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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2009年08月29日12時22分掲載
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【テレビ制作者シリーズ】(2) カダフィに、アラファトに、知られざる実像に迫るジャーナリスト平田伊都子さん 村上良太
1989年、TBSテレビはカダフィ大佐やPLOのアラファト議長の独占インタビューを行いました。当時ベールに包まれ、実像の見えなかった男達です。もちろん日本初のスクープでした。二人の取材許可を取り付け、インタビューを行ったのは平田伊都子さん。アラビア語を独学で学んだという、当時ほとんど未知の女性でした。
◆カダフィを独占インタビュー
1988年12月、フランクフルト発ニューヨーク行きのパンナム機がスコットランド上空で爆発、270人が死亡しました。この爆破テロ事件の背後にいるとされたのがカダフィ大佐です。その頃、リビアは米国と衝突し、米軍の爆撃を受けていました。このパンナム機事件もリビアのアメリカに対する復讐と受け止められました。
CNNドットコムによると、この墜落事件で逮捕されたリビア元情報機関員アブデルバセト・アルメグラヒ受刑者が末期ガンで死期が近いため8月20日に釈放され、リビアに帰国しました。爆破事件で逮捕されたのがアルメグラヒ受刑者ただ1人であることや受刑者が犯行を否定していることなど、事件の真相はまだ闇に包まれています。
当時、作家の開高健はエッセイで次のように書いています。 「新聞に国際テロ事件やら、局地戦争の事件やら国連での罵り合いやらが、いろいろ報道されるけれども、たとえば、いま世界の悪玉になっているリビアのカダフィ大佐、彼がどんな性格で、どういう暮らし方をしていて、そのものの考え方がどうなっているか、専門家であるはずの日本の新聞記者はスクープすることが出来ません」 (中央公論増刊号ミステリー特集「ミステリーの面白さを語ろう」1987年5月25日)
テレビインタビュー後の‘90年、平田さんはカダフィの伝記「カダフィ正伝」を集英社から出版します。伝記は1969年8月カダフィ率いる自由将校団がリビアでクーデターを起こすところから始まります。そのデテールはサスペンスに富み、今読んでも面白いものです。 自由将校団をアラブで最初に組織したのはエジプトのナセル大統領ですが、多数のスパイを隣国リビアに送り込みながら、カダフィのクーデターを察知できなかったばかりか、クーデター後もしばらくは誰が首謀者か知りえなかった事実が描かれています。革命政府が8日間リーダー名を公表しなかったからです。CIAがやった、とかソ連が起こした、など世界では様々な憶測が当座飛び交います。ところがカダフィたちはハプニングとトラブル続きで大混乱、間一髪の成功だったのです。
さらに平田さんは94年にはアラファトの伝記「ピースダイナマイト」(集英社)を出版します。開高の指摘した、「世界の悪玉」たちの人物像を生い立ちから思想形成まで伝記として描いたのはフリージャーナリストの平田さんだったのです。平田さんは言います。
「日本やアメリカの新聞が伝える彼らの像には悪い印象しかなかったのです。でも本当にそうなのか、自分の目で確かめてみたいと思いました」
日本の新聞が買っている国際情報はAPやロイターなど欧米の通信社が主です。記事には通信社の属する大国の国益が影響しているはずです。そこに疑問を持った1人の女性が独学で語学を学び、自ら首領を訪ね独占インタビューを実現させました。これは日本のジャーナリズム史上画期的な事件ではなかったでしょうか。カダフィやアラファトを支持する、しないは別として、彼らの是非を読者が自分で判断するための材料がないに等しかったのですから。
◆メル友オバマに直訴
平田さんがこの夏書いた最新作は意外な人物を扱っています。オバマ大統領です。 「オバマとなら私にもできる〜大統領のメールに学ぶ!魔法の英語フレーズ40〜」 (南雲堂フェニックス) カダフィやアラファトの次はオバマ・・・?一体どのような発想の流れでしょう?
実は平田さんはオバマ大統領のメーリングリストに入っているのです。オバマ大統領から「伊都子様」とEメールが頻繁に送られて来ます。 大統領選たけなわの頃から集めたそのEメールから印象深い時々のフレーズを40集めました。末尾には必ず「DONATE」と書かれています。「献金よろしく」、というこのフレーズにも印象深いものがあります。
アメリカ人にとってこのEメールと小額の献金で大統領を当選させた今回の大統領選は画期的な政治体験だった違いありません。この本が単なる英会話本でない理由はそこにあります。 アメリカで何が進行しているのか、オバマの短いメッセージを追うことで見えてくるのです。
平田さんはメル友になったオバマ大統領に2つのことをEメールで直訴しています。 (1)イラク戦争を起こしたアメリカ人の戦争責任の追及 (2)モロッコに占領され、「最後のアフリカの植民地」と呼ばれている西サハラでの住民投票の実施 です。
西サハラはかつてスペイン領でしたが、戦後スペインが撤退する時、西サハラの豊富な資源を狙うモロッコがどさくさにまぎれて実効支配してしまったのです。一方、独立を求めて戦っている西サハラの人々がいます。その難民たちが今もアルジェリアの難民キャンプで暮らしています。1991年、国連での話し合いで西サハラの帰属を住民投票で決めることに決まりましたが未だに実施されていません。平田さんはもう10年以上も西サハラでの取材を続けています。
《プロフィール》
大阪生まれ。京都工芸繊維大学意匠学部中退。写真家の川名生十氏と組み、リビア、チュニジア、エジプト、セネガル、マリ、ニジェール、スーダン、チャド、中央アフリカ、レバノン、イラク、アラブ首長国連邦、オマーン、トルコ、インド、パレスチナなど多くの国や地域をルポして来ました。語学もアラビア語、英語、フランス語、イタリア語、スペイン語が堪能です。
テレビ取材も「経済制裁下のイラク」(NHK、2001年)や、「劣化ウラン」(テレビ朝日、1995年)、「西サハラ難民」(朝日系、1992年)、「サダム・フセイン弁護団」(TBS 2005年)(NTV、2005年)など多数行っています。フリーで食べていくためにはペンとか映像とか関係ありません、と平田さんは言います。
(むらかみ・りょうた、TVディレクター)
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転載について
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西サハラからの難民キャンプで。右端が平田さん(撮影:川名生十)





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