世界はますます飢えていく 食料価格の高騰を招く七つの理由
TUPエッセイ パンタ笛吹 著
2008年4月26日
今年に入って、食糧高による暴動が世界中あちこちで起きている。カメルーンで2月に起った食糧暴動では40人の死者が出た。またハイチでは、食糧暴動で国連警察隊員を含めて5人が殺され、アレクシ首相が解任される事態となった。
その他、エジプト、コートジボワール、モーリタニア、モザンビーク、セネガル、ウズベキスタン、イエメン、ボリビア、インドネシアなど、33カ国以上で食糧暴動が起きている。
米を例にあげると、いままで主な輸出国だったカンボジア、中国、ベトナム、インド、パキスタンなどが、米の貯蔵量が激減したため、少なくとも自国民にだけは十分にいきわたるように、米の輸出を制限している。そのあおりをうけて、米の価格は過去5週間で2倍強に値上がりした。
米輸入国であるフィリピン政府は、米を秘密裏に貯蔵している業者に警告を発したり、ファーストフード店に対して、客に提供するご飯の量を半分に減らすように圧力をかけている。また農業用地を住宅やゴルフ場に転用する計画を、一時停止させる案も考慮されているという。
わたしの住んでいるコロラド州ボルダーでも、サムズ・クラブというスーパーのチェーンが、数日前に「米はひとり4袋まで」と制限をもうけて話題になった。
4月22日にロンドンで開かれた食料サミットでは、国連世界食糧計画(WFP)のジョセット・シーラン局長が、飢餓という「静かなる津波」が押しよせている、と警鐘を鳴らした。シーラン局長はまた、新しいタイプの飢餓についてもこう語っている。
「今まで以上に、都会に住んでいながら飢える人びとが急増している。都会では食べ物が売り場の棚に並んではいるが、それが高くて買えない人びとが増えているからだ」
いま世界では、約30億人が一日2ドル(約200円)かそれ以下で生活しているという。食糧価格のかつてないほどの急騰は、それら貧困層に大きな影響を及ぼしている。前述のシーラン局長による発言は厳しい。
「中産階級の人びとにとって、食品の値段が上がるということは、そのぶん医療費を削らなくてはならない、ということを意味する。また、一日2ドルで暮らしている人びとにとっては食糧高は、子供たちを学校にやれなくなり、肉を食べられなくなることを意味する。一日1ドルで暮らしている人びとにとっては、それは肉や野菜を食べられなくなり、穀物のみで生きのびなくてはならないということだ。そして1日50セントで生きている人びとにとっては、食糧高は大きな災害をもたらすだけだ」
では、なぜこんなにも食糧の価格が高騰を続けているのだろうか? 明らかな原因から、そう目につきにくい要因まで、考えてみよう。
(1)人口が増えたため
わたしが小学生のころ(1960年代)先生に教わった世界の人口は36億人だった。世界の人口をリアルタイムで見れるサイトによると、今日の人口は、66億7千万人強だそうだ。毎年、8千万以上の胃袋が増えているわけだが、それを満たすだけの食糧増産はもうムリということだろう。
(2)バイオ燃料に穀物が使われるため
SUV 車一台をエタノール油で満タンにした場合、原材料のとうもろこしが約230キログラム必要で、それは一人分の食糧を一年間まかなうに等しいという。先日のタイム誌は「バイオ燃料は詐欺どうぜんだ」と題して特集をおこなったし、いまローマで開かれている国際エネルギーフォーラムでは、「バイオ燃料が世界的な食糧危機の原因となっている」と非難の的となった。
4月22日には国連で、ボリビアのモラレス大統領が発言し、「とうもろこしをバイオ燃料製造に奪われるため、食糧高でボリビア国民は深刻な事態に追いやられている。人の命と車とどちらが大事なんだ? わたしは人命が一番、車が二番と言いたい」と憤っていた。
わたしは以前、ボリビアを旅行したとき、いたるところで貧困層の悲惨さを目の当たりにした。明らかに栄養が不十分と思われる子供たちもいた。とうもろこしを粉にして焼いたトルティヤなどが主食の国で、その値段が倍以上にはね上がるということは、それはそのまま飢餓につながりかねない。
(3)地球温暖化のため
国連事務次官のジョン・ホームズ卿は、「国連の人道救援事業において、最も大きなチャレンジは気候変動だ。過去20年間の変化だけをみても、1年に平均200件だった大災害の数が、いまではその2倍の400件も起きているからだ」と述べている。
たとえば、オーストラリアはここ4年連続して、空前の干魃(かんばつ)に襲われており、穀物生産量は過去25年間で最悪のレベルまで激減し、日本をはじめ世界の穀物輸入国に打撃を与えている。
温暖化によるアンデス山脈やヒマラヤ山脈の氷河の減退も深刻だ。水不足のため、すでに多くの農作物が壊滅的な状態に追い込まれている。また、中国やアフリカの砂漠化による耕地面積の減少も、植林などの対策にもかかわらず、歯止めがかからない状況だ。
(4)石油価格がはね上がったため
穀物を海を越えて運ぶにも、野菜を生産地から消費地に運ぶにも、石油が必要だ。畑を耕すトラクターや収穫するコンバインもガソリンをガブ飲みする。また、農産物をパックするプラスチックやビニールは石油が原料だし、近代農業でもっとも大事な化学肥料は石油から作られている。原油価格が4倍にあがれば、食糧価格が影響を受けるのは当然だ。
残念だが、石油を潤沢に掘り出せる時代は終わったといっていい。以前は、「オイルのピークが数年後にくる」と口にすると、「とんでも陰謀論」とまでいわれることもあった。しかし今年に入って専門家は、「ピークオイルが来るか来ないかを議論する学者は少なくなり、いまではピークを越したあとの下降線がどれだけ厳しいものになるかが論点になっている」と指摘している。
(5)肉を食べるため
途上国の人びとで中産階級が増え、肉の消費量が急増したため。特に13億人を有する中国では、一人当たりの年間肉消費量がこの50年間に5倍の50キログラムに増えている。科学的なデータによると、牛肉を1キロ生産するのに、飼料として7キロの穀物が必要だという。
(6)マネーゲームの投機対象になったため
サブプライム問題で同時株安がおきるなか、ヘッジファンドなどの行き場を失った投機マネーが原油取引や、シカゴの穀物先物取り引きなどに流れたためという。世界の人口の千分の一にも満たない超富裕層にとって、投資したとうもろこしの価格が上がれば上がるほどさらにリッチになれるから、ということだろう。
(7)アメリカを中心とする食糧政策のグローバル化のため
これは目につきにくい要因だが、重要だと思う。
過去30年間にわたって、世界銀行や国際通貨基金(IMF)が、開発途上国に、コーヒーやココアや綿花などの換金作物の生産を強要し、巨大な多国籍企業に農業市場を解放することを義務づけた。
それまであるていど自給自足してきた国々が、さまざまな種類の穀物畑をつぶして、輸出用の換金作物を商業ペースで生産するようになったので、とうぜん国民の口に入る主要作物は輸入に頼らざるをえなくなった。
以上、最近の記事を参考にして、わたしなりにこの問題を考えてきた。しかし、どう考えても「一発逆転ホームラン」のようなアイデアは浮かばない。かえって事態はますます深刻さを増すような気がしている。
アイダホ州のある農家の主は、「近ごろの食糧高に驚いていますか?」との質問に、「わたしは、人びとが食糧高に驚いていることに驚いている。多種類の農産物を育てていた小さな農家をつぶし、農業生産企業が金儲けのためだけに大農場を経営するようになったのだから、遅かれ早かれ農産物価格が高騰するのは分かっていたことではないか」と答えた。
わたしの住んでいるボルダーでは、地元の住民が畑や裏庭で育てた野菜や果物を売る青空市場「ファーマーズマーケット」が人気だ。地産地消だから州を超えての運送費もかからない。ひょっとしたら、こんなところに解決の糸口が隠されているのかもしれない。
参考資料
Ben Russell, "Food crisis needs aid on scale of tsunami to avert famine," The Independent (April 23, 2008).
http://www.independent.co.uk/news/world/politics/food-crisis-needs-aid-on-scale-of-tsunami-to-avert-famine-814066.html
Mary Kane, "The End of Cheap Food?" The Washington Independent (April 23, 2008).
http://www.washingtonindependent.com/view/soaring-food-prices
世界の人口
http://arkot.com/jinkou/
Allegra Stratton, "Biofuels starving our people, leaders tell UN," The Guardian (April 22, 2008).
http://www.guardian.co.uk/environment/2008/apr/22/biofuel.crisis
Kelpie Wilson, "Why More Food Is Not the Answer," truthout (April 22, 2008).
http://www.truthout.org/docs_2006/042208A.shtml
Anuradha Mittal, "Food Riots Erupt Worldwide," AlterNet (April 25, 2008).
http://www.alternet.org/story/83457/
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