パレスチナのヨルダン渓谷は、全域の約半分がイスラエル入植地によって支配され、残りの46%は軍事閉鎖地域であり、パレスチナ人の農地および住居地はたった4%ほどでしかない。この地域における人権侵害の実態を知ってもらおうと、イスラエルのアパルトヘイト政策に反対する「パレスチナ反アパルトヘイト・ウォール草の根キャンペーン」のファトヒ・クデイラートさんがこのたび来日し、各地で講演会を開く。11月29日に札幌を訪れたクデイラートさんに、“占領”の現状、そして日本の支援のあり方について聞いた。(木村嘉代子)
ファトヒ・クデイラートさんは、ヨルダン川西岸のバルダラ村評議会議長、農業組合委員長などを経て、「パレスチナ反アパルトヘイト・ウォール草の根キャンペーン」のヨルダン渓谷地域コーディネーターに就任。パレスチナおよび世界各国で精力的に活動している。
クデイラートさんによれば、「この地域は家屋の破壊が多く、水の権利も奪われ、水道や電気といった最低限のライフラインさえ整備されていない。隔離壁によって孤立化し、人々が移動する際は、検問所での厳しいチェックが待ち受けている」。
しかし、今回、初めて日本を訪れたクデイラートさんは、日本人のパレスチナへの関心の低さを肌で感じたといい、「日本は国際社会の重要な役割を果たす大国であり、国際社会の一員として、パレスチナ問題と取り組む責任がある」と訴える。
「日本がイスラエルと戦うことを望んでいるわけではない。他の国と同様に、日本もパレスチナ問題についての議論に加わってもらいたいのだ。隣の家が火事になっているとき、知らないふりができるだろうか。パレスチナはまさに大火にみまわれているのである。火事の警告をしているのではなく、現実に燃えているのだ。今、パレスチナで起きていることを知り、日本人も声を上げて欲しい」
日本政府のパレスチナとイスラエルの和平に向けた取り組みのひとつに、ヨルダン渓谷西岸側に農産業団地を設置する「回廊構想」がある。いまでこそパレスチナの農業は壊滅状態だが、ヨルダン渓谷一帯は豊かな農業地域として知られていた。日本政府は、パレスチナの経済的自立をめざし、この地域での農業開発、農産物の加工・流通に協力するプロジェクトを開始した。
だがこの構想に対するクデイラートさんの見方はきびしい。 「ヨルダン渓谷開発計画は、2年前にスタートしたが、いままで何の進展もみられない。この計画案を翻訳してもらって読んだが、500ページにおよぶ文書に、パレスチナ人が占領されている事実、水や土地が奪われている現状に関しては一行たりとも記述がなかった。それどころか、イスラエルはパレスチナの経済的なパートナーと明記されており、イスラエルがパレスチナに協力する存在として強調されていた」
クデイラートさんはさらに、この開発計画への疑問点を次のように指摘する。 「この農業開発は共同プロジェクトになっているが、占領する側と占領される側の共同事業は可能だろうか。最大の疑問点は、パレスチナ人がどのように土地を管理し、運営するかにある。計画案によると、パレスチナ人が農産物を生産し、イスラエル人がヨルダン渓谷からヨルダンに輸出することになっている。つまり、パレスチナ人自らが輸出できないのだ。パレスチナ人には輸出も輸入も許されておらず、それが認められているのは、イスラエルの企業だけである。これでは、以前にまして、パレスチナ人は輸出の道をたたれることになる。この計画は、イスラエルの占領を永続化させるだけだ」
「回廊構想による巨額の経済援助は、学校に行くことができずに働いているパレスチナ人の就学の機会を失わせ、労働に縛りつける構造を作り出すだけだ。パレスチナを支援したいのなら、われわれの村に直接来ていただきたい。学校のない村や、保健医療のない村、水も道路もない村があるのに、学校を建設するといった事業は、まったく行われていない」
最後に、中東和平会議でイスラエルとパレスチナが合意に触れ、「もちろん、この合意で進展することを望むが、大きな成果は期待できない。パレスチナとイスラエルの和平への道には長い歴史があり、それほど単純な話しではないのだ。隔離壁が次々と造られ、検閲所が増え、状況は刻々と変化している。以前と同じ方法では解決できないだろう。私が望むのは、移動の自由を獲得することである。いかなる人も、他の人を支配することはできない。何の権利があって、イスラエルはパレスチナを占領できるというのか」と語気を強めた。
ファトヒ・クデイラートさんスピーキング・ツアー
http://palestine-forum.org/
12月1日(土) 午後6時30分〜9時(開場午後6時) 東京:文京区民センター
12月2日(日) 午後6時30分〜8時45分 広島:広島市まちづくり市民交流プラザ
|