昨秋から始まった未曾有の経済危機により、日本国内でも派遣社員や期間工の雇い止めが大きな問題となっている。なかでも、ほとんど報道されることのない外国人労働者の“クビ切り”は深刻で、雇用保険にも加入できず、低賃金で働かされたうえ、真っ先に切り捨てられているのが外国人労働者の現状だ。「私たち外国人労働者の置かれた状況や想いを、多くの方々に知ってもらいたい」と、「在日ビルマ市民労働組合」(FWUBC)会長のティンウィンさん(55歳)は2月21日、東京・池袋のECO豊島で開かれたビルマ市民フォーラム例会で窮状を訴えた。(和田秀子)
◇ “天と地”ほどの処遇格差
まずは、過去に「日刊ベリタ」で掲載された記事を引用しつつ、ティンウィンさんの略歴をご紹介しておきたい。
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200704281542076 ティンウィンさんが来日したのは、1996年。母国ビルマ(ミャンマー)では、アウンサンスーチーさん率いるNLD(国民民主連盟)の役員として活動していたため、軍事政権からの圧力を逃れるために来日したという。 来日後、すぐに難民認定申請を行い、1999年にはこれが認められた。
2002年には、「在日ビルマ人の支援・ビルマ民主化運動の支援、母国の労働者支援」などを主な目的として、在日ビルマ市民労働組合を結成。現在は、群馬県大泉市の工場で働きながら、在日ビルマ市民労働組合の会長として活動にあたっている。 とくに、昨秋の経済危機以降は、失職したビルマ人たちからの相談が相次ぎ、対応に追われる日々だという。
ティンウィンさんは、この日行われた例会で、「日本人の非正規雇用者も大変な目にあっているが、同じ非正規雇用者でも、日本人と外国人の間には“天と地”もの処遇格差がある」と、外国人労働者が直面する現状を訴えた。
“天と地”ほどの処遇格差とはどんなものなのか―。
「仕事内容は同じなのに、日本人と外国人の時給には200〜400円ほどの開きがあります。これは、間に入っている派遣会社がピンハネしているから」とティンウィンさんはいう。 また、いつも真っ先に解雇されるのは、言葉の分からない外国人。保険料は差し引かれているものの、失業保険すら受け取れないケースも相次いでいる。
◇外国人労働者の最底辺にビルマ人
さらに、同じ外国人労働者のなかでも“格差”は存在する。 「まだブラジル人の方々は恵まれています。帰る国があるし、帰国費用もブラジル政府が援助してくれますからね。フィリピンやバングラデシュの大使館も同じような支援をしています。でも私たちビルマ人には、大使館からの何の援助も一切ありません」とティンウィンさんはいう。
それだけでなくビルマ大使館は、在日ビルマ人からパスポートの更新などの名目で“税金”まで徴収している。だからティンウィンさんたちは「大使館」ではなく「税金徴収所」と呼んでいる。
「在日ビルマ人の立場は、外国人労働者のなかでも最底辺なんです」とティンウィンさんはいう。
その背景には、日本の入国管理局が、なかなか難民認定をくださないために、社会的扶助も受けられず、否応なく弱い立場に追い込まれている在日ビルマ人の苦悩があった。
現在、日本に滞在するビルマ人は約1万人にのぼる。大半は母国の経済状況の悪化にともなう出稼ぎだが、ティンウィンさんのように軍事政権下での弾圧を逃れ、日本で難民認定を受けるべく申請中の者も少なくない。 しかし、入国管理局による難民認定審査は遅々として進まないばかりか、認定基準すら明確にされておらず、認定結果が出るまでに数年を要するケースもめずらしくない。
もちろん、この間、難民認定申請者の生活が保障されていれば問題はないのだが、難民認定申請中は原則として就労が認められていないため、認定までに時間がかかればかかるほど、彼らの生活は困窮を極める。結果、彼らは生活のために、やむなく不法就労することとなるのだ。
すると当然、彼らが雇用主に対して、労働者としての権利を主張することはできなくなる。低賃金であろうが、不当解雇されようが、だまってそれを受け入れるしかないのだ。
命からがら母国から逃げ出せたとしても、日本で待っているのは、あらゆる搾取と、それによる貧困でしかない。
◇外国人労働者への緊急・長期支援策を
FWUBCは、日本の機械金属産業を中心とした労働組合JAMや連合などの協力を得ながら職を失った在日ビルマ人の支援を行っている。ビルマ人には相互扶助の精神が強いので、それも大きな支えとなっている。 しかし、現在の不況が続けば、3月には群馬県のビルマ人の90%以上が職を失い、相互扶助も難しくなるのではないかとティンウィンさんは懸念する。
ティンウィンさんは講演の最後に、当面の雇用悪化を乗り切るための緊急支援の要請と、長期的視野にたった「外国人労働者の待遇改善」を訴えた。
緊急支援の要請としては、(1)「難民認定申請中の者にも速やかに就労を認め、仮滞在中の者であっても、失職者には失業保険を給付する」(2)「失職者に対する食べ物や日用品などの救援支援」(3)「失職者の家族に対する医療支援、子どもに対する教育支援」を訴えた。
また、長期的視野にたった外国人労働者の待遇改善としては、(1)「外国人労働者がきちんと日本語を学べる環境づくり」、(2)「スキルを身につけられる職業訓練の実施」、(3)「雇用機会の均等」、(4)「外国人の子どもに対する教育支援」の必要性を説いた。
なかでも、外国人児童に対する教育問題は深刻で、イジメや言葉の問題から公立学校になじめなかった子どもたちは、“義務教育”の網の目からこぼれおち、やがて不就学児童となってしまう。多くの可能性を秘めた“ダイヤモンドの原石”であるはずの子どもたちが、じゅうぶんな学力を身につけられないばかりに、日本社会からドロップアウトしてしまえば、やがて犯罪に走りかねないだろう。
「これは、決して私たち外国人だけの問題ではありません。今後、ますます少子化が進む日本が、外国人をどう受け入れ、どう付き合っていくのか―。日本自身の問題でもあるのです」 と、ティンウィンさんは講演を締めくくった。
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