<A href="http://jijieigo.at.webry.info/200804/article_9.html" target="_blank">ブログ版</A> 英紙フィナンシャル・タイムズの主席経済コメンテーター、マーティン・ウルフの“Why the global financial turmoil is like an elephant in a dark room”と題するコラム(1月22日)はgooニュースでは「金融危機は、暗い部屋で暴れるゾウのように」と訳されているが、これはおかしい。“an elephant in a dark room”とは、暗い部屋にいる象を触って何であるかをあてるという話である。日本人なら、あの有名な説話を思い出すはずだ。「群盲象を撫でる」「群盲評象」である。起源はインドの仏教説話で、東と西に分かれて世界に広まったようだ。(鳥居英晴)
So how did the world economy fall into its predicament?(どうして世界経済は窮地に陥ってしまったのか?)とウルフは問いかける。そして、いくつかの説を挙げてそれぞれを解説している。a product of a fundamentally defective financial system(金融システムが抱えている根本的な欠陥の産物)、the product of a gross monetary disorder(全体的な金融混乱による産物)、the result of global macroeconomic disorder(世界的なマクロ経済の混乱の結果)。
そしてこう述べる。
When I read these analyses, I am reminded of the story in which four people are told to go into a dark room, hold on to whatever they find and then say what it is. One says it is a snake. Another says it is a leathery sail. A third says it is a tree trunk. The last says it is a pull rope.
(こうした分析を読むと、わたしは、あの話を思い出す。4人が暗い部屋に入るように言われ、見つけたものを触って、それが何であるかあてるように言われたというものだ。ひとりはそれはヘビだと言い、もうひとりは革のような帆だと言い、3人目は木の幹だと言い、最後のひとりはロープだと言った)
It is, of course, an elephant. The truth is that an accurate story would be a combination of the various elements.
(もちろん、それは象である。真実は、正確な話はさまざまな要素の組み合わせであるということだ)
これと似た表現に“the elephant in the room”というのがあるが、「誰もが認識しているが、無視している重要な問題」という意味で、”an elephant in a dark room”とは無関係である。Wikipediaは同様の意味として、elephant in the living room, elephant in the corner, elephant on the dinner table, elephant in the kitchenという表現を挙げている。It is based on the idea that an elephant in a small room would be impossible to overlook.(小さな部屋にいる象は無視することは不可能という考えに基づいている)The term is often used to describe a political hot potato that involves a social taboo, such as racism, which everyone understands to be an issue but which no one is willing to admit.(この言葉は、誰もが問題として理解ているが、認めたがらないレイシズムなど社会的タブーにかかわる政治的難問を表現するさいに多く用いられる)
大辞林などによると、「群盲評象」「衆盲模象」は目の見えない人たちが象の体を撫で回し、それぞれが手に触れた部分から象は太い綱のようだ、杖のようだ、太鼓のようだと見当違いの批評をしたという寓話。つまり、人がそれぞれの五感や知識に基づいて真理を語ろうとしても、言及できるのはその一端にしか過ぎないということ。元々は、涅槃経、六度集経などでは、人々が仏の真理を正しく知り得ないということを意味した。六度集経は釈尊の過去世物語のひとつ。中国語では盲人模象などという。
一方、英語ではこの説話は“the Blind Men and the Elephant”として知られている。Wikipediaによると、The story of the blind men and an elephant appears to have originated in South Asia, but its original source is debated. It has been attributed to the Sufis, Jainists, Buddhists, or Hindus, and has been used by all those groups.(盲人と象の話は南アジアに起源があるようだ。だが、元はどこにあるのかは議論がある。イスラム神秘主義者、ジャイナ教徒、仏教徒、ヒンズー教徒のものとされ、その集団はみな使ってきた)
この説話はパーリ語のジャータカ(釈尊の前世物語)にもあり、これがイスラム神秘主義の神学者の作品によってイスラムに広まった。もっとも有名なのは、ルーミーという名で知られている12世紀末のペルシャの神秘主義詩人モウラヴィーの詩。その英語の訳名が”The elephant in the dark room"である。イラン在住の日本人による「イランという国で」というブログに、蒲生禮一訳「精神的マスナヴィー」『世界文学大系68 アラビア、ペルシア集』(筑摩書房)があったので紹介する。(ちなみに米左翼誌Monthly Reviewの編集者Yoshie Furuhashiがこのブログを推奨している)。
象の形
暗い部屋の中に一頭の象がいた インド人たちが見せ物にと連れてきた象だった 多くの人がその動物を見にやって来た みんなが部屋の暗闇の中へ入って行った 目で見ることができなかったので その闇の中で象に触れてみるしかできなかった ところが、一人の手は象の鼻に触れたため 「この動物は水管のようだ」と言った もう一人の手は耳に触れたため 象の形が扇のように感じられた また一人の手はその足に触れたため 象の形は柱のように思われた また一人の手はその背をなでたため 「象とは王座のようだ」と言った こうして話を聞いた人々には それぞれの人が触った部分のことしか分からなかった 触ったところがそれぞれ別であったため ある人はそれをアレフと見なして、ある人はまたダールと考えた(※) 一人一人がろうそくを手に持っていたのなら 皆の言葉が違うことはなかったであろう 目が見るものとは手のひらのようなものであり 手のひらは象の体全体には届かないのだ (※)アレフもダールもペルシア語のアルファベットの一文字のこと。アレフは数字の1のようにまっすぐな形で、ダールは半円形。
西洋で一番知られているのは、19世紀の米国の詩人John Godfrey Saxeによる”The Blind Men and the Elephant”という詩である。ここでは6人の目の見えないインド人が登場する。日本では「6人の盲人と象」という題で紹介されている。
ウルフのコラムに戻れば、彼が支持するのは最後の説である。
A final perspective is that the crisis is the consequence neither of financial fragility nor of mistakes by important central banks. It is the result of global macroeconomic disorder, particularly the massive flows of surplus capital from Asian emerging economies (notably China), oil exporters and a few high-income countries and, in addition, the financial surpluses of the corporate sectors of many countries.
(最後の見方は、今回の危機は、金融の脆弱性でもなければ、主要中央銀行の失策のせいでもないというものだ。それは、 世界的なマクロ経済の混乱の産物。とりわけ、アジアの新興諸国(特に中国)や石油輸出国や一部の高所得国家から流れ出た巨額の余剰資金と、 それに加えて、多くの国々の法人部門から生じた余剰資金の結果である)
フィナンシャル・タイムズの中国語版の同コラムの題名の中国語訳は「我们仍在“盲人摸象”」である。
参考サイト
<a href= "http://news.goo.ne.jp/article/ft/business/ft-20080124-01.html"> 参考1</a> <a href="http://www.ft.com/cms/s/0/18083bfa-c8f8-11dc-b14b-0000779fd2ac.html"> 参考2</a> <ahref="http://www.mythfolklore.net/3043mythfolklore/reading/rumi/pages/01.htm"> 参考3</a> <a href="http://en.wikipedia.org/wiki/Blind_Men_and_an_Elephant ">参考4</a> <a href="http://sarasaya.exblog.jp/742306/"> 参考5</a> <a href="http://www.kheper.net/topics/blind_men_and_elephant/Sufi.html ">参考6</a> <a href="http://www.noogenesis.com/pineapple/blind_men_elephant.html ">参考7</a>
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