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2009年07月27日20時34分掲載
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中国
新疆の危機は臨界点を超えた 根本解決は民主と人権の保障に 漢族作家、王力雄氏インタビュー
7月5日に新疆ウイグル自治区ウルムチで発生した大規模な暴動後、国営新華社通信はじめ中国のメディアは漢族が受けた悲惨な被害状況ばかりを強調する報道に終始している。中国政府はロシアとの反テロ合同軍事訓練を行い、民族問題に対して力による封じ込め政策だけで臨もうとしているようだ。香港の『亜洲週刊』はこうした一連の記事の中で、ウイグル人からも厚い支持を受けている漢族の作家、王力雄氏にインタビューした。王氏は、昨年のチベット暴動の際、政府のチベット族民衆への弾圧中止を求める声明をほかの著名な知識人らとともに発表したことで知られる。(納村公子)
新疆ウイグル自治区での暴乱で180人あまりの死者が出たが、その数字は上がる一方で、公表された残虐行為は想像を絶する。被害を受けた漢族は首をナイフでかき斬られたり、斬首された人もいる。近年では最もショッキングな大規模反乱だった。昨年のラサでの反乱と、今年の新疆での暴動からは中国における民族問題、民族間の誤解や行き違いがさらに悪化していることがわかる。
政治的寓話小説『黄禍』、チベット問題をあつかった『天葬』などの著者であるインディペンデントの作家(訳注:中国における公的な組織に属さないフリーの作家)である王力雄氏は、2007年に出版した『我的東土、ni的西域』(『私の東トルキスタン、あなたの西域』台湾、大塊文化出版)で、「新疆問題にはチベット問題に代わる動向が見られる。それは大陸で最もやっかいな問題である」と預言している。 だが、それより以前、2002年前後、王氏は「新疆の危機は臨界点に迫っている」と何度も示していた。
1980年からいままで、王氏は十数回にわたって新疆地区を周遊し、各地をまわっている。本誌の取材を受け、王氏は1998年、『天葬』の構想中、新疆で資料を集めていたとき、中国当局によって「国家機密を盗んだ」という罪状で40日あまり投獄されている。王氏は、国家がどのように政治を行っているかは、国民には知る権利があると述べる。しかし、当局にすれば、統治は独占されるべき機密であり、触れてはならないことだという。 投獄された経験で王氏は新たな扉を開いた。獄中で知り合ったウイグル族が彼の心の扉を開き、彼をウイグル人の心の世界へと導いたのだ。
出獄後、王氏は4回にわたり新疆を訪れ、ウイグル族の友人に連れられてその基層世界に踏み入った。王氏は本誌にはっきりと言った。いま新疆の民族が持っている憎しみは最高潮に達している。民族問題は民族対立になり、手の施しようのない結果を生むだろう。政策の調整や局地的な政治ではもはや解決できないという。「これは巨大なるシステムだ。根本的には社会全体の転換が必要だ」と述べた。
以下はインタビューの要約である。
──暴動が起きたとき、みなその原因に注目した。原因は何だと思うか。
いまほとんどの見解は、原因と結果と取り違え、ますますわけがわからなくさせている。多くの人が認めているように、政府側はかつてのような情報封鎖こそしなかったが、私は政府側情報は信用していない。天安門事件の真相、昨年のチベット暴動の真相が情報封鎖されたとき、判断材料がなかった。今回の暴動に関して、政府側の発表はいったい「真実」だったのか、「真相」だったのか。政府側が提示した情報とメディアに対して行った制限つきの取材では事件全体の真相は構築されない、と私は考えている。
なぜ暴動が起きたのか、海外勢力のコントロールがあったのか、テロ組織がかかわっていたのかについて、いまある情報からはとうてい判断できない。しかし、根本的原因は中国政府の民族政策の失敗にあることは間違いないのだ。
──漢族とウイグル族との誤解の主なものは何だと思うか。
それはいろいろあるが、比較的重大なことは移民だ。ウイグル族にとって新疆は「植民地」だ。ウイグル族のほとんどはそう思っている。新疆ウイグル自治区の資源は大量に中国の中心部に運ばれているが、現地住民にはなんらの見返りもない。大量の漢族が新疆で仕事を求め、生計の道を探っている。 その大きな原因は、中国中心部の都市における就職難だ。そして、新疆生産建設兵団(訳注:一種の屯田兵組織)の漢族が200万人あまり新疆に入植したことだ。(1958年からの)大躍進政策後の飢饉に、またおびただしい漢族が新疆に流れ込んだ。
80年代の改革開放政策後は、さらに多くの漢族が新疆に移民した。移民たちは現地住民から資源を奪った。「西気東輸」(訳注:西部の石油や天然ガスを東部に送る)プロジェクトのように、石油、天然ガス、石炭などの資源を中心部に送った。経済は右肩上がり、投資も増え続けたが、新疆の住民たちには利益と結びつくとは思えなかった。これは重要な相当な問題であることは間違いない。
──ネット上では多くの人が、北京の少数民族政策に疑問を持っているようだ。長期にわたり実施してきた少数民族への傾斜政策には反省すべきものがあるか。
具体的な政策問題をどうこう言うことも結果と原因を取り違えている。結果の中に是非を求め、自分の側に理があると主張しようとしても、本当の根本はそこにはない。たとえば9・11はもちろんテロ犯罪だが、なぜ9・11が起きたのか。西側とイスラムはなぜ敵対することになったのか。テロリズムはどうして生まれたのか。こうした深い問題を考えなければならず、事件だけに限って論じ、アフガニスタンやイラクを攻撃すべきではない。
新疆とチベットで起きた事件によって波及する面がこれほど広範囲なのだから、簡単に外国勢力のせいだと結論づけているが、いったい彼らが強大な中国をこれほど攪乱するようなどんな力を持っているのか。世界各国が気を遣い、無尽蔵の資源を持つ大国ならば、なぜその政府が民衆を操っているのでなくて、外国勢力が操っているなどということがあるのか。
去年の事件は一人の老人に罪を帰さしめ、今年の事件は一人の老婆に罪を着せる。なぜ民衆が自分の言うことを聞かず、彼らの言うことを聞くのか。中国の民族政策の根本から考え直し、どんな問題が出ているのかを考えなければ、単純に「大学入試を優遇する」とか「犯罪の罪を軽くする」などといった末梢的なことをどう言ってもだめだ。いま大きな問題が出ていることは、事実がすでに証明している。
──新疆の危機は臨界点に迫っていると以前預言されたが、当時のその預言は何に基づいているのか。
民族間の関係は、民族問題が人種衝突に変わってしまったら、とりもどすのはむずかしい。民族問題は、主に文化の違い、政治上の対立、あるいは歴史論争だ。これらは主として民族の上層部、エリートや知識人の間で、イデオロギーという形で存在している。こうした問題は政策の調整、文化の保護、歴史の見直しを通して解決できる。 しかし、人種衝突にまで発展してしまうと、血統で敵味方が分けられ、エスニックに属する人がみな戦争に参加することになる。そこまで来ると、上述した措置ではとりもどせない。
──あなたの言う臨界点とは人種衝突のことか。
そうだ。あのころ私は、臨界点に達すると、たちまち変わるとずっと言い続けた。臨界点に達する前ならば、民族の関係は悪化はしてもとりもどすことはできる。臨界点を過ぎてしまったら、二つの民族は並び立たない状態に陥る。民族の一員は、生まれたときから、その家族や周囲の環境から、対立する民族は敵であると教え込まれ、憎しみは骨の髄までしみ込んでしまう。私がいちばん心配しているのは、こういう状況になってしまうことだ。だが、事実はまさにこの方向に進んでいる。
──去年のチベット、今年の新疆を見て、共通するものはあるか。
新疆でもし民族衝突が起きたら、その激しさはチベットの比ではないと思っている。民族的性質や宗教の違いばかりでなく、重大な原因はチベットの地が農耕文明には適さない地理的環境にあることだ。市場化に伴って、漢民族もチベットに進出していったが、主として大都市や交通の幹線地帯、観光地に集中し、農村や放牧地に漢民族は少ない。そのためチベットの一般庶民は、漢族と直接ぶつかることがない。しかし新疆はそうではない。
たとえば新疆建設兵団は農村に入植し、現地の庶民と向き合っている。兵団自身は現地の住民から耕作地を奪ったりせず、自分たちで開墾したのだと言っているが、それは一面でしかない。新疆の耕作地は灌漑に頼っている。上流を開墾すれば水が遮断される。下流の住民たちが影響を受けないわけにはいかない。当然、オアシスは縮小し、耕作地が砂漠化し、下流の住民たちの憎しみを招く。 また、新疆の農村に移住した漢族は養豚などの生活習慣があり、文化的にもウイグル人と直接衝突する。こうした衝突は日常生活の細部に普遍的にひろがっている。
──ウイグルと漢族との衝突はチベットとの衝突を上回っているのか。
新疆の民族主義はチベットよりずっと広くまた深い動員力があると言える。いま言ったように基層部分での衝突が原因だ。新疆の一部地域では、子どものころから漢族とウイグル族のどちらも対抗する心理状態を持っている。1980年代、90年代から、新疆の民族衝突、政治的反抗、テロ活動は多かった。
9・11事件の後、西側社会がイスラム世界を排斥するようになったため、新疆の抵抗活動は鳴りをひそめた。しかし、問題が解決したわけではなく、憎しみも消えはせず、累積する一方だった。ある時点にまで積もり積もったとき、小さなことで大爆発が引き起こされる。
──問題が存在するならばどのように緩和すべきか。
私が言えることはただ「重く積もればとりもどしはむずかしい」という感慨だ。いま本当にこのことばが意味することを感じている。現状を思うたび、どうにもならないという感覚になってしまう。もはや臨界点は過ぎてしまった。局部を修正したり、小さなところを補填したりしても無駄だ。大きなシステムのプロセスを行わなければならない。
これは長く苦しいプロセスだ。このプロセスは自然のなりゆきに任せることはできない。必ず全体的な改編がでなければならない。いまは、全体主義を当然のことのように否定し、変化に頼ることが流行っている。しかし、硬直化したシステムで変化があっても、システムを飛び出すロジックなどありはしない。変化の結果はただ崩壊あるのみ、超越は実現しない。 だから、根本からシステムの転換を行わなければならない。徐々に進めればいい。だが、システムの転換は根本なのだ。中国はこうした転換を行うべきだ。民族問題を解決するためだけであっても、こうした大変化は必要なのだ。
──民族自治は時代遅れだという人がいるが、どう思うか。
たしかに国内では近年こういう声が大きくなっている。民族自治はソ連モデルだから、失敗が証明されていると、地域で民族を分けずに民族を強調するアメリカ・モデルを採用すべきだと。こういう主張は主流になり、権力当局も関心を持っている。
しかし、ただアメリカ・モデルだと言うだけで、その基本的前提、つまり民主と人権への保証に目を向けていない。個人の権利が保証されれば、人権を有する個人から成るエスニック・グループには当然保証された権利が生まれ、民族地域の自治は必ずしも必要ではなくなる。しかし、個人の権利が保証されないなら、どうやって民族の権利が保証されるのか。もしこの状態で民族地域の自治への保護まで奪われたら、さらに多くの差別を受けることになる。 だから、現状の政治制度では、根本的に問題を解決する方法は生まれない。本当の民主と自由、人権を十分に保証された社会大系にこそ、中国の民族問題の根本的解決があるのだ。
しかし、政治制度が転換するとき、鬱積した民族の矛盾が大爆発するかもしれない。ソ連崩壊から、ルーマニア内戦まで、かつてのインドとパキスタンが分割されたことなどから、転換過程での危険性を見ることができる。民主転換とそれに伴う民族衝突をどのように解決するか、どのように災難を避けることができるか、これもまた重大な課題だ。
原文=『亜洲週刊』09/7/26 紀碩鳴記者 翻訳=納村公子
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