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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2008年09月14日00時19分掲載
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農と食
自由貿易は食料・環境危機を招く!(4) この10年で15万人の農民が自殺した スジョバン・ダール(インド)
中国と並び経済成長をひた走るインド。だが、ITや自動車産業の華やかな事業展開の陰で農民の自殺が急増、都市スラムはいっそう広がり、三期作の田んぼをつぶして工場が進出、農民が排除される事態が続いている、と第三世界債務帳消委員会・インドのスジョバン・ダール氏は語る。脱WTO/FTA草の根キャンペーンが洞爺湖G8(先進国首脳会議)に向けて開いた札幌国際シンポジウムの報告の最終回。(安藤丈将)
発言の機会を与えていただき、ありがとうございます。私はインドから来ました。インドは新自由主義モデルの成功例として知られています。過去3年間、年間の経済成長率は8%、市場はますます拡大し続けています。「輝けるインド」という言葉も作り出されました。たとえ選挙で負けても、この言葉を好んで使う人たちがいます。私がインド出身であると聞くと、多くの人びとはソフトウェア産業やITのことを話題に出します。しかし忘れてはならないのは、国民の60%、約6億人が農業に従事していることです。このことはインド国内のエリートさえも忘れがちなのですが。私自身は農業の専門家ではありません。第三世界の債務を帳消しし、破壊的なプロジェクトをストップさせる活動をしていて、その中で農民の人びとと関係を持っています。
◆価格が暴落し、借金が増大
まず、昨年の産業の状況をお話ししましょう。インド経済全体としては、8%の経済成長、製造業では13.1%、サービス業では13.3%、鉱業(採掘産業)では5.1%、農業では2.1%の経済成長をしました。しかし農業は危機の中にあります。過去10年間で農業従事者の自殺件数は、15万人にものぼりました。
インドの農業は自給型です。家族全員が農業に従事し、農作物を自家消費し、残ったものを市場に出すというやり方をしてきました。この長年続いてきた自給農業にも、近年は変化が見られます。1990年代の経済成長の下、商品作物への転換が進んだのです。たとえば綿花は、国内消費中心だったのが、国外の輸出市場へ送られるようになりました。この過程で大規模アグリビジネスが支配するようになったのです。
こうして農産物ごとに激しい国際的な競争が繰り広げられます。消費者は一番安い価格で売ってくれる所から農産物を買うわけです。各国で農産物の価格破壊が起こります。商品作物に転換して最初の数年間、農民の経営はうまく行きます。しかし規模拡大の費用、種子(近年では遺伝子組み換え種子)や肥料の購入によって、農民は借金を抱えるわけです。その後、国際競争が激化して、農産物の販売価格が暴落し、結局、農民は借金を返せなくなります。加えて、土地の問題も深刻です。農民の食料生産のための土地の確保が困難になっています。
◆都市スラムが拡大
もし今後数年間、今のインフレが続けば、1億以上の人びとが食料の不足によって深刻な飢餓の状況に見舞われるかもしれません。思い出されるのは、1943年の深刻な食料危機です。ベンガル州で200万の人びとが餓死したのです。インド国内で生産した食料を西アジアの戦線に送った結果、国内に回す食料がなくなったのが原因でした。
現在の農村の窮状は、社会全体に大きな影響を与えています。農業では生計を立てられなくなった人びとが都市部にやってきて、安い賃金で不安定な肉体労働に従事しています。そこでは非人間的扱いを受けながら働いています。こうして低収入層が広がるにつれて、スラムも拡大していきます。この状況をどうにかして変えない限りは、事態はさらに悪化するでしょう。
他方、食料危機によって儲けている人びともいます。アグリビジネスと呼ばれる巨大企業がそれです。たとえば、2008年1〜3月のアーチャー・ダニエルズ・ミットランド(ADM)の利益を前年のそれと比べると、55%増加しています。カーギルは86%、モンサントは54%、あまり知られていませんが、世界最大の肥料会社であるモザイクは、1200%利益を増やしています。これは厳然たる事実です。私たちはアグリビジネスを追い出して、持続可能な農業にシフトしていく必要があるでしょう。
◆経済成長の恩恵はトップ20%だけ
インドについて語る時は、経済成長に関心がいきがちです。インド経済の成長率は、7〜8%で、これは近い将来も続くと見込まれています。
それでは、成長による負の影響は、どうなっているでしょうか。成長の恩恵は、全国民の何%に行き渡っているでしょうか。90年代、年率4%の成長を遂げていた時代には、フォーマル部門での雇用の伸びは、2%に過ぎませんでした。8%の成長を続けている現在、雇用の伸びは、1%以下です。これはインド政府が出した数値ですが、こうした数値はきちんと公表されていません。ここから、経済成長は生産性の極大化、資源の搾取に支えられていることがわかります。
昨今の経済成長の恩恵を受けているのは、非常に高い技能を持ったトップの20%に過ぎません。残り80%の国民にとっては、状況が悪くなる一方です。経済成長が続くにつれて、労働のインフォーマル化、非正規化が進むわけです。
インドや中国は非常に高い成長率を経験しています。こうした成長のパターンは、インドよりも早く成長を遂げたヨーロッパ、日本、アメリカとは異なっています。これらの国は他の国を植民地化し、そこから資源を搾取することで、自国の経済成長を支えてきました。
インドには現在、国内に345の経済特区があります。ここで新たな経済成長のモデルを推進しようとしています。特区では、税金が免除され、労働組合なしにビジネスができます。経済特区で土地を利用するために、本来ならば農業にいくはずの用地がとられてしまっています。
◆企業が農民を追い出す
少し例をあげて紹介しましょう。自動車などを製造しているタタスティールという会社があります。ナノというコンパクトカーを生産しています。この会社が肥沃な997エーカーの農地を取得しました。ここは、それ以前は3期作も可能な土地でした。1万人以上の人びとが農業に従事していたり、季節労働者として働いたりしていました。政府はこの土地を買い上げ、これを安く売り、工業用地に転換しました。タタがそこに来たら、人びとの生活が良くなったかというと、そういうことはなく、実際には人びとがタタに雇われることはありませんでした。(<参考>を参照)
もう一つの例をご紹介します。ベンガル州のナンディグラには、2万エーカーの肥沃な土地がありました。ここも以前は三期作が可能な土地でした。この土地に巨大な化学産業拠点を作ることになりました。まず、インドのサリムグループ、その後に日本の三菱化学が進出しました。現在は住民の抵抗運動が続いていますが、すでに50名の抗議者が殺されました。
こうしたひどい事例を報告すると、7日間くらいぶっ通しで話さなくてはなりません。私が問いたいのは、次のことです。このようなパターンの成長は、持続可能なのでしょうか。経済成長はすべての人を幸せにするのでしょうか。多くの人たちの犠牲の上に、一部の人たちだけが幸せになっているのではないでしょうか。
<参考>朝日新聞は08年9月3日に「インド・タタ、工場建設を中断 農民が反対運動」と伝えている。それによると、世界最安の1台10万ルピー(約25万円)の乗用車「ナノ」生産計画を進めているタタ・モーターズは2日夜、生産のための工場 建設を中断したことを明らかにした。土地収用に抵抗する農民の反対運動が激化したためで。同社は西ベンガル州東部のシングール地区にナノ生産のための新工場を建設中で、すでに150億ルピー(約375億円)を投資していた。工場用地は約1 千エーカー(約4平方キロ)。州政府が農民から収用し、同社と賃貸契約を結んだ。州政府は農民に補償金を支払う方針だが、約400エーカーを所有していた 約2200人の農民は収用に反対、補償金の受け取りを拒否している
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G8に向け内外の市民によるアクション(08年7月5日、札幌、大野和興撮影)





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