英高級紙タイムズとその日曜版サンデー・タイムズが今年6月、それまで無料だった電子版の閲読に有料制を導入した。最初の1か月は無料テスト期間で、実質的な課金制導入は7月上旬だった。米調査会社によればタイムズの電子版訪問者は導入以前と比較してほぼ半減した。欧州ではすでに複数の大手紙が電子版閲読を有料化している。(ロンドン=小林恭子)
タイムズ、サンデー・タイムズの電子版有料化の目的は、「良質なジャーナリズムの維持」と「生き残り戦略」(同紙を発行するニューズ・インターナショナル社経営陣)だ。
日本同様、英国でも新聞の発行部数が慢性的に下落し、読者も広告主もネットに移動する傾向が続く。下落する発行部数、広告収入を横目に、新たな収入源として電子版有料化が視野に入った。タイムズはすべての記事を「有料の壁」(ペイウォール)の中に入れる全面有料制をとった。これは英国の主要紙では初の試みだった。
閲読料金は1日1ポンド(約133円)で、両紙の電子版がアーカイブも含め閲読できる。1週間では2ポンドと格安だが、これは最初の30日間が1ポンドで、それ以降は毎週2ポンド(月では8ポンド)の支払い契約を交わす形だ。紙媒体の定期購読者は無料で閲読できる。
一度料金を払えば、ニュースに加え、著名コラムニストや有名人とのチャットや情報交換、映画や美術展を低価格で鑑賞できるといった会員制クラブ「タイムズ・プラス」のサービスが利用できる。
8月中旬時点で、タイムズ側は課金制利用者数など電子版にかかわる数字を発表していない。米調査会社コムストアによれば、課金制導入以前の5月、タイムズのユニーク・ユーザー数は2794万人だったが、7月には約42%の減の1614万人となった。ページビューも2900万から900万に下落した。
利用者やアクセスの大幅下落を有料化策の失敗と解釈するのは早計だ。
課金制導入の意図は、無料時代よりは少ない利用者でも購読料収入を得て、かつ効果的な広告を出すことにあるからだ。元タイムズのメディア記者の推算によれば、約20万人の課金購読者がいれば、購読料総額が両紙のこれまでのデジタル収入と同額となる。
他方、複数の欧州紙が、すでに閲読課金制を電子版に導入している。
ドイツ最大の新聞グループ、アクセル・シュプリンガー傘下のベルリナー・モルゲンポスト紙、ハンブルガー・アーベンブラット紙は、昨年末から、無料と有料記事を組み合わせる方式でそれぞれ一か月4・95ユーロ (約544円)、7・95ユーロの電子版閲読料金を課している。7月までに、前者はアクセス数がほぼ横ばいとなっているが、地元市場でブランド力が強い後者は課金制導入以前よりも大きなアクセス数を達成している。
フランスではル・フィガロ紙が2月から、ニュース以外の電子版サービスの一部を有料化した。3種類の購読方式を選択でき、最高額の「ビジネス」コースは毎月15ユーロ。ル・モンドも以前から一部有料制を導入してきたが、3月末以降、紙媒体、ウェブサイト、iPhone(アイフォーン)、iPad(アイパッド)のすべてで一括して読めるサービスを、毎月15ユーロで提供している。
フランスで最近話題をさらったのが、広告を取らず、購読料のみで運営されているニュースサイト、メディアパー(Mediapar)だ。
6月、サルコジ大統領への違法献金疑惑のスクープ報道で名を上げた。ルモンドの元記者らが2008年に開始した左派系サイトは調査報道を主とする。編集スタッフは25人(25歳から60歳)。6月以前の購読者は2万5千人だったが、スクープ以降、5千人以上増えたという。5月に150万だったページビューも、6月には410万へ増加した。この人気は、「読みたいニュースはお金を払ってでも読む」という現象の現れともいえよう。(「新聞協会報」8月24日付掲載の筆者記事に補足・転載。)
参考:仏メディアパー関連記事(ガーディアン)
http://www.guardian.co.uk/media/2010/jul/12/bettencourt-tapes-mediapart
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