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2010年12月25日07時18分掲載
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隣国アイルランドの危機−ケルトの虎は再生できるか? 英国からの視線
今年年末にかけて、アイルランドが国際的な注目を浴びた。残念ながら、良いニュースではなかった。かつては「ケルトの虎」といわれ、その目覚しい経済成長振りで世界中を驚かせたアイルランド。英国の隣国でもあるこの国が、大きな財政・金融危機に見舞われたからだ。(ロンドン=小林恭子)
11月末、欧州連合と国際通貨基金が総額850億ユーロ(約9兆4000億円)の緊急支援に合意し、危機の回復へと事態が動いたが、アイルランド政府が外からの融資を受け入れるまでに時間がかかった。国民の怒りは首都ダブリンでの大規模デモで表面化し、その様子が世界のメディアを通じて流れた。歴史的、地理的、経済的にも深い関係にある英政府はアイルランドへの2国間支援融資を決断した。アイルランドの現状を英国との関連から振り返ってみた。
人口約450万人のアイルランドは、近年、その経済成長の早さから「ケルトの虎」(ケルト民族の居住地であったことに由来する)と呼ばれてきた。その経済成長は不動産市場の活況に大きく由来しており、2008年、不動産バブルが崩壊すると、銀行は大量の不良債権を抱える羽目になった。これを救済するためにアイルランド政府は巨額資金をつぎ込んだが、今度はそのために財政赤字が広がってしまった。アイルランドの財政赤字は、今年、国内総生産(GDP)比で約32%に悪化する見込みだ。不景気で税収入が大きく減少し、失業率(13%前後)が上昇した。
11月24日、アイルランド政府は来年から4年間で総額150億ユーロ(約1兆6700億円)を削減する緊縮財政策を発表した。公的部門で2万人を超える人員削減、付加価値税の21%から24%への引き上げなどが予定され、国民にとっては厳しい4年間となりそうだ。
当初、自力で危機を乗り越えられると主張してきたアイルランド政府は、欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)からの支援を受け入れることにし、同月29日、EUとIMFは、最大で850億ユーロ(約9兆4000億円)の支援策を決定した。2008年の世界的金融危機の影響後、ユーロ圏諸国でこうした形での支援を受けるのは、5月のギリシャに続き、アイルランドが2カ国目だ。
EUは12月7日の財務相理事会でアイルランドへの支援策を正式決定したが、その内訳は、850億ユーロのうち、350億ユーロは金融機関対策、500億ユーロは財政支援にあてる。財源はEUが450億ユーロ、IMFが225億ユーロを拠出し、残り175億ユーロはアイルランドが自助努力で捻出することになっている。英国、デンマーク、スウェーデンとアイランドとの2カ国金融支援もEUの総額に含まれる。
英国とアイルランドの結びつきは深い。かつてはアイルランド全体が英国の一部で(アイルランド南部は1922年、独立)、北部6州は現在でも「英領北アイルランド」である。英国はアイルランドの主な貿易相手(輸出では第3位、輸入では最大の貿易パートナー、2009年)であり、アイルランドの各銀行は英国本土で積極的に投資を続けてきた。アイルランドがもし経済破綻をすれば、ビジネス面、雇用面での影響は多大となる。
そこでオズボーン英財務相はアイルランドに対し、約70億ポンド相当の2国間支援を行うことを議会で発表した。これは英国の家庭一戸にあたり300ポンドにあたる。英国自体が現在緊縮財政下にあり、たとえ隣国といえど、これほどの金額を提供する(ただし、あげるわけではなく貸し付けであるが)のは並大抵ではない。英国民が財務相の判断に複雑な思いを持つのも無理はない。
現在の懸念の1つは、アイルランドの危機がほかのユーロ圏の国、たとえばイタリア、ポルトガル、スペインなどに波及するのではないか、という点だ。一方、経済構造や成長の度合いが異なる国がユーロという単一通貨を導入し、同一の金利政策の下で財政運営を行うというやり方が破綻しているという見方も出た。
格付け会社がアイルランドの格付けを下げる動きが出ており、ムーディーズ・インベスターズ・サービスは今月17日、アイルランドの国債格付けを「Aa2」から「Baa1」に5段階引き下げ、フィッチ・レーティングスも長期信用格付けを「Aプラス」から「BBBプラス」に3段階引き下げた。
EUやIMFによる支援策は決定されたものの、アイルランド経済の行き先、英国民の負担額の行方など、まだまだ先行きは不透明となっている。(「英国ニュースダイジェスト」誌掲載分に補足)。
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