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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2008年06月29日02時40分掲載
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ブラウン英政権の1年(下) 野党保守党の躍進を止められず 蜜月は一気に冷却化
英国のブラウン政権の支持率は発足から1年の現在、低下の一途をたどる。国民の生活に直結した問題で失敗が続いたのが支持低下の大きな理由だが、若き指導者デービッド・キャメロンを迎えた野党保守党の予想外の健闘振りも背景にある。ブラウン政権のこれまでを分析する。(ロンドン28日=小林恭子)
▽選挙で勝てない労働党
「これはすごい!」野党保守党党首デービッド・キャメロンは、27日、イングランド南東部の選挙区ヘンリーでの下院補欠選挙で保守党候補が当選した知らせを受けて、叫んでいた。ボリス・ジョンソン保守党議員が、5月、ロンドン市長に就任したことを受けて、補欠選挙が行なわれたのは26日だ。保守党候補者が2万票近くを獲得した一方で、労働党候補者は約1千票のみ。保守党の安全区だったとは言え、労働党候補者の票数は泡沫候補のレベルだ。
「これで保守党が政権を担える政党として認識されていることが改めて分かった」−。キャメロン党首は報道陣のカメラの前で、こう語った。「それでも、これで(2010年までに行なわれる)総選挙に勝てると決まったわけではない。まだまだやるべきことはたくさんある」、と顔を引き締めた。
ヘンリーでの保守党の勝利は例外ではない。近年行われた地方選挙、下院補欠選挙を見る限り、労働党の得票率は下落する一方であるのに対し、保守党の得票率が上昇している。
今年5月1日の統一地方選では、保守党の得票率は44%で、労働党の24%を大きく引き離した。労働党にとって「過去40年で最低の結果」(BBC)だった。同日行なわれたロンドン市長選でも、現職でロンドン市民に人気が高い現職ケン・リビングストンに対し、ジョンソン保守党議員(当時)が勝利を確実にした。5月末に行なわれた、イングランド北西部のクルー・ナントウィッチ地区の下院補欠選挙でも、保守党候補者が当選。この選挙区は1983年の創設当時から労働党候補者が独占してきた。補欠選挙で保守党が労働党から議席を奪ったのは、30年前になると言う。
保守党の躍進は保守系新聞デイリーテレグラフ紙(27日付け)に掲載された、調査会社「ユーガブ」の調査結果にも表れている。昨年6月、ブラウン労働党政権が発足した当時、62%が労働党が次の総選挙で勝つと予想していたが、現在では16%に落ちている。代わりに、67%が保守党が勝つだろうと予測する。
▽当初はブラウン・フィーバーも
昨年6月27日、10年間の首相の座を降りたトニー・ブレア労働党党首の後を引き継いだブラウンは、「情報操作」(スピン)のイメージが色濃くついた前任者とは一線を画することを戦略の1つとした。1997年のブレア政権発足時から数えると、もう11年も労働党が政権を握っている。しかし、国民にあきられないよう、新鮮な印象を与えることが重要となった。外見にはあまりこだわらないブラウンだったが、首相就任直前に頭髪を短く整え、さっそうとしたイメージを演出した。就任後の初の会見では、官邸前で、「国民が信頼感を持つ政治」を実現したいと訴えた。イラク戦争開戦を巡り、「スピン」に徹して国民をだました、として不評を買ったブレアとは違う、というメッセージを発した。
就任からほどなくして、ロンドン中心部で爆発物を積んだ車両が発見された。「テロか?」と英国内に衝撃が走ったが、けが人も出ず、警察が処理をして事なきを得た。スコットランドのグラスゴー空港内のビルに、プロパンガスのボンベなどを積み込んだ車が突入するという事件も引き続き発生した。後にテロ計画の一部だったことが分かるのだが、ブラウン首相は直ぐにテロ対策チームを発足させ、迅速にかつ冷静に事態を処理した。夏にかけて、イングランド北部・中部を中心に洪水が起き、南部では家畜の一部にこうてい疫も発生した。
テロや自然災害による打撃を、首相は冷静にすばやく対応し、国民の評価が高まった。「信頼に足る人物」として、世論調査で支持率も上昇した。首相と国民やメディアとの「蜜月期間」だった。首相は「総選挙を今やれば勝てる」と思ったようだ。側近に選挙が行なわれた場合の事前調査を開始させたとメディアが報道し、総選挙の時期に関する憶測が過熱化していった。
しかし、9月、住宅金融大手ノーザンロックが資金繰りに苦労していることが明らかになると、事態は大きく変化してゆく。
▽後手に回ったブラウン
米サブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅ローン)に端を発した、世界的信用収縮に影響を受け、資金繰りが悪化したノーザンロックは、8月、英中央銀行に緊急融資を依頼していた。
翌月、BBCがこれをスクープ報道すると、パニック状態に陥ったノーザンロックの預金者は、一斉に預金の全額引き上げに動いた。テレビのニュースがノーザンロックの建物の前に並ぶ、長い預金者の列を連日映しだした。ところが、政府や金融当局は「銀行は破綻状態にはない」、「落ち着いて」と呼びかけるメッセージを出すのみ。金融不安は高まるばかりで、ダーリング財務相が、当初預金の全額保護を打ち出さなかったこと(通常は一定の限度がある)で、火に油を注ぐ結果になった。
金融業の監督団体FSAの監督が甘かったのではないか、中央銀行は緊急支援を直ぐにも実行するべきだったのではないか、安易なローンを組ませることを許した金融行政に問題はなかったのかー?批判がうずまいた。
ブラウン首相の前職は財務相。好景気を維持したことで、「優れた財務相」として評判だった。銀行の監督業務を中央銀行からFSAに移動したのもブラウンのアイデアだったと言われている。経済には強いはずが、その経済でつまづいてしまった。預金が安全かどうかは国民にとって切実な問題で、信頼感が大きくゆらぐきっかけを作った事件となった。
政権の人気が冷え込んだことを察知したブラウン首相は、「年内にも総選挙に打って出る」、という噂を否定するようになった。近く総選挙がないことが明らかになると、労働党内から「思い切って決断ができない政治家」、「弱腰」とする批判が相次いだ。
労働党系のシンクタンク「フェビアン協会」のスンダー・カトワラ事務局長は筆者に対し、「総選挙の早期開始に、自分は反対だった。じっくり政策を実行して足固めをし、それからとなっても遅くはないと思っていた」と語る。ブラウンが総選挙実行を選択肢の1つにしていたのは事実だと言う。
慎重さゆえにその選択肢を破棄した、ということなのだろうが、「勝てたかもしれない選挙をとりやめた」という負のイメージが、残念なことについてしまう結果となった。
同じ頃、保守党が一歩抜き出た動きをしていた。10月の党大会で、オズボーン影の財務相が、相続税の課税適用額の大幅引き上げ、国内に住みながら節税対策のために居住地を海外とする外国人に対する課税措置といった、思い切った政策を提言していた。相続税は中・上流階級にとって大きな悩みとなっており、課税適用額の引き上げは大歓迎だった。節税対策をする外国人居住者に対する課税も、多くの国民にとって、胸がすくような政策だ。国民の一部で根強い「反移民・反外国人」感情をくすぐった。
新聞各紙は保守党の税制改革案の斬新さを書きたてたが、この政策がいかに国民にとって魅力的なものかは労働党自身が熟知していた。ダーリング財務相はオズボーン提案の主たるものを、若干の変更を加えて、政府案として実行すると発表した。保守党は「政策を盗んだ」と抗議し、財務相は「以前から考えていた」と反論したが、いずれにせよ、「思わず盗みたくなるほどの政策」を先に発表したのが保守党であるのは事実だった。アイデアの面で、労働党は保守党に完敗した。
税金問題はさらにブラウン政権の首をしめる。首相が財務相時代に発表していた予算編成方針に従い、今年4月から、所得税の最低税率10%が撤廃された。低所得層約500万人が負の影響を受けることになった。「貧困の撲滅」を政治の重要課題とするブラウンの信条に反するような政策にも見えた。労働党内外の政治家や国民から、一斉に批判が噴出した。ダーリング財務相は低所得層への経済支援策を発表したが、既にダメージは取り返しのつかない状態になっていた。翌月の地方選、ロンドン市長選、補欠選挙で、国民の怒りは爆発し、労働党は大敗した。
▽躍進の保守党
労働党の凋落をよそに、保守党は、1990年代に固定化した「なんともいやな政党」というイメージをほぼ完全に解消させている。そのけん引役は、2001年に下院議員として初当選し、4年後には保守党党首となったキャメロンだ。現在41歳で、57歳のブラウン首相と比べると、ずい分若い。自転車で下院に通勤し、インターネットに親しみ、環境問題にも関心が高い。良家に生まれ、名門イートン校からオックスフォード大学に進んだ。ブラウン首相はこうしたキャメロンの経歴を見て、「きどった上流階級の出身者」、「庶民の悩みは分からない」と批判してきた。しかし、国民にとって、どんな階級出身かよりも、自分の生活に直結する問題を解決してくれるのは誰なのかが、もっと重要だった。
今のところ、ポスト・ブラウンの有力候補は労働党内でも統一されていない。このまま支持率低下が続くのか、ブラウンの巻き返しが起きるのか、未だ不確定だ。しかし、保守党の快進撃が続くようだと、政権交代は夢ではない。第2野党自由民主党のニック・クレッグ党首(41歳)が、次の総選挙後、保守党が政権を取得した場合、「閣外協力をする」と意思表明をしていたが、先見の明があったということか。左派リベラル政党の自民党が保守中道派の保守党と結束するとは一見奇妙でもある。労働党対保守党という、戦後の英国の2大政党政治の歴史の流れに変化が起きそうだ。
ブラウンの前任者トニー・ブレアは43歳で首相となったが、キャメロン、クレッグ両氏の年齢を考慮すると、労働党が次期党首候補に同年齢層の人物を選択する可能性は高い。ブラウン政権の次は、40代前半の政治家がまた上に立つ事態が生じるかもしれない。
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