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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2009年08月10日00時10分掲載
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《インターナショナルヘラルドトリビューンの論客たち》(1) イラン抜きの中東の平和はありえないと説く<ロジャー・コーエン> 村上良太
インターナショナルヘラルドトリビューン(以下ヘラトリ)は国際的な影響力を持つニューヨークタイムズ傘下の国際紙です。日本でも一部160円で売られています。ヘラトリには編集部が書く論説が2つと、寄稿者によるコラム・論説が6つほど毎日掲載されています。これから数回にわたって、論者一人一人の思想・傾向やプロフィール、そしてバックグラウンドなどに少しでも迫っていければと思います。第1回は、Roger Cohen (ロジャー・コーエン)。コーエンは最近精力的に執筆しているコラムニストです。特にイランの核開発問題にからむコラムを多数書いています。イランにはたびたび出かけて取材を行っているらしく、イラン大統領選挙後のデモ現場にも駆けつけています。コーエンはイランに一定の理解を示し、イランの協力をテコに中東に平和を打ちたてようと考えているようです。
4月27日のコラムではヒラリー・クリントン米国務長官がパレスチナのウエストバンクを訪問し、その惨状に驚いたことに触れています。クリントンは今後、イスラエルとの交渉テーブルに穏健派のファタハだけでなくハマスも招く構想を持っていると言います。 これまでハマスはイスラエル国家の存在を否定していますが、クリントンはハマスを招く条件を3つ掲げていると紹介しています。その3つとは (1)暴力の放棄 (2)イスラエルの存在を認める (3)過去の締結事項を守る
コーエンはハマス抜きに交渉ができると考えるのは誤りだと考えています。ハマスとファタハ双方を交渉当事者にしようと試みる、今回のアメリカの外交方針の変化を歓迎しています。
一方、イスラエルのネタニヤフ首相側近はイランの核開発と中東へのイランの影響力拡大を米国が阻止しない限り、パレスチナとの交渉のテーブルにはつかないとワシントンポストで発言。コーエンはこの発言に触れつつ、クリントンがイランに「制裁」をちらつかせるのは外交的に間違いだと述べています。その理由をコーエンは2つ挙げます。
(1)イランにはすでに米国との交渉の準備があること、 (2)イランが全体主義国家でないこと。
コーエンはイランを敵にするより味方につけたほうがはるかにパレスチナ問題の解決につながるという考えです。この16年間、マドリード、オスロ、アナポリスでの合意が成果を上げていない理由はイランを交渉の場からはずしたことが原因だとコーエンは明言します。
しかしイランに理解を示すコーエンの一連のコラムはユダヤ系アメリカ人の中でもイラン政府に不信感を持つ人々から強い批判を招いています。 ナチのホロコーストに対して当時のアメリカの行動が正しかったか検証しているワイマンインスティチュート・ホロコーストスタディーズという団体がワシントンDCにあります。この団体のディレクターをつとめるラファエル・メドフはコーエンがイラン政府に騙されている、とエルサレム・ポスト紙上(2月26日)で批判しています。 メドフが反発しているのは今年2月23日にコーエンがヘラトリに書いたイラン訪問記です。「テヘランには1ダース以上のシナゴーグがあるし、エスファハンにはもっとある」など、ユダヤ教徒もイランで問題なく暮らしていると書いたコーエンのコラムに対し、見せかけに騙されたとメドフは憤慨しています。ナチ時代にもソ連時代にも見せかけに騙されてきたと言うのです。
さらにアメリカの雑誌アトランティックのジェフリー・ゴールドバーグは「コーエンはロサンゼルスのシナゴーグ、シナイ寺院を訪ねろ」と書いています(3月3日)。このシナゴーグの信者の半数は革命後イランから移住した人々だそうです。 なんとコーエンは本当にシナイ寺院を訪ね、イランに不信感を抱くラビや信者たちの質問に答えました。この時のやりとりもコーエンはヘラトリ紙上に載せたようです。コーエンは読者の声に応えつつ書き続けるスタイルを持っているのです。
このように一部ユダヤ系アメリカ人の憤慨を買っているコーエンですが、ユダヤ系の通信社JTAによるとコーエン自身もユダヤ系のようです。
それではコーエンはどんなプロフィールなのでしょうか? ネットで検索する場合は信頼できるソースであることが大切です。
コーエンの名前をグーグルに書き込んで探していると、英紙インディペンデントのサイトにコーエンに関する「ロジャー・コーエン:わがメディア人生」なる記事が掲載されていました(2007年2月12日)。記事によるとコーエンは英国生まれ。オックスフォード大学を卒業後、ロイターのブリュッセル支局員、ウォールストリートジャーナルのローマ支局員とベイルート支局員を経て、1990年にニューヨークタイムズ記者に転じます。94年にはユーゴスラビアの民族紛争をカバーします。ピューリッツァ賞候補にも2回挙げられています。
このように国際報道畑のコーエンが「グローバリスト」という肩書きでヘラトリにコラムを書くようになるのは2004年からです。現在、ブルックリン在住のコーエンには彫刻家の妻と4人の子供がいます。様々なテーマで自由に書けるところがこの仕事で一番気に入っているとインタビューに答えています。
ニューヨークタイムズのHPによると今年54歳になるコーエンには3冊の本があります。
サラエボでの経験をつづった"Hearts Grown Brutal: Sagas of Sarajevo" (Random House, 1998), 第二次大戦の秘話を書いた "Soldiers and Slaves: American POWs Trapped by the Nazis' Final Gamble" (Alfred A. Knopf, 2005). そしてノーマン・シュワルツコップ将軍の伝記, "In the Eye of the Storm," (Farrar Straus & Giroux, 1991)です。
インディペンデント紙のインタビューで、コーエンが「ジャーナリズムの仕事は甘やかされて育った自分にとってはよい教育になった」、と答えているのが印象的です。
(むらかみりょうた、TVディレクター)
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村上良太(1964〜)岡山県出身。ヒューマンドキュメンタリーのほか、日米の不動産バブル崩壊、コンビニの食品廃棄問題、自由貿易協定、米国経済、難民・移民の問題などをカバーしてきた。
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