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2010年07月18日10時52分掲載
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中国
機械的な単純作業が心身を蝕む 自殺者続出の台湾系富士康工場 郭社長は「責任ない」
ホンダなど中国各地の工場で労働者のストが広がる一方で、深センの台湾系大手電子機器メーカー、富士康工場では5月に自殺者が続出し内外に衝撃をあたえた。国内では詳しい報道がなされていない中、「亜洲週刊」が工場のルポを発表した。同社社長の郭台銘氏が記者や有識者らに述べた発言からでも、同社の過酷な労働状況を垣間見ることができる。(納村公子)
自殺の連鎖は拭い去れない呪いなのだろうか。台湾の合資企業、富士康の深セン工場で今年に入ってから相次いで発生した12人の従業員の飛び降り自殺は全世界に衝撃を与えた。事態を把握するため、富士康の取締役社長および台湾鴻海グループの会長を務める郭台銘氏は5月26日深センに飛んだ。そして同社深セン工場内へのメディアの立ち入りを認めた。
一方、中央宣伝部はこの事件に関する禁止令を次々と発表。自殺行為がよそに蔓延しないよう、国内のメディアが一連の自殺事件に関連する取材・報道を行うことを禁じた。にもかかわらず郭氏が謝罪の意を表明してまもなく、つまり謝罪当日の夜にも深セン工場ではまた一人の従業員がビルから飛び降り自殺を図る事態となった。これにより同社従業員の飛び降り件数は12件、死者10名重傷2名に上っている。新華社は12人目の自殺者が5月26日の夜11時にビルから飛び降りたと伝えており、富士康も従業員1名が同日に亡くなったことを認めている。
5月26日午前10時。 富士康深セン龍華工場区の南門に郭台銘氏の姿はまだない。しかし既に200人を超す国内外の報道陣が集合しており、今年最初に自殺で亡くなった従業員、馬向前の両親が門前に現れた際には一斉にフラッシュがたかれた。集まってきた報道陣に対して、馬向前の両親は河南なまりで、「息子の死は自殺ではない、他殺だ」と主張した。今年1月23日に息子が亡くなってからというもの、馬向前の両親は今なお各方面への申し立てを続けている。
午前11時。報道陣は入り口に設置されたメディア関係者受付で工場内見学の許可証を受け取り、工場側が用意した5台のバスいっぱいに乗り込んだ。
午前11時30分。郭台銘氏が突然姿を現す。郭氏は一台一台のバスに乗り込み挨拶をして回った。ある記者がバスを駆け下りてその行く手を遮ろうとするも、郭氏は口を閉ざしたまま人垣をかき分けて工場内へと消えていった。
このときはちょうど昼食の時間とあって、食堂へ向かう多くの従業員がバスの列を好奇の目で見ていた。徐行運転するバスの後ろを走ってついてくる者もいた。我々「ふいの来訪者」はこの陰鬱で閉塞した雰囲気の工場にわずかな新味をもたらしたようだ。
工場が用意した最初の見学ポイントはメインの作業ラインだったが、全ての製造ラインの前面に機械の操作方法と操作手順についての紙が張られていたのが印象に残った。また説明によると、毎日業務終了後20分以内に管理責任者が一人一人の従業員を勤務態度に応じてランク分けをする(普通なら緑色、優秀者は青色、まあまあなら白色、能力の劣るものは赤色で、名前をそれぞれの色のマルで囲む)が、これが従業員の毎月の業績を決める基準となり、さらに毎月業績順に順位がつけられる。
▽「従業員の自殺率高くない」と郭社長
「9人連続飛び降り」事件のあと、共同アピール文書を発表した上海大学社会学部の張敦福教授は取材に対し答えた。「一連の事件は富士康と同じような企業の管理制度を反映したものです。最も重要なポイントは、こうした労働環境下においては個人の生活全体の中で仕事の占める割合が非常に大きくなる、ということです。絶対的な位置を占めることさえあるでしょう。こうした環境で仕事をする労働者にとっては生活イコール労働になってしまうのです。加えて、そもそもこうした機械的な、繰り返しの、単調で面白みのない仕事は人間の心身にとても大きなダメージを与えます。」
作業ラインと従業員宿舎の見学を終え、報道陣はC区とD区の中間にある商店街の一角にある「従業員サポートセンター」を訪れた。ここで郭氏は、富士康の従業員の自殺率が取り立てて高いわけではないことを強調し、短期間に飛び降り事件が多発したことについて会社として責任はないとの考えを示した。 郭氏は言う、「以前、ある従業員の母親がこの工場まで子供に会いに来たことがありましたが、結局その従業員も自殺しました。これでも我々の会社と自殺とが関係あるというんですか。まさか責任を富士康になすりつけるつもりじゃないですよね?」
郭氏の計画では、この「センター」は「従業員サポート」の面で大変大きな役割を果たすことになっている。6本のホットライン(サポートセンターの電話番号、78585番は中国語の「助けてください」の韻を踏む)が常設され8名のオペレーターが24時間休むことなくサポート業務を行うのだ。窓口ではさらに6名のスタッフが対応する。説明によれば、サポートセンターを設置して3週間で対応した相談件数は710件、うち自殺の相談は16件あったという。
▽富士康の従業員は抗議の声を上げない
郭氏の案内に従って、労働組合の入り口に到着した。郭氏は従業員に残業を強制する規定はないと否定し、残業しない自由もある、とした。また、富士康は奴隷労働をさせる工場だという世間の評判も否定。「見ればわかるでしょう、44万人の従業員は、みんな健康で楽しく仕事をしているんですよ」
午後2時半。「第3回海峡両岸 心理・社会学専門家団による調査研究座談会」が予定通り開催されたが、この心理学の研究・討論のための会議は郭台銘氏の個人的謝罪の場と化した。中台両岸の心理学・社会学の専門家たちはまず富士康事件について分析を行ったが、席上、中国科学院の時勘博士は自らが調査した8つの企業の中で富士康の従業員が〔上層部への〕抗議意識のレベルが最も低かった、と発表した。続いて郭台銘氏が壇上で演説を行った。
「まず私は心からの誠意をもって、また謹んで社会の皆様、およびわが社の全ての従業員とそのご家族に対し、最大限のお詫びを申し上げます。」と、従業員とその家族に対し頭を下げ、「皆様に非常につらい思いをさせてしまったことについて、我々は確かに間違っていました。我々はこの方面に関して有効な防止策を持ち合わせていなかったのです」と述べた。
さらに郭氏は、この1か月あまり、彼が「最も恐れたものは深夜・早朝に鳴る電話のベルだった」ということ、また自らを始めとする富士康の幹部がみな「次(の事件)はいつ起こるのか、というプレッシャー」を受け続けていたと吐露した。
▽より明るいニュースを報道せよ
続いて郭台銘氏は報道陣に対して何度も頭を下げ、今後「次の自殺はいつか」という報道をしないようにと懇願した。そしてよりポジティブで明るい側面に焦点を当てるよう求めた。
そして富士康は今後従業員の飛び降り自殺のこれ以上の発生を防ぐため、通報システムを強化し、従業員の心理・精神状態についてより一層の注意を払うつもりだとした上で、「150万平方メートルの敷地内、空にも地面にも見えないネットをくまなく張り巡らせ、誰であろうと自殺の意図のある者は見つけ出す」と述べた。
「富士康で働く仲間への手紙」(富士康の管理職が全職員にサインさせようとした「私は自殺をしません」という誓約書。ネットで責任逃れだと批判された)の存在については、全く知らなかった、書面に×印をつけたから無効になったと述べた。
このあと深セン市の新しい共産党委員会書記を迎えに行く予定があることを理由に郭氏はそれ以降の記者の質問には一切応じず、会が終了しないうちにあわてて会場を去っていった。
深センの自社工場で「悲劇の歌」を上手に歌いあげた郭台銘氏は、一連の事件に注目してきた多くの人がこれまで彼に対して持っていた「冷酷で無情」のイメージを改善することにいくらかは成功したようだ。
しかし彼の深セン訪問とその話ぶりに疑問を抱いている人々も相当数存在する。26日夕方、テレビでこのニュースが放送されたあと、かつて富士康で働いていた余さんは、「富士康の問題は短期間では解決できない」と話してくれた。「作業ライン長、グループ長、科長など下っ端の管理職は人を管理する素質に欠けているのよ。郭台銘は『残業は強制していない』と言っていたけど、グループ長やライン長が強制するんだし」
余さんは郭氏が言うところの「防護ネット」についても一笑に付した。「そんなもの不慮の事故を防ぐのに役立つだけだわ。誰かが自殺するんだ、って一度決心したらどんな網でも捕まえられないわよ。自殺の方法はいくらでもあるんだから」
郭台銘氏はいかにして連続自殺ののろいを解くのか。これが彼のビジネスにおける最大のチャレンジであることは疑いの余地がない。
記事=『亜洲週刊』2010/6/6 王橋記者 翻訳=藤森一葉
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