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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2010年08月25日13時50分掲載
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アジア
【イサーンの村から】(6)イサーン時間に身をまかせ 森本薫子
日本人ほど時間に正確な民族って他にいるのだろうか。よく聞く話だと思うが、タイ人と時間の約束をしても、時間通りに来ることはまずない。約束する時さえも、「んじゃ、明日の午後ね」。時間は決めなかったり。相手が家に迎えに来てから「ちょっと待って。ご飯食べるから」、「水浴びしてくるね」と言っても誰も怒らない。どうぞどうぞとゆっくり待っている。会議でさえも、決めた時間より何時間も遅れて始まったりする。遅れてきた人も特に謝るわけでもなく・・。都会の人はもう少し時間に対する意識が高いが、田舎はまだ「時計が示す時間」より、「体や生活の流れに合わせた時間」で動くことが多い。タイ人だけでなく、暑い気候の国の民族は比較的時間にゆったりしている。せかせかすると余計暑くなるので、それも知らない間に身につく自分の身体を守る術なのだろう。
◆魚を捕まえてから火をおこす
日本では何でも事前に用意しておくことが評価されるが、タイではそれを良しとしない言い伝え(?)を時々聞く。魚を捕まえる前に火を起こしたら、魚が捕まらない。出産前にベビー用品を用意するのは縁起が悪いなど。日本人的には、魚が捕まったらすぐに料理を始められるように、火をおこしてスープのお湯を沸かしておこうとか、出産後は動けないから先にベビー用品を買っておこうと考えるのが普通。タイでは、それが必要になったその時に初めて用意することが多い。その時になって待つことになっても、その時間を「無駄」を感じる人はいない。
長年日本からの研修ツアーのコーディネートをしているが、予定を立ててもその通りに行くことは少ない。タイでのコーディネートは「事前の準備」よりも、「予定通りに行かなかった場合の対応」をどれだけこなせるかの方が重要だ。何ヶ月も前から訪問依頼をしても忘れられてしまうので、約束した後も何度か確認の電話をする。ギリギリにもまたする。そこまでしても、前日にやっぱり変更、もある。
観光ツアーではないので、一方的にこちらの要望を通すのではなく、訪問先の都合や希望にも合わせるようにしている。予定に入っていなくても、「皆さんにうちにも寄って欲しい」とか「一緒にご飯を食べよう」とかいうことがある。そんなタイ人気質を知るのもスタディツアーでは「学び」となる。が、訪問先変更、お店変更、時間変更、次から次へと出てくる「変更」に対応し、結果的に参加者にも受け入れ先にも満足してもらえるツアーにしなければならない。目眩寸前の事態は何度もあったがその都度どうにか対応でき、今ではそれにも慣れ、少々のハプニングがないと面白くないとまで思うようになった。逆に、その時の参加者の体調や興味により計画を変えられることが、参加者の満足度をあげることにも繋がったり。悪いことばかりではないのだ。
◆「明日結婚式だよ」
日本人は、とにかく「約束」したことを「守る」ことに真剣だ。誰もが忙しく予定びっしりの生活だから、ひとつの約束がずれると他に影響し、また、その約束がキャンセルになると振り替えはいつになるかわからないという状況にあることもその理由だろう。友達と会うのでさえ1ヶ月前から決めておいたりする。それが結婚式などの特別な行事だったら数ヶ月前から知らせるのが当たり前である。日本において、「今週末、結婚式だから来てくれる?」と言われたことのある人はまずいないだろう。ところがタイでは、それさえもよくあることなのだ。
ある夕方、隣の敷地に住んでいる義理祖母が「明日○○(親戚の息子)の結婚式だから」と伝えに来た。「あ〜 行く行く」と夫。次の日には、義理の祖父母、家族、親戚と一緒に結婚式に向った。このギリギリ召集、葬式なみだよっ!と思ったが、それでも人はじゅうぶんに集まるのだ。
◆タイにも大安も仏滅もある
私の結婚式もイサーンで挙げたのだが、日本の家族・友人も参列してくれることになっていたため早くから日取りを決めたかった。タイも特別なことをする日はいい日を選ぶ。日本でいうところの大安や仏滅のようなものがタイにもあるのだ。旧暦の奇数月が良いとか、その他も条件があるようで、私達にはわからない。義理祖父に日を決めてもらおうということになった。2月くらいに挙式したいと思っているのに、11月になっても夫はまだ祖父に聞いていない。「日本人は何ヶ月も前から職場に休暇届を出したりしないと行けないんだから、早く決めないとみんな来れなくなっちゃうよっ!!」と焦ってせかしても、「来年のカレンダーがないからわからない」との答え。そしてカレンダーは、稲刈り(11月)が終ってそのお米を精米所に持っていったときにもらえるものだから、それまではわからない、と言うのだ。
カレンダーなんて、買えばいいだろ〜〜っ!!と私はぶち切れそうになった。もちろん売っているのだけれど、年末になると精米所や銀行などでもらえるので、カレンダーを買うイサーン人はいない。何ヶ月も前から先の予定を立てる人もいないし・・・。だから「カレンダーを買う」という発想はなかったようだ。このときばかりは買って無事結婚式の日取りが決まった。日本の家族・友人にすぐに伝え、無事45人もの日本の親戚や友人にイサーンの田舎式結婚式に出席してもらうことができたのだが、決まるまでは本当に冷や汗ものだった。タイにも招待状を出す習慣はあるのだが、近くに住んでいる人だったら前日までに配れればいいだろうという感じ。当日もあり。良い日を選ぶと結婚式が週末・祭日にならないこともあり、平日に結婚式が行われる場合も多い。それでもたくさんの人が参列してくれる。そんなに簡単に仕事を休めるのか?と日本人なら心配になるところだが、田舎なら農家が多いのでそこは自由だ。農家は自分が社長ですから。数日続く結婚式の食事も、村のおばちゃんたちが大勢で手伝って作ってくれるのだ。
◆時間は融通し合うもの
日本人にとって、「何もしていない時間」「待っている時間」は無駄な時間。生産的なことをしていないのは無駄な時間。タイ人に、日本の電車の時刻表と本当にその時間ぴったりに来る電車のことを話すと、そんなことあり得ないし、そんなことする意味がわからないと半信半疑なほどだ。1分遅れても、謝罪のアナウンスが流れる。急いでなくても「待つ」ことにイライラする。タイ人にとって待つ時間は、ゆっくりする時間、おしゃべりの時間、ぼ〜っとする時間。村での時間の流れはそんな感じ。忙しくしていないから、村の誰かが困って助けを呼んだときにすぐに手を貸すことができる。それが当たり前でお互い様なので、遠慮なく声をかけることができる。助けてもらったところで、お礼をする必要もない。日本人にとっては本当に「時間は貴重」という意識なので、人に助けをお願いすることにとても恐縮する。それならお金を払って業者に頼んだほうがいい、ということになる。だからいざという時に業者に支払う貯えがないと不安になる・・・。
そう思うと、イサーン人が家の前でおしゃべりしたり、ぼ〜っとしながら過ごしている時間は、お互いを支えあうための時間だとも思える。お金のかからない保険。自分の体で返す保険、というところだろうか。
うちの車がぬかるみにはまって出られなくなったときも、いつの間にかワラワラと村人が集まってきて(忙しい田植え中だったにも関わらず!)、車を引き上げてくれた。夫は「あ、どうも!」という感じで、手伝ってくれた村人たちも、終ると何事もなかったようにさっさと引き上げて行った。日本だったら恐縮して、後日、菓子折りでも持って配り歩くところだ! それだけ村では助け合うことが当たり前なのだ。(あ〜 もちろんそれだけの仲だけに、うっとうしいことも多々ありますけど。)時間に対する考え方。簡単に「無駄」と切り捨てると、大事なことをなくすことになるかも。村にいるとそう思わされることがよくあるのだ。
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親戚の結婚式。田舎の結婚式は新婦か新郎の自宅で行うのが一般的。これは自宅の前の道にテーブルを並べ、ステージを設置した比較的大掛かりな式。
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