日刊ベリタに5月25日に掲載された環境保護団体グリーンピースによる「鯨肉窃盗」を批判したコラム(木村哲郎ティーグ記者執筆)に対し、グリーンピース・ジャパンは以下の見解を日刊ベリタに寄せた。見解は、西濃運輸からの鯨肉持ち出しは「窃盗罪を構成しないと考えている」としたうえで、米核実験場では抗議する市民による平和的な「不法侵入」が行われて逮捕者が繰り返し出ている例などをあげ、「暗黙の了解で進められる国策の暴走」を止めるために必要な行動があるとの論旨で一方的な批判に反論、「問題の本質が議論できる市民社会になっていくことに寄与できればよいと思う」と結んでいる。以下は、グリーンピース・ジャパンの佐藤潤一・海洋生態系問題担当部長による見解の全文。(ベリタ通信)
■グリーンピース・ジャパンの見解全文(佐藤潤一・海洋生態系問題担当部長)
調査捕鯨船の船員による鯨肉横領について、グリーンピース・ジャパンが5月15日に東京地方検察庁に告発状を提出してから、早くも2週間以上が経った。
横領の発覚から今日までの間、この件について、調査捕鯨を行なっている日本鯨類研究所や共同船舶株式会社、そして水産庁の弁明はめまぐるしく変化してきている。発覚以前の新聞取材では「正規のルート以外での鯨肉の取引はない」または「お土産は存在しない」と答えていたのに、グリーンピースが証拠となる宅配便の鯨肉23.5キロを発表した後は、「お土産は数キロある」とか、その数日後には「お土産は一人10キロまで許可している」などと弁明しているのだ。
そもそも今回私たちが確保した鯨肉は、「お土産」と呼ばれるものではない。それは「製造手」とよばれるベテラン船員たちによって、無断で船室に持ち込まれて塩漬けにして個人宅へ送るという横領鯨肉だ。「お土産」とされる鯨肉がクール宅急便で送られるのに対して、この横領鯨肉は常温で送られる。管轄官庁である水産庁が知らなかったなかで「お土産」が存在したことだけでなく、横領鯨肉にも焦点が当てられなければならない。
その後、5月20日に東京地検はグリーンピースの提出した告発状を正式に受理し、21日には、私たちが証拠として確保した鯨肉も受け取り、業務上横領の捜査を開始している。まずは、この捜査が適切に行なわれ、横領鯨肉の全貌が究明されることを願うばかりだ。
この間、私たちの鯨肉確保の方法に問題があったのではないかという厳しいご指摘が多く寄せられた。私たちは、刑事告発の証拠品確保を目的とした横領鯨肉の西濃運輸からの持ち出しは窃盗罪を構成しないと考えているが、最終的な判断は捜査機関と裁判所による。そのため、私たちは自主的に今回の経緯をすべて書いたものを東京地検と青森県警に書面で提出し、その捜査には全面的に協力すると伝えている。
今回の件を通じ、日本の市民社会の暗い部分を身をもって体験した気がする。インターネットや新聞上ではグリーンピースの証拠の入手法ばかりが問題視され、調査捕鯨自身を問題視する意見が異常に少ない。そしてグリーンピースを批判する記事は、20日に東京地検が私たちの告発状を正式に受理すると急激に減少した。
普段の生活の中で、私たちはお互いに干渉し過ぎることのないように、相手と自分に心地よい距離をもって生活している。あえて「あいまいな部分」の白黒をはっきりさせるような言動や行動は、行きすぎだとされ、批判の対象になるのが現在の日本社会だ。そして、誰かが批判の対象になれば、その対象をいっそう極端な形で批判する。それを見て他の人は同じことをされたいとは思わなくなり、あらゆる言動が消極的になっていく。そして、その「あいまいな部分」に立ち入りにくくなればなるほど社会のチェック機能が薄れ、見て見ぬふりをする「観客型」の市民社会になってしまうという悪循環が広がる。
私は、グリーンピース・ジャパンの行なったことへの批判が悪いと思っているわけではけっしてない。これもあって当然のことだろう。ただ、それと同様に調査捕鯨を問題視する声がもっと表面に出てきてもよいはずだ。もっと継続的で健康的な議論ができる雰囲気と報道が必要だと思う。
調査捕鯨は、私たちの税金がすでに100億円以上も費やされてきた日本の国策事業の一つであり、しかも諸外国からの反対をはねのけて、日本政府が過去数十年間にわたりその正当性を頑固に主張してきた事業だ。それが故に、日新丸に水産庁の監督官が乗船しているにも関わらず、このような横領行為が20年間以上も行なわれてきた。まして今年は、その捕鯨船に環境保護団体からの妨害を防ぐという名目で海上保安庁の職員も同船していた。それでも、結局は横領鯨肉の発覚にはいたらなかった。
日新丸が東京に帰港した4月15日には、南極海での抗議活動について日新丸へ警察と海上保安庁が立入捜査を行なった。しかし、その立入捜査直後の午後一番に、堂々とこの横領鯨肉は荷降ろしされていた。この横領鯨肉が降ろされているまさしくその最中に、警察と海上保安庁は合計8隻もの船を出し、私の乗船していた1隻のボートを囲んで日新丸に近づけないようにしていた。国策で行なわれている事業が無条件に正しく、それに異議を唱える市民は監視されるべきとされるところからくる風景だった。このような状況で、グリーンピース・ジャパンが「あの箱は横領鯨肉だという内部告発がある」と訴えたところで、警察が目の前で荷降ろしされるその箱を調べることはないだろう。
暗黙の了解で進められる国策の暴走を止めるために、市民はもっと行動すべきだ。1995年にフランスがムルロア環礁で核実験を行なった際には、グリーンピース・ジャパンの事務局長と数人の日本の国会議員がグリーンピースの船に乗り込み、現場海域で洋上座り込みに向かった。フランス軍がそれらの抗議者を強制排除する中で、世論が盛り上がり、フランス政府は核実験の回数を削減せざるを得なかった。
日本でも、2000年に在日米軍が有害廃棄物であるPCBを横浜に持ち込もうとした際、グリーンピースは停泊中の船舶に積まれたPCBコンテナの上に座り込んでその行為を批判し、世論を喚起した。これにより、米国政府も日本への有害物質の持ち込みをあきらめて、そのまま米国へ持ち帰った。このときも、グリーンピース・ジャパンは船舶に乗り込む行為が法律に触れる可能性を理解したうえで抗議を行なったが、結局グリーンピース・ジャパンのスタッフは米国の法律でも国内法でもその違法性を問われなかった。
アメリカのネバダ砂漠の核実験場では、抗議の意味を込めて市民による平和的に集団で堂々と正面玄関から立ち入るという活動が行われている。私も1997年に参加したことがある。そこには、抗議する権利を理解している警察が待ち受けていて、ゲートを越して侵入した人を不法侵入で逮捕していくがその人たちをすぐに釈放するということが繰り返された。市民の国策に対する抗議の意味が理解されていることを感じた。
今回の批判を受けて、グリーンピース・ジャパンの活動方法が変わるのかという質問もあるが、それは変わらない。「非暴力」の原則をまもり、捕鯨問題に限らずその他の環境問題でも「あいまいな部分」にストレートに挑戦し続けていきたい。市民の権利において「何がOKで何がNGなのか」ということも問い直してみたい。そこから、問題の本質の議論ができる市民社会になっていくことに寄与できればよいと思う。
最後に、グリーンピース・ジャパンのウェブサイトで、私たちに寄せられた意見を紹介しているので、ぜひご一読いただきたい。また、事務局長のブログにも見解が述べられているので、そちらも参考にしてほしい。
http://www.greenpeace.or.jp/campaign/oceans/whale/cyberaction/messages/
事務局長 星川淳のブログ
http://www.greenpeace.or.jp/info/staff/jun.hoshikawa
|