今年11月に行われるアメリカ大統領選に先立ち、民主党の候補者選びが白熱している。候補者の一人、バラク・オバマは様々な意味で注目を集めているが、ロバート・パリーは「変革」を訴えるオバマがなぜ中傷されるのかを、アメリカ政府と政治献金との関係から説明している。(TUP速報)
オバマを攻撃する理由 ロバート・パリー 2008年2月26日
バラク・オバマの「変革」への訴えが中身のない誇張にすぎないとする皮肉が未だに見られるなか、およそ 100万人にも上るほとんど小額の寄付から巨額を集める彼の威力に、ワシントンのインサイダー達はようやく注意を払い始めた。これまで米国政治を牛耳ってきた特殊利益団体による政治献金の影響力が揺さぶられる可能性があるからだ。
オバマの政治運動がこれまで理解されていた以上の変革になるかもしれないという実感が広まるにつれ、現状維持擁護者の抵抗が深まり、オバマに対する攻撃が激しくなってきた。現在のところ、政治的な能力だけではなく、インターネットによる並外れた資金集めの成果を示すオバマにすっかり打撃をくらって苦戦するヒラリー・クリントンの大統領選が、ワシントン権力主流派の前線になっている。大口寄付者からの莫大な資金を集めるクリントンを、オバマは一般大衆からの寄付で打ちのめしたからである。
選挙資金面で優位を保ってきたアメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)から、軍やその他の産業界代表者に至るまで、強力なロビー勢力もまた、どんどんと積みあがるオバマ側の小口寄付の力によって、彼らの価値が弱まっていることを認めている。オバマの勢いを弱め、可能なかぎり早急に彼の一般支持者を意気消沈させることは、彼らの利害と直接関係があるのだ。
だからこそ、同じ特殊利益団体の寄付にどっぷり依存するネオコンおよびその他の思想的運動団体は、いまやクリントンのキャンペーンと手を結んで、オバマは愛国心がなく、不審な、ともすれば「隠れたイスラム教徒」ではないかと中傷する。
2月25日、ニューヨークタイムス紙の新しいネオコン・コラムニストであるウィリアム・クリストルは、星条旗をかたどった襟ピンをつけることを止めたイリノイ州議会の意思決定を例に挙げ、オバマの愛国心を攻撃した。ジョージ・W・ブッシュが星条旗を利用して国民を煽り、イラクとの戦争に突入した事情を理解したとオバマが発言したからである。
「知ってのとおり、9/11の直後は私もピンを着用していました。」2007年10月に星条旗のピンをつけていないことを聞かれたオバマはこういった。「我々がイラク戦争について語るとき、それがいかにも愛国心の代用であるかのように扱われていることに気がついたので、自分の胸にピンをつけるのを止めました。真の愛国心とは、国家安全保障の重要な問題についてきちんと意見を述べる行為であると、私は考えます」
「これこそ彼のすべて」と題されたコラムのなかで、クリストルは、この説明はオバマのいう愛国心が疑わしいものであり、彼の尊大さを表すひとつの例であるとこきおろした。
「真の愛国心が"問題についてきちんを述べると"ことであるという主張はさておき」とクリストルは書く。「印象的なのはオバマが尊大ぶった弁明をせずにはおれないということだ。・・・道徳的な奇麗ごとが並べ立てられている。自分は胸に星条旗のピンをつけるには善良すぎる――愛国的すぎる!と言いたいのだ」
そしてクリストルは、夫の選挙戦を取り囲む、政治変革に沸き立つ民衆にどれほど感動したかと語るミッシェル・オバマに矛先を向ける。「成人してはじめて、自分の国を誇りに思う」と彼女がコメントしたことを取り上げ、クリストルは次のように述べる。「アメリカが1980年代中ごろから達成してきた事柄で、本当に彼女が誇りに思うことは他にないとでもいうのだろうか? どうやらそうらしい。」[ニューヨークタイムス誌 2008年2月25日]
クリントンの資金難
この間、1億3000万ドルを使い尽くし、個人資金から500万ドルのつなぎ融資を必要としたクリントンのキャンペーンは、ワシントンの現状を守ることに強い利害関係がある特殊利益団体のいくつかにすりよっていった。
たとえば、選挙財務管理責任者のジョナサン・マンツはワシントンのホテルのロビーで、アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)の資金提供者たちと会っている。ウォールストリートジャーナルが 2月14日に伝えるところによると、これらの親イスラエル支持者たちは別の目的でワシントンに来ていた。
このアプローチは当然だろう。なぜなら、オバマがイランとの高官レベルの会談を擁護することや、イラク戦争の反対派であること、またヒラリー・クリントンやジョン・マッケインと比べるとイスラエルを支持した記録がほんのわずでしかないことを考えると、これらの親イスラエルロビイストはオバマを警戒しているからだ。
ある元イスラエル当局者が私に語ったところによると、イスラエル政府はオバマ、クリントンまたはマッケインとでも共にやっていけると感じているが、米国内のイスラエルロビーはクリントンを好み、断固としてオバマに反対している。なぜなら「彼らは彼女を飼っているから」だそうだ。元当局者は、ロビーは独立系のマッケインにも憂慮しているとも言った。ほかの強力なロビー勢力と同様にAIPACは、どこにでもいる普通のアメリカ人から巨額の資金を集めるオバマの能力を恐れている。つまり、ワシントンの政治家が、裕福な寄付提供者の伝説的なネットワークであるAIPACに、物乞いのように空き缶を差しださなくてもよくなるからだ。 (詳しくはConsortiumnews.comの "How Far Will the Clintons Go?"を参照)
http://www.consortiumnews.com/2008/021508.html
11州を連続で失った後、クリントンの選挙戦はいまや、オバマを攻撃するものなら何でも投げいれる「キッチン流し台」戦略に変わっている。
過去数週間にわたって、クリントンの代弁者たちは、オバマがアラブ名を持つ人々と交流があることや、また1970年代の過激派学生たち(いまや彼らは白髪まじりの中産階級の専門職だが)から支持を得ていることなどについて噂をまき散らしてきた。なかには「オバマスキャンダル」と銘打った一連のスキャンダルもあった。
2月26日、インターネットゴシップ屋のマット・ドラッジが報告したところによると、2006年にケニヤに旅行した際にターバンとソマリの年長者が着る伝統衣装に身をつつんだオバマの写真を、クリントンの運動員がメールで流している。それは、オバマは隠れたイスラム教徒であるという、以前に流れた噂を補強することになった。オバマが長年シカゴのキリスト教会に所属しているにもかかわらずである。
オバマの選挙事務局長デヴィッド・プラウフはクリントンの写真を回覧させるキャンペーンを「不安を煽る、恥ずべき攻撃」であると糾弾した。
クリントンのキャンペーンは写真がどう広められたかは知らないと否定しながらも、選挙事務局長のマギー・ウィリアムズはオバマのキャンペーンを過剰反応だと攻撃した。「伝統的なソマリアの衣装を身に着けた彼の写真があつれきを生じさせているというオバマのキャンペーンこそ、恥をしるべきです。」と、彼女は言った。
ヒラリーの二面性
クリントン上院議員自身は有権者に彼女のソフトな側面を見せるか、内面の好戦的な人格を解き放つか、どちらにしようかと迷っているようだ。
2月21日に行われたテキサスでの公開討論の最後、クリントン上院議員はオバマに手を差し伸べ、彼とおなじステージに立つことをいかに「誇りに思っているか」を表現した。しかし直後に戦略を切り替え、オバマに激しい攻撃を始めた。
北米自由貿易協定での彼女の見解や、彼女の健康保険計画に含まれた権能を批判し、オバマのキャンペーンがオハイオで配ったビラに反応して、 2月23日、クリントンは彼女のライバルを叱責した。
「恥を知りなさい、バラク・オバマ!」とクリントンは叫び、「オハイオで私に会いにいらっしゃい、そしてこのキャンペーンでのあなたの戦術と振舞いについて討論をしましょう」と彼に指示を下した。
このクリントンの激昂は、そそうをした召使いの男の子を叱責する怒れる女王のようであり、また強情な学生の耳を引っ張って職員室につれていく校長のようだという印象を持った人もいるだろう。
「演説も大集会もカール・ローブの戦略本から引き出してきたような戦術ももうたくさん」と彼女は付け加えた。二人のライバルを対比したビラはいかにも目新しく極悪非道な構想であるといわんばかりだ。
実際には、オバマのビラはまったく標準的な内容で、カール・ローブというよりもトム・ペインの戦略本を参考にしているようだ。もしローブの戦略本を使ったなら、そのビラの出所は親ヒラリーのグループだろうといわれただろうし、内容は児童ポルノの合法化を支持するようものだっただろう。
しかしクリントンの選挙戦はウォーミングアップにすぎない。 2月24日、ロードアイランドに立ち寄ったとき、クリントンはオバマの変革を呼びかけるスピーチを小馬鹿にした。「今、私はここに立ちそして宣言します。"さあみなさん、一緒に仲良くしましょう。団結して一つになりましょう。空は開かれ、天の光がふりそそぐでしょう。神々しい聖歌隊は歌い、だれもが正しく行動すべきであることを理解し、そして世界は完璧な場所になるでしょう"
彼女の支持者がクスクスと笑うなか、クリントンは続けた。「私は少し長生きしすぎたのかもしれません。でも、私はどれほど困難であっても幻想をいだきはしません。魔法の杖を振っても、特殊利益団体は消えてなくならないでしょう」
素朴なオバマの若い支持者をあざけるこのクリントン流の攻撃は彼女の後援者には人気があった。しかしオバマはワシントンの強固な特殊利益団体に対抗することがたやすいことであると一度もほのめかしたことはない。
オバマのこれまでの主張は、変化を引き起こせる代表者を選出することができるのは、活力を取り戻したアメリカの一般市民だけであり、そしてその変化が後戻りしないよう、人々は油断してはならないというものである。
先にある困難を、オバマがすべて言い尽くしていないのは本当だろう。しかし、共和党の議事妨害は「一生懸命努力すること」で対抗できるとするクリントンの議論が現実的かどうかという点は、少なくともオバマと同程度でしかないと言える。多大な努力にもかかわらず、彼女の当初の健康保険改革が1994年に破綻したとき、そのアプローチは無惨にも失敗しているのだ。
しかし、当面のポイントは、たぶんこの選挙期間の最も重要な政治的展開として、特殊利益団体の財政的な依存から抜け出せたオバマの成功である。この成功はまた、オバマ叩きに火をつけ、大統領としてのオバマ株の急上昇に対して巻き起こる、支配者層のヒステリックな反応を説明してくれる。
(翻訳:金 克美/TUP)
[原文] Why the War on Obama, By Robert Parry, February 26, 2008
http://www.consortiumnews.com/2008/022608.html
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