・読者登録
・団体購読のご案内
・「編集委員会会員」を募集
橋本勝21世紀風刺絵日記
記事スタイル
・コラム
・みる・よむ・きく
・インタビュー
・解説
・こぼれ話
特集
・アジア
・国際
・イスラエル/パレスチナ
・入管
・地域
・文化
・欧州
・農と食
・人権/反差別/司法
・市民活動
・検証・メディア
・核・原子力
・環境
・難民
・中東
・中国
・コラム
提携・契約メディア
・AIニュース


・司法
・マニラ新聞

・TUP速報



・じゃかるた新聞
・Agence Global
・Japan Focus

・Foreign Policy In Focus
・星日報
Time Line
・2025年03月30日
・2025年03月29日
・2025年03月28日
・2025年03月27日
・2025年03月26日
・2025年03月23日
・2025年03月22日
・2025年03月21日
・2025年03月19日
・2025年03月18日
|
|
2011年03月09日01時18分掲載
無料記事
印刷用
コラム
読書の苦しみ 村上良太
コラムニストのマイク・ロイコは学校で読まされる文学の類は名作と言われるものほどその退屈さにも磨きがかかっていた、と書いていた。コロンビアの文豪、ガルシア・マルケスは学生時代に「ドン・キホーテ」を読むのがいかに苦痛だったかを最近翻訳出版された回想録「生きて、語り伝える」(新潮社)の中で吐露している。
「私の「ドン・キホーテ」体験は、いつも別立てで話さざるをえない。カサリンス先生が予告していたような感動をおぼえることがなかったのだ。遍歴の騎士の賢人ぶった熱弁は私には退屈だったし、従者の馬鹿な言動も全然面白くなかったので、しまいには、自分が読んでいるのは、あんなにいろいろ言われているあの本とは別のものではないかと思ったほどだった。しかし、私は、うちの先生ほど学識ある先生がまちがっているはずはないと自分に言い聞かせて、むりやり下剤を飲むようにして必死で飲みこんだ。高校時代にはもう一度、義務的な課題として読まねばならず、もう見るのもいやなほど嫌いになったところで、友人から、トイレの棚に置いておいて毎日のお務めの間に読むようにしたらどうか、と助言された。」
岩波文庫の「ドン・キホーテ」は全部で6巻ある。映画や芝居にもなっている。イラストつきの短いバージョンもたくさん出ている。しかし、その本当の面白さはもとの小説の中にしかないと言われる。ハリウッド映画になると、ヒューマニズムの説教臭が鼻につく。そのために、スペイン語圏だけでなく、英語圏でも、ぶっ通しの徹夜で読み継ぐ「ドン・キホーテ」読書マラソンなるものまでしばしば行われている。しかし、読書嫌いにとってはこれほどの悪夢はないだろう。
プルーストの「失われた時を求めて」は翻訳書で全13巻ある。読了するためにはかなりの意志を必要とする。俳優で歌手のイブ・モンタンは「私は名刺を持たないが、他人に私のことを聞かれたら、「失われた時を求めて」を読了した人間です、と答えることにしている」と言っていたそうである。フランス人たちの中には大胆な飛ばし読みをして「読んだ」と言っている人が少なくない。しかし、一方ですっかりはまってしまって読了するたびに最初のページに戻ってエンドレスに読み始める人が何人もいるそうである。
毎年、数多くの小説が書かれているだろうが、無名の新人が書き送った作品であれば、読み手(編集者)は疑いを持ちながら読むのだろうし、何ページか読んで面白くなければ没だろう。しかし、古典の場合は世代を超えて価値を認められてきた凄みがある。マルケスが書いているように、古典なら「うちの先生ほど学識ある先生がまちがっているはずはない」と言い聞かせることができる。面白くないとしたら、非は自分にあるのだろう、という気にさせるのが古典である。
マルケスは「ドン・キホーテ」の苦しみのくだりでこう続けている。
「そうして初めて私は、突然の爆裂のようにして、「ドン・キホーテ」を発見することになり、前から後ろからと味わいつくして、いくつも挿話をまるごと暗誦するほどになったのだった。」
なぜこのようなことが起きるのだろうか。長い苦しみが、喜びの前提なのだろうか。巡礼者が長い徒歩の旅の果てに、目的地にたどり着いた霊的経験のようなものなのか。
村上良太
|
転載について
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。
|
|





|