アルイ古道の話に戻ろう。「台26線」の建設が地元の先住民と都市の青年たちからの批判を受けている理由は、もう一つある。それはこの地が新しい放射性廃棄物処理施設の建設候補地にされていることと関係している。台湾の商業用原子力発電所の運転は、1978年にスタートした。すでに6機の発電所が運転中である。日本と同じように、原子力発電から生み出される放射性廃棄物の処理は、台湾でも議論を引き起こしている。国内で唯一の低レベル放射性廃棄物処分場が、アルイ古道から海を挟んで数十キロの蘭嶼(ランユー)島に建設されている。
この処分場は、かって国民党の独裁政権の時代に、「缶詰工場」という口実で建設された施設である。2000年以後、国民党に代わって50年ぶりの政権交代を果たした民進党政府は、ランユーにある低レベル廃棄物処分場の移設計画を進めていった。現在、ランユーに搬入する新規廃棄物は、一切存在しないとのことである。ランユーにある廃棄物は、最終処分場が見つかり次第、すべてそこに搬入することになっている。しかし、最終処分場選びは難航し、処理の過程で生み出された放射性廃棄物を含んだドラム缶の破裂やさびの問題で、島内外からの厳しい批判を受けている。
2010年9月12日、台湾の経済部(日本の経済産業省に該当する)は、低レベル放射性廃棄物の最終処理施設の建設候補地を台東県達仁郷と金門県鳥坵郷の二カ所に絞ったと発表した。今後は住民投票と環境影響調査を経たうえで、最終的な建設地が決定されることになっている。すでに廃棄物処理施設の運営主体である台湾電力は、地元住民の説得を始めている。説得の最大の武器は、お金である。もう一つの候補地である金門県鳥坵郷の郷長の話では、同地には約15年前に台湾電力がやって来て、1億5千万台湾ドル(約4億5千万円)の補償金の支払いを約束した。しかし実際には1億ドルしか支払われず、しかも建設は途中で止まってしまったそうである。
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同じように台東県達仁郷でも、台湾電力は巨額の補償金の約束を取り付け、地元の支持を得ようとしている。達仁郷の住民の中には、台湾電力からの補償金に加えて、廃棄物処理施設関連で生まれる就業機会が、地域の経済問題を解決してくれるという期待を持って、建設に賛成する者もいる。しかし地元の環境や農業に与える悪影響を考慮して、建設に反対する住民も少なくない。アルイ古道の近辺に新たに建設されている「台26線」は、少し奥まったところにある処理施設の建設予定地にまでつながっており、地元では新道路の建設と放射性廃棄物処理施設の建設との関係がささやかれている。
さらに処理施設の建設は、先に触れた先住民の土地の権利という点からも、問題をはらんでいる。私たちのアルイ古道のガイドをしてくれたアラパイさんは、都会の人びとがお金を支払う代わりに放射性廃棄物という「都会でできた電気のクソ」を達仁に捨てさせてくれと平気な顔で言うと、怒りをあらわにした。そして彼はこう続けた。「自分のクソは自分でなんとかするのは当然だろう」。
しかしここ達仁にも、台北などの大都市から数多くの若者が足を運び、地元の運動をサポートしている。彼らは自分の「クソ」を達仁に押し付けることに疑問を感じている。全國青年反國光石化聯盟の若者たちと同じように、彼らも抗議行動を通して、文化活動を通して、台湾の将来のあり方を描き出そうとしている。自分の生活のツケを誰かに押し付けず、古くからこの地に生きている人びとが生活する権利を守り、私たちの生活を支える農業や漁業を大切にしながら、自然とともに暮らしていく。まだおぼろげではあるが、このような台湾の将来像が、若者の活動の中から現れようとしている。
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