フランスでサルコジが打ち出した年金制度をはじめとする諸改革に対する労働者の反対運動が盛り上がっている。10月18日には交通をはじめとするさまざまな職場で労働組合がストライキに入り、各地でデモが行われた。在パリの市民運動家コリン・小林さん(グローバル・ウォッチ)は、日本の市民運動にあてて「68年以降最大のゼネストとなった」と伝えてきた。また、ATTAC・JAPANフランス支部の山口啓さんは職場集会や街頭デモに参加、人びとの生き生きした様子を伝えるメールを送ってきた。山口さんの便りによるとストは26日には収束するだろうという。フランス労働運動の現在を現場の視点で伝えるお二人の便りと、労働組合の声明を紹介する。(大野和興)
◆山口啓さんの便り
フランスに来てさっそくストライキです。サルコジが打ち出した年金制度改悪に反対して18日から交通機関をはじめ様々なところでストライキに入っています。その午前中に開かれたサンラザール駅の鉄道運転手たちの職場総会に行ってきました。
パリの街では歩いている人と車・自転車がいつもより多く、反対にターミナル駅はがらんと静まり返って列車も止まったまま、構内にある集会所にサンラザールの運転手100人くらいが集まって明日 もストを続けるか今日でやめるか職場総会が開かれていました。
組合も様々で、それぞれが意見を出し合って野次が飛んだり「ブラボー」と賛同したり、最終的に多数決で明日もストを続行することが決まりました。(圧倒的多数でスト続行、私や郵便労働者の連れ合いが混じっている中どうやって見分けるのと思いましたが、とりあえず投票権のない私は手を上げるのをぐっとこらえました)。
集会所に貼ってあった「37・5はすべての人のため」というスローガンは、鉄道運転手たち(EDFー電気・ガス労働者も)が年金満額受取るために必要な就労年数37年半が今回の年金制度改悪で40年になったら、他の民間労働者(1993年から40年)や公務員(2003年の改悪で40年に)の期間は更に長くなることにつながる、だからこそこの改悪を許してはいけないということでしょう。
午後からSolidaires、CGT、FO、FSUなど労働組合が中心のデモに参加しました。「平日の午後によくこんなに多くの労働者がデモに集まってるね」という私の間抜けな質問に「みんなストライキ中だよ!」なに言ってんだよという感じの答えに改めてゼネストを実感しました。ストはまだまだ続く様子です。
土曜日はこれもサルコジーがとっている移民排除の政策に抗議し移民の権利を求めるデモに参加しました。18日のデモと違って子供たちの隊列があったり様々でとても元気なデモでした。
私のフランス語力ではこれくらいの報告しかできないのですが、またストやデモの様子を流していければと思っています。(10月22日 山口@attac japanフランス支部)
今回のストは今日(25日)か明日(26日)で殆どが終わるようです。というのもフランス最大の労組CGTが続行しないことを決定したためで、無期限ストを主張していたSolidairesだけでは闘えないという判断もあり、私が職場総会に参加したサンラザール駅でも今日24日で終わるとのことです。CGTは今回はこれでやめて来月に無期限ストをといっているようですが、もともとCGTは24時間ストしか好まないのでどうなるか分らない、とSolidairesのSUD組合員は言っていました。スト続行を望んでいるCGTの現場組合員も多いようなので、今こそ無期限ストをしないで来月できるの?と私なんかは思ってしまうのですけど…。簡単にはいかないようです。(10月25日 山口)
ビデオ:パリのデモの様子
http://www.dailymotion.com/video/x38wop_
◆コリン・小林さんの便り
コリン@パリです。ご無沙汰しています。
山口さんの報告に補足をしておきます。
木曜日の年金制度改革を巡る国鉄ストは、全国で30万人がデモをし、パリでは3万人ほどが行進しました。1995年12月 、1ヶ月続いた国鉄ストよりも多い参加者で、68年以降、史上最大のゼネストとなりました。これは、年金制度ばかりではなく、職場での 社会的地位、しいては公共サーヴィスの危機を代弁しており、他方、医療保険制度の改変に伴い、医薬品の購入負担額が増え、教員の削減も予定されている中、社会的不満が一挙に高まりつつあり、それゆえ、強い動員があったと思われます。
このデモには、教員、大学、高校生も合流参加しました。24時間ストだったのですが、ストは継続され、日曜日まではかなりダイヤが乱れ、今日も路線によっては、ストが続いており、まだ乱れが強く残っています。
政府は慌てて、水曜以降、組合の代表者と会談するといっていますが、決裂する可能性が大きいです。国鉄の労働組合のひとつ、SUD- railは、年金の満期を37,5年から40年にするという交渉は不可能で拒否するというのが過半数の組合の意見なので、全組合が統一 して、政府に圧力をかけることが不可欠だとしています。
また今日は、7つの公務員組合連合(CGT, CFDT, FO, FSU, UNSA, Solidaires et CFTC )が来月20日にストを呼びかけています。これは、とりわけ、公共サーヴィスの護持、給与アップをアピールするためです。
20日にあったサン=パピエ(持たらず者)支援デモは、とりわけ、移民の家族を確認する手立てにDNA検査をするという移民法改革法案に反対するために行なわれ、約4-5000人が中華街/アラブ街として有名なベルヴィルを行進しました。
他方、今週に環境グルネル会議が政府主催で開催予定で、今日の環境問題の中で最も重要課題である問題を討議しようということですが、NGOやアソシエーションのほうからは、偽善的な見せかけだという批判が出ています。気候変動問題については討議するものの、具体的な対策は打ち上がらないだろうし、原子力はほとんど討議の対象になっておらず、GMOに関しては、モラトリアムをやるしかないとエコロジー省大臣ボルロー氏が表明していた一件がサルコジのモラトリアム反対のつるの一声で、うやむやになっています。
この会議はほとんど議論する枠組みが最初から設定されており、市民側から出して来た案は、ほとんど取り入れられていません。
そんなわけで、脱原発ネットワークは、27日にユネスコ本部の前でデモを行ない、原子力が再度ルネッサンスのように言われている現状に抗議し、欧州新型原子炉の計画を中止するよう訴え、原子力が気象変動に効果があるという論拠はきわめて浅いことを表明するでしょう。(エネルギー全体の中で、原子力は16%に過ぎず、気候変動の原因になっているCO2の主要原因は交通=飛行機、自動車、トラックなど)なのですから)
フランスの原子力産業は、アメリカの原子力推進派の流れに乗り、アメリカ、中国やアジアで、(日本と争って)新型原子炉を売って、大儲けをしたいという経済戦略です。核のゴミについての解決案は、ないままです。しかし、上院では、「原子力を推進するエコロジスト」協会なる政府の太鼓持ち市民団体などが参加して、原子力産業を持ち上げる公開討論会などを開いて、原子力を押しつけることの口実作りをしているといえます。
GMO(遺伝子組み換え作物)については、モラトリアムの決定が出なければ、ジョゼ・ボヴェをはじめ、農民同盟の活動家たちは、11月6日より無期限のハンガー・ストに入ると宣言して、圧力をかけています。
9日にリスボンで、欧州連合首脳会議が開かれ、フランスとオランダで拒否されたほぼ同じ内容のものを、憲法といわずに条約とし、若干の部分の変更を加えて、単純化した条約に署名するという合意に達しました。反対派は、この決定を「政治的強姦」だとして、強く反発しています。ヨーロッパのほぼすべてのATTACが反対声明を出しました。
この手続きは、民意を問うことをせずに非民主的な方法で、欧州の指導者たちが各国民に一方的に押しつけるものです。12月の正式調印までに反対運動が巻き起こるかどうか、注目するところです。
フランスでは、12月まで政治的な節目となる出来事が続けてあり、社会運動が再度立ち上がるチャンスでもあります。
以上、簡単な報告でした。(10月23日)
◆ストライキに関するSOLIDAIRES(SUDなどが参加する労組のネットワーク)の声明
政府草案反対統一スト・デモ・デーは成功裡に終わった。今回の特殊年金制度改革に直撃されるセクターにおける動員率は、歴史的と言っていいぐらい素晴らしいものだった。国鉄(SNCF)では75%、1995年をも上回る。フランス電力公社(EDF)とパリ交通公団(RATP)でが70%、財務省や職業安定所(ANPE)でも動員率は高かった。様々の公共セクターおよび民間企業の代表団が多数、フランス全土でデモに参加した。街頭に繰り出した人々の数は数十万人にのぼる。
年金、健康保険、購買力、公務員の身分保障、公共サービスの運営、雇用契約、解雇条件。政府草案はどれもこれも、社会福祉を後退させ、フランス経団連(MEDEF)の要望に従うものだ。政府は特殊年金制度を正面攻撃することで、他の社会福祉制度の後退を続けて行うための突破口にするつもりなのだ。
年金に関しては、公共・民間を問わず全てのサラリーマンの最低加入期間をさらに延ばすことをはっきりと打ち出している。これが給付水準の低下につながることは必至だ。「もっと働いてもっと稼ぐ」という題目は不発に終わっており、サラリーマンの購買力は悲惨なままだ。健康保険に関しては、年間給付上限を設けただけでなく、民間保険を推進することで、社会保険の国民的連帯を解体しようとしている。公務員制度の「見直し」というのは、公務員を大量に解雇して公共サービスの質を落とすことであり、生活不安を悪化させ、労働の柔軟化を図ることでしかない。雇用契約と解雇条件の改定は、従業員に対する雇主の権力をさらに強化するためのものだ。
政府が狙いを定めているのは、全サラリーマンの権利である。攻撃を阻むためには、全員一丸となって当たらなければならない。この攻撃の目的は、経営者団体元幹部のドニ・ケスレールの言葉によれば、「レジスタンス全国評議会が戦後に始めた施策を片っ端から切り崩す」こと、つまりフランス社会の平等と連帯の今なお残る部分を破壊すること、にある。サラリーマンにそんな目論見を呑むつもりはないことを見せつけたのが、10月18日の行動だ。政府の反社会的な攻撃に対して、これがまずは第一段階だ。
政府は既に、今回の動員など意に介さない、政府草案の根本的な変更はあり得ない、と述べている。となると、譲歩を迫るためには、さらに歩を進めなければならない。SOLIDAIRESはサラリーマンが団結し、この日に続く行動を議論・決定するよう呼びかける。動員率の高かった部門では、多くのスト参加者の会議でストライキの継続が決定された。SOLIDAIRESはこれらの決定を支持し、動員を広げるよう呼びかける。
SOLIDAIRESの立場からすると、運動をさらに広げて勝利を可能にする展望を、早急に団結の下に提案することこそ、組合運動の目下の責任である。生産された富を今とは違うやり方で分配することこそが、我が国における公正と連帯の必要に応えるために今日なすべきことなのだ。(10月18日)(斎藤かぐみ・栗原学訳)
◆SUD-Railのコミュニケ
スト参加者の数はこの数日間われわれが言って来たことを確認させるものだ。10月18日のストライキは、歴史的なストライキ参加を経験した。全国レベルですべての仲間が一体となって75%のストライキ参加者となった。
駅勤務の労働者、乗務員、現場労働者、下級管理職員、管理職員と、至るところで、ストライキ参加者の人数は、この数十年来で最大のものとなっている。われわれストライキ参加者は、あの1995年の強力な闘争の日々を10%も上回っている。
このような情況のもとで闘いをここで中止するとすれば、それはまったくとんでもない無駄となろう。SUD−Railの組合は、運動を継続するよう訴える。
ストライキ参加者は、職場総会でストライキを決定したのだ。今朝、開かれた職場総会には、力強い参加があった。そこに参加したほぼ全員が闘いの継続に賛成票を投じた。
労働組合の団結は現場で実現されるのだ!(10月18日)(湯川順夫訳)
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