新政権を担う3党連立合意(09年9月9日)は、先の衆院総選挙で民主圧勝、自民惨敗の結果、歴史的な政権交代が既成事実となった今、どういうわけか新鮮味と驚きに欠ける。3党連立は民主党のご都合主義、つまり衆院議席では圧倒的多数だが、参院では過半数に足りないという議会運営上の悩みへの「お助けマン」でしかないからだろう。 第2党の自民党はもはや論外として、関心の的は、第3党の公明党と第4党の共産党の存在である。公明党は本来の「平和と生活の党」として自民党と縁を切って、出直すことができるのか、一方、共産党は「建設的野党」としてどういう活躍を見せるのか。両党の対応こそが今後の注目点ではないか。
▽3党連立合意を大手紙社説はどう論じたか
09年9月9日、民主・社民・国民新の3党が連立政権を組むことで合意した。これを受けて大手5紙の社説(9月10日付)はどう論じたか。各紙社説の見出しと要点を紹介しよう。
*朝日新聞=連立合意 政権に加わることの責任(見出し、以下同じ) 総選挙で示されたのは、政権交代を望む民意の熱いうねりだ。社民、国民新の両党もそう主張して現在の議席を得た。つまり、政権交代で誕生する新政権を維持し、国民の期待に応えられるように運営していく責任も両党は担うということだ。 民意は必ずしも民主党の政策を全面支持しているわけではない。朝日新聞の世論調査では、民主党の政策に対する有権者の支持が総選挙大勝の大きな理由とは「思わない」という人が52%に達した。両党が政権に入ることで政策がより複眼的になれば、有権者の期待に応えることにもなろう。 民主党も巨大議席に慢心せず、聞く耳を持つ態度を求めたい。
*毎日新聞=3党連立合意 民意に沿う政権運営を 社民党内には連立政権の中で埋没しかねないとの懸念がある。無論、民主党は連立政権を組む以上、連立相手の声に十分耳を傾けなければならないが、社民党も今後、抑制的な対応が必要となる。 3党合意文書の冒頭には「政権交代という民意に従い、国民の負託に応える」とある。今後もことあるたびにそれを確認し、政権運営を進めてもらいたい。期待されているのは何を具体的に変えてくれるかだ。それができなければ待っているのは「しょせん数合わせ」の批判である。
*読売新聞=3党連立合意 日米同盟の火種とならないか 政策合意の文書は、消費税率据え置き、郵政事業の抜本的見直しなど10項目で構成されている。 焦点の外交・安全保障政策では、社民党の求める「米軍再編や在日米軍基地のあり方の見直し」や「日米地位協定の改定の提起」が盛り込まれた。民主党は難色を示していたが、国民新党も社民党に同調し、押し切られた。 鳩山内閣は対米外交で、この連立合意に一定の縛りを受ける。将来の火種となりかねない。(中略)日米同盟の信頼関係も傷つく。
*日本経済新聞=連立政権で政策をゆがめない配慮を 連立に参加する以上、社民党がこだわりのあるテーマで発言権の確保を目指して不思議でない。しかし日本外交の基軸は日米同盟だ。同盟関係に直接影響を及ぼす重要課題について、民主党が少数党の主張に引きずられて妥協を重ねるようなことがあれば本末転倒だ。 外交・安全保障のほか、経済政策でも3党の主張は一致しているとは言い難い。景気の先行きがなお予断を許さないなか、調整に手間取り政策運営が遅れると、企業や家計に負の影響を及ぼしかねない。国民生活という基本を忘れてはならない。
*東京新聞=連立合意 妥協の色濃く火種残る 合意文書は抽象さが否めない。火種は、やはり残る。 週末を挟んでほぼ一週間をかけた三党の連立協議は、いずれ合意は成るはず、と見られていたせいか、もう一つ切迫感を欠いた。 連立参加の社民は、来年夏の参院選で少なくとも現有勢力を維持するようでないと存在の意味がなくなる。国民新も同様だ。民主の側にはもう、参院の単独過半数を実現すれば両党への遠慮は無用だとの声がある。
▽〈安原の感想〉― 社民、国民新は存在感を出せるか
5紙社説を読んで、その感想を述べる。社説の力点の置き所は何か、について大まかにいえば、2つある。ひとつは「日米同盟は基軸」に言及しているかどうかであり、もう一つは3党連立はうまく機能するのか、という懸念である。
前者は読売と日経である。読売は「日米同盟の火種」、さらに「日米同盟の信頼関係も傷つく」とまで表現し、日経は「日本外交の基軸は日米同盟」と強調している。日米同盟については民主党も同じ考えであり、両紙は何を懸念しているのか。ワシントンから懸念の声も聞こえてくるが、両紙はワシントンの代弁者のつもりなのか。 改めていうまでもないことだが、民意が「日米同盟は疑問」となれば、それに従うのが当然だ。ただ今回の総選挙にみる民意は、そこまで進んではいない。外交、安全保障には継続性が必要だという暗黙の思いこみがメディアにも根強い。つまり変化への抵抗である。しかし外交、安保といえども、時代の流れに沿って歴史の歯車を前へ進めようとする変革を押しとどめるような姿勢は間違っている。外交、安保も批判を許さぬ聖域ではない。
もう一つの3党連立運営のあり方はどうか。「運営していく責任」(朝日)、「しょせん数合わせ」の批判(毎日)、「もう一つ切迫感を欠いた」(東京)― など表現は多様だが、そこには期待と懸念が混在している。
むしろ気になるのは、朝日社説のつぎの指摘である。 民意は必ずしも民主党の政策を全面支持しているわけではない。朝日新聞の世論調査では、民主党の政策に対する有権者の支持が総選挙大勝の大きな理由とは「思わない」という人が52%に達した ― と。 この事実を踏まえて、朝日社説は、つぎのように主張している。 両党(社民、国民新)が政権に入ることで政策がより複眼的になれば、有権者の期待に応えることにもなろう。 民主党も巨大議席に慢心せず、聞く耳を持つ態度を求めたい ― と。
東京社説の以下の指摘も軽視できない。 民主の側にはもう、参院の単独過半数を実現すれば両党への遠慮は無用だとの声がある ― と。 この声が生き続ける限り、来年の参院選後には社民、国民新は「用済み」として除外される懸念もあるということだ。かりにこうなるとすれば、民主の傲慢というほかないだろう。一方、社民と国民新としては、連立政権内でいかに存在感を出すことができるかが勝負所ともいえる。大いに期待したい。
▽公明党 ― 惨敗から再生への展望は
公明党は、先の総選挙で太田昭宏・党代表、北側一雄・党幹事長、冬柴鉄三・元国土交通相ら首脳陣の落選とともに議席数も31議席から21議席へ10議席減となり、自民党同様に惨敗した。過去10年間に及ぶ自民中軸の連立政権への参加も終わりを告げた。 同党は9月8日、新代表に山口那津男氏(前政調会長)を選出し、出直すことになった。山口代表は就任挨拶で来年夏の参院選について「どんな困難に直面しようとも断じて勝ち抜ける強じんな党の構築を急ぐ」と強調したと伝えられる。
惨敗から再生への展望をどう描くのか。総選挙敗因の総括が曖昧(あいまい)なままでは、再生も期待できない。敗因は自公政権時代の自民党との癒着に尽きる。権力に狎(な)れすぎて、けじめを失った。いかえれば「平和と生活の党」としての初心を投げ捨てたためではないか。その初心をよみがえらせるためには何が必要か。 矢野絢也・元公明党委員長が公明党に贈るつぎのような忠言を紹介したい。自公政権時代の「濁流に身をゆだねた姿勢」から「庶民を第一に考える清流」への転換を促している。
創価学会は社会から虐(しいた)げられた人、見捨てられた人の精神的支柱となって組織を拡大した。公明党もまた、庶民、大衆の政党として存立意義を保ってきた。今、格差社会が訪れ、無情な派遣切りや高齢者医療の切り捨てがまかり通っている。公明党もそれに手を貸してきた。 公明党は出来たての頃、小さくとも清流だった。汚濁した大河に、微力ながら清らかな水を注ごうと、われわれは懸命に働いた。決して自らが大河になることが目標ではなかった。今は、政界の汚れた大河と合流し、自身も濁流となって流れている。私は公明党が大きな清流となる日が来ることを信じている ― と。 (上記の忠言は、ブログ「安原和雄の仏教経済塾」に09年8月27日掲載の〈創価学会による「日本占領計画」― 総選挙後の公明党の去就に注目〉から再録)
▽共産党 ― 「建設的野党」としてどう活躍するか
共産党は従来の9議席を保持した。志位委員長は9月10日、国会内で鳩山由紀夫・民主党代表と会談し、鳩山新政権には「建設的野党」の立場で臨むことを伝えた。「建設的野党」とは最近、共産党が打ち出した新路線で、政権に対し国民の利益にかなった良いことでは協力し、一方、悪いことには反対する、あるいは問題点をただす ― という姿勢である。共産党といえば、「何でも反対」という印象がかなり広がっているが、この誤解をただそうという試みでもあるだろう。 これに対し、鳩山氏は、「良いことには協力するというのは、ありがたいことで感謝する」と表明したと伝えられる。
では「建設的野党」としての具体的な主張の中身は何か。 ・民主党マニフェスト(政権公約)のうち、良いことで協力する具体例 労働者派遣法の改正、後期高齢者医療制度の撤廃、障害者自立支援法の「応益負担」の廃止、生活保護の母子加算の復活、高校授業料無償化など。 ・悪いことで反対する具体例 日米FTA(自由貿易協定)交渉の促進、衆院比例定数の削減、消費税増税(民主党は「今後4年間は増税しない」と表明しているものの、その後の増税に含みを残している)、憲法改悪など。 ・問題点をただす具体例 高速道路の無料化、庶民増税と抱き合わせでの「子ども手当」など。
さらに志位氏は、「財界中心」、「日米軍事同盟中心」という政治のゆがみを大本からただす必要があるとして、「これについては大いに論戦したい」と述べた。このほかつぎのようなやりとりがあったと伝えられる。
・温室効果ガスの中期削減目標について 志位氏「鳩山代表が温室効果ガスの中期削減目標で〈1990年比25%減〉を宣言したことを歓迎する」 鳩山氏「大変嬉しい。協力して乗り越えていかなければならない課題がある」 志位氏「財界が抵抗の声を挙げているが、私たちは道理に立った論陣を張っていく」
・「日米核密約」問題(注)について 志位氏「鳩山代表が選挙中の党首討論で〈密約を調査し、核兵器を持ち込ませない方向で米国と交渉する〉と述べたことは重要な言明だ。真相究明と密約廃棄のために協力したい」 さらに共産党が米国で入手した核密約に関する公文書を資料として鳩山氏に手渡した。 鳩山氏「真相究明が大切だ。資料を提供していただいてありがたい。何よりも事実が大切だ」 (注)核兵器積載の米艦船などが日本に寄港することを現行日米安保条約(1960年締結)上の事前協議の対象外として自由に認めるという日米政府間の密約。この密約の存在によって、日本の非核3原則(=核兵器を持たず、つくらず、持ち込ませず)のうち「持ち込ませず」が事実上空洞化して、非核2原則に改変されている。
*本稿は「安原和雄の仏教経済塾」からの転載です。
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