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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2010年09月10日15時13分掲載
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アジア
【イサーンの村から】(7)産後は三日三晩薬草サウナ三昧 森本薫子
イサーン人もずいぶんと前から西洋医学に頼るようになっている。ちょっとでも風邪を引いたり熱があったりすると、市販の薬を飲んだり病院に行く人が増えている。一方で、やはりイサーンだなぁと思うのは、伝統的な治療法を本気で実行している場面にあう時。バイクで事故に合い全身打ち身の人が、薬草で蒸されていたり、かなり重症と思われる病人の頭に長老が唾を吹きかけていたり・・。病院にいかず、このような処置だけの場合もよくあるのだ。私自身の経験と言えば・・、病気やケガの治療ではないが、あの体験をした出産後の出来事だろう。
◆産後の薬草サウナ、火の晩は夫
私はムクダハン市内の私立病院で出産したのだが、出産後2泊3日で家に戻ると、夫と叔父さんが家の横に木で囲いを作り始めた。囲いの中には竹でできたベッドのような台が置かれ、その上にはいろいろな葉っぱが敷き詰められ、ゴザでカバーされている。ベッドの下には炭を入れた七輪が設置された。
もしかして、薬草サウナを準備してくれているの?!家で薬草サウナをしてもらえるなんて、ステキ!イサーンで出産して良かった〜!なんて本気で感激していると、「このゴザの上で、三日三晩寝るんだよ」・・・と。「え?三日間?夜もここで寝るの?ご飯は?赤ちゃんの世話は?」と困惑すると、「ここで寝て、ここで食べて、授乳の時は、赤ちゃんを連れてきてあげるから」と、当たり前のような顔をして言う夫と親戚一同。赤ん坊の世話は、義理祖母がしてくれるらしい。絶句しつつも言われるがままに寝て、それでも始めの数時間は「気持ちがいい〜〜〜」と快適だった。 …が、密閉されていないといってもサウナなのだからやはり熱い。長時間蒸されているので身体がだるくなってくる。夜中じゅう、炭の火を絶やさないように夫が七輪の番をしているのだが、居眠りして火が消えていたりする。今度は寒くなり、「ちょっと!火が消えてるよっ!」と起こすと、夫が慌てて炭に火をつけ直す。
この途中途中に授乳で起き上がるのが、またものすごく体力を消耗する。夜明けの頃にはぐったりだった。この疲労感・・・本当にこれ、身体にいいの…?と疑問を抱きつつ、蒸され続け、2日目の晩が終ると、私はギブアップを申し入れた。もう無理、もうだめ、と根をあげると、「1週間蒸されている人だっているのに」と夫は不満そうな顔をしたが、ギブアップを許可してくれた。陣痛や分娩の痛みをすっかり忘れるほどの、拷問のような2日間だった・・・。 出産後の薬草サウナは、北タイや南タイではやらないそうで、どうやらイサーンだけの習慣らしいのだ。サウナに使う薬草の種類ももちろん決まっている。何がどう効くのかは、誰に聞いても答えが返ってこないが。たしかに出産後は「冷やさない方がいい」というのは多くの国で言われている。中国では、出産後1ヶ月は水に触ってはいけないらしく、真夏でもシャワーはもちろん、洗顔も歯磨きさせてもらえなかったと、中国人と結婚した友達が言っていた。 インドやマレーシアでも水に触ってはいけないのは同様らしい。その上、産後1ヶ月間は、野菜と果物を食べるのは禁止だとか!
◆伝統医学の効用
熱帯で育つ野菜や果物の多くは陰性で、身体を冷やすものが多いからだろうか。イサーンの村では湯沸し器がない家がほとんどなので、20〜25度くらいに気温が下がる季節でも水を浴びる。うちもいつも水浴びだけれど、出産後だけはお湯を沸かして身体を洗いなさいと言われた。義理祖母は、ここにおしりをつけて傷口を癒しなさいと、様々な薬草を煮出したお湯をタライに入れて用意してくれた。 タイでは赤ん坊でさえ水浴びさせられるのに、産後の女性にだけはお湯を勧めてもらえほど、「冷え」を避けるようだ。これだけアジアの様々な国で、「産後に水は厳禁!」とされているのだから、「出産後の身体と水(冷え)」には重要な関係があるのだろう。
私は父親の方針(?)により、子供の頃から基本的に薬は飲まないし、よっぽどのことがなければ病院には行かなかったので、「大抵の症状はほっておけば治る」という感覚が身についていたこともあるが、タイで自然農業や村の暮らしに関わるようになってから益々その傾向が強くなった。食生活や環境による身体への影響や自己治癒力、宇宙の動きと身体の関係など、いわゆる東洋医学に興味を持つようになった。それから中国の漢方・気功治療の先生のところで手伝いをしたり、アユルベーダ(インドの伝統医療)や日本の快医学の講座を受けてみたりと、様々な伝統療法・民間療法をかじって勉強したこともある。
その辺の知識と、東洋医学の治療師を目指す友達から聞いた知識を混ぜて考えてみると、イサーンの伝統的な治療法は理にかなっていると思うことも多い。ただ、東洋医学的治療法は、今出ている症状を抑えるだけでなく、その原因から治すという考えなので、即行性がないことが多い。ゆっくり寝て治す時間がない忙しい生活をしている人が増えている世の中、薬には即効性が必要で、別の部分で身体に負担をかけても、その時の症状はすぐに治したいという人の方が多いかもしれない。だから忙しい国では伝統療法や民間療法は、日常的な処置からはどんどんなくなっていくのだろう。西洋医学でどうにも治らないときに、逆に頼ることになるケースはあるにしても。
東洋医学というと何だか難しいことのように聞こえるが、そもそもは、身体のしくみや食べ物や環境の身体への影響を理解し、薬草など自然界のものの効果を活用することからきているのだから、イサーンの伝統療法だってそこから来ているわけだ。村にいると、「風邪の時は、ドリアンや竜眼(どちらもタイの果物)を食べちゃいけない。身体に熱を持たせるから。咳が止まらなくなるから」とか「皮膚の荒れにはウコンをすって塗り付けなさい」とか、食べ物や薬草に関するアドバイスが多い。子供でさえちょっと指を切ったりすると、「こうすると傷が治るんだよ」と、どこからか葉っぱを取ってきて指に巻きつけていたりする。慌てて消毒してバンドエイドを貼るお母さんなんてまずいない。 この間来た南アフリカの人たちも「これらの植物は私達が住む地域にもあるけど、そんな効果があるなんて知らなかった。イサーンの農家の人たちは、周りの植物についてよく知っているわねぇ!」と感心していた。
タイでは、国民なら病院にかかるのに何でも1回につき30バーツ(約90円)という制度がある。それでも風邪やちょっとした怪我の度に行っていては現金が出ていく。ある程度の病気や怪我の治療のために伝統療法を実践しつつ、深刻な場合には平行して専門家の助けを利用するのがいいのかもしれない。そうすることによって、薬草の存在も守られていく。
せっかくイサーンで暮らすこととなったのだから、どんどん伝統的治療を体験・活用したいと思うのだ。とはいっても…身体には効果的な処置だとわかっていても…、また出産することになったら、あのすさまじい痛さの陣痛よりも分娩よりも、薬草サウナが憂鬱でしかたがない・・。
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蒸され中 隣にいるのは、便乗してサウナ体験中の研修生。
薬草を準備
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