21世紀の通商条約と言われ、菅政権も参加を検討しているTPPだが、その実態は日本ではまだあまり知られていない。そこで参加国のニュージーランドで反TPPの活動を繰り広げているオークランド大学教授ジェーン・ケルシー(Jane Kelsey)さんが編集した本を紹介する。(日刊ベリタ編集部)
原題は‘No Ordinary Deal’ (Unmasking the Trans-Pacific Partnership Free Trade Agreement )である。
http://www.bwb.co.nz/store/viewPrd.asp?idcategory=10&idproduct=254 訳せば「普通ではない契約」になる。副題は「TPP協定の正体を暴く」
オバマ大統領はアメリカ市場をがっちり外壁で守った上で、TPP協定国をアメリカの大企業に都合のようように規制を緩和し、市場を準備するのだという。
ケルシー教授が「異常な契約」と呼ぶ理由もそこにある。ニュージーランドや日本などが、TPP協定のデザイン(内容作り)からはずされているのに、そうした国々が一体いかにしてアメリカ市場に参入できると信じられようか、というのである。
そもそもトレードアグリーメント(通商条約)と銘打っていること自体が誤解だという。TPPは輸出入がメインの協定ではそもそもない。TPPの中核部分は参加国の国内政策をTPPによって改変することにある。その背後にはワシントンでうごめいているアメリカの各業界のロビーストたちがいる。
たとえばアメリカの製薬業界はTPP協定国の保健医療行政を米製品の売り込みに都合のいいように変えて行きたい。 ニュージーランドなら、Pharmac(薬の輸入を管轄)、オーストラリアならPharmaceutical Benefits Scheme などを操作することが予想されるというのだ。さらに、食品管理の基準や知的財産権についても同様にアメリカにとって都合のいい形に参加国を変えていくことになるだろう。
その最も恐るべき局面はひとたびTPPに参加してしまったら、TPP協定に反する規制をした場合、海外の投資家から政府が訴えられることも可能になるというのだ。その裁判も当事国の国内法廷ではなく、WTOや世界銀行などがもうけた法廷で行われる。こうなると、一国の国内政策もなしくずしにされてしまう。選挙で改革を望んでもTPP協定に反する政策は不可能となる。
■本書の寄稿者一覧 Jane Kelsey, Bryan Gould, Patricia Ranald, Lori Wallach, Todd Tucker, Jose Aylwin, Paul Buchanan, John Quiggin, Warwick Murray, Edward Challies, David Adamson, Geoff Bertram, Tom Faunce, Ruth Townsend, Susy Frankel, Jock Given, Ted Murphy, Bill Rosenberg, Nan Seuffert
執筆者の1人、ロリ・ワラック(Lori Wallach)氏はアメリカの市民団体Public Citizenに参加し、Global Trade Watchを主催している。これまでWTOやNAFTA,CAFTAなどの自由貿易協定の実態をウォッチしてきた。米議会でも30回以上証言を行っている。もともとハーバードロースクールを出た弁護士である。インターネット新聞ハフィントンポストにもブログを掲載している。「自由」貿易を推進しようとしているまさにアメリカ国内の事情がワラックさんらの情報からうかがえる。
■グローバル・トレード・ウォッチ
http://www.citizen.org/trade/ ■ハフィントンポストのワラックさんのブログ
http://www.huffingtonpost.com/lori-wallach
▼TPPはオバマ大統領再選のための策と当初書いたが、内橋克人氏によると、もっと長いスパンで米国で計画されてきたプランのようである。
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