ネットは様々な意見を外に出したり、人と人をつなげる、それに何か運動を広げたいときの動員の手段としては非常に便利ー。それはそうなのだが、ネットを監視して、反体制派をとらえようとしたら、これほど都合の良いツールもない。特に、民主主義の国であれば、異端者を捕らえて監獄に入れることは普通にはできないが、もし絶対君主制や独裁の国だったら、簡単にできるのはないか?エジプトの民衆蜂起と通信メッセージの例を米フォーブス誌の論考から探ってみた。(ロンドン=小林恭子)
民衆蜂起が起きているエジプトでインターネットと携帯電話の接続が遮断され(1月27日夜)、その後、復帰(2月2日)という動きがあった。「やっとつながった」と思って、ムバラク不支持のメッセージをネットでドンドン出せば、何か報復はないのだろうか。そんな危惧がある。
米フォーブスのアンディー・グリーンバーグ(昨年11月、ウィキリークス代表のジュリアン・アサンジをインタビューした人である)が、「エジプト人が再接続するうちに、政府はこれを監視している」という記事を出している(2月4日付)。
http://blogs.forbes.com/andygreenberg/2011/02/04/as-egyptians-reconnect-their-government-will-be-watching/?utm_source=alertsnewpost&utm_medium=email&utm_campaign=20110204
この中の要旨を拾ってみると、ボーダフォンがエジプト政府の要請に応じて、ムバラク支持のメッセージを顧客に流したという。そのメッセージは例えば「裏切り者と犯罪人に立ち向かう」ことを呼びかけていた。
グリーンバーグは、「オープン・ネット・イチシアティブ」(ONI)のヘルミ・ノーマンの2年前のブログ・エントリーを紹介する。これによると、ボーダフォンは、2008年、エジプトの食料暴動でも、政府側に協力する動きをしていた。この暴動の中で、ある抗議者のグループがムバラク大統領の大きなポスターを破ったという。エジプト政府はボーダフォンに対し、抗議者の携帯電話情報を引き渡すよう要求し、ボーダフォンがこれに応じたという。結果、21人が暴動関連の罪で有罪となったという。
ノーマンがグリーンバーグへの電子メールで語ったように、顧客データは、誰が何をいつ、どのようにしているかを当局に教えてくれる。
グリーンバーグはボーダフォンに連絡を取り、この件を確認しようとした。広報担当者は、国家の安全保障にかかわることはこたえられないといったそうである。
エジプトでは、ネットや携帯ネットワークは復活しているが、トーア(Tor)(ネット上で利用者が匿名性を保ちながら通信できるように作られたソフトウェア)のウェブサイトは、2日、「ブリッジ・リレー」を使って、エジプト国民は自分たちを守るようにと書いた。
https://blog.torproject.org/blog/protecting-your-internet-traffic-volatile-times
トーアは、エジプトの国境を越える通信記録が、将来的に政府に使われる可能性を懸念している。(トーアについての付属の説明はウィキペディアでhttp://ja.wikipedia.org/wiki/Tor )
「すべてが終わった後で、エジプトの政治を誰が担うことになっても、当局は通信会社に頼り、エジプトの革命を指導した人物を探り出し、革命を組織化した人々を、社会の安定という名目で、黙らせるかもしれない」とグリーンバーグは書く。ボーダフォンの今回の動きを見る限り、携帯ネットワーク企業は「あまりにも、たやすく(当局を)助けようとしている」。
―ボーダフォン、エジプト政府に従ったのか、それとも勝手にやらされたのか?
3日、ボーダフォンは「エジプト政府に強制的にメッセージを送らされた」という声明を出している。
Vodafone: Egypt forced us to send text messages
http://news.yahoo.com/s/ap/20110203/ap_on_hi_te/eu_egypt_cell_phones
この記事によれば、ボーダフォンは「メッセージはエジプト当局が作ったもの」で、ボーダフォン側には「これを変更する権力(パワー)がなかった」と説明する。
ボーダフォングループは「当局に対し、こうしたメッセージに関わる現況は好ましくないと抗議した」。
メッセージは抗議デモが発生した、1週間前から送付されていたという。
ボーダーフォンに対し、この件での問い合わせが殺到したことから、声明文が発表された模様である。
ボーダフォンの声明文は以下。
http://www.vodafone.com/content/index/press.html
「(エジプトの)通信法の緊急時の権力に関わる規則によれば、エジプト当局は携帯通信ネットワークのモビニル、エティサラト、ボーダフォンを通じて、エジプト国民にメッセージを流すことができる。この権力を当局は抗議の開始時から行使してきた。メッセージは携帯通信ネットワークが書いたものではない。私たちには内容について、当局に反応をする力を持っていない」。
「ボーダフォングループは、こうしたメッセージに関わる現況は受け入れがたいと当局に抗議した。私たちは、すべてのメッセージは透明で、明確に発信者に起因するものであるべきだと明白にした(=当局にはっきりと伝えた)」。
ボーダフォンがエジプトの国内法に従って行動したことは確かだろうが、グリーンバーグは「当局に屈服した」と見ているようだ。一方、ボーダフォンとしては「仕方なかった」ということかー。
「仕方なかった」とはいえ(違法行為はできないだろうから)、どこまで当局と一緒に行動するつもりだったのか、やはり疑問は残る。
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