医者さんたち、キューバのヘルスケア システムには感激しました。僕たちがあそこに連れて行った人たちは皆受けた治療についてとても満足していましたよ。でも彼らは予防にもっと力を入れています。そうすることによってヘルスケアにそれほどお金をかけなくてもすむからなのです。彼らはお金はそれほどありません。ご存知のようにとても貧しい国ですから。それでも僕はとても感動しましたね。ヘルスケアシステムで使える力が本当にわずかでありながら、僕たちよりずっと長生きしています。彼らは僕たちの国より乳児死亡率が少ないのです。様々な面で僕たちと同等か上なのです。
エイミー・グッドマン:オスカー受賞映画監督マイケル・ムーアでした。ブレークの後、彼は候補者について、民主党大統領候補たちとヘルスケアに対する彼らの立場についてお話してもらいます。
[ブレーク]
エイミー・グッドマン:アカデミー賞受賞映画監督マイケル・ムーアのインタビューに戻ります。彼の新作映画「Sicko」は来週から何千もの映画館で初公開されることになっています。私は彼に米国のヘルスケアの質が世界で37番目である点について質問しました。
マイケル・ムーア:そうです。僕たちの国はコスタリカの下ですがスロバニアよりは上です。これは世界健康組織によるランク付けです。地上で一番豊かな国が37番目に位置するなんて、まったくどうしようもないですね。
エイミー・グッドマン:マイケル・ムーアさん、あなたは3カ国、いや、実際には4カ国の調査をしましたね、フランス、イギリス、キューバで時間を過ごした後、カナダの親戚を訪問したのですね。
マイケル・ムーア:そうです。
エイミー・グッドマン:これらの地域について、それぞれ何があるのかお話してください。例えば、あなたはイギリスの国会議員、トニー・ベンに話を聞きました。彼らの持つシステムは何か、そしてそれはどのように始まったのか、話してください。それから私たちのシステムがどのようにして現在の形をとるようになったのか話を進めましょう。
マイケル・ムーア:OK。そうですね。カナダ人。彼らは国民全員が保障される非常に優秀なシステムを持っていて、あそこの人々はとても満足しています。基本として、何も払わなくていいのです。自分でお医者を選ぶことができますし、病院に行く必要がある場合は、自分で病院を選びます。選択の自由があるのです。ここでカナダのシステムを批判する人たちがよく使うセリフがあるね。「あ〜、カナダ人かぁ、あんたらは膝の手術するのに長い列を作って何週間も何週間も待たなければならないんだろう。アメリカでは全然待たなくても済むんだぜ」僕がこういうセリフを聞いて思うことは、皆で分かち合うためには、時には待たなくてはならないこともあるんだってこと。待つということは、アメリカ人の考え方にはないのかもしれない。「今すぐ欲しいんだっ!」でもね、僕も前から言っているように、皆でパイを分け合うためには、一番最初のスライスをもらって待たなくて済むこともあれば、三番目のスライスをもらうまで、または最後のスライスをもらうまで待たなくてはならないかもしれないっていうことなんだと思う。でも大切なことは皆がスライスをもらえるっていうことなんだよ。それはこの国ではありえないことなんだね。
イギリスのシステムは政府が所有しているシステムで、政府が病院を所有し経営し、政府がお医者を雇用しているんです。彼らは政府の仕事をしているわけなので、イギリスでは国が所有し経営し規制するプログラムなのです。これもまたすべて無料なわけです。映画で病院が出てきますけど、人々は非常に満足しています。これらの国に旅行したことのある人で、カナダの病院やイギリスの病院に行かなければならない経験をしたことのあ る人を知っているなら聞いてみたら良いでしょう。この映画に出てくる女性も言ってますが、彼女は汚らしいひどい病院、ディケンズの小説に出てくるような、ソ連かどこかのような暗い場所を想像していたのに、行ってみたら「あら、素晴らしいわ」
フランスは一番優秀なわけではないかもしれないけれど、僕たちが見た中では最優秀に近いでしょう。
エイミー・グッドマン:イギリスですが、クリップを見てみましょう。
マイケル・ムーア:この人は足首をくじいたんです。どのくらいかかるのでしょうか。終わったらものすごい請求書が来るのでしょうね。
国民健康システムの病院事務員:ここではそんなことはありません。すべて無料です。
マイケル・ムーア:僕は病院代について聞いているんですよ。あなたは笑ってるんですか。保険があったとしても、どこかで請求書が出るはずでしょう。その赤ちゃんはいくら請求されましたか?
新しい父親:全然なしです。すべて国民健康システムでまかなわれているんです。
新しい母親:これは国民健康システムですから。
新しい父親:アメリカじゃないからね。
マイケル・ムーア:では、ここは病院での滞在を終えた人たちが請求書の支払いに来るところなんですね。
国民健康システムの病院事務員:いいえ。ここは国民健康システムの病院ですから、請求の支払いはありません。
マイケル・ムーア:請求書の支払いをしなくてもいいなら、なぜ「キャッシャー」窓口がここにあるのですか。
国民健康システムの病院事務員:ここは交通費を払い戻しする場所だということです。
マイケル・ムーア:イギリスの病院ではキャッシャーの窓口にお金が入っていくのではなく、お金が出てくるわけです。
マイケル・ムーア:そうなんですよ。僕がイギリス人たちに、これやらあれ、何でもどのくらい払うのかと聞くたびに、火星人か何かを見るような目つきで僕を見るんですよ。
エイミー・グッドマン:マイケル・ムーアにお話を伺っているところです。この国のシステムがどのような経過をたどって今のようになったのかお話してください。
マイケル・ムーア:そうですね。僕の祖父は田舎のお医者だったんです。彼はカナダの出身でした。彼は1800年代後半に医学校に行きましたが、当時はそれは1年間だけだったんですよ。当時知っていることはそれくらいだったのでしょう。それを1年で教えることができたわけです。というわけで、僕が育ったのは小さな村で、僕の母も祖父もそこの出身なのですが、そこではお医者への支払いは卵や牛乳、ニワトリとかそういうものだった のです。お医者というのは当時大きな収入にはなりませんでした。地元のお医者だから、適当に豊かではあったけれど、コミュニティ内でのお金持 ちではなかった。
僕たちは正しいことだから人々に治療を施すんだという考え方から遠ざかってしまったのです。僕が生まれた病院は尼さんたちが経営していました。尼さんたちは収益をあげてウォールストリートに投資するためにその仕事をしていたのではありません。彼女たちは病院を開いて赤ちゃんの出産を手伝うことで神に仕え人類のために奉仕するのが自分たちの義務だと考えて仕事に取り組んだのです。僕たちはそのような考えからものすごく遠ざかってしまいました。どこかで利益と欲がこの世界に入り込んでしまったのです。
この映画ではHMOが実際に生まれたある日付を突き止めました。とてもラッキーだったと思います。この映画のために僕の事務所で仕事をしてくれた23歳のリサーチャーがいたんですが、彼は確かジェレミー・スケーヒルから推薦された人物だと思うので、この映画も今に至るまでデモクラシーナウ!とのつながりがありますね。とにかく、彼はあるウォーターゲートのテープを発見したのです。これはウォーターゲート自体とは全然関係 ないのですが、アーカイブ、国立アーカイブで見つけたニクソンのテープの一部で、ニクソンとエーリッヒマンとがHMOの考え方を支持するかどうか相談している部分なのです。エーリッヒマンがニクソンにこう言っているんですよ。「きっとお気に召すと思います。これは私有企業の事業ですから。これは無料サービスとは違います。」ニクソンはそれに対し「そうか。それはいいな。説明してくれないか」するとエーリッヒマンが「HMOはこういう仕組みになっています。これは治療の提供を減らすことでより多くの利益をあげるわけです。患者に提供する治療を減らす分、会社が儲かるというわけです」ニクソンはそれに対し「おお、悪くないな。」そういうやりとりが全部テープに収まっていたのです。
エイミー・グッドマン:彼らはカイザー・パーマネンテのことを話しているんですね。
マイケル・ムーア:そう。
エイミー・グッドマン:ニクソンはカイザーに会ったと言ってます。
マイケル・ムーア:そうそう。エドガー・カイザー。
エイミー・グッドマン:説明してもらうために彼はカイザーを招待したのですね。
マイケル・ムーア:そうです。彼を招待して、すべて、どういうふうにこの計画が実行されるかを説明してもらったわけです。エーリッヒマンとニクソンは両手をすりあわせるように「これは、いいぞ」と期待を示していた。その直後、次の日にニクソンは新しいヘルスケア プログラムを発表したのです。もちろんそれにはカイザー パーマネンテが望んでいたようなHMOが含まれる内容でした。この様子がすべてこの映画に入っています。 ジョージ君がこれを見つけてもってきたとき、僕は「なぜ、何もかもがニクソンに由来するわけ?」って思いましたね。いろんなことの責任がニクソンの足元につみあがっているのは本当だけど、HMOでさえもそうなの? 究極的には、彼が今僕たちが真っ只中にある利益追求の強欲地獄を作った張本人だっていうわけなの?答えは「そのとおり」。
これらの健康保険会社は、もう、健康関連企業のハリバートンだと言えるでしょう。彼らは人殺ししてものうのうとしていられるんだからね。どれだけふっかけてもいいわけだし、政府の規制もないし。率直に言って、こういう私営の保険企業をすっかり排除しない限り僕らのシステムを正すことはできないですよ。ホント、彼らを実際に排除する必要があります。彼らの存在そのものがこの国では許されるべきではないのです。
エイミー・グッドマン: 健康保険会社に指を向けた、いえ、自分の指を提供したアメリカ人について話してください。
マイケル・ムーア:そう、実際に指そのものです。
マイケル・ムーア:これはリックさんです。
リック:僕は木の板を切っていた最中にここをつかんだときにノブを押してしまったんです。
マイケル・ムーア: 彼は二本分の指先を切ってしまいました。
リック:それはあっという間の出来事でした。
マイケル・ムーア:最初に考えたことは?
リック:僕は保険がないので、いくらかかるのかなって。
マイケル・ムーア:病院は彼に選択肢を提示しました。中指を接続するには6万ドル、薬指だったら1万2千ドル。ロマンチストのリックは指輪をはめる薬指のためにバーゲン価格の1万2千ドルを選びました。彼の中指の指先は今オレゴン州の埋め立てゴミ処理場を新しい住処としていることでしょう。
リック:よく年寄りが指を外すふりをしてみせるトリックがあるけど、あれをホントにやってみせることができるよ。
マイケル・ムーア:まったく、もし彼が2、3時間北に行ったカナダに住んでいたとしたら、そういう選択を求める質問はまったくされなかったでしょう。彼は決してそういう決断を下す必要はなかったはずです。この映画の後のほうに出てくる場面がありますが、指を5本とも切ってしまったカナダ人がすぐに全部の指の接続手術をして、それには一銭もかからないんです。これも多くの皮肉な状況の例のひとつにすぎないわけですが、世界で一番豊かな国に住んでいる僕たちがこんな苦難を経験しなければならないのです。
エイミー・グッドマン:この国の人たちはどうして他の国で提供されているシステムについて理解できないのか、このような状況が不自然だということをなぜ理解できないのでしょうか。本来当たり前のことなのですし、現状を変える方法もあるのに。政府やメディア、そして保険会社はどのようにして代替システムから国民をこれほど隔離しているのでしょうか。
マイケル・ムーア:強制的に押し付けられた無知ですね。「アメリカ人を無知無能にしておく」という方針です。教育システムにせよ、主流メディアにせよ、他の国で何が起きているのかをアメリカの国民には絶対知らせないようにしているのです。僕らはアメリカ以外の世界で何が起きているのかまったく知らない。ごく最近になって、カナダやメキシコに旅行するにはパスポートが必要になったけど、それまではこの国の80%以上の国民がパスポートを持っていなかったんですよ。この国の人は一般的に旅行をしないから、ほとんど何も知らないんです。僕の映画でも指摘しているんだけど、高校卒業生に地球儀で英国がどこにあるか探せと言うと、65%の高校生がそれを見つけられなかった。65%が英国を地球儀上で見つけられないんですよ。11%がアメリカ合衆国を地球儀の上で見つけられない。18歳から25歳までの人口の11%がですよ。ナショナル・ジオグラフィックの調査の結果です。OK、あの〜、僕らは問題のある国を抱えております。だって僕らは世界のほかの国のことを知ろうともしないんだもの。例えばね、普通のアメリカ人にカナダの首相が誰か聞いてみてごらん。本気で。いえ、僕はどこかの僻地に住んでるぼんやりした田舎者たちに質問しろって言っているのではないんですよ。普通の人たち、例えば、ほら、今この部屋にいる人たちを見回してみて、この連中ね、もちろんこの人たちは意識も高いし、ニュースも追っているし、あなたと仕事しているわけだからね。でもね、ここで僕にカナダの首相が誰かという質問に応えられる人がいますか?
ジョン・ハミルトン:ハーパー。
マイケル・ムーア:うわ〜、それはいい。
エイミー・グッドマン:それに、ここにいるカナダ人には質問しませんで したからね。
マイケル・ムーア:そう。僕はカナダ人の目を避けてました。ところで、カナダ人と目を直接合わせるのはご法度なんですよ。分かりましたか?それにしても、このラジオを今聴いている人たち、テレビを見ている人たちのほとんどが、「う〜ん、知らないや」って多分言っているんじゃないかな。アメリカ人のほとんどが隣の国に住んでいる人たちのことを知りません。こういう簡単なことも知らないとしたら、その国のヘルスケアシステムのことなど知るはずがありません。そしてもし何か知っていることがあるとしたら、カナダ人、イギリス人、フランス人などについて押し付けられてきた真っ赤な嘘ばかりです。
エイミー・グッドマン:あなたはヒラリー・クリントンについて、彼女がビル・クリントン大統領のもとで試みようとしたことについて触れていますね。彼女が何を試みたのかを説明してください。
マイケル・ムーア:そうですね。彼女は14年前にとても勇気のあることを試みたと思います。彼女は皆のためのヘルスヘアがあるべきだ、既存症状に対する制限をなくすべきだ、収入の高低によらず、職種によらず、なんであれ皆が保障されるべきだと発言しました。彼女の行動は大変大胆なものでした。その結果として彼女はめちゃくちゃにされてしまったのです。いいですか、彼女をくいとめるために彼らは1億ドルのお金をかけたんですからね。
エイミー・グッドマン:それでも巨大な保険会社は気に入っていたわけですよね。なぜなら彼女はビッグ・ファイブ企業を保護しようとしたからです。彼女が保険会社をすっかり排除したら、単一支払い制度をアメリカ国民にもっと明確に説明することができたはずだという意見があります。
マイケル・ムーア:それが彼女の間違いだったのです。彼女は丸ごと取り組むことを怠った、この問題でやらなければならないことすべてを最後まで追求しなかった。実際に、同じ問題だったわけです。もうひとつの例をあげるなら、民主党がね、もう、ドリルでももっていって奴らの、この、もう、何かしてやりたくなっちゃうでしょう。だって、彼らの心は、まぁ、まともなところに行っているんだけど。分かる?それとおんなじで、ヒラ リーの心も正しいところにあると思う。ね、彼女はアメリカ国民みんなを保障したいと考えているんだけど、でも保険企業を根本的に排除することができないんだったら、じゃあ、ちょっとした取引でもしましょうか、というわけですよ。それって今エドワードが提案しているのに似ています。それはアル・ゴアが2000年の選挙で、フロリダ州全体の票を数えるように要求する代わりに、民主党のカウンティの票だけ数えようとした、そうすれば自分たちに有利な票が取れると思ったのでしょうけど、そういうこととおんなじです。いい加減にしろってんだ。何で、いつも、こういう中途半端なことするんだろうね。そのおかげで僕たちの事態がもっと悪くなってしまったんだよ。
とにかく、ヒラリーのことでちょっと話を先へ飛ばすけど、彼女は、少なくとも去年の議会で、リック・サントロムに次いでヘルス企業から受け取っている献金金額は第二位を占めていました。彼はもういませんから、現在彼女がナンバーワンかもしれません。彼女はこのように、企業が彼女のポケットに入り込み、彼女が彼らのポケットに入り込んでいる、そのような姿を見るのは残念でなりません。彼女にはあまり期待していません。
エイミー・グッドマン:代替案を押し出しているとあなたが感じるような大統領候補はいますか?
マイケル・ムーア:う〜ん。そうですね。まず、エドワード以外は誰も特に何かはっきりした実際のプランを出していませんからね。エドワードの計画は良くないですし。オバマの計画は特にはっきりしていませんし、エドワードやヒラリーの古い計画と同じような欠点がたくさん盛り込まれているんです。クシニッチのが正しいアイデアに一番近いと思うけど、でも彼はまた「非営利」とかそういう言葉を使ってますからね。僕はその言葉はもう使いたくないです。デニスもそれを使わないでほしいな。なぜかというと、カイザー・パーマネンテは非営利組織です。ブルークロスは非営利組織です。
エイミー・グッドマン:実際にあなたを批判している「サクラメント・ビー」紙によると「カイザー・パーマネンテは非営利組織だということが分からないのか。なぜこれが営利企業だというのだ」と書いていますね。
マイケル・ムーア:う〜ん。いや、確かにそうなんですよ。営利組織だとかそういうことだけじゃないわけです。だから僕は究極的には、それが営利組織か非営利組織かを問わず、私営保険会社には一切関わって欲しくないという言い方をするんです。なぜかというと「利益」という場合、外見は非営利のふりをしていながら実は金儲けが目的の巨大な非営利組織があるからです。彼らは自分たちと重役たちのための金儲けだけが目的で、彼らの収入は汚らわしいくらいなんですから。だから僕はすべての私営保険会社の全面的排除を希望するわけです。クシニッチがそこまで行くかどうかは分からない。これまで読んだ法案のどれも、私営保険会社が何らかの形で関わることを許すようなコンポーネントが入っているので、僕の考えるところまで達するかどうか分からない。
エイミー・グッドマン:あなたは単一支払い方式のことを言っているのですね。
マイケル・ムーア:そうです。
エイミー・グッドマン: 単一支払い制度と普遍的保障制度とは違いがあるのですか。
マイケル・ムーア:そうです。もちろん、違いがあります。なぜならば、まず、言わせてもらうとですね、彼らはすべて普遍的保障制度だと言うでしょう。選挙の季節になって、一時選挙の頃には、すべての民主党候補たちがその言葉、皆のための普遍的保障制度、皆のための保険、をうたい文句にしていることでしょう。でもね、彼らの計画はすべて、彼らのすることはすべて、僕らの税金のお金をこれらの保険会社のポケットに入れることなのです。
僕らはここで仲買人を切り離さなくてはいけないんです。政府はこのプログラムを運営できる能力があるんです。他の国々でかなりうまく運営されていますしね。上位25カ国を取り上げてみて、これら25カ国のうち僕らの国だけがやっていないことについて、他の24カ国のやっていることは間違っているって、それで僕らが一番賢いんだって主張できると思う?僕はそうは思わないね。
例えば、カナダの国を見てみようか。彼らの一般経費、国のプログラムを運営するためにかかる彼らの管理コストは予算全体の1.7%未満です。ところがこの国の平均的な保険会社では、一般経費、管理経費、事務処理、官僚体制費用が全予算のだいたい15%から30%ほど占めているんです。それを政府がやればかなり経費を軽減することができるわけです。でも、もちろん、共和党とか、民主党の一部も、政府は悪い、政府は何でも間違いを犯す、ということをアメリカの国民の頭に叩き込むのにこれまで十分成功してきました。何週間か前にアル・フランケンが言ったせりふを僕も聞いたんだけど、政治家連中は政府が悪い、政府が間違いを犯すっていうプラットフォームで選挙活動をやり、当選したら4年間それを証明してみせるわけだってね。
エイミー・グッドマン:マイケル・ムーアでした。彼の新作映画は「Sicko」です。ブレークの後、彼がイギリスの病院へ行き、お医者の自宅を訪問した時の様子をご紹介します。そしてこの映画が公開されるにあたり彼がやっていること、オプラやYouTubeそしてMoveOnなどとの企画、議会での証言、その他についてお話していただきます。では。
[ブレーク]
エイミー・グッドマン:アカデミー賞受賞の映画監督マイケル・ムーアとのインタビューを終えるにあたり、このセグメントでは、映画「Sicko」のクリップをご覧いただきます。ここで彼はイギリスのお医者をNHS - 全国健康サービスが運営する病院のオフィスと彼の自宅に訪問します。
マイケル・ムーア:あなたは開業医として診療所を経営されているんですか?
NHSの医師: はい。NHSの開業医です。9人の医師でNHSの診療所をまかなっています。
マイケル・ムーア:政府からお給料をもらっているんですね。
NHSの医師:政府からお給料をもらっています。はい。
マイケル・ムーア:政府に雇用されているわけですね。
NHSの医師:はい。そうですとも。
マイケル・ムーア:あなたは政府からお給料をもらっているお医者さんなんですね。政府に雇用されているということは、公共交通機関を使っているんですね。
NHSの医師:いいえ。僕は車を持っていて、それで通勤しています。
マイケル・ムーア:古いポンコツ車なんですね。ちょっと危なっかしい地域に住んでいるのかな?
NHSの医師:あの〜、僕はすごく豪奢な地域に住んでますよ。グリーニッチと呼ばれています。きれいな家です。三階建ての家です。
マイケル・ムーア:それを買うのにどのくらいしたんですか?
NHSの医師:だいたい55万くらいかな。
マイケル・ムーア:ポンドで?
NHSの医師:はい。
マイケル・ムーア:ということは100万ドルですね。
NHSの医師:はい。そうですとも。
マイケル・ムーア:ということは、アメリカのお医者さんは普遍的なヘルスケアをそれほど怖がらなくてもいいということですね。
NHSの医師:全然。もし、200万ドル、300万ドルの家と4台、5台の高級車と6台、7台の豪華なテレビが欲しいっていうなら、それだけ稼げるところで商売しなくちゃならないかもしれないけれどね。
マイケル・ムーア:この国のAMA(アメリカ医師協会)は、全国のお医者さんたち皆に、社会医療制度になると、すごく貧乏人になるんだぞというふうに吹き込んでいるんですね。でもそれは嘘なんです。カナダで会ったお医者さんたち、イギリスやフランスで会ったお医者さんたちはみんな快適な生活をしています。あなたがおっしゃるように、僕はイギリスのお医者さんの一人の自宅にも訪問したんです。彼は100万ドルの邸宅に住んでいて、アウディを乗り回している。彼はヤッピーの生活を送っているんです。僕の映画を観にいくお医者さんたちは、映画館を出たときに「少なくとも、僕たちの豊かな暮らしは社会医療制度になっても守られるんだな。」ということをわかって欲しいな。彼らの大邸宅を奪うようなことは誰もしたくないですからね。
エイミー・グッドマン:「ドヤ街」についてはどうですか?マイケル・ムーアさん。
マイケル・ムーア:そうそう。お医者が住む大邸宅の正反対の場所。ご存知のとおり、というか、あなたもこの問題を取り上げたことがあると思うんですけれど、病院でかかった費用を払えないロスアンジェルスの患者さんたちのことです。ここしばらくの間起きていることですが、病院は彼らをドヤ街に置き去りにしているんですよ。患者さんたちを病院から連れ出して、時には夜中に、病院用室内着を着せたまま、タクシーに乗せて、タクシーの運転手に「ドヤ街に連れて行ってそこで降ろしてきてくれ」と言いつけるわけです。時には、タクシーの運転手が彼らを車から無理やり押し出さなければならないこともあるのです。
エイミー・グッドマン:ビデオテープにそれを撮ったのですね。
マイケル・ムーア: はい。カイザーの患者さんがカイザーに雇われたタクシーの運転手によって道端に置き去りにされるところを実際のセキュリティ・カメラで撮られた映像があって、この女性は靴も履いていない、病院用の室内着のまま道のど真ん中に放り出されるという、もうひどい映像なんです。それをここで座ってそれを見ながら、これが実際にアメリカ合衆国の姿だとは信じられないわけですよ。これがこの国の国民に対する扱いなんです。まったく、もう。この映画を見た人たちはきっと、もういくらなんでもここまで来たなら許せない、何とかしなくっちゃて思うだろうと僕は考えるんですけど。
エイミー・グッドマン:マイケルさん、この映画であなたはAMAのことを話していますし、製薬企業、保険企業のことを話していますね。あなたのウェブサイトでは、あなたの映画の上映に備えて彼らの対応準備について特集を組んでいましたね。彼らは「Socko」上映にどのように対応しているのですか?
マイケル・ムーア:そうですね。最初はね、う〜ん、彼らについて話す前に、僕がこの映画を始める前の時点に戻って話しましょうか。まず、最初から、どの保険会社も、僕やこの映画に対する保険をかけてくれないという時期があったんです。この映画が保険についての映画だということが知れ渡っていたのでね。それで、このプロジェクトに対して保険をかけるのに苦労しました。その後、彼らはいくつか対策を練って、社内で従業員に警告を出しました。「マイケル・ムーアとは話をしないこと。マイケル・ムーアと話をしたら、深刻な結果になるだろう。」実際、彼らはどうやって僕に対応するかと言うトレーニング・セッションをやったんですよ。僕が彼らの会社に現れた場合に備えてね。ファイザーはマイケル・ムーア・ホットラインを設けました。彼を見かけたらこの番号をダイヤルするようにってね。もう、とにかく、こういうクレージーなことがたくさんあった。
エイミー・グッドマン:ダイヤルしてみましたか?
マイケル・ムーア:もちろんですとも。実際のところ、僕は2、3年前だったか、それをインターネット上に掲載して、この番号をダイヤルするようにって皆に言ったんです。ファイザーのマイケル・ムーア・ホットラインですよって。そこに電話して「彼が社内に侵入しています!彼が建物内にいます!」て電話口で言ってくださいとね。あまりにもたくさんの人たちが電話をかけていたずらしたんで、そのうちそのラインをシャットダウン しなくちゃならなかったみたいだね。
エイミー・グッドマン:では、彼らは何と言ったのですか。これらの社内メモでは、あなたとどのように対応するように指示したのでしょうか。
マイケル・ムーア:走るな。逃げるな。カメラを手でさえぎるようなことはするな。ある会社では心理学的性格判断専門家を雇い、僕という人間がどういう考え方をするかをCEOに話したんです。つまり、どうすれば僕の話をそらすことができるかということです。もし僕が突然マイクを手に現れたら、その心理学的性格判断専門家によれば、デトロイトのスポーツチームについて話題をそらせば、HMOについて僕が質問するのを止めることができるというわけです。これを読んで、僕は「さすがだ、ずいぶん当たっているな」と思いました。
まぁ、そんな具合なんですが、でも彼らは的をすっかり外したんですよ。なぜかというと、この映画の意図は僕がジェネラル・モーターズとかファイザーとかを追求するということではなかったし、もっと大きな構図で考えていたのです。だって、ひとつの会社を直したら、すべてが良くなるとか、そういうわけではないんですから。この国で直さなければならないもっと大きなことがあるんです。実際、それはヘルスケアの状況などよりももっと大きな問題です。つまり僕たちが自分たちの社会をどのような構造にするのか、僕たちがお互いをどのように扱うのか、全員が自分だけのことを考えればよいというアメリカの考え方そのもの、それをなぜ止める必要があるのかということ。「自分だけ」を主張する僕らの社会観を、「私たち」ということを考えている世界中の他の皆が生きている世界観に 移していかなければならないのです。
エイミー・グッドマン:映画の中に保険の請求を申請する人たちに挑戦するために健康企業が雇った人物が登場しますね。彼が実際に何をするのか、彼はどのように人々を調査するのか、説明してください。
マイケル・ムーア:健康保険企業は請求に対する支払いを嫌います。なぜなら儲けにならないからです。利益を上げる唯一の道は手術費用を出さないことです。あなたの手術費用やお医者の診断費用や薬代を払うと、彼らはまったく儲けにならないわけです。ですから彼らの目標はできる限り少ない金額を払う努力をすることであり、そのこと自体、直ちに、いかにヘルスケアというものにとって保険会社は存在する余地のないものなのです。 つまり、ヘルスケアは根本的に人々を助けるために存在するべきだからです。決定内容は決してどれだけお金を節約できるか、どうすれば手術を拒否できるか、ということであってはなりません。
とにかく、彼らはこれらのヒットマンを雇い、僕らは保険会社のヒットマンと呼んでいるんですけれど、彼らがですね、例えばあなたが足首をくじいたとして、彼らがその請求書を見ます。「うわぁ、足首をくじいただけで5000ドルだって。それは1000ドルくらいで済むべきだろう。全額など払いたくない」ということで、彼らは雇った調査員たちに、つまり保険会社には調査部門がありますね、それで彼らにこう命じるわけです。「君、エイミー・グッドマンの過去を調べてこい。彼女の健康保険申請書に彼女が10年前に起きたことで記入していなかったことがあるかどうか、探りを入れろ」彼らは実際にそういう記録を探してくるわけです。彼らはあなたの健康履歴についてものすごい調査を行い、あなたに対してこう言うわけです。「あなたね、正直に記入しませんでしたね。あなたは以前からの症状があったではありませんか。私たちはそれを知りませんでした。だからあの手術費用のお金を返してもらいます。そうでなければ、支払いはいたしません」
エイミー・グッドマン:この映画でも最もパワフルな要素のひとつは、これ以上この仕事を続けることはできないと言って、長いこと他人の調査をやめたというこの人物のように、告発を提供する多くの人々です。そして、リンダ・ぺノさんが登場しますね。
マイケル・ムーア:そうです。この映画に登場する内部告発者の人たち、特にリンダ・ぺノさん。彼女はケンタッキー出身のお医者さんです。彼女は Humana 社で仕事をしていました。彼女はその会社の医療検査官でした。医師としての彼女の仕事は、保険の請求を見ながらそれを承認したり拒否したりすることだったのです。映画でも話してますし、議会での証言で、彼女は患者から提出された請求に対し、それが本当かどうかに関係なく一定率の請求を拒否することが期待されていたということを話します。会社側は彼らに例えば10%の拒否率を期待するわけです。保険会社の医者は、医療検査官として最も多くの請求拒否を行った医者は、大きなクリスマス ボーナスがもらえるのです。ホントに、まったく、信じられません。
エイミー・グッドマン:彼女のお給料は週給二、三百ドルから6桁の給料にはね上がったのですね。
マイケル・ムーア: 6桁になったのは、彼女が請求を拒否し続けたからです。でも我慢ができなくなったのです。彼女の良心がそれを許さなかった。彼女は辞職したあと、議会に行って内部告発を行いました。その証言が映画に入っています。とてもパワフルな場面です。告発を行うことを決心した彼女は勇気のある魂を持った人物です。
エイミー・グッドマン:そのような反応を示した人たちは何人くらいいたのですか?あなたは2万5千人以上の人たちから健康保険会社との深刻な問題について報告する反応があったと言ってましたけれど、その他にこのような人たちがいたのですね。
マイケル・ムーア:そうです。製薬企業、病院企業、健康保険企業などを含む企業の内部にいる二、三百人くらいの人たちから、様々なことを僕らに伝えたいということで手紙をもらいました。中にはカメラの前で話したいと言う人もいたし、そうじゃない人たちもいました。人によってはファイルを送ってくれた人もいるし、とにかく、本当に驚くほど多くの人たち、良心がとがめている人たちがたくさんいるんですね。彼らはもう我慢でき なくなってしまったのです。
エイミー・グッドマン:オスカー賞受賞映画監督、マイケル・ムーアにお話をうかがっているところです。これは「華氏9/11」とどのような関連があるのでしょうか。「Sicko」という作品は、あなたの前の映画や「ボーリング・フォー・コロンバイン」とどのようにつながっているのでしょうか。
マイケル・ムーア:それはよい質問だと思います。つながる線があるんです。実際に、「ボーリング・フォー・コロンバイン」から「華氏911」そしてこの映画にむすびつく線がね。その一部は恐怖の利用ということ。僕たちの国にもっとよいシステムがない理由は、僕たちは社会医療制度、カナダのシステムなどを恐れるように強いられてきたということです。アメリカ人を脅そうとする試みがあること、国の恐怖レベルを強化させるために無知を利用しているという点です。これらの映画は、「ロジャー・アンド・ミー」以来僕はずっとこの問題に取り組んでいるわけなんだけど、究極的には経済システムを取り上げていると言えるでしょう。僕が前から言っているように、僕らの国の経済システムは不正だし、不公平だし、民主的ではありません。ですから、究極的には、僕たちが資本との関わり方 について別の形の経済を構築するまで、持たざる者たちが苦しみ、持てる者たちが強盗のように搾取すると言う、これらの問題がずっと継続するでしょう。
エイミー・グッドマン:では、どのような組織を行っているのですか?この映画を来週全国の何千もの映画館で上映するわけですが、労働組合と協力し、YouTube と協力し、オプラとも協力し、議会でも証言を行うことになっていますね。説明してください。
マイケル・ムーア:はい。そうですね。なんだか奇妙な合流ですけど。でもね、なぜならば、この問題はアメリカ人全員に影響がある問題だからなんです。僕は今この問題に取り組みたいといういろいろな種類のグループや人々から連絡を受けているんです。それから、カリフォルニア州看護士協会を通して、全国健康プランを支援する医師協会を通して、非常に強力な組織運動が広がっています。MoveOn も積極的に参加することになっています。左派の多くのグループや労働組合がこの問題について組織運動をしています。でも、あなたがおっしゃっているように、YouTube とかこの問題について個人的にも非常に興味を持っていて、これを重要な問題として取り上げようと考えているオプラのような人とかがいるんです。僕は二、三週間前くらいに彼女の番組に出たんですけど、彼女はこの映画が上映されたら、ヘルスケアの怖い話を彼女のウェブサイトに掲載するように彼女の番組のファンの人たちに呼びかけてくれました。秋にはこの問題についてタウンホールの集まりをやるそうです。
エイミー・グッドマン: YouTube では何があるんですか?
マイケル・ムーア:YouTube でも各自のストーリーをビデオテープに撮ってYouTubeにアップするように呼びかけていて、特別なセクションを設置してあります。保険会社から個人的に、または家族や友達がどういう扱いを受けたか、薬の費用を払わなければならかったり、薬が手に入らなかった病院や製薬会社などのストーリーを集めたセクションです。
こういう動きはいわゆるウイルスのような伝染効果があるだろうし、僕もそれを望んでいます。これらの人々に発言する力を与えるものだから。そうじゃなかったら彼らは全国各地のそれぞれの自宅で一体誰に話を聞いてもらえるんだろうって思いながらじっと我慢して苦しみに耐え忍んでいるわけですからね。僕のウェブサイト、カリフォルニア看護士協会、YouTube、そしてオプラのサイトやこの動きにこれから参加するその他の組織を通し て、アメリカ国民たちが本当にどんな体験をしているのか、聞く耳を持つことができるようになると思います。これから何か良いことが生まれるに違いないと信じています。そしてこの問題について候補者たち、特に民主党候補者たちに圧力をかけていくつもりです。
エイミー・グッドマン:彼らを追い込む第二作目の映画を創るつもりですか?ニワトリの姿をした人物に彼らを追跡させるんですか?
マイケル・ムーア:え〜っと、あなたは僕たちが昔やっていたテレビ番組に出てくる企業犯罪と戦うニワトリさんのことを言っているんだね。あのニワトリを覚えてくれているなんて、うれしいなぁ。いいえ、でも今週末には実際にニューハンプシャー州に出かけるつもりです。そして大統領や公職の選挙に出馬する候補者たちがどれだけ買収されて支払いを受けているのか、情報を公に発表するつもりです。
エイミー・グッドマン:彼らはどれほど買収され支払いを受けているんですか?
マイケル・ムーア:その答を聞くのは週末まで待たなくてはなりません。でもはっきり言っておくと、きれいな図ではありませんね。言いたくはないですけど。あのね、僕は多くの候補者たちを、いろいろな理由で大変気に入っているんですよ。でもね、こういった問題について彼らが正しい立場をとるように圧力をかけずに、すぐに候補者を決めてしまったら、僕らは何も達成することはできません。すでに民主党が11月の選挙以降それを証明してみせたでしょう。彼らはずるずるとできるかぎり本題に取り組むことを渋るでしょう。それに、もうヒラリーがこの問題についてどういう立場を取るかについてはすでに分かっています。もちろん彼女の戦争に対する立場を考えれば、本来なら彼女に一票投じたい、最初の女性大統領になってほしい、と考える人たちにとって、でも戦争をこれだけ長期にわたって支持しており、しかもヘルス企業から非常に多額の献金を受け取っている候補者は絶対支持できない、ということで、彼女に投票することがとても難しくなるわけです。
エイミー・グッドマン:マイケル・ムーアさん、この映画を作っている最中に何か意外なことに出会いましたか?
マイケル・ムーア:はい。ずっと。特に気になったことのひとつですけど、イギリスの例のお医者さんにインタビューをしているときのことです。僕がどのくらいの収入があるか質問したとき、彼は年収が20万ドル未満なんですが、彼がこう言ったのです。「でも、私のお給料はどれだけ良い仕事をしたかで決まるんです。今年私の患者さんの中でタバコを止める人が増えたり、コレステロールや血圧が下がったり血糖値が改善されたりすれば するほど、給料が上がるんです。つまり、私の患者さんたちがどれだけ健康かで決まるのです。だから、収入を上げるために実際に良い仕事をするという励みがあるわけです」
僕はそれを聞いて、それってこの国とは逆じゃないか、と思いました。この国では、より多くの人がタバコを吸ったり、乱れた食生活をしてたりすれば、疾患や病気になるわけで、そうすると製薬会社にとって金儲けになり、お医者さんたちにとっても金儲けになり、病院にとっても金儲けになる。病気になれば皆が儲かるわけだ。
それで僕は自分自身のことを、個人的に考え込んでしまった。というのも、あそこにいるときに僕が言ったことは、もしかして人に話すときに、システムを変えるひとつの方法は、というか少なくともこのシステムを変えるには、自分のことをもう少し大切にするように努力しようじゃないかっていうこと。そしてそれを始めるのは、第一にこの自分なんだって思いました。それで、果物とか野菜とかを食べ始めるようになったんです。あなた はこういうものについて聞いたことがあるかどうか知らないけれどね、いろんな色があって、歯ごたえがあって、ね、身体にいいんだよ。まだやったことがないんだったら、試してみたらいい。あなたのお母さんがあそこに座ってらっしゃるけれど、彼女はあなたに果物とか野菜の大切な役割についてちゃんと躾のよい教育をしたんですね。
エイミー・グッドマン:彼女は素晴らしい教育をしてくれましたよ。
マイケル・ムーア:そのとおりです。それにあなたはとても素晴らしい子供だったと彼女が言ってましたよ。それはカメラに入りませんでしたけどね。でも僕はお母さんが大人になったあなたのことをとても誇りに思っているということを、あなたの視聴者たちにお伝えしたかったんです。
それから、もうひとつは、僕は毎日散歩をするようになりました。毎日半時間から1時間ほど、僕は散歩にでかけるんです。もう100パーセント気分がいいですね。30パウンドも体重が減りました。心配しないでね。僕はジェーン・フォンダ風のワークアウト・ビデオを作ったりはしないから。でも、ここで言いたいのは、僕たち、みんな、お互いにね、自分をもっと大切にするようなことをいくつかやれば、このキチガイじみたヘルスケア システムを避けることができるんじゃないかな。それに、そうすることは地球にとってもいいことだと思うよ。僕たちアメリカ人はあまりにもいろいろな面で過度な浪費をしている。自分たちの行動について少し考えるべきだと思うし、それは僕自身に言ってることで、僕から始めることだな。
エイミー・グッドマン:アカデミー賞受賞映画監督のマイケル・ムーアさんでした。彼の最新作「Sicko」は来週から全国の何千もの映画館で上映されることになっています。今週彼はワシントンDCに向かい、この国のヘルスケア システムに対する関心を喚起し、単一支払い保険制度を求めるために議会で証言を行います。その後彼はニューハンプシャー州へ向かい、大統領候補者たちに要求をつきつけます。
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--------------------------------------------------------- TUP速報 配信担当 古藤加奈
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