【ロンドン25日=小林恭子】北京オリンピックが開催される中国での人権抑圧に抗議するため、今年8月アテネで始まった「人権トーチ・リレー」が、17カ国の欧州各国を回り、25日、ロンドンに到着した。今後は、来年のオリンピック開始までに、オーストラリア、北米、アジア諸国を含めた各国を巡る。全100ヶ国の各地では、中国政府に対し、人権抑圧状況を変えるようにアピールするイベントを開催する。
「中国では法輪功信者が3000人殺された。これは『大量殺りく』と呼んでよいと思う。オリンピックの開催を機に中国内の人権抑圧、宗教弾圧をやめさせ、改革が進むように、国際社会が圧力をかけるべきだ」−。「人権トーチ・リレー」運動の英国支部を代表する、欧州議会副議長のエドワード・マクミランースコット氏は、トーチがロンドンに達したのを機に開催された記者会見でこう語った。
「北京でのオリンピック開催で、中国政府の政策にお墨付きを与えることになってはならない。中国へのオリンピック招致が決定された2001年時と比較しても、人権虐待状況は悪化している。中国政府は異端者を弾圧し、環境を悪化させることで、中国国民の人権を侵害している。こんなことはオリンピックの精神に反する」。
もう一人の欧州議会議員ロバート・エバンス氏は、「異端者や死刑になった人物から臓器を取り除いて輸出する行為は一刻も早く止めさせるべきだ。オリンピックを機会に、中国政府に改革を行うよう、求めていこう」と呼びかけた。
英国スポーツ選手協会のジョン・ビコート氏は、「オリンピック自体はキャンセルするべきではない。しかし、もし中国が改革を進めないようなら、過去にオリンピックを開催した都市、例えばアテネやシドニーで代わりに開催することも十分可能ではないかと思う」と述べた。
北京の後、2012年のオリンピックはロンドンで開催予定となっていることから、2008年には、英国の政治家が多数北京オリンピックに出かけることが予想されるが、ロンドン市議会の副議長ブライアン・コールマン氏は、「もし改革が十分に実行される見込みがないようなら、ロンドン市長も含め、英国の政治家は北京行きを控えるべきだ」と主張した。ただ、市議会内では、中国の人権侵害を問題視し、北京オリンピック開催に疑問を持っている人物は「多くない」と言う。「自分は少数派だ」。
会見場にひときわ緊迫感があふれたのは、法輪功の信者というだけで、2005年5月から1年半、刑務所に閉じ込められていたアニー・ヤンさんが体験談を話し出した時だった。中国共産党は法輪功を邪教と断定し、中国および外国において法輪功学習者を弾圧し続けている。
ヤンさんは突然中国警察に逮捕され、刑務所に入れられた。食事の量は極度に少なく、毎回一切れのパンのみ。水も一日に500ミリリットルのボトルが与えられるだけだった。当初は、プラスチック製のイスに24時間座っているように言われたという。「座っていると言っても、普通にイスに腰をおろせるのではなく、イスの端っこ部分に腰を乗せるだけ。背中はいつもまっすぐにした状態で何時間も過ごした」。ヤンさんは空腹感とイスに座っているという状態のためなかなか眠りにつくことができず、「眠っても一日2−3時間だった。まったく眠れず死ぬ人もいた」。
「何をするにも許可が必要だった。お水のボトルを手に取って、水を飲んでもいいかどうかに許可が要る。水を飲んだボトルを机に戻すのにもまた許可が要る・・・」。当時を思い出したのか、ヤンさんは涙ぐんだ。
法輪功の活動を中傷するようなビデオをたくさん見せられたという。
「警察のスパイにならないか?とも言われた。もしなると言ったら、すぐに解放するとも」。ヤンさんはこうした誘いを一切断った。
ヤンさんは法輪功のメンバーで同様につかまった仲間と、プラスチックの人形を作らされた。「今、マクドナルドの店でもらえる人形です」。
強制労働の後、家に戻されたヤンさんは、警察が没収しなかったパスポートがまだ無事にあることを知り、つてをたどって英国に渡ってきたのだった。
記者会見につめかけたのは多くが外国報道陣で、特に中国系のメディアが目立った。中国政府を批判する国際キャンペーンの動きは、果たして中国の人に伝えられるのだろうか?
疑問に思って、パネリストの一人をインタビューをしていたリポーターのティナ・シーさんに聞いてみると、彼女のテレビ局は北米に住む中国人らのグループが立ち上げた、衛星放送局NTDTV。中国で衛星放送を見れる人なら、「誰でも見れる」。通信にスクランブルをかけられることはないのか?という問いに、「フランスの会社と契約をした通信衛星を使っている。スクランブルがかからないことが契約条件だったので、かからない」と説明した。
ヤンさんや議員の一団は、会見後、ロンドンのトラファルガー広場に向かった。「人権トーチ」をともすイベントの後、中国大使館前に支援者らと集い、キャンドルを手にし、「人間の尊厳に配慮する平和な社会の創設」を奨励するオリンピックの精神を中国政府が遵守するよう祈っていた。
キャンペーン運動のサイトは:
http://www.humanrightstorch.org/news/
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