福島県の小中学校や幼稚園校庭で極めてたかい放射線量が観測されたことで、文部科学省・原子力安全委員会は子どもに年20ミリシーベルトの安全基準を決めたが、この基準に子どもの健康を考えないものだと反発が高まり、4月21日、市民団体と文科省との交渉が行われた。交渉に参加した市民からの報告をお届けする。(日刊ベリタ編集部)
文部科学省・原子力安全委員会との交渉の主要な柱は、子どもに年20ミリシーベルトの安全基準を撤回せよといもの。交渉には120名の市民が参加した。交渉は、19日に文科省が発出した「20ミリシーベルト」だったら校庭で遊ばせても大丈夫という点に集中したやりとりが行われた。
交渉のポイントは以下のようなことあった。
1.福島県による学校の放射線測定結果から、放射線管理区域に相当する学校は、全体の何%であったか。
2.放射線管理区域について答えられなかったが、放射線管理区域とはどういうところか。
3.労働基準法では、放射線管理区域における18歳未満の労働を禁じていることについて答えられなかった。学校の安全基準を20ミリシーベルトとする検討においてこの点はどのように考慮されたのか。
4.原子力発電所の労働者が、白血病を発症し、労災認定を年平均10ミリシーベルト前後で認められた事例や、集積線量40ミリシーベルトで認められた事例があることについて答えられなかった。学校の安全基準を20ミリシーベルトとする検討においてこの点はどのように考慮されたのか。
5.原子力安全委員会は、学校の安全基準を20ミリシーベルトとする検討に際して、4月19日の14時ごろに助言要請を受け、16時ごろには回答した、原子力安全委員会の公式の会議は開いていないということだった。20ミリシーベルトで差支えがないというのはどのようにして決めたのか、その経過を明らかにすること。5人の委員にはどのような確認を行い、どのような意見が出たのか。他にどのような資料や専門家の意見を参考にしたのか。議事録があればそれを明らかにされたい。
6.文部科学省は、学校の安全基準を20ミリシーベルトとする根拠に、ICRPの「非常事態が終息した後の一般公衆における参考レベル」1〜20ミリシーベルトを暫定的な目安として設定したとしている。現在は事故が終息していないと答えたが、なぜ事故終息後のレベルを採用したのか。
7.参考レベルのうち、最も高い値を採用したのはなぜか。
8.3月21日のICRPの声明も判断の根拠としたということだが、この声明はいつ、政府としての見解として取り入れたのか。
9.福島県による学校における放射線測定結果は、原発震災復興・福島会議による測定結果と比べると小さいところがある。今後、県内の公的測定には、原発震災復興・福島会議などを同行させるなど、相談して進めるべきと要請した。回答はいかがか。
10.大人と子どもでは放射線による影響に違いがあると認める一方で、20ミリシーベルトは子どもも大人も同じ基準だとの回答であったが、子どもに対して特に配慮しなかったのはなぜか。その根拠を明らかにされたい。
11.20ミリシーベルトは空間線量の評価からのみ導き出したものと述べたが、吸入、土ぼこり、食物による内部被ばくを考慮しないのはなぜか。原子力安全委員会の事務局は、シミュレーションにより、内部被ばくは考慮する必要がないと判断したと述べた。シミュレーションはいつ誰がどのように行い、どのような結果であったのか、明らかにされたい。
12.ホットスポットがあることは認めた。積算線量は3月23日以降のものしか評価されていない。モニタリングは3月15日から実施しているとのことだが,少なくとも、15日以降の積算線量を公表すべきだと考えるがいかがか。
13.原子力安全委員会は、「生徒の行動を代表するような教職員」にポケット線量計を着用させ、被ばくを確認するとしているが、これで子どもたちの被ばくを確認できるのか。このような措置を示した根拠は何か。
14.校庭の土壌を削り取るなどの除染措置をとるべきではないか。
15.原子力安全委員会、文部科学省、原子力災害対策本部の三者が福島県に出向き、県民に説明するよう要請したが、いかがか。
16.上記の質問に午後6時及び明日午前10時までに回答の上で、責任ある人を出して、早急に説明の場を設けること。
(背景)
・4/19、文科省は「福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について」を発表、福島県教育委員会や県などに通知。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/04/1305174.htm
・福島県内の小中学校などの汚染レベルが放射線管理区域以上(0.6マイクロシーベルト/時以上)となっている学校が、現在75%以上。「放射線管理区域」:労働基準法で18歳未満の作業を禁止している。
・年20ミリシーベルトは、3.8マイクロシーベルト/時に該当し、この「放射線管理区域」の0.6マイクロシーベルトの約6倍に相当する。
・年20ミリシーベルトとは、原発労働者が白血病を発症し労働認定を受けている線量に匹敵する。
・文科省HPによれば、ICRPの「事故収束後の基準」の1〜20mSvを採用。20ミリシーベルトはこの最大値。
・この基準は、子供の感受性を考慮にいれていない。
・この20ミリシーベルト基準適用にあたっては内部被曝を考慮していない。
・すでに、各学校では、文科省の通達をうけた教育委員会からの指示で、子供を校庭で遊ばせている。
・20ミリシーベルトの撤回を要求する。
<文科省・原子力安全委員会の答弁> ・文科省:「放射線管理区域」の基準を上回るという事実は認識せず(というか、担当者はそもそも「放射線管理区域」の基準を知らない)。 ・このような議論が行われたかも知らない。 ・原子力安全委員会:原子力安全委員会は14時頃に文科省からの「20ミリシーベルトでいいか?」という連絡をうけ、16時頃に「よい」と返答した。 ・この間、会議は開催していない。委員会内でどのような協議をしたかは不明。議事録もあるかも不明。 ・文科省:20ミリシーベルトの根拠は、ICRPの「事故収束後の基準」(1〜20ミリシーベルト)と「事故継続等の緊急時の状況における基準」(20〜100ミリシーベルト)の中間。→これはHPの記述と異なります。 ・文科省:内部被曝は考慮せず。あるシミュレーションをもとに、内部被曝を考慮しなくてもよいという結論に至る。そのシミュレーションの詳細については承知していない。 ・子供にも大人と同じ基準を用いているかといわれれば、そのとおり。
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