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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2010年12月02日00時48分掲載
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検証・メディア
ウィキリークスの理想は?
今回、ウィキリークスによって入手された米外交文書は25万点にのぼる、と言われる。インターナショナルヘラルドトリビューン(12月1日付け)紙上ではイスラエルのネタニヤフ首相の「ドキュメントはイランに関するイスラエルの調査を支持する内容だ」という発言が引用されている。「イランについて我々が秘密裏に話している情報と、公開された情報には大きな差がない」と言ったという。ニューヨークタイムズ紙が米政府に近いということで、あえてこのような挑発的な記事を書いたのだろうか。今回のリークの目的はどこにあるのか?
非合法で入手した外交公電を大量に公表することは本当によいことなのだろうか。今回は米政府の外交情報だが、中国や日本、あるいは韓国や北朝鮮の外交公電がリークされた場合も、我々は肯定できるのだろうか。政治的な右とか左とかはこの際関係なく、である。
ウィキリークスの大量の情報公開を肯定する論理は一体どこにあるのだろうか。政府が秘密を一切持たないようになることが理想なのか。それならば日本政府も外交上の秘密を持たない事がよいことなのだろうか。それとも、アメリカが世界の覇権国であり、中東で戦争を継続している当事国であるから、その情報をリークすることが平和のために肯定されるということなのだろうか。
そもそも外交には秘密がつきものではないか。交渉の方針などが事前に相手国にダダ漏れになってしまえば交渉は打撃を受ける。もちろん、永久に国民に事実を秘しておく事はよくない。だからこそ、外交文書に関しては一定の時間をおいて公開が求められるのである。
ウィキリークスとは方向性が異なるが、以前、日米経済交渉に当ってアメリカ政府は日本政府側の会議の内容を盗聴していたと聞く。また英米による大掛かりな盗聴網、エシュロンによって民間・政府を問わず大量の通信が盗聴されていると言われている。こうした報道に接して感じるのは怒りではないだろうか。それではウィキリークスが行っている事は反政府だから、という理由で肯定されるのだろうか。そうした情報は売買されているのだろうか。それとも無償なのだろうか。
米国も日本も民主的な選挙で選ばれた政府が外交を仕切っている。情報を出す、出さないの判断もその時々の政府に託された外交である。リークによって、外部の人間が、あるいは政府内にあっても意見を異にする人間が政府の判断を無効にするのであれば、それは民主主義の否定につながるのではないだろうか。仮に政府に情報の開示を求めるとしても、このような手法は肯定されるのだろうか。
アメリカのメディアと英国のメディアのウィキリークスに対する反応の違いが何に起因するか僕にはわからない。ただ、米国民にとって、税金で賄われている米政府や米大使館が打つ外交公電は国民の財産だという認識があると思われる。国民の財産だから、その管理も国民の意志で決めたいと考えるであろう。情報公開もその一環であり、そのルールも国民が決めるものである。少なくとも民主主義を標榜する国家ではそうである。しかし、今回の漏洩情報の大量公開は米国民の合意のないところで進められた。そこに米紙の慎重さがあるのではなかろうか。むしろ、米紙がどのような論理で公開に踏み切ったか、その論理を知りたいと思う。
ウィキリークスをめぐる問題は「当局」に近いか遠いか、ということではなく、民主主義の原則に関することのように僕には思われる。もちろん、政府が非人道的な行為を行っているのを職員が察知した場合に内部告発をすることは肯定されうるだろう。しかし、今回の大量の外交公電の漏洩はそういう性質のものなのだろうか。
米国務省が各国首脳をどう見ていたか、という情報には公益性がないように思えてならない。ニューヨークタイムズ紙の報道を見るかぎり、イランやパキスタン情勢の危険さ、特に核開発を巡る危機感が今回のリーク報道で結果的に増幅されたように思われる。
村上良太
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