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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2010年03月08日13時52分掲載
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文化
ひとが生きる意味を問う 木下順二追悼公演「山脈(やまなみ)」 村上良太
2006年に亡くなった劇作家・木下順二の追悼公演が今月下旬,東京演劇アンサンブルによって行われる。同劇団は過去に「蛙昇天」「オットーと呼ばれる日本人」「沖縄」「おんにょろ盛衰記」などの木下作品の上演を行っている。今回は初期の作品「山脈(やまなみ)」(1949年)。戦争末期、敗戦に向う日本でどうすれば新しい時代をひらく事ができるのか、それを誠実に考えた人々の生と死を描いている。
演出の入江洋佑氏は「今、日本という国が、人間が生きる事、死ぬ事に雑になっている気がします。人を殺しておいて<誰でもよかった>というような言葉に象徴されるように生命に対する感性の希薄さが感じられます。デジタル化時代の中で生きる事への関心がなくなっているのです。だから戦争中に生きたいと強烈に思った人々を描きたかったのです」と言う。
高原の村に疎開した、出征兵士を夫に持つ嫁と姑、ひそかにその嫁と愛しあう東京の若い経済学者。軍国主義の下、一個人に何ができるか。経済学者は恋人に村人の生活のデテールをメモに書き留めて欲しいと言い残して東京に帰って行く。しかし、彼にもやがて赤紙が来る。彼らと村人との交流を中心に戦争末期から終戦直後の揺れ動く日本人の心を描く。
劇に登場する山田という経済学者は上からの視点で農村を描くだけでは不十分だと考えた。農村の中に入って、草むらからの視点で描いていくことも必要だと考えたのだ。それは木下順二の姿勢でもあったと入江氏は言う。
「西欧の優れたドラマトゥルギーで現実を裁断する方法もあるが、そうではなく、上からでも下からでもない、双方を融合した戯曲を書こう、それが木下順二の根本姿勢でもあったのです」
そして木下順二は歴史に振り回されても、最後はそれにノーと云う人々を描いてきたという。 「山脈」でも無力さに打ちひしがれず、最後まで希望を自ら閉ざすことなく生きようとした人間を描いている。「山脈」というタイトルは戦後、疎開地に戻ってきたヒロイン「とし子」の言葉からとられているのだろう。
とし子「山なみがいつものようにきれいだったわ…澄み切って…急に涙が溢れ出してきたわ、それを見たら。…どんどん歩いてきたのよ、夢中でね、山なみに向って。…だけど、ちっとも近づいて来ないのよ、山なみが。歩けば歩くほど向うへ行っちまうような気がするのよ」
それはどこまでも達成できない理想の姿だと入江氏は言う。理想を追うことで個は成長し、すると理想はさらに高くなり、遠くなる。それは同劇団の理念でもある。
公演は3月20日から27日まで東京演劇アンサンブルの劇場「ブレヒトの芝居小屋」で。3月30日と31日はシアターXで。
■東京演劇アンサンブル 1954年創立。チェーホフ、ブレヒト、久保栄、木下順二、広渡常敏らの戯曲を中心に「演劇行為の中に人間の変化の契機をつくる」ことを根底においた活動を続ける。 1977年から現在の劇場「ブレヒトの芝居小屋」に拠点を置く。 東京都練馬区関町北 4−35−17 西武新宿線「武蔵関駅」下車徒歩5分 www.tee.co.jp
■戯曲「オットーと呼ばれる日本人」(1962年) 1930年代から40年代、世界大戦の暗雲立ち込める中、日本人として、ジャーナリストとして何ができるかを考え、ゾルゲ事件に関与した罪で死刑となった尾崎秀実の行動を描く。アグネス・スメドレー、リヒャルト・ゾルゲらも劇に登場する。
■戯曲「沖縄」(1963年) 1960年、日本が安保闘争で騒然としている頃、沖縄は米軍の軍政下にあった。沖縄が解放され自立する事は本土が解放され自立することである。この事が沖縄の人間と本土からやって来た人間との葛藤を通して描かれる。
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演出の入江洋佑氏
「山脈」の稽古風景
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