先進国では紙の新聞の発行部数の下落が続いているが、ホームレスや貧困の解消を目的として街中で販売される「ストリート・ペーパー」の部数が世界中で増えていることが、慈善団体「INSP」の調べで分かった。(ロンドンー小林恭子)
日本でも、ホームレスの人が売る「ビッグ・イシュー」はかなり名前が知られるようになった。私は最初、英国でその存在を知り、東京に戻ったときに、有楽町駅近くで一部を買ってみた。ある著名俳優が表紙になっていて、販売人の方から、「お客さん、目が高いねー。この人が表紙になると、すぐに売れきれちゃうんですよね」と言われたことがあった。
日本の「ビッグ・イシュー」は英国の「ビッグ・イシュー」よりも厚地の、質の良い紙を使っている。オリジナルの記事もたくさんあって、読みがいがある。英国の「ビッグ・イシュー」は、日本と比べるとややペラっとした紙を使う。ものすごくまじめな記事が多い印象を持っている(英国版)。私の友人たちは、なぜか、「読みたい記事がない」というのだがー。
さて、世界40カ国で115のストリート・ペーパー(「ビッグ・イシュー」もその1つ)を販売する組織が加盟する、国際慈善団体「INSP」(インターナショナル・ネットワーク・オブ・ストリート・ペーパーズ)が22日発表したところによると、過去1年間でストリート・ペーパーの世界での販売部数は、前年よりも平均10%増加したという。
INSP傘下の新聞はすべてホームレスたちが販売している。今年9月時点で、世界中で151万部が販売された。昨年同月は137万部だった。読者数は479万人から530万人に増加したという(1部を数人が読む、という想定)。
アジア諸国では部数は前年比で48%増加し、これに米国(36%増)が続いた。欧州の増加は6・4%である。
「先進国では雑誌も含め、紙媒体の発行部数が減っている。このニュースはその逆を行く動きで、すばらしい」(メディア動向の分析会社エンダース・アナリシスのダグラス・マッケイブ氏)というコメントがついていたぐらいだから、「良いニュース」として紹介したいのだろう。
しかし、果たして、良いニュースなのだろうか?どちらかといえば、ホームレスの人が町でストリート・ペーパーを売らなくなったり、ストリート・ペーパーがなくなりつつある・・・という方がよっぽどいいのでは?また、販売部数が増えたということは、ホームレスの人が増えた、あるいはホームレスになることが多くの人にとって身近になった、ということを意味しないだろうか?
リリースの中にあった、米国の例を見てみよう。米ナッシュビルで売られている、「コントリビューター」というストリート・ペーパーがある。今年1月、販売部数は1万2000部だった。9月には6万部になったという。「昨年9月には、1500部だったので、非常に大きな伸び。信じられない」、とコントリビューターの編集長タシャ・フレンチ氏は語る。(これは米国での不景気が悪化したことを示さないのだろうか?)
コントリビューターがアンケートをとったところ、一ヶ月以上売っている人の中で、29%が住む家を見つけたという。3ヶ月以上売っている人の中では、これが35%になった。
INSPによれば、傘下のストリート・ペーパーの71%が、ホームレスがストリート・ペーパーを売らなくてもよいようにし、25%が該当地域での住宅及びホームレスに関わる政策を改善させたという。
いずれにしても、「部数が増えた」といって、喜んでばかりもいられない思いを持ったー理想論かもしれないが。ホームレスの人の生きる糧になっているという意味で、その存在は大きいという点は変わらないとしても。
INSPは、ウェブサイトを通じて、日本語も含めた複数の言語で社会のさまざまな問題を配信している。ご関心のある方は以下のサイトへ。
http://www.streetnewsservice.org/
(写真はスコットランドでビッグイシューを販売する人。INSP提供。「英国メディア・ウオッチ」より)
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