2004年10月29日、レス・ロバーツ博士の研究グループが、アメリカによる侵略と占領の犠牲となったイラク市民の死亡者数を推定するレポートを、イギリスの科学誌ランセットのオンライン版で公開しました。レポートは、ロバーツ博士が所属する米ジョンズ・ホプキンス大学と米コロンビア大学とバグダッドのアル・ムスタンシリア大学が合同して現地調査した結果を分析したものです。
研究グループは、04年7月の時点でイラク市民の死亡率が侵略前の通常値と比べて2・5倍になり、侵略と占領の犠牲となった死者数は9万8000人に及んでいる可能性が高いと推定しています。死者の過半数がアメリカが率いる連合軍による攻撃の犠牲者であり、ほとんどが女性と子どもたちでした。
Iraqi Civilian Deaths Increase Dramatically After Invasion
http://www.jhsph.edu/publichealthnews/press_releases/PR_2004/Burnham_Iraq.html
現地調査で集めた情報を集計して統計グラフをつくると放物線を描きます。放物線の頂点の値がおよそ9万8000人です。統計で数値を推定するとき、実際の死者数は95%の確実性でこの範囲に収まるという信頼区間を、グラフの頂点の左右に幅を取って示します。最低値は8000人、最高値19万4000人になります。これが、イラク戦争の死者数は推定で10万人と報道されました。上下の幅が大きいと感じるかも知れませんが、このレポート以上に科学的で確実性の高い数値は他になかったでしょう。
2006年10月11日、引き続き調査を行った研究グループは、その結果を前回と同じ英ランセット誌オンライン版で発表します。新しい報告によると、03年3月に侵略が始まってから06年7月までに、通常の死亡率を超える過剰な死者数は、65万4965人(95%信頼区間=最低39万2979人〜最高94万2636人)だと推定されました。そのうち60万1027人(42万6369〜79万3663)が戦争の暴力行為によって殺害されたと考えられます。もっとも多い死因は銃撃による被弾です。
Mortality after the 2003 invasion of Iraq: a cross-sectional cluster sample survey
http://web.mit.edu/CIS/lancet-study-101106.pdf
ロバーツ博士グループによる第3の報告はまだありませんが、侵略から1年7カ月で10万人、3年4カ月で65万人が犠牲になったとすると、被害は占領が長期化するにつれて加速しながら増大していることになる。06年10月のレポートをもとに、イラクの激化する状況を考慮して、07年現在までの死者数を(科学的とは言えないが)概算すると死者はすでに100万人を越えている可能性があると訴える活動グループもあります。
Just Foreign Policy
http://www.justforeignpolicy.org/iraq/iraqdeaths.html
先日、死者100万という怒りと不安に満ちた数字を裏打ちするような調査報告がイギリスの世論調査エイジェンシーから公開されました。イギリスのORB(世論調査ビジネス)はイラクの成人(18才以上)1461人に聞き取り調査を行い、イラク戦争が原因で、それぞれの家庭(同じ屋根の下に住む親族)から何人の死者を出したかと質問しています。回答の割合は、 0人 78% 1人 16% 2人 5% 3人 1% 4人以上 0・002%
この結果をイラクの家庭総数405万0597(05年の人口統計)に当てはめると、122万0580人が犠牲となったと推定できます。ロバーツ博士の研究グループは、ファルージャなど米軍による壊滅作戦が行われた市街地をあえて調査の対象としませんでした。あまりに被害が大きいために、統計の数値が跳ね上がってしまうからです。ORBも、担当官が踏み込めないほど危険な地域では調査をあきらめています。
September 2007 - More than 1,000,000 Iraqis murdered
http://www.opinion.co.uk/Newsroom_details.aspx?NewsId=78
ORBの調査はロバーツ博士グループのレポートほど厳密なものではありません。しかし、グループの統計データをもとにして、現時点までの死亡者数の補外値を求めるなら、やはり100万人を越える数値にたどりつくと思います。ORBの調査結果を報道したのは、アメリカの主流メディアではLAタイムズ紙だけでしょうか。
Poll: Civilian toll in Iraq may top 1M
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-iraq14sep14,1,3979621.story?coll=la-headlines- world&ctrack=2&cset=true
アメリカの貧しい家庭に生まれた若者たちが、米軍に入隊しイラクへ送られました。クリントン政権による(そして日本を含む国際社会が協力した)経済制裁を生き抜いたイラク市民は、いま侵略と占領と内乱に苛まれています。国際法を踏みにじる超大国アメリカの権力によって、犠牲となった兵士と市民の名前も顔も声も祈りも、私たちは知ることができません。国家の暴力に命を失った夥しい数の人びとは、死んで名前も顔も声も祈りも奪われ、ついには統計上の数字に変わる。
ブッシュ政権はイラクの長期占領を宣言しました。自民党政権は「テロとの戦い」に協力することを外交政策の要としています。しかし、テロリズムとは何か、その原因は何か、戦いの目的は何か、いつどのように終結するのか。こうした問いに答えようとせず、自由と民主主義と平和を守るための戦争を唱えて市民を欺くなら、「テロとの戦い」は勝利も敗北もないまま、いつまでも終わることのない永久戦争となるでしょう。
いま命ある私たちは、市民の名の下に、互いの顔を見つめ、声を重ねて、真実をみつめながら祈りを希望に変える責任を担っています。国家によるテロリズムと戦争を止めることができるのは、いつの時でも市民の力だけです。 (TUP速報)
安濃一樹=TUPメンバー
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