ビルマ(ミャンマー)の民主化指導者アウンサンスーチーさんの公判に国際的な注目が集まるなか、世界的に著名な国際法専門家5人が5月21日、軍政下の人権侵害について「人道に対する罪」と「戦争犯罪」の可能性があるとして国連安全保障理事会に調査委員会を設置するよう求める報告書を発表した。報告書は米国のハーバード・ロースクールの国際人権講座に作成を委嘱したもので、そのプレス・リリースの日本語訳がビルマ情報ネットワークから配信された。(ベリタ編集部)
【マサチューセッツ州ケンブリッジ】世界的に著名な国際法専門家5人は、ハーバード・ロースクールの国際人権講座に報告書作成を委嘱し、国連安全保障理事会に対して、過去15年以上にわたって国連機関が行ってきた、ビルマでの人権侵害に対する批判に基づいた行動をとるよう求めた。 今回の報告書『ビルマでの犯罪』の刊行は、ノーベル平和賞受賞者アウンサンスーチー氏への弾圧が継続し、国際社会が改めてビルマに注目しているこの時期に重なった。この報告書は結論として、ビルマでの人道に対する罪と戦争犯罪に関して国連安保理が調査委員会を設けることを勧告している。
この報告書は、国連総会と人権委員会〔現、人権理事会〕でのビルマに関する決議と、ビルマの人権状況に関する特別報告者の報告など多くの国連文書の分析に基づいている。これらの文書が示しているのは、ビルマでの人権侵害が広範囲にわたる組織的なものであり、国家政策の一環として行われていることだ。こうした法的な表現は、詳しい調査を実施する根拠となるとともに、ビルマ軍政が、国際法に基づいて訴追の対象となる人道に対する罪と戦争犯罪を行っている可能性を強く示唆するものだ。 国連が言及する主要な人権侵害行為は、ビルマ東部の3000ヵ村以上の強制移住、広範囲かつ組織的に行われている性暴力や拷問、無実の民間人に対する超法規的処刑である。
複数の国連機関からこうした文書が出されているにもかかわらず、国連安全保障理事会は、ダルフールやルワンダなど世界の他の地域で行われているような、人道に対する罪や戦争犯罪に関する調査に踏み切っていない。
報告書の著者らは前文でこう記している。 「国連での決議と特別報告者は、自らが報告を受けたビルマでの人権侵害行為をこれまで繰り返し非難してきた。だが国連安全保障理事会は、旧ユーゴスラビアとダルフールといった類似の状況下で取るべき、そして実際に取ってきたようなプロセスを〔ビルマでは〕推進してはいない。旧ユーゴスラビアとダルフールのケースでは、問題の深刻さが認識されるとすぐに、安保理は人権侵害行為の深刻さを詳しく調べるための調査委員会を設置した。他方ビルマについては、人権侵害行為が広範囲に及ぶ組織的なものであることが同様に認識されているにもかかわらず、こうした行動が取られていない」
報告書を委嘱した以下の5人の法律家はアフリカ、アジア、ヨーロッパと南北アメリカの出身である。リチャード・ゴールドストーン判事(南アフリカ)、パトリシア・ウォールド判事(アメリカ合衆国)、ペドロ・ニッケン判事(ベネズエラ)、ガンゾリグ・ゴンボスレン判事(モンゴル)とジェフリー・ニース卿(イギリス)である。 ゴールドストーン判事は元南アフリカ憲法裁判所裁判官で、旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所とルワンダ国際刑事裁判所で首席判事を務めた。ウォールド判事は元米コロンビア特別行政区連邦高等裁判所首席判事で、旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所判事を務めた。ニッケン判事は米州人権裁判所所長を務めた。ゴンブスレン判事は元モンゴル最高裁判所判事である。ニース卿は旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所主席検事、国連旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷(ハーグ)ではスロボダン・ミロシェヴィッチに対する訴訟の次席検事を務めた。
この5人の法律家全員が、国際的な枠組の中で、深刻な人権侵害行為に直接対処した経験がある。その5人全員が、国連安全保障理事会に対して、ビルマでの人道に対する罪と戦争犯罪を調査・報告するための調査委員会の設置を求めている。
本報告書は過去15年間に国連機関が記録した4つのタイプの人権侵害行為、すなわち性暴力、強制退去、拷問、超法規的処刑を特に取り上げて検討した。報告書は2002年以降の国連文書を取り上げることで、最新の国連文書を検討の対象としている。もちろん1992年以降の国連の報告書 も、ビルマでの様々な人権侵害行為を一貫して非難している。
タイラー・ジャニーニ(ハーバード・ロースクール人権プログラム国際人権講座ディレクター。本報告書執筆者の一人)は、今回の調査結果によって、ビルマに関する調査委員会の設置の必要性が明確に示されたとしてつぎのように話している。 「ユーゴスラビア、ルワンダとスーダンに関して言えば、国連安全保障理事会は、それらの国々で人道に対する罪と戦争犯罪が起きていることをはっきりと示唆する情報を確認したことを受けて行動を起こしている。この報告書が示すように、ビルマで起きている人権侵害が孤立した出来事ではなく、人道に対する罪と戦争犯罪に該当する可能性があることが、国連文書によって明らかに厳然と示唆されている。安保理が行動を起こさず、これらの犯罪を調査しないことは、国際刑事法違反が野放しになることを意味することになる」
*ハーバード・ロースクール人権プログラムの国際人権講座は、人権問題に関する研究と提言活動を行うセンターである。同講座は毎年、世界各地の組織と共同で数十の人権プロジェクトを実施し、訴訟や真相究明調査、法・政策分析、国際人権監視団体のための報告書作成といった活動を主に行っている。
原文(英語)はこちら(ハーバード・ロースクールのページ)
http://www.law.harvard.edu/programs/hrp/newsid=59.html
報告書本文(英語、PDF)はこちら
http://www.law.harvard.edu/programs/hrp/documents/Crimes-in-Burma.pdf
ビルマ情報ネットワーク(http://www.burmainfo.org )
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