フランスの市民組織ATTACフランスと農民組織フランス農民同盟がいま世界を駆け巡っている新型インフルエンザの背後に極度に工業化された畜産とそれを支える自由貿易政策の存在があることを指摘した共同声明を発したことは、本紙既報(5月9日)の通りである。そこで、世界最大の豚肉多国籍企業スミスフィールドの実態を追いながら工業的畜産とはいかなるものかを追った。次回は、こうした生産された豚肉を大量輸入する日本の責任を考えたみる。(松平尚也)
1、「感染源騒ぎ」が起きた村から考える
新型インフルエンザ(以下新型インフル)の発生源と言われるメキシコでの東部ベラクルス州ペテロ町に大規模養豚場が感染源として疑われた村がある。養豚場の衛生状態をめぐって抗議活動が起きたのに加え、養豚場近くの村ラグロリアに住む男児が同国初の感染者と見られていたからだ。町に養豚施設が70以上あったことも感染源としての疑いに拍車をかけ、国内外からメディアが殺到。「感染源騒ぎ」と言えるような状況が生まれた。メキシコ国会も政府に対し、アメリカ資本傘下の養豚場を調査するよう求めた程だ。
実際、ラグロリアでは今年2月以降、呼吸器障害や高熱の症状が相次いできた。3月には人口の6割が同様の症状にかかったと言われる。しかしメキシコ保健相は検査の結果、「男児以外の住民は全て通常のインフルエンザだった。養豚場の豚からも感染は確認されなかった」と発表。国内の他の養豚場で広まっている報告例もなく、関係者は首をかしげている。
しかしここで問題にしたいのは、誰が、そしてどこが「最初の感染源」か、という事ではない。その村であるいは養豚場で何が起こっているのか、ということだ。なぜなら今回の新型インフルだけでなくここ数年起こっているBSE、鳥インフルエンザ、豚コレラといった伝染病の原因として、ベラクルス州の養豚場のような効率化を追求する大規模な工業的畜産という形態の関与が疑われ始めているからだ。
2、世界最大の豚肉パッカー、スミスフィールドの実態
男児が住む人口約3000人の山間の村、ベラクルス州ペテロ町ラグロリア近くには世界最大の豚肉パッカースミスフィールド・フーズ(以下スミスフィールド)傘下の企業グランハスキャロルが運営する大規模な養豚場がある。ラグロリアの住民は、工場が豚の排泄物を垂れ流し、さらに豚の死骸を放置しており、周辺の水や空気が汚染されたとして抗議活動を行ってきた。しかし昨年から住民が対応を要請していたにも関わらず、州当局の動きは鈍かった。それどころか養豚場と病気とのつながりを主張する5人の農民を逮捕し弾圧している。ジャーナリスト達が、感染を隠蔽しようとした州の政治家と役人を汚職罪で告発しているという。
アメリカ本国だけでなく、メキシコやルーマニアそしてポーランドにおいても養豚事業を拡大させている多国籍豚肉パッカー、スミスフィールド。実は同社が問題を引き起こしたのは、今回が初めてではない。スミスフィールドは、アメリカ本国においても再三、豚の糞尿を垂れ流し、環境を汚染してきた。中でも1995年にノースキャロライナ州で同社が引き起こした垂れ流しは、アメリカ養豚業最悪の公害と言われている。1,000m2の肥溜池の堤防が壊され、1億リットルの排泄物がニュー川源流に流れ込んだ。排泄物は、人間の皮膚をこがすほど有害で、川岸は数百万の魚の死骸で埋め尽くされたという。さらに養豚場周辺の住民には呼吸器障害や精神疾患のような症状がみられることも証言で明らかになってきている。
2000年、スミスフィールドは米国内の養豚場に汚水処理施設等を建設するため6,500万ドルを拠出することを決定した。しかし同社が数十年の間、河川を巨大なトイレ代わりに使用していたことを考えれば、売上の1%にも満たない投資額に対し批判が出たのが本当の所だ。
さらにその裏で起こっていたのが、環境規制の緩い途上国への進出だ。1994年のNAFTA(北米自由貿易協定)の発効により、メキシコへの投資が自由化。スミスフィールドは同年早速に子会社を設立、汚水処理施設未整備のまま養豚業をペテロ町で展開していった。さらに同社は、2007年にEU(欧州連合)への足掛かりとして進出したルーマニアでも、悪臭騒ぎを起こした上に豚コレラを発生させている。
3、工業的畜産が引き起こす問題
養豚業で一番コストがかかるのが糞尿処理費だ。スミスフィールドはこの処理費を浮かすために、ペテロ養豚場では豚の糞尿を垂れ流し、悪臭を放つ巨大な肥溜池が作られた。池からは何十万もの大量のハエが発生し、ラグロリア村では保険局の職員が、悪臭やハエ退治のために殺虫剤を散布したこともあったという。村で流行した伝染病が新型インフルであったか否かはひとまず置くとして、問題にしたいのは、同社の養豚場に見られるような、大規模で工業的な畜産と伝染病の関係だ。
工業的畜産とは、できり限り早く育て、安く市場に出すため、規模と効率を追求する動物飼養システムである。その特徴としては、密飼い・密閉式の飼育舎、飼料の多投による成長促進、コンピューターによる自動制御、病気を抑えるためのワクチンの使用などがある。
世界の農業問題を扱うNGO、GRAINによると数年前からアメリカ国立衛生研究所の専門家含め様々な立場から、北米における工場畜産が悪性の伝染病の繁殖地になる危険性があると指摘されてきたということだ。大規模に密飼いすることでウイルスが交雑し、さらに通常より早く伝播してしまう可能性すらあるという。一旦ウイルスが発生すると、糞や飼料、水や労働者の靴から広範囲に広がってしまう。
実の所、世界で飼養される13億頭の豚の半数がこうした工業的畜産方式で育てられている。養豚に限らず、畜産システムの工業化は、先進国のみならず途上国でも急速に進んでおり、今では世界の牛肉の68%、卵の68%を家禽肉の74%がこうした方式で生産されるようになっている。しかしこうした危険性は、グローバル畜産産業の利害関係もあってかメディアで報道されることは少ないのが現状だ。(続く)
参考サイト A food system that kills Swine flu is meat industry's latest plague GRAIN, April 2009
http://www.grain.org/articles/?id=48
Laura Carlsen, Mexico’s Swine Flu and the Globalization of Disease, Americas MexicoBlog, 29 April 2009,
http://americasmexico.blogspot.com/2009/04/mexicos-swine-flu-and-globalization-of.html
GRAIN, "Fowl play: The poultry industry's central role in the bird flu crisis", GRAIN Briefing, February 2006,
http://www.grain.org/briefings/?id=194
Boss Hog America's top pork producer churns out a sea of waste that has destroyed rivers, killed millions of fish and generated one of the largest fines in EPA history. Welcome to the dark side of the other white meat. JEFF TIETZPosted Dec 14, 2006
http://www.rollingstone.com/politics/story/12840743/porks_dirty_secret_the_nations_top_hog_producer_is_also_one_of_americas_worst_polluters
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