株式会社アルーシャの代表を務める岩瀬香奈子さんは、5月15日(土)から都内の事務所で、“難民”によるネイルケアサービスをスタートさせる。 なかなか仕事が見つからず、厳しい生活を強いられている難民の方々にネイルケアの技術を身につけてもらい、安定した雇用に結びつけようという試みだ。いわゆる“社会起業家”である。そんな岩瀬さんに、難民と共に起ち上げるネイルビジネスについて、現状と展望をお聞きした。(和田秀子)
■難民の置かれている現状は、想像を超えていた
「学生時代からボランティアや国際貢献には興味がありました。でも、昨年起業するまでは、企業に勤めてコンサルタントの仕事をしていたんです。まさか自分が、難民の方々とネイルビジネスを起ち上げることになるなんて、考えてもいませんでした。だって今年の2月までは、難民にお会いしたことも、お話ししたこともなかったんですから」 と言って、岩瀬さんは笑う。
キッカケは、昨年の11月に難民支援自立ネットワーク(REN)理事、石谷尚子さんと出会ったことだった。 「石谷さんは、難民の方々にビーズアクセサリーの作り方を教えて、それを販売して彼らの収入に充てようと尽力されていました。でも、なかなか販売チャネルが見つからず頭を悩ませておられたのです。そこで私が、より需要の高い『ネイルケアの技術を教えたらいかがですか?』と提案したところ、『岩瀬さん教えてあげてくれないかしら……』ということになって(笑)」
戸惑いがなかったと言えばウソになる。しかし、難民についての勉強を進めていくうちに、彼らが置かれている過酷な状況に衝撃を受けた。
「私が想像していた以上でしたね。皆さん生きるか死ぬかの瀬戸際で……。目の前で両親を殺された人や、やっとの思いで日本にたどり着いても、家を追い出されて転々とした経験を持つ方がたくさんいて。そんな状況を知るにつれ、『ぜひこの取り組みを事業化させたい』と思うようになったんです」
それが昨年12月のこと。この時点ですでに岩瀬さんは会社を退職し、独立してコンサルタント業務を請け負っていたが、その仕事もセーブしてネイル事業に力を入れ始めた。
■安定した仕事を捨て、ネイルビジネスに本腰
難民の方々に教えるためには、「まず自分自身が技術を身につけなくては」と、昨年12月からネイルスクールに通い、知識と技術を身につけた。 と同時に、難民支援団体を通じて「ネイル研修への参加」を難民たちに呼びかけたところ、わずか数週間で20人超の希望者が集まった。研修への参加費用は、すべて無料だ。
「毎日5時間、3週間行われる研修に休みなく参加できること」という条件をクリアできる方はすべて受け入れ、2月中旬から生徒18人で研修をスタートさせた。 参加者の国籍はさまざまで、ミャンマー(ビルマ)、タイをはじめ、アンゴラ、コンゴ、カメルーン、イランなど7〜8ヶ国にのぼる。日本での滞在が10年を超える方も多いため、基本的なコミュニケーションは問題ないのだが、やはり細かいニュアンスを伝えるときには言葉の壁を感じることもある。 イギリスへの留学経験を持つ岩瀬さんは、ときには英語を交えて説明するが、それでも伝わらないときは、生徒の誰かがフランス語やビルマ語などに訳して伝えてくれると言う。
「まるで伝言ゲームみたいで面白いですよ。協力し合いながら仲良くやってくれています」 ケガで参加できなくなったひとりをのぞき、途中で研修を辞めた者はいない。皆、自宅に帰ってからも練習を続けるほどの熱心さだ。
4月からは、ボランティアに呼びかけて練習台になってもらい、ネイルケアやカラーリングの実践を始めた。 施術を受けたボランティアからは、「日本語でのコミュニケーション力をもっと上げるべき」「ネイル技術がまだまだ低い」といった厳しい意見が寄せられることもあるが、おおむ ね「心がこもっていて良かった」「満足できた」といった良好な感想が多い。
じつは、私自身もネイルケアをしてもらったのだが、多少のぎこちなさは残るもののハンドマッサージはピカイチ。街のネイルサロンで施術を受けるよりも癒された。
■自立と誇りの獲得を目指し、5月からサービススタート!
「早く皆に一人前になってもらわないと、私が破産してしまいます」と、笑う岩瀬さんだが、いよいよ5月15日(土)から本格的にサービスを開始する。 17人の生徒のなかから、とくに技術力の高い3人がプロとしてデビューすることになったのだ。 そのうちのひとりで、18年前にミャンマーから逃れてきたナンさんは、「今まで仕事が安定しなかったから、早くネイリストとして自立したい。そのために、がんばって技術を磨いています。ビルマでは美容師をしていたので、この仕事は私にピッタリ」と表情をほころばせていた。
ネイルカラーやジェルネイルのサービス価格は、両手10本で一万円前後が相場だ。 しかし、「少しでも多くの方に知っていただきたい」という岩瀬さんの思いから、半額以下の3,150円でスタートする予定だ。 しばらくは、事務所や集会所で施術を行うが、大手企業への出張ネイルサービスや、ネイルサロンの出店まで視野に入れて活動を進める。
「目標は、全員がプロのネイルアーティストとして自立すること。日本で生きる誇りを持ってもらうこと」 難民と共に起ち上げるネイルビジネスへの意気込みを、岩瀬さんはそう語る。
社会貢献とビジネスの両立は簡単ではないが、世の中のニーズとうまくマッチングできれば可能性は広がる。 ネイルケアを受けることで、自分も美しくなると同時に社会貢献にもつながるこのサービスならば「ぜいたくはできないわ……」と躊躇していた主婦層でも、大手をふって利用できるのではないだろうか。
≪サービスの内容と予約の方法はコチラをご覧ください≫
http://arusha.co.jp/nail/menu
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