TPP(環太平洋経済連携協定)交渉の有力ないっかくを占めているオーストラリアでも市民グループや教会、労働組合などを軸にTPP参加反対の市民運動が動いている。その主張は「健康、労働、文化、環境政策を取引してはならない」というもの。30以上の市民運動のネットワークが政府への要請行動などを行っている。(安藤丈将)
2010年3月14日、30以上のオーストラリアの市民運動のネットワークが貿易大臣に対して、翌日に始まる予定のTPPA(Trans Pacific Partnership Agreement)交渉に関する要請を出した。http://aftinet.org.au/cms/trans-pacific-partnership-agreement/tppa-community-organisation-statement-australian-government
この要請は「健康、労働、文化、環境政策を取引してはならない」と題され、労働組合、エコロジー・グループ、教会グループなどのコミュニティ・グループが名を連ねている。この要請団体の中に名を連ねているAFTINET(公正な貿易と投資のためのオーストラリアネットワーク)は、「米豪FTAの復活―アメリカ企業はTPPAから何を得ようとしていて、私たちには何ができるのか」というパンフレットの中で、TPPによって起こり得る問題として次の点を挙げている。
◆米豪FTAの復活
・オーストラリアでは、2003〜04年の間、自由党のハワード政権のもとで、米豪FTA(自由貿易協定)の交渉を行った。アメリカ企業はオーストラリアの健康、文化、環境政策を貿易障壁とみなして、それを除去したり、変更したりしようとした。その政策の中には、薬品価格の規制、遺伝子組み換え食品のラベリング、オーストラリアのメディア作品の保護などを含んでいた。 ・しかしコミュニティの強力な反対のために、国会での討論の中で協定を修正せざる得を得なくなり、結果として、健康、文化、環境政策への規制緩和を免れることができた。 ・TPPは一度消え去ったこれらの規制緩和をもう一度議題に載せることになる。実際にアメリカ企業グループによる提言書には、オーストラリアの健康、文化、環境政策の規制緩和が含まれている。
◆薬品価格の上昇
・アメリカの薬品卸売価格は、オーストラリアの3〜10倍高い。オーストラリアでは、補助金を出して年金生活者や低所得者に対して安く薬品を提供するという法律があるからである。 ・アメリカの製薬企業は、このオーストラリアのシステムのために、彼らの利益の享受が妨害されていると主張している。TPPAによって、製薬会社はこれまでよりも高い価格を要求することができるようになるだろう。
◆異議申し立てプロセス(dispute process)
・通常の二国間協定に含まれているのは、何か貿易上の問題が生じた時に、国家Aが国家Bに対して異議申し立てをする権利。しかしNAFTAには、投資家が国家に対して異議申し立てをするプロセス(dispute process)が含まれている。 ・このプロセスによって、ある企業が外国で商売をする際に、自分たちの利益を妨げる法律が存在すると見た場合には、その国の政府に抗議したり、訴えたりすることができる。 ・コミュニティの反対もあり、米豪FTAでは、この異議申し立てプロセスが協定の中に含まれなかった。しかしTPPAでは、公共の利益よりも企業の私益を優先させるプロセスが入り込む恐れがある。
他にも、労働&環境法の規制緩和、アメリカのメディア企業によるオーストラリアのドラマ、コメディー、音楽、ドキュメンタリー市場への参入規制の緩和、遺伝子組み換え作物のラベリング義務の撤廃などが、TPPの結果として起こり得るとされている。
オーストラリア政府は、TPP によって、米豪FTAでは獲得できなかったアメリカ農業市場へのアクセスを得られると主張している。しかしこれはあり得ないことである。
私たちは、薬品価格の規制、遺伝子組み換え食品のラベリング、オーストラリアのメディア作品の保護、外国企業の投資規制、地域の雇用のサポートを要求する。公共の利益を譲ってはならない。
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