タイトルの「私が新首相に選ばれたら」の私とは、私(安原)というよりもむしろ多くの国民一人ひとりを指している。その私の心にある政治への期待、見解、希望を描いてみる。自民党総裁選後、新総裁が臨時国会冒頭で新首相に選ばれるのは間違いないだろう。 所信表明演説の後、解散、総選挙になるのであれば、その所信表明の中身こそが総選挙の行方を決めるカギになるのではないか。その中身は私たちの期待や希望に十分応えるものになるのかどうか、そこが見どころである。
▽新首相に期待される「所信表明」
自民党新総裁選出後の臨時国会冒頭で新首相が誕生し、想定される新首相の所信表明演説(骨子)はつぎの通り。
私は日本人でたった一人にしか与えられない栄誉、日本国首相として感謝と厳かな気持ちで、確信を持って本日、所信を表明したい。 私は首都、東京を、そして日本を変えるのにふさわしい新しい内閣をつくった。古くさい勢力に警告しておきたい ― 新しい変革がやってくるぞ、と。
私は一匹狼とも呼ばれている。その意味するところは、私は党のためでも特定の利権のためでもなく、善良で勤勉な国民のために働くということだ。 私は、わが党の誇りを取り戻すために全力を尽くす。腐敗、私利私欲、偽装、怠惰、手抜きの誘惑に負けたせいで、我々は同胞である日本国民の信頼を失った。これを変革し、信頼を取り戻したい。そのために何をなすべきか。
第一に日本国憲法9条改正の誘惑を排して、9条を堅持する。世界中に反戦・平和を希求する声が広がりつつある。日本国民に限らず、世界の多くの人々が、9条に込められた平和への崇高な理念を高く評価していることに応えなければならない。
第二に安全保障、財政・税制のあり方について抜本的な見直しが不可欠となった。選択肢は景気対策か財政再建か、という二つに一つの狭いものではない。財政・税制を根本的に変える必要がある。その主な柱はつぎのようである。
*防衛費(年間約5兆円)の大幅な削減に着手する。軍事力によって平和を確立できる時代ではもはやない。 *新テロ特措法(有効期限は来年1月15日)にもとづく米軍などへのインド洋での給油活動を中止する。無条件の対米協力は人心から離れている。 *血税浪費の典型である巨費を要する高速道路づくりを凍結する。 *社会保障費削減の中止、後期高齢者医療制度の廃止に踏み切る。 *食料自給率(40%、先進国で最低)を高める一環としてコメの輸入(最低輸入義務量)を中止する。 *再生不能なエネルギー(石油、石炭、天然ガス、原子力)を減らして、再生可能な自然エネルギー(水力、太陽光、風力、バイオマスなど)への転換に重点を置く。自然エネルギーに必要な大規模投資を実行する。 *地球温暖化防止の一助として環境税を導入する。消費税は引き上げない。 *法人税優遇税制の見直しをすすめる。 *小泉政権以来実施された新自由主義路線(市場原理主義にもとづく弱肉強食による格差・不公平・失業・貧困の拡大)は国民の生活・福祉の向上と相反する面もあり、顕著に見直していく。
国民の皆さん、私とともに戦ってほしい。立ち上がり戦おう。我々は皆、日本の現状を改革し、希望に満ちた素晴らしい未来をつくりあげていくことを決してあきらめない。歴史から逃げることはしない。本日ただ今から我々が自分の手で新しい日本の歴史 ― 後世に恥じない歴史 ― をつくっていくのだ。
▽国民の声に応える政権に必要な条件は?
上記の所信表明を読んで、どこかで聞いたようだと直感できるのであれば、米大統領選にくわしい人である。そう、米共和党の大統領候補に9月4日(現地時間)指名されたジョン・マケイン上院議員の受諾演説(新聞報道による)を下敷きにして、それに日本色を織り込んで書いたものである。政策の中身としては多くの私たちが心にそこはかとなく描いている改革設計図を提示した。
自民党の新首相にこういう所信表明ができるようであれば、新政権を担ぐ自民・公明両党は総選挙で圧勝し、しかも長期政権になることは間違いないだろう。 焦点は新首相のポストに誰が座るのかである。民主党は代表選告示日の9月8日、小沢一郎代表のみが立候補したため、小沢氏の無投票3選が決まっている。一方、自民党はどうか。総裁選告示日の9月10日午前、つぎの顔ぶれが名乗りを上げた。 石原伸晃元政調会長(51)、小池百合子元防衛相(56)、麻生太郎幹事長(67)、石破茂前防衛相(51)、与謝野馨経済財政担当相(70)の5人(届け出順)。
9月10日午後2時から自民党本部で候補者5人の共同記者会見が行われ、NHKテレビで一部始終を観た。5人の意見が完全に一致したのは、インド洋での給油活動の継続である。民主党は継続に反対しているが、自民党には給油活動という対米協力は批判を許さぬ聖域となっているらしい。 このように惰性から抜け出せないようでは、候補者の顔ぶれは、女性も一人加わってこれまでにないにぎやかさだが、とても国民の声に応えられそうにはない。
結局、自民党は総選挙で敗北するか、あるいは辛勝して新内閣を発足させても、短期政権に終わることは間違いないだろう。安倍、福田両政権につづいて3度目の政権投げ出しという醜態を演じる可能性もある。「二度ある事は三度ある」のたとえもある。 要するに小泉、安倍首相時代のいわゆる構造改革とは異質の上記のような改革設計図そのままでなくとも、それを参考にした新しい改革路線を提示できないようでは自民党はもはや政権担当能力を失っているというほかない。時代の新しい潮流から取り残されているのだ。
*本稿は「安原和雄の仏教経済塾」からの転載です。
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