現在6基の原発が稼働中の台湾でも反原発運動が盛り上がっている。3月17日には、台湾第四原発に反対する地域住民らが、福島原発の被災者に思いをはせ、新たに建設中の第四原発の建設を中止する陳情行動を行った。以下は行動の呼びかけを紹介する。また20日には、3000人規模の反原発デモがおこなわれた。(日刊べリタ編集部、翻訳・:稲垣豊、解説:安藤丈将)
《日本の原発事故の被災者を祈り、危険な原発を止める》 原文 http://www.coolloud.org.tw/node/58024 2月20日の反原発でもについては以下で。
http://www.coolloud.org.tw/node/58330
日本の宮城県沖地震による福島原発の事故は、この数日の間にも悪化の一途たどっており、爆発事故の映像、通常の数十倍を上回る数値を計測した被災地域の放射線汚染量、原発職員、消防や警察、そして庶民が放射線被害を受けたというニュースに世界中は驚愕した。
原発のリスクはコントロール不可能であり安全神話は破綻した
これまで胸を叩いて安心だと言ってきた電力会社、政府、官僚、技術者の全員が、今回の事故に対してなんらなすすべを持っておらず、「被害状況を抑制し改善した」といったそのすぐあとから被害が拡大している。福島第一原発一号機の反射炉内の気圧が高まり水素爆発を起こした後、三号機でも冷却システムがコントロール不能におちいり爆発に至った。その二日後には、二号機の圧力室でも爆発が発生して建屋を破壊した。四号機の使用済み核燃料プール、五号機、六号機でも異常が発生している。これら一連の事態から言えるのは、発電機をもうすこし増設しておけばよかったとか、あと何メートルの津波対策が必要だったなどという問題ではなく、現在の科学技術では原発のリスクをコントロールすることは不可能であるという真実を証明している。幾重にも積み重なったうえにきわめて脆弱なその仕組みによる不具合の連鎖に、技術専門家が束になっても太刀打ちすることができない。
台湾の状況を顧みれば、貢寮の第四原発に関して、台湾電力と政府は30年近くもの時間を費やして、第四原発がいかに安全を宣伝し、最新の設備とハイレベルの警戒システムを導入すると言ってきた。だが、第四原発建設に関する台湾電力と政府の長年にわたる成績表は、ミスの積み重ねと度重なる変更によって作られた事故が多発する「ツギハギ」 原発であることを物語っている。去年だけでも10数回の工事ミスと稼働事故が発生した。先週には、台湾電力が700項目もの違法設計を隠していたことを週刊メディアが明らかにした。そのうちの数十項目が重要な安全システムに関わるものだった。この20年来にわたる市民社会による憂慮と警告がひとつひとつ現実になりつつあることを目の当たりにしている。
貢寮の住民は長年にわたって建設されてきた第四原発の隣で生活してきた。住民たちは長年にわたって低品質の建設工事や近年では多発する事故やミスを見てきた。この数日、メディアかな流れてくる福島原発の写真やニュースをみるにつけ、驚きとともに今まさに放射線汚染を受けている被害者や住民らへの憂慮と不安を感じずにはおかれない。また今回の事故によって、長年訴え続けてきた第四原発の安全性に対する危惧が、大げさではなく、自分たちのふるさとでも発生する可能性があり、安らぎある生活をしたいという希望を打ち砕くものであることを改めて認識した。
台湾原子力政策の誤りを正すギリギリの機会
馬英九台湾総統は数日前にメディアで次のように語った。「福島原発の事故を理由に原子力エネルギー政策を見直している国はない。だから台湾の原発政策も変更する必要はない。第四原発の建設は続ける」。しかし馬総統の情報には誤りがある。すでにEU内の幾つかの国であわてて原発政策を転換してるところがあるからだ。
スイスではすでに新しい原発の計画を凍結し、ドイツでは古い7基の原発を閉鎖した上で他の原発の運転延長についても一時中止することを決めた。EUでは地震や高波による損傷リスクの評価をふくむ域内のすべての原子炉の圧力測定を行う。タイでも原発建設計画の中断の声が上がっている。
馬政権は今年末に第四原発一号機にウラン燃料棒を装てんするという計画に変更はないとしている。つまり、その際には、ツギハギ第四原発の放射線の脅威とリスクが貢寮と台湾全土を覆い、日夜台湾の人々の心に影をさすことになるだろう。
塩寮反核自救会および原発を憂慮するすべての市民団体は、先週スクープされた第四原発における700項目もの安全設計の違法改ざん事件をうけて今週台北の行政院への陳情抗議行動を予定していたが、先週末に不幸にも発生した福島原発の事故の影響範囲が現在も拡大し続けるなかで、予定を変更して、福島原発事故と震災・津波の被害者に祈りをささげる行動とすることにした。震災・津波被災者や放射能汚染の被害者の一日も早い回復と放射能被害からの決別、そしてふるさとの再建を祈りたい。
また台湾政府の原子力エネルギー政策に対する我々の訴えを行政院に提出し、馬政権が慎重に検討を行い、正しい決定を行うよう次のように求める。
1.日本政府および台湾政府に対して、現在の被害の状況および原発の危険性を明らかにし、無辜の民衆を放射能汚染の脅威にさらすことのないよう求める。
2.多くの国々で原発政策の見直しがすすんでいる。馬政権は危険な原発政策を中止し、迅速に「核のない世界」(非核家園/No Nuke)を実現すること。
3.近年多発している第四原発での事故によって、人々の安全性に対する信頼は失墜している。このように危険な原発にウラン燃料棒を装てんし、台湾民衆の生命を危険にさらすことに反対する。
【呼びかけ団体】 塩寮反核自救会、緑色公民行動連盟、ノーニュークス行動団隊、台湾環境保護連盟、台湾緑党、主婦連盟環境保護基金、緑色消費者基金会、台湾生態学界、台湾ウォッチ協会、台湾ワイルドハート生態協会、人民火大連盟、全国自主労工連盟、労災協会……ほか拡大中。
スポークスパーソン 緑色公民行動連盟 洪申翰 塩寮反核自救会 吳文通
【解説】 台湾では現在、6基の原発が稼働中である。台湾電力は「第四原発」と呼ばれる次の原発施設を、新台北市貢寮郷に建設した。台北の中心地から東へ電車で1時間30分ほどの場所にあるこの地は、海岸線が美しい、風光明媚な場所である。 1980年代半ばに明らかになった第四原発の建設計画に対して、地元住民は「反核自救会」を結成し、原発の安全性、環境(とくに漁場の)破壊、先住民の土地の権利の理由から抗議行動を続けてきた(現地の反対運動に関しては、チェ・スーチン監督の『こんにちは、貢寮』のDVDに詳しい)。第四原発の受注に東芝と日立製作所が関わっていたこともあって、日本の脱原発運動の人々も多数、この地を訪問している。 第四原発は中華民国100年の記念である2011年中の稼働を目指していたが、試験運転中に事故が頻発したため、目標の達成は難しいとみられている。しかし現地の住民は、原発の脅威にさらされたままである。
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