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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2010年01月13日15時07分掲載
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経済
あなたの服はどこから来るのか 衣をめぐる南北格差、貧困と労災の労働現場 松平 尚也
「繊維がわかれば、すべてが見える」という産業調査にまつわる格言があると聞いた。繊維や衣料産業における原料の生産から紡織・縫製などの加工に至るまでの工程は複雑かつ裾野が広く、繊維や衣料産業の理解には多くの知識が必要とされることから生まれたものだそうだ。私もそうだが自分が来ている服がどう作られるのか即座に答えられる人はほとんどいないであろう。はたして日本の服はどこから来ているのか? その生産現場では何が起こっているのか? 繊維や衣料産業の実状を追ってみた。
◆世界の8割以上を生産するアジア
世界の繊維生産量は1960年の1,491万トンから拡大を続け、2008年には7,100万トンを記録した。その内訳は綿や絹などの天然繊維が2,580万トン、ポリエステルやナイロンなどの化学繊維(以下化繊)が4,520万トンとなっている。生産が急拡大してきたのが後者の化繊生産だ。特に1990年代以降、台湾・韓国・中国での大規模工場建設ラッシュが続き、天然繊維の生産量を追い抜き、今や圧倒的な差がつくようになった。
化繊生産をけん引してきたのがその生産量の約8割を占める合成繊維(以下合繊)だ。合繊の生産量は、ここ10年で70%近く伸びており、世界中で消費が急拡大してきた。生産量全体の98%をポリエステル・ナイロン・アクリルの3大合繊が占めるのも大きな特徴だ。中でも衣料用、産業等の多くの用途で使われるポリエステルは、合繊生産量全体の80%を占め、世界で最も多く生産されている繊維となった。恐らくあなたの服のタグで一番多く見かける素材でもあろう。他には下着やカーペットに使われるナイロンそしてセーターや毛布などに使われるアクリルが次に続いている。
中国や台湾、韓国、インドといった世界の繊維大国が集中するアジアのシェアは、2006 年には世界の繊維生産量の8割を越え、繊維生産のセンターとなった。世界の繊維貿易も近年の中国の生産量拡大とともに急進しており、2001年に35兆円であった貿易量は2007年には58兆円にまで成長した。同時期の中国の繊維輸出も、5.3兆円から17兆円まで拡大している。今や世界の繊維の半分は中国で生産されており、中国なしに世界の繊維は語れないといっても過言ではない。
繊維産業が急拡大する一方、アジアでは繊維工場における水や環境の汚染が問題になっている。特に中国では環境規制が未整備なまま、急速に工業化が進んだこともあり河川や湖沼の汚染が深刻化してしまった。中国環境保護総局は、飲料・農業・工業の主要な取水源である7 大水系の約3分の2 が飲料不可、3分の1は農業用を含めて全ての用途にも使えなくなっているという報告書を発表したほどだ。昨年やっと水質汚染防止法を施行したがどこまで水環境が回復するかは不透明な状況だ。ただ進出繊維企業の中には、中国における環境規制の強化と労働賃金の高騰を嫌って、賃金がより安いベトナムやバングラデッシュに工場を移転するケースも起こっている。
◆新品は北へ、古着は南へ
世界の繊維貿易の大きな特徴は、生産国がアジアや一部の途上国に集中する一方で、消費国が欧米や先進国に偏っているという点だ。世界最大の消費国はアメリカで一人当たり消費量は33キロに及ぶ。ヨーロッパ諸国の消費量もおおむね20キロを超える反面、途上国の消費量は10キロ以下で繊維消費における格差が存在することを意味している。特に世界主要国の衣類の貿易においては、欧米と日本だけで輸入額の約8割を占めており、途上国が輸出、先進国が輸入するという構図が鮮明になっている。
一方、中古衣類つまり古着の輸出は、逆に先進国から途上国へ集中している。アメリカは中南米、ヨーロッパはアフリカ、そして日本や韓国からは東南アジアに主に輸出されており、先進国が新しい衣類を着用し、途上国の多くの人々が古着を一般的に着用していることを意味する。こうした消費の格差をどう考えればよいのであろうか? 明らかなのは同時代に生まれても、繊維資源分配の格差があるために、衣服という生活に必要なモノを選択する機会が異なってしまう世界になっているということだ
◆劣悪な労働環境と化学物質汚染
繊維産業の労働環境はどうなっているのだろうか? 繊維産業における労働の多くは、主に女性によって担われている。 UNCTAD(国連貿易開発会議)の調査によると150万にいるバングラデッシュの繊維工場労働者の7割が女性で、ベトナムにおいてもその8割が女性によって担われているということだ。世界の繊維生産のセンターである中国においても労働者の多くは若い農村からの出稼ぎの女性だ。その労働環境は劣悪で、長時間労働の強制、最低賃金以下の給料などが横行しているという。 さらに昨年の金融危機以降、工場閉鎖が激増し、賃金未払いのまま解雇されるケースも相次いでいる。労働者の多くは出稼ぎ農民であるため立場が弱く、また多くの工場で労働組合が存在しないので労使交渉すらできない状況だ。
さらに繊維の生産工程における多量の化学物質や薬品の使用も大きな問題を引き起こしている。日本でも昨年中国製のTシャツを着た9か月の女児に湿疹が出たため、マスコミでも大きく報道された。調査した所、Tシャツ文字などをプリントするインクの溶剤にホルムアルデヒドが含まれ、残留していた可能性があるということだ。ホルムアルデヒドは防縮・防しわなどの目的で様々な繊維製品に活用されている。 しかしここで注意したいのは大量の化学物質が使用される繊維生産において危険にさらされる度合いは、消費者より労働者の方が高いということだ。先進国では製造や使用が禁止されている薬品が、コストや効果そして企業の利潤の追求のために平然と利用されている
ポリエステルに次ぐ生産量を誇る天然繊維の王様、綿の原料である綿花栽培における農薬の使用も生産者に健康被害を引き起こしている。綿花には世界の農薬使用量の約25%が使われており、インドのコットン・ベルト(綿産出地帯)では、年に20〜30回もの農薬の大量散布が行われ、ガンの発生率が著しい高まりを見せているという。
◆どう考える? 日本の衣生活
世界有数の衣服消費国である日本の一人当たり年間繊維消費量は22キロ。日本全体では毎年約240万トンが消費されている。日本の繊維・衣料産業の規模は7兆円で、総売上高はそれぞれ繊維産業が2.6兆円、衣料産業が4.4兆円となっている。最近、消費者に人気が高いのが、ユニクロやイオンなどの大手小売業が売り出す激安価格のプライベートブランド商品だ。今年に入りユニクロが990円、イオンが880円という超低価格ジーンズを売り出したのは記憶に新しい。
日本は多くの繊維を輸入する反面、廃棄量も多く、日本繊維屑輸出組合によれば日本全国で年間約200万トンの故繊維=古繊維が生まれているということだ。その内訳は、工場から発生する裁落屑や糸屑、綿などの産業屑、ボロと呼ばれる家庭などから排出される衣料品、制服、シーツとなっている。中でも多いのが衣料品のボロでなんとその量は100万トンに及ぶとされている。 また日本の繊維リサイクル率は、他の先進国と比べると低く、回収率の高いドイツの70%などに対して10%にとどまっている。それ以外の多くの繊維製品は一般廃棄物として焼却処分されているという。浮かび上がってくるのは、多く輸入して捨てるという日本の姿だ。その向こう側には、誰が着るかもわからない衣服を延々と作り続ける人々がいる。
繊維や衣服消費の格差が強固に存在する中で、私たちは何を考え始めるべきなのだろうか? まずすぐにでも確認しておくべきは、劣悪な労働環境を生みやすい低価格衣料品の向こう側であろう。欧米では過酷な環境で労働者を抑圧する工場をスウェットショップ(搾取工場)と呼び消費者団体の批判の的となってきた。アメリカではスウェットショップ規制法が存在するほどだ。ただたとえ労働環境の問題が改善されたとしても残るのは、日本の消費形態に見られるような大量消費ー大量廃棄の問題だ。経済構造が転換期を迎えている今だからこそ、衣服や繊維という身近なモノを入口にその消費行動を見直し始める必要があると言える。 ) ※この原稿は地域・アソシエーション研究所のNewsclip2009年10月号を加筆修正したものです。
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